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経営者の能力を発揮させる「最高の右腕」とは?(全5記事)

肩書通りの「社長」になれていないスタートアップ経営者は多い トップに社長の仕事をさせるためのナンバー2の役割

「次世代の、起爆剤に。」をミッションに掲げる日本最大級のスタートアップカンファレンスIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)。2023年は京都で開催されました。今回は「経営者の能力を発揮させる『最高の右腕』とは?」をテーマに、XTech Ventures代表パートナーの西條晋一氏、エアークローゼット取締役副社長の前川祐介氏、そしてCARTA HOLDINGS 取締役CFOの永岡英則氏が登壇したセッションの模様をお届けします。Yazawa Venturesの矢澤麻里子氏のモデレートのもと、付加価値をつけるためのトップとナンバー2の役割分担や、適切な役割分担を決める要素などが語られました。

長く共に歩んできたからこそ生まれる役割の分担

矢澤麻里子氏(以下、矢澤):(右腕の役割やあり方について)すでにすごく身になるお話をいただいていますが、前川さんはいかがでしょう。

前川祐介氏(以下、前川):ありがとうございます。今の永岡さんのお話がおもしろすぎて。

矢澤:聞き入ってしまいますよね(笑)。

前川:「右腕とは」と考えた時に、「これ」という言い方はたぶん決められなくて。代表者との関係や、事業や組織、そしてフェーズによってその役割・定義が比較的変わっていくものと考えるところは共通性があると感じています。

その上で、今日この瞬間のエアークローゼットの私と代表・天沼(聰)の関係値で言うと、二人で同じことを考えることができている。そのうえで別々に動くことができるので、実現が早いというところに比較的振り切っているというか、そういう位置にあるのかなと考えました。

先ほど永岡さんが教えてくださった考え方で言うと、私たちは同じコンサルティングファームから出て、かつそこから場所を変えつつ足かけ15年くらい一緒に働いているので、スキルセットがけっこう似ています。そしてずっと一緒にチームで働いているので、マインドセットもけっこう似ているんですよ。

そうすると、先ほどの(永岡さんの)カバレッジの話で「広く役割分担をして面を取る」ということもしてきたし、重なりが強いのでそこの厚みを強くして推進力を高めることもやってきました。今の私たちが発揮している役割分担の2つの領域かなと思っています。

経験から生まれる組織内の関係性の変化

前川:去年、東証グロースに上場させていただいた中では、広いほうのカバレッジを使っていたかなと思います。我々は同じ経営者で、同じ思いを持ってやっていて、IPOという、自分たちの企業の価値やこれから先のストーリーを多くの方々に知っていただくプロセスを経た。

その中で、株価形成のために、例えば対証券会社さんでは天沼がフロントサイドでバリエーションについてのディスカッションをしていく。どちらかと言うと、私はIPOの確度を高めていくための手続き的な業務を行う。

お互いIPOは初めてなので、やったことがなく、知らないことばかりが出てくる中で、新しい情報はしっかりシェアをして、「どういう方向に動くべきか」「どういうふうにアクションすればよりカッコよく上場確度が高まっていくか」をディスカッションしながら、お互いの役割をきれいに分けて走り切った。

でも、一度IPOをした上で、今、よりその事業を垂直に立ち上げ直す動きを作ったり、組織のカルチャーをしっかり作っていこうみたいな時は、私たちも100人くらいの会社になっていますが、代表が100人に対して強いメッセージを発する。

例えば、100人が100人、全部を一度で理解してくれるわけではないので、伝わりづらいメンバーをピックアップして、私が天沼の考え方を別の言い方で翻訳をして、個別にメッセージとして伝え直して、しっかり組織の中に戻す役割をしたり。私も代表との関係値を意識的にどんどん変えているところがあるなと思っています。

矢澤:なるほど、ありがとうございます。ちなみに、前川さんは代表の天沼さんと前職で一緒で、上司と部下になるんですか?

前川:そうですね。

矢澤:そのようなかたちの中で、起業すると新しいフェーズになって関係値が変わったりしましたか? もちろん経年で、役割によって変わることもあるかもしれませんが、前職と今とで変わったところはありますか? それとも、そんなに変わりませんか?

前川:お互いの相性もあるんですが、実は前職も前々職も一緒で、2つ会社を共にさせてもらって、そこから会社を起こしているので、3つ目の同じ職場になります。

もちろん私の先輩でもあって、当時から私が仕事を教えてもらってきた側面も強くあるんですが、どちらかと言うとチームメンバーとして、天沼からするとたくさんいる後輩の中でもとりわけ仲が良かったといいますか。初めから信頼できる仲間としての要素が近い関係性だったかなと思っていますかね。

矢澤:なるほど、ありがとうございます。

付加価値をつけるための役割分担

矢澤:あらためて、役割分担について教えてください。先ほど永岡さんからもお話があったような、「どういうふうに付加価値をつけていくか」がすごく大事になると思います。

私がお話を聞いてすごく気になったのは、役割分担の中でもどういうふうにこの人とパートナーシップを組んでいくかというところです。人による特性や、事業もあるでしょうけど、その辺の難しさをどう分けたのかなと思っていて。

例えば、西條さんであれば、すごく個性が強い藤田さんや伊佐山さんとやっていく中で期待値からズレたことや、逆に「すごいな」と思ったことも含めて、どう役割を作っていったのかをうかがえますか?

西條晋一氏(以下、西條):阿吽の呼吸でやっても、膝をつき合わせてしっかり対話をしてでもいいんですが、代表が今一番考えないといけないことが何なのか、一番やろうとしていることが何かをちゃんと把握して、そこに集中できるように「それ以外のことは基本的には巻き取ります」というのがいいと思うんですよ。

経営者って、労働時間が多ければ成果が出るというよりは、本当にやるべきことにどれだけ時間をかけられるか。時間だけじゃなく、脳の中の意識があるじゃないですか。意識の中に占める「やらないといけないこと」のスペースをどれだけ用意できるかが極めて重要なので、それ以外は基本巻き取るのが僕は理想的だと思っていますね。

僕もナンバー2の人がそれを察してくれて、そういうことに時間を与えてくれると、自分もすごくうれしいなと思います。

トップに社長の仕事をさせるためのナンバー2の役割

矢澤:やはり代表は考えることがたくさんあるからこそ、分散するよりちゃんと1つに思考を集中させたり、マインドセットを集中させるために、いかにCOOや右腕が動けるかですね。

西條:そうですね。CEOの人って、ほとんど社内会議とアポをやっているだけで1日が終わっちゃうんですよ。

矢澤:はい(笑)。

西條:うちの投資先の人とかを見ても、特にスタートアップは日々忙しいことだらけで、何でもやらないといけないじゃないですか。だから、そういう状態に早くできるかじゃないですかね。

僕がサイバーエージェントに入ったのは2000年ですが、藤田さんは1999年の段階でもう営業をやっていなかったんですよ。社長になっていたんです。だけど、肩書は社長でも、社長になっていない人っていっぱいいて、スタートアップは特にそうなりがちですよね。

もちろん実務をやってもいいんですが、最も重要な「会社を伸ばす」ところとか、その時に一番重要な課題を考える時間をほとんど確保できていないんですね。だけど、そこを絶対に作らないと会社は伸びないんです。

矢澤:まさに「手を動かす」と「考える」ところのバランスをどうとるかが、スタートアップは難しいなと思っています。その中で、手を動かしていないと、他のメンバーから「あいつ、仕事してないんじゃないか?」と思われてしまう。

そういったところを悩まれている方も多い印象があったので、今の話はすごく刺さると思いますね。

適切な役割分担を決める要素

矢澤:永岡さんはいかがですか?

永岡英則氏(以下、永岡):コンビというか、2人の関係性にものすごく依存する話かなと思うんですよ。なので、一般論としてちょっと整理しにくい気がするんです。

先ほど図でも出ていましたが、やはり自ずと得意領域みたいなのが出てくるのではないかと思います。私の場合で言うと、宇佐美くんはどっちかと言うと事業をすごくやるし、私はCFOという肩書きが付いているのもありますが、どっちかと言うとバックオフィスというか、スタッフ機能を強みとしています。

だからといって、それぞれきっちり分けて、「あなたはこっち、私はこっち」というわけではもちろんなくて、お互いに全体を見にいくわけです。でも、自ずとウェイトが出てくる。これは、ある意味2人のパーソナリティというか、得意・不得意からくる必然かなと思うんですよね。

だから違うケースで、事業の領域で分かれるケースもあれば、やや営業が強い人、バックが強い人みたいな役割分担もある。先ほど西條さんが言っていた「とにかく会社のことを考える人と実行する人」という役割分担も、かたちとしてあるのかもなと思うんです。

そこはそっちありきで決まってくるというよりは、どっちかと言うとコンビネーションありきで、最適な分担が決まってくる気がするんですけどね。

矢澤:なるほど。いろんな役割がある中で、永岡さんは経年で変えていったりしましたか?

永岡:どうしても会社の規模がぜんぜん違うので、スタートアップの時もそうですけど、2人だけでやるわけではないじゃないですか。だからチームのありようはどんどん変わっていくし、やらなきゃいけないことも変わっていく。

でも先ほどお話しした、ある意味何でも議論しながら最適解を探しにいくスタイルで言うと、実は本質的にはぜんぜん変わっていないのかなと思いますね。

ナンバー2の難しさ

矢澤:前川さんはいかがですか?

前川:三者共通しているところかなと思うのは、やはりボスとの相性がある。それは固定的なものというよりは、一定のフローで変わっていくものでもあると思っています。

特に「何をやっていたか」というジョブのドメインであれば、例えば、立ち上げ当初に管理部門を作って、CSを作って、物流を作って、みたいなところは同じ絵図の中で私がやってきた。

でも、だんだんそれを人に預けられるようになってからは、代表の天沼とで言うと、「こうしようと思うんだけど、どう思う?」という相談のタイミングでちゃんと隣にいられることがすごく大事だったなと思います。

3人で作った会社で、3人で意思決定を丁寧にする組織でもある代わりに、強くするためには代表者自体が一番良いタイミングで気持ち良く振ったものにちゃんと応えていく。そういうところは、どの部門をやっているかみたいなところとは違う、もうちょっと立体的な役割分担として自分自身も認識しています。

それ自体は代表からも明言されていて、期待されている役割でもあると思うんですよね。

後者が行き過ぎると、メンバーから見ると「あの人は何をやっているんだろう?」というので、逆に社長より副社長のほうがわかりづらくなるんですが、その詳細をみなまで説明することもなかなか難しいなと思いながらですね。

どちらかというと「ナンバー2」「右腕」と言われる方々なら、この気持ちをわかってもらえるんじゃないかと思うところも含めて(笑)、今日は楽しみに来ました。そんな感じですかね。

矢澤:ありがとうございます。

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