『ソース原理[入門+探求ガイド]――「エネルギーの源流」から自然な協力関係をつむぎ出す』の出版を記念して開催された本イベントでは、ソース原理・ティール組織専門家の嘉村賢州氏が登壇。新しいリーダーシップのあり方や、組織づくりについて語ります。本記事では、良いパーパスの特徴と明文化するメリット・デメリットをお伝えします。
“知り合いは誰でも出入り自由”なシェアハウスを運営していた嘉村氏
坂東放レ氏(以下、坂東):ほかに質問はいかがですか?
質問者2:感想と質問と2つあるんですけども。もともと賢州さんのことは学生時代から知っていまして。
坂東:ご学友なんですか?
嘉村賢州氏(以下、嘉村):20年前ぐらいに。
質問者2:その時、ちょうど町家コミュニティといって、京都でシェアハウスみたいなのをやられていたんですね。まさに今、思うと、ティールとソースの両方が合わさったようなもので、常にドアが開いていて本当に出入り自由で、知り合いは誰でも来ていいという。
一応、誰かの紹介がないと入れなかったので安心安全な空間でした。ソース原理もティール組織もまだ学んでなかったけど、本当に理想ができていたので、あれはどうやってされていたのかを、1つうかがいたいです。
もう1つは、最初のほうで「パーパスを明文化するのは、もしかしたら今は違う場合もあるんじゃないか」という話があったんですが、自分はコピーライターでもあるので、今、どういう新しい常識があるのかをぜひ聞きたいなという。この2点です。
嘉村:ありがとうございます。学生時代からの友だちがオランダからたまたま日本に来ていて、イベントが近かったので来ていただいたんです。そうですね、たぶんここ5年ぐらいで私と知り合った人は、(私のことは)「ティールの人ね」という感じですけど。
ちょっと前は「あ、ファシリテーションの人ね」という感じ。そのさらに10年前ぐらいの人たちは、今の「あ、京都でなにかユニークなコミュニティをやっていた人ね」という。
あれは、私がマンションの一室を24時間開放するところから始まったんです。異業種交流会って自分のことを知ってもらうために、常に飾らないといけないから好きじゃなくて。
ああいう武装モードの人が出会うよりも、もっと緩やかに人と人が出会ってつながっていく仕組みが作りたいなと思ったんです。いろいろと試行錯誤した中で、マンションの一室を24時間開けっ放しにして、僕がいる時もいない時も使っていいことにした。
住居の1階を24時間開けっぱなし、日本中から人が集まる
嘉村:その時はネットが普及していなかったので、うちはネットが使えるし、神戸や大阪から来ている学生は「終電を逃したらうちに泊まっていけ」と言うと訪れてくれるわけです。
そうすると、僕がいなくても「はじめまして」が起こるんですね。たどると僕のつながりなので、「だいたい賢州って本当に片づけられないし、困ったやつだよな」という愚痴から仲良くなっていくという。
ただマンションの一室なので寄りつきにくい。その頃の下宿が1部屋5万円ぐらいだったので、4人集まれば20万円で一軒家を借りられる。そこで思い切って京都の町家を借りて、2階を4人の住居にして1階を24時間開けっ放しにしたんです。
鍵もかけないから危ないので、基本は信頼する人だけを連れてくる。連れてこられた人は、2回目以降は24時間365日いつでも使っていいという感じでやったら、5年間で日本中から1,000人ぐらい来た。そんなコミュニティを運営していました。
坂東:それは住んでいたところではなくて?
嘉村:僕は住んでいました。4人のうちの1人です。
坂東:すごいね。人見知りですよね?
嘉村:そうなんです。人見知りかつADHDで片づけられないという。
コミュニティは「ティール組織」に近づいていった
嘉村:ある時までは神戸に住んでいる友だちが「終電を逃したから賢州の下宿に泊めてよ」と言っても、「京大法学部の近場に24時間滞在できるところがあるから、そこで語り合うのはいいけど、部屋も散らかっているからうちは絶対に無理」と絶対に断っていた人だったんです。
でもあるプロジェクトをやった時に、どうしてもミーティングをしないといけなくて、渋々僕のマンションの一室の、ぎりぎりきれいにした1畳ぐらいのところで。
武井浩三氏(以下、武井):一畳(笑)。
嘉村:もうグチャグチャなので、1畳ぐらいのけてやるミーティングを受け入れたあたりから……。4回目ぐらいのミーティングの時に来ていたメンバーの何人かが、「この汚さ、もう耐えられん」と片づけを始めたんですね。
その時僕は自分の聖域を全部片づけられてしまい呆然としていまして。でもなにか殻が破れたのか、「もう好きにして」となって。
そこから1,000人の子向けの下宿に。僕が心掛けていたのは、先ほどのティールに近かったんです。僕はほとんど命令もしない。ただ僕がトップに立っていれば、変なパワーゲームだけは防げると思っていたので、そういう時だけ僕が出て、それ以外は僕にはなんの権限もない。
言い訳がましいですけど、部屋もきれいすぎると居心地が悪くないですか(笑)? 障子紙が1枚破れているぐらいのほうが絶対に楽しい。僕は「絶対に怒らない」という安心感をみんなに与えていたと思うので。
そうするとみんなが気軽に自分の物のように部屋を使って、いろいろチャレンジもする。それは僕が権限を行使しない言い出しっぺであったから。そこはわりとティールっぽかったのかなと感じています。
自然に対話が発生する環境でプロジェクトが生まれていった
質問者2:いつもちゃんちゃんこ姿で2階から下りてくる姿を見ていたんですが、あの場でけっこういろいろなプロジェクトが生まれていて。
まさに町家コミュニティのサブソースで七夕のプロジェクトとかあったので、今日の理論でもう1回整理されて「あ、あの時の姿がここにつながるんだ」と感じました。
嘉村:整理した考えでは「雑談からイノベーションへ」と言っています。シェアハウスがすごくすてきなのは、例えば「カフェを作りたい」「新しいかたちの旅行ビジネスをしたい」と思っても、アポイントを取る時点で面倒くさいじゃないですか。
坂東:なるほど。
嘉村:(誰かに)「ちょっと時間を作って」と言うと、まとまった資料を用意しないといけないし構えるけど。シェアハウスのいいところは、朝起きて、別に目の前の人が関係なくても、「ちょっと聞いてよ。こんなのどう?」と言えた瞬間、そこからダイアログが始まって増殖していく。
いちいちアポを取らずに会話が増殖していくことがシェアハウスの魅力だと思っています。みんなが夜な夜な語り合って、そこからイニシアチブがぽんぽん生まれたのは、ダイアログが日々交わされているコミュニティの力だったなと思っていますね。これが1つ目ですね。
パーパスを言語化する2つのメリット
嘉村:2つ目の質問を簡単にお願いします。
質問者2:パーパスの明文化です。
嘉村:パーパスを言語化するメリットには2つあって、1つが共有できるということですね。パーパスがあると、1,000人・1万人の企業でも、新入社員が入った時に「パーパスはこれね」と言えて共有化できる。
もう1つは、僕は「リマインド機能」と言っているんですけど、対話をしていると「さっきのはこのレベルね」というような感じで(リマインドできる)。
国家では「こういう世界観を作っていかないといけないよね」となるんですが、対話では「ここまで話し合えたのか」という深さが出るじゃないですか。だけど、これは言葉化しなかったら、見事に消え去っていく。
そこへ「『関係性3.0』だよね」とネーミングしたら、そのネーミングによって一気に巻き戻してその瞬間に戻れる。「セーブポイント」という言い方をしているんですけど。だから共有できるセーブポイントが、言語化の価値ではあります。
「良いパーパス」の特徴
嘉村:同時にデメリットは、その瞬間から腐っていくことですね。例えば今、武井さんと「国家は……だよね」という話まではいったけど、本当はもっと深いレベルまで話せる可能性もある。だけど名づけた瞬間に、そこで思考を止める人が多いんです。
実装する計画になってしまうと、奥があるはずのものを探求しない。あるいは、この方向性とはまったく違うところの探求がさらに伸ばしてくれることもあるかもしれない。でも言語化することで方向性を固めすぎてしまうのが、デメリットであったりもします。
それをわかった上でセーブポイントを更新し続けるかたちで、パーパスを名づけることが1つです。もう1つは、決めないけど対話し続ける。深さレベルを常に維持する対話が巻き起こっている状態だったら、基本的に共有され続けているから、言語化は要らない世界である。
もう1つが言語化しようとすると、どうしてもグリーンの罠にはまりやすいんですね。ちゃんとグローバルソースが洗練されていたらいいんだけども、みんなで作ると、どこか抽象的になってしまう。「世界平和」というのを会社で掲げたところで、他社となにも変わらなくなる。
それだと判断基準にならなくて、大企業のパーパスのセンテンスがどこも同じ感じになってしまうんですね。どこもロゴだけ変えたら使えちゃうという。良いパーパスは判断基準になることと、それに触れると熱量が上がる効果を持っていること。あのレベルの抽象度だったら、2つともなっていない。
パーパスのメリットとデメリットを意識しておく
嘉村:「(パーパスを)作ってはいけない」というのはちょっと極論なんです。作ってもいいけど、ちゃんと判断基準になって、熱量が加わって、かつその方向性以外の創発が生まれる運用ができるのだったらOKという感じです。
質問者2:了解です。この話が聞けて良かったです。「パーパスを更新する」という視点でちょうど今、提案したり本を書いたりしているので、その視点を踏まえた内容であれば、言語化の役割もあるということですね。
嘉村:メリットとデメリットをちゃんと意識しておけば、ぜんぜん問題ないです。
質問者2:みなさんの会話もすばらしくて勉強になりました。ありがとうございます。
武井:これ、まんまコピーライティングに活かせそうですね。コピーライティングに価値があるのは、こういう役割なんでしょうね。
嘉村:そうそう、本当に専門性の高い人の存在がないと、さっきの「関係性2.0」レベルでは巻き戻らない(笑)。
武井:テンゼロはもうやめろと(笑)。
嘉村:そう、私たちはすぐテンゼロ系、ポスト、次世代とか線を示す言葉を……。
武井:「次世代リーダーシップ」と言うからね。
嘉村:そこでなにかコピーライトされた言葉が出た瞬間に「あ、それだ!」という。
坂東:やはりそれはプロが作ってくれたほうがいいですね。だけど、すごくいいコピーライターに頼めば頼むほど、できたものがいいから変えにくくなるんですよ。名作だから更新の頻度が下がっちゃう。
嘉村:それは確かに。
武井:なるほど。
坂東:更新の仕組みは、今、聞いていてすごく「そうなのか」と思いました。それがくっつけばいいですね。
嘉村:それがいいと思います。かたくなに「明文化するな」というわけではありません。
坂東:なるほど。ありがとうございます!