『ソース原理[入門+探求ガイド]――「エネルギーの源流」から自然な協力関係をつむぎ出す』の出版を記念して開催された本イベントでは、ソース原理・ティール組織専門家の嘉村賢州氏が登壇。新しいリーダーシップのあり方や、組織づくりについて語ります。本記事では、リーダーの指示で「直前になって手戻り」が起きる原因をソース原理の観点から解説します。
人間のあらゆる活動は、たった一人の創業者(ソース)から始まる
嘉村賢州氏(以下、嘉村):最後はちょっと毛色が違うんですけど、今日の大事なテーマである事業継承ですね。ソース原理のレンズを使いながら事業継承に関してもいろいろと観察したところ、うまくいく継承とうまくいかない継承には法則があることがわかってきました。そこを押さえておくと、わりとうまくいきやすいんじゃないかということですね。

今日は事細かにお話する時間はないんですけど、ちょっとだけお話して、あとはディスカッションしていければと思います。
言っていることは1つだけです。プロジェクトにしろ、パーティーにしろ、ビジネスにしろ、夫婦関係にしろ、あらゆる人間の活動はたった1人のソース役から始まっていくということです。
みんな、アイデアまではチームでも考えられるんです。「社員旅行はいいよね」という感じで(アイデアは)浮かぶんだけど。それを実現に向けて一歩踏み出した瞬間、これはアイデアからイニシアチブに変わった瞬間なんです。

ただソース役は1人である。要は定点観測すると、アイデア段階の状態の中で「じゃあ、いつミーティングをする?」と投げかけをした人がソース役です。あるいは握手をして手を差し伸べるほうと受け取るほうでは、手を伸ばした人のほうが実現に向かって一歩踏み出してるわけですね。そこは絶対に1人なんです。それを「共同代表でやっていきましょう」と曖昧にするとうまくいかない。
坂東放レ氏(以下、坂東):なるほど。
リーダーの指示が二転三転するのは仕方ない
嘉村:そこでちゃんと「自分が一歩を踏み出したソース役なんだ」と認識していると、プロジェクトはわりとうまくいくことが多いですね。
ソース役はビジョンに関するいろいろなアイデアを受け取って、実現に向けた次のステップを明確にすることが仕事になります。ここ(資料)で「次のステップ」と書いているのが重要で、「全体像」とは書いていません。
例えば私がいろいろなプロジェクトにアドバイスに入ると「いや、うちのリーダーは、この前も社内パンフレットを作るプロジェクトで、ほぼ完成になってから『あれは違う』『これは違う』と言い出して。
それなら初めから全部をちゃんと伝えて『こういうのを作ってくれ』と言ってくれれば手戻りが少ないのに、なんで直前になってひっくり返すんだ」と。でもソース原理の観点から見ると仕方がないんですよ。
なぜならソースは「直感ではうまくいく」「直感ではこれで喜びを与える」ということはわかっているんですけど、全貌が見えているわけじゃない。
だから「こう作って」と明確には言えない。だけどあがったものが違うのはわかる。「違うことはわかるけど『初めから示せ』と言われても……」というのが、ソース役の特徴です。だから……。
坂東:これからこれを言い訳に使わせてもらおうと思いました(笑)。
「イニシアチブ」は高尚なものではない
嘉村:最後は「ノー」ですね。「ここは違うんだ」ということを示すのもすごく大事です。優しすぎるリーダーは、心のどこかで「なんか違うな」と思っていても言わない。そのまま進めちゃうとすごくふわっとしたプロジェクトになってしまう。それも推進力がなくなるところなので、ちゃんと勇気を持って「ノー」と言わなきゃいけない。
「それも仕事ですよ」と、ここにつきる。本当はすごく深淵なるいろいろなものがあるんですけど、これがソース原理ですね。
「イニシアチブ」というと、どうしても片仮名で難しい感じがします。例えば「焼きそば」と私が言った瞬間に、お腹が空いてきて食べたくなっちゃう。ちょっと失礼かもしれないけど、この場を去ってコンビニに行って焼きそばを買って食べ始めた瞬間、それはもうイニシアチブです。
(会場笑)
嘉村:実現に向かって1歩を踏み出した。みなさん、「イニシアチブなんて高尚なことはやっていないかもしれない」と思われるんですけど、そんなことはないんです。ただ一歩実現に踏み出したものは全部イニシアチブということです。
だから絵を描くことも、恋愛関係を作ることも、このオフィスを作ることも、今日のイベントもイニシアチブです。
坂東:イニシアチブを取るのはもちろんリスクもあるし、すっといけない。
嘉村:そうです。だからアイデアまでは簡単なんですよ。いくらでも理想論は述べられるんですけど、その実現となるとむずかしい。今の話でちょっと空気を壊すかもしれないとかね。
#ソース役にとって大事なのは「リスクを取り続ける」こと
坂東:リスクとは失敗や金銭的なリスクだと思っていたけど、別にそんなことじゃなくて。
嘉村:まったくないですよ。それはあくまで1つのリスクであって、借金するとか危険を冒すという意味ではない。
例えば恋愛を思い浮かべればわかります。「あの子とおつき合いできれば、なんて幸せな日々が待っているんだろう」というビジョンが浮かびます。だけど告白しない限り、ビジョンのままで実現しないわけです。いくら事前に努力しても100パーセント成就することは、絶対にあり得ないんですね。
10パーセントや20パーセントは断られる可能性を内包しながらも、一歩踏み出さない限りは成就しないわけです。
坂東:めちゃくちゃわかりやすい!
嘉村:だから危険を冒すんじゃなくて不確実な状態でも1歩踏み出すのが、リスクコントロールです。よく経営者の仕事はリスクを低減する、リスクを避けることだと言われています。
ソース原理のみなさんから言うと、「いや、ソース役の仕事は、いかに取るべきリスクを取り続けるかだ」と。そこで怠け者になって「嫌われたくないな」「失敗したらどうしよう」「株主が……」と、本来一歩踏み出すべきところで引くことを繰り返した結果、イニシアチブのフィールドの“磁場”が下がっていく。
だから資金調達がうまくいかなかったり、急に仲間が「辞めます」と言ったり。それは全部磁場が下がっている証拠ですね。磁場が高いままだったら、やりがいを持って働き続けるわけですよね。
だけど、あるところでリスクを取らない安全圏のチョイスをしていると、磁場が下がってうまくいかない。まずは自分がソース役だと認識して、「磁場が下がらないようにリスクを取り続けましょう」というのが、ソース原理のメインメッセージになります。
それを共同代表にしちゃうと、相手にリスクを任せちゃう感じになりますよね。
坂東:おもしろい!
「サブソース」と「エンプロイー」の2種類の仲間
嘉村:ここ(資料)にイニシアチブのライフサイクル、始まってから終わるまでの図があります。初めはさっきの「恋愛状態がいいな」というアイデア、ビジョンがポンと浮かんでくる。それだけだとアイデア止まりです。
その中でリスクを取って一歩踏み出した瞬間に、イニシアチブに変わります。イニシアチブを立ち上げるんですね。それでも1人ではなかなかうまくいかない。絵を描く、焼きそばを食べる以外のものだと、1人では実現できない場合も多いので、その時は仲間を募ることになります。
仲間にはサブソースとエンプロイーという2種類があります。その仲間を引き連れて、よりビジョン実現に向かっていくわけです。一番上(資料)がやりきった瞬間ですね。立ち上げた時に直感で思った世界を作れた状態が一番上になります。
そうすると2パターンに分かれて、まず「やったから終わっていいじゃん」とイニシアチブを閉じるパターン。それから「自分はもうやりきった。だけど仲間にはやり続けてほしい」「お客さんがやり続けてほしいと言っている」となると、イニシアチブは継続しないといけないじゃないですか。
事業継承がうまくいかない3つのパターン
嘉村:そうした時に「次のソースはあなたね」と継承して次にバトンタッチすることになります。
その時に継承がうまくいくポイントとうまくいかないポイントが3つぐらいある。
継承の際うまくいかないパターンとしての1つが、「私はやり切った。みんなよろしく」パターンですね。要は創業者が1人がいたとするじゃないですか。「俺は辞めるから、みんな、よろしく」という、一帯にお匙を投げる場合はうまくいかないです。必ず1対1で継承する。
世界中のいろいろな事例を見た中で、1人から1人にちゃんとバトンタッチされているパターンと、1人から2人、1人から3人に投げた場合では、やはり成功確率は違います。これが1つ目の「1人から1人へ」というポイントです。
2つ目が「自由に」、英語でfreelyと言うんですけど。よくあるのが、本当に破天荒なリーダーだから引き剥がすという。一時期のスティーブ・ジョブズみたいな感じですね。「お前はだめ」と引き剥がす系は難しいです。
もう1つは押しつける系ですね。渡す本人も「もう自分はやり切ったから次に託そう」と思えていて、受け取るほうも押しつけられていない。「私が次のソース役なんだ。自分も受け取ってがんばっていきます」と一歩踏み出せるかが大事です。
イニシアチブと一緒ですよね。ちゃんと一歩踏み出して、相互の自由が担保されている状態だとうまく流れていきます。
事業を渡す「儀式」をしたほうがいい理由
嘉村:3つ目は、できるなら「儀式」をしたほうがいい。やはり創業者にとって(事業は)自分の子どものようなものなんです。それを辞めるというのはすごく喪失感があるし、極論を言うと口を出したくなってくるんです。
場合によっては次の代にめっちゃうまく(経営)されたら、自分には能力がなかったのかも……と思うんです。
坂東:確かに…。
嘉村:一度死を体験するようなものですから、一大行事ですよ。受け取るほうも代々守られていたものを自分が引き継ぐのは本当にチャレンジングなこと。だから儀式が必要になります。
従業員にとっても、(今まで)こっちのソースから聞いていたものが、次はこっち……というのは大チェンジです。ちゃんと儀式をしないと、一部の人たちは会長の話を聞き、一部の人は次期社長の話を聞くことになる。そうしたらうまくいかないのは当然です。だから、ちゃんと儀式をしてスイッチする。
ちょうど7月かな、知り合いがティール組織で有名なビュートゾルフに見学に行きたいと言うので、「いいですよ。お連れしましょう」と(ビュートゾルフの)息子タイス・デ・ブロックに連絡をしたら、ぜんぜん返事が来なくて。
「ごめんごめん。ちょうど創業者が辞めることを正式にアナウンスしたタイミングで賢州からメールをもらって、バタバタしていて出られなかったんだよ」と言われて。実際(引き継ぎでは)オペラをしたらしいです。
坂東:おお〜。
嘉村:(父)ヨス・デ・ブロックの半生をオペラで披露して、壇上に息子のヨーストとタイスの2人を招いて、「これからは君たちの時代だ」とバーンと仕掛けて。「いやいや、1人から1人じゃないやん」と思われるかもしれないですが、そこはしっかりしていて。Buurtzorg Nederland財団という本体は一番末っ子のヨーストに継承されています。
タイスは、グローバルにビュートゾルフを広めていくという、Buurtzorg Internationalの代表に。だからダブル代表じゃなくて、ヨーストのほうに日本のことは継承していくと。彼はソース原理を知っているわけじゃないんですが、直感で大事なことはわかっていると思います。
立ち上げて終わるまでのソースの旅路を表した「ソースジャーニー」
嘉村:この右側(資料)は、立ち上げて終わるまでのソースの旅路をより解像度を高く表した「ソースジャーニー」と呼ばれるものです。

ジョセフ・キャンベルの「英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)」とソース原理を組み合わせた、ステファン・メルケルバッハのオリジナルのツールで、一歩一歩すごく示唆に富むものがあるんです。
今回もともとステファンの本には入っていなかったんですけど、海外のワークショップでこれがすごくおもしろくて。たぶん日本でも役に立つから「それを加えて出版していい?」と(ステファンに)お願いしたら、「いいよ」と言っていただきました。だからこの旅路は日本限定で歩むことができます。
坂東:おお〜!
嘉村:本は2部構成で、後半がソースジャーニーを追体験できるワークシート形式になっています。ぜひともそれで探求していただいたらいいんじゃないかなと思います。あと今、発売記念キャンペーン中で「30分、1時間なら、いくらでもしゃべります」ということで呼んでいただいていて、すでに10ヶ所ぐらいでしゃべっているんですね。