2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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玉田俊平太氏(以下、玉田):あとデジカメも破壊的イノベーションですね。個人が感動を残す、プロがプロユースでいろんな写真を撮る。あるいは日々の出来事をシェアする。いろんなジョブがあります。当然、レンズ交換ができる一眼レフデジカメは全部できます。けど、コンパクトデジカメでもまあまあ用事が足りた。ただそれに飽き足らない人には、光学ファインダーこそないものの、レンズ交換ができるミラーレス一眼というデジカメが伸びています。
さらに最近恐ろしいのは、スマホ搭載のデジカメが、もうとんでもない性能になっていますね。例えばこういう(スライドの)かわいい子どもが写っていて、背景がきれいにぼけている写真。
昔だったら大口径レンズと大型センサーを搭載した一眼レフカメラでないと撮れなかったんですね。今はもう、一眼レフはいらない。ほとんどの人がこれに気づいて、今は観光地でも、どこに行ったって、みんなスマホで写真を撮っていますよね。
いま、真っ黒の1キロぐらいする写真を撮るだけの機械(一眼レフ)を担いでいる人は、よっぽどの変わり者ですよね。こういうことが反映して、結局ニコンがこうなった(350億円の赤字)ということだと思います。つまり、ニコンはぜんぜん間違った経営はしてなかったんだけれども、破壊的イノベーションであるスマートフォンのカメラに文字通り破壊されてしまっているんだと思います。
ということで、まとめます。破壊的イノベーションとは、少なくとも短期的には主要顧客が重視する性能を引き下げる効果を持つイノベーションです。既存優良企業の最重要顧客は「あんなのはおもちゃだ」と必ず言いますが、大手優良企業を失敗に導いたのは、この破壊的イノベーションです。
破壊的イノベーションはハイテク企業だけではなく、製造業でもサービス業でも、変化の早い産業でも変化の遅い産業でも起きています。だから、中小ベンチャー企業が新規事業を考える際は、「破壊的なかたち」に作り込むべきです。どうしたらいいのかをこれからお話ししたいと思います。私は本の中で、7つのステップを提唱しています。
まずは基本戦略を考えましょう。新市場を目指すのか、ローエンドを目指すのか。それとも持続的イノベーションで、あくまでハイエンドを目指すのか。まずはその戦略を考える。次に、専門分野が多様なメンバーや経験が多様なメンバーを、チームに集めましょう。次に無消費の状況とか、満足過剰な顧客を探しましょう。
正しくブレインストーミングを行い、正しくアイデアを選び出したら、破壊的イノベーションである「新しい酒」は、「新しい革袋」(別組織)に任せるのがいいでしょう。あるいはそういった(破壊的なイノベーションをする)組織が外部にある場合は、それを買収するのも1つのオプションです。
もしくはプラットフォームビジネスを立ち上げるという方法もありますが、今日は詳しくは触れません。
では、戦略を考えるにはどうしたらいいのか。これまでどおりの時間軸と性能の評価軸で、より良いものを導入するやり方。例えば、10万円の炊飯器とか、ハイレゾリューションオーディオとか、8Kテレビとかいろいろありますが、相手よりも経営資源がいっぱいあるなら、ぜひやりましょう。大きくて強いものが勝つ世界、弱肉強食の世界、優勝劣敗の世界です。だから中小ベンチャー企業には、あんまりおすすめできないですね。
それに対して、今は何も使っていない人。何らかのやりたいことはあるんだけど、いくつかの制約のせいでできていない人。こういう状況のことを、無消費の状況と言いますが、そういう人たちを見つけて、そういう人たちに向いた、異なる性能尺度の商品やサービスを提供するやり方があります。
「そんなものがあるのか?」と思いますが、日本のこれまでの歴史でもけっこういっぱいあります。ウォークマンがそうでした。ファミコンがそうでした。カップヌードルがそうでした。携帯電話がそうでした。ファミリーコピアやミニコピアがそうでした。このように、日本発の新市場型の破壊的イノベーションは、けっこうあります。
もしこういう無消費の状況が見つからなかったら、今、過剰に満足している人たち。つまりグラフの中のこのへん(「主要顧客が求める性能」の赤点線矢印よりも、「現在提供されている商品の性能」のグレー点線が上にある場合、二本の線の間)の人ですよね。「ええー、俺はこのぐらいの性能でいいんだけど。最近売られてるものは、何でも余計な物までついていて、しかも高いんだよなぁ」と困っている人たちですね。
このような過剰に満足させられている人たちに向けたローエンド型のビジネスモデル。お腹いっぱいの顧客を、低コストのビジネスモデルで攻略するプランを考えましょう。これにも、日本発のローエンド型の破壊的イノベーションがいっぱいあります。回転寿司、ブックオフ、QB HOUSE、俺のフレンチ、通販型の保険。
全部このローエンド型の破壊的イノベーションです。
ではどうしたらいいか。まず、もうみなさんはお持ちでないと思いますが、「みんながやっているほうが安心だから俺もやろう」という考え方はやめましょう。実績ある競合企業に喧嘩を売るような新商品とか新サービスは、あっという間に潰されます。「人の行く裏に道あり花の山」。これは日本証券業協会のホームページの、相場の格言の1個目に出てくることわざです。
人と同じような株を買ったら、人と同じようなパフォーマンスしか出ない。もし株を買うんだったら、例えばコロナが来る前にZOOMの株を買っておくとか、AIブームが来る前にNVIDIAの株を買っておくとか、それぐらいの、人のいく裏の株を買っておかないといけないということであります。
じゃあどうするか。顧客が叶えたい進歩(ジョブ)があるにもかかわらず、制約によって妨げられている状況ですから。例えば、専門家による手助けが必要な製品やサービスはないでしょうか。そしてそれを、専門家の手助けなしで、顧客がジョブをこなせるような製品やサービスに作り込めないでしょうか。
何とか師と呼ばれる人たちが、独占してるサービスがありますよね。それを、そういう人たちの手を煩わさずに、ユーザー自身で解決できる製品やサービスができたら、新市場型の破壊的イノベーションが起こせるかもしれません。
また、特定の場所や状況に行かないと使えない製品やサービスも、いっぱいありますよね。それを、いつでもどこでも、あるいは山のてっぺんでも海の底でもできるようにしたら、それはやはり新市場型の破壊的イノベーションが起こせると思います。
また、消費することが面倒だったり、時間がかかりすぎたりする製品やサービスもけっこうありますよね。例えば、マニュアルを読まないと、あるいは講義を受けないと使いこなせないような複雑なソフトウェアを、ゲーム感覚で学ぶことができる。「ゲームをクリアしているうちに、気づいたらPhotoshopのスキルが上がっていた」とかね。そういうものがあったら、私だったらもう喜んで買います。
こういう状況があれば、それこそが無消費の状況であり、新市場型のディスラプティブイノベーションを生み出すチャンスです。
もしそういうものが見つからなかったら満足過剰のお客を探しましょう。
自動車の最高速度とか、パーソナルコンピューターのクロックスピードとか、湯沸かしポットの機能とか、床屋のサービスとか。すでに顧客がお腹いっぱいで「それ以上おかわりをもらっても少しも満足度が向上しないんだよね」という客を見つけましょう。
その人たちに向けて、必要十分な、シンプルで低価格なソリューションを提供することで、ローエンド型の破壊的イノベーションを起こすことができます。私、クリステンセン先生の研究所のクレイトン・クリステンセン・インスティテュートに、2014年から2015年にかけて行っていたんです。
その時先生が、プライベート・エクイティ・ファンド。要するに個人投資家、大金持ち向けのファンドを紹介してくれました。そのファンドは、破壊的イノベーションに投資することで年率360パーセントのリターンを得ている、「なんだそれ」みたいなファンドです。その秘密の一端を教えてもらいに、サンフランシスコまで行ってきました。
そして、秘訣を教えてもらいました。「いいかい、君。世の中で、今ある製品の7割ぐらいの満足度の製品やサービスを、2割ぐらいのコストで提供してる会社があったら、その株を買うんだ」と言われたんですね。「ああ~」と思いました。
確かにQB HOUSEは、シャンプーもしてくれないしひげも剃ってくれないけど、一番顧客が叶えたい、頭の後ろの髪を切るという、自分ではできないことをやってくれる。普通の床屋が4,000円ぐらいだけど、QB HOUSEは1,000円ぐらいだった。確かに、7割ぐらいの満足度を2割5分ぐらいの値段で提供している。あ、こういうことかと思いましたね。
さて、2つほどステップを省略していますね。破壊的なアイデアを選び出す話です。まずは、どこを目指すかを決めた後に、多様な人たちを集めてブレインストーミングをする。正しくブレインストーミングをした後に、どのアイデアを選ぶかを決めるのが、5番目のステップになります。
まずアイデアを「身上書」と呼ばれるレジュメにまとめて、それをチェックリストに照らし合わせて振るいにかけます。このチェックリストの話は、今日説明しきれないので、ご興味がある方は、私の本を読んでいただけるとありがたいです。
そのあとスコアリングをして、「破壊度」を計測して、「自社で実現できるかできないか」。そして「見込まれる長期的な利益」に、「どのくらい確信度があるか」という4つのデータを、1枚の絵にマッピングして評価しましょう。
これは、あんまり売れていないんですが、クリステンセン先生のお弟子さんたちが書いた『イノベーションへの解 実践編』という本の中に出てくるアイデアです。この破壊度測定器は、大企業が新規事業を評価する点数表とは、たぶん真逆の評価になっていると思います。
例えば初年度のターゲットがマス市場だったら、普通は売り上げが大きく見込めるから10点満点のはずなのに、この破壊度測定器だと0点ですね。マス市場を目指したら0点。大規模市場だと5点。ニッチ市場だと10点。逆ですね。
あと顧客は、ターゲットのジョブをどう片付けたいと考えているか。「もっとうまく片付けたい」。そんなのは持続的イノベーションだから0点。「もっと安く片付けたい」。まぁローエンド型のイノベーションだから、じゃあ5点。「もっと容易に簡単に片付けたい」。例えばどこかに出掛けていかなくても、ご自宅でできるとかね。そういうものだと10点。
同じように、顧客は製品サービスをどう考えているか。完璧・0点、優れている・5点、必要にして十分・10点みたいな感じです。直感に反するというか、常識に反する採点基準になっています。価格も、当然「高く売れたら100点じゃん」と普通は思うけど、0点。中ぐらいだと5点で、低価格なら10点ということですね。
他社にとってこの製品のビジネスモデルはどのようになるのか。「他社にとっても従来どおり」だと、あっという間に参入されて叩きのめされるので、0点。「多少は変更しないといけない」、5点。「根本的に異なる」。例えば他社は家電量販店で売っているけど、自社は自前サイトでオーダーメードで受け付けるとかだと、10点。
他にも、他社にとってこの製品の市場へのチャンネルはどうなっているか。「すべて既存」なら当然あっという間に参入されるから0点。「半分以上新規」なら5点。「まったく新し」ければ10点という感じです。このへんは、他社がどのくらいすぐに追ってくるかという評価軸ですよね。
あと、競合他社はこの戦略をどう考えているか。「すぐに対応したい」。「大変だ、我が社のマーケットにあいつらが殴り込んできた。もう即応体制で全軍進撃だ、撃滅しろ」。そんなことを言われてしまったら、大変なわけですよ。だから0点。
「注目している」、注目されてはいかんな、5点。「気にしていない」。いいね。これ、孫子の『兵法』でも、戦って勝つのは下策だとありましたよね。一番いいのは戦わないで勝つことだと。まったくそのとおりですね
あと、初年度の収益はどうか。多額だと0点。平均的だと5点。小額だと10点。1年間に必要な投資は平均以上だと0点で、平均的で5点、平均以下なら10点。これはわかりやすいですね。
ということで、そういった破壊度測定器で計測した破壊度を、低いものは左・高いものは右に並べます。縦軸は、「アイデアを実現させる能力と欲求」と書いています。この「欲求」は、なかなか含蓄が深いなと思うんです。
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