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「儲け」よりも「楽しむこと」伝統企業『能作』の挑戦 -年商15億円 ”踊る町工場”の「しない」経営(全4記事)

見学者300倍、社員15倍、売り上げ10倍を達成した町工場 「商品を売ること」よりも、社長が大切にするポリシーとは

海外からも注目されている、富山県の老舗鋳物メーカー、株式会社能作。「儲け」よりも「楽しむこと」を優先させるその経営スタイルは、伝統産業、職人、日本の町工場のイメージ新たな風を吹き込んでいます。能作の社長である能作克治氏が登壇したイベントから、日本企業が成長し続けるためのヒントを探ります。本記事では、人気キャラクターとのコラボやブライダルイベントの実施など、新たな取り組みをし続ける理由を語っています。

コロナ前には来場者が13万人超え、人気の工場見学

能作克治氏(以下、能作):これから絶対に大事なのが、体験工房です。体験して物を作って持ち帰りたい人が山ほどいます。うちはではNOUSAKU LABというところで、ぐい呑が4,000円、箸置が1,000円~3,000円ぐらいで、子どもたちや大人が作ります。

特におもしろいのが、子どもたちがぐい呑を作っていくんですよ。「何に使うの?」って聞いたら、「お父さんにプレゼントしたいから」って。いい話でしょ(笑)。

司会者:いい話ですね。

能作:一応コロナ禍なので、今はまだ工場見学はストップしてるんですが、体験工房はもうオープンしてます。

もう1つはIMONO KITCHENという、うちの食器を使って食べられるカフェを併設しています。器の良さを知ってもらおうということで、こういう取り組みもやっていますね。

あとは、ファクトリーショップです。ここの売り上げがないと産業観光は難しいんですが、もともとそんな収益を上げようと思ってないので、工場見学も無料です。ちょうどここのオープン時の2年前に産業観光部を作って、現状で社員が6名ぐらい、アルバイトさんが15名ぐらいで全部を運営してます。

僕はいつも、彼女らや彼らに言うんですね。「君たちは生産しなくていいんだから、とにかく富山県や高岡のことやうちの会社のことをちゃんと伝えてくれ。絶対に手抜きはするなよ。それが仕事なんだから」と伝えています。

無料のところに行くとパンフレットが1枚もなかったり、あるいは人がいっぱい入っているのに案内する人が1人もいなかったりすることがよくあるんですよ。ああいうのが、どうも嫌で。5年、10年経っても「あそこへ行ってよかったね」と言われることが、一番いいことだと思いますね。

コロナの前の年は(来場者数が)13万人を超えていたんですよ。月に1万人以上がうちに来てくれていました。独り占めしていないと、いいこともいっぱいあるんですよ。

人気キャラクターともコラボし、地域を活性化

能作:新幹線に乗ってきて、新高岡駅からうちの会社まではタクシーで3,500円ぐらいかかっちゃうんですね。そしたら、地元のバス会社が来ました。合掌造りの白川郷まで、「世界遺産バス」というのを1日5往復ぐらい走らせているんですが、「『能作前』という停留所を作ってあげるよ」と言ってきましたので、今は「能作前」という停留所があります。

その時にバス会社の社長に「停留所と言ったら、ひょっとしてバスのタイヤに棒を刺したやつ?」と聞いたらそうだと言うので、「勘弁してくれ。うちで作る」と言って、うちでデザインして作ったバス停が会社の前に置いてあるんですね。ちょっとおしゃれなバス停になっています。

会社のすぐ近くに、富山県が作っている富山県総合デザインセンターというのがあります。こことも連携しながら、富山県のPRも一緒にやったりしていますね。

1周年ではドラえもんショーをやって、子どもたちが300人、あとは近所の老人ホームのお年寄りが車椅子で100人ぐらい来てくれて、なかなか盛り上がったんですね。やっぱりドラえもんは本当に人気なんですよね。

これも行政とのコラボです。富山県は森林政策課があるので、そこから積み木をいっぱい作ってもらい、子どもたちが遊ぶこともします。地域の人に飽きさせないのも非常に大事なことなので、そういう取り組みをやっていますね。

一番人気のイベントは、夏休みの自由研究のイベントなんですよ。「鋳物を学ぼう」ということで、うちの会社に来て実際に体験して鋳物を作って、職人さんが対応して、質問に答えるかたちでやっています。

初年度は高岡の小中学生が多かったんですが、次の年からは金沢や他の都府県からもやってきていて。コロナでちょっと水を差された感じなんですが、本当に人気のあるイベントになりました。ただちょっと怖いのが、あまり人数が増えると小学校で宿題を提出した時に、「なんや。お前らみんな能作行ってきたんか」と言われる前に止めたいなと思ってるんですが(笑)。

結婚10年目に行うイベント「錫婚式」とは?

能作:あとはマルシェですね。別にこれで儲けようとは思わないので、マルシェを出したい人からお金をもらうことは一切していなくて、売り上げの全部を個人の利益にしています。新聞社と共同でやってるので、ブースも無償提供で作っています。どっちかと言えば、完全な地域貢献ですね。

あとは一昨年から始めた事業で、錫婚式という10年目の結婚式なんですね。なんでこんなことを始めたかというと、うちに見学に来ているご夫婦で「能作さんは錫を作っていて、私たちは10年目で錫婚式なんですけど、何かやってませんか?」という方が何人かいたんですね。

うちは錫で鋳造もできるし、錫婚式を始めました。だいたい結婚10年目というと、お子さんが2~3人いるんですよ。和気あいあいと子どもと一緒にできる結婚式ってないので、地元のブライダル関係の会社と提携もして、ウェディングドレスや着物もすべて貸します。うちのカフェで食事を家族でとっていただく、あるいは撮影ポイントで撮影をしたり、ちゃんとした挙式も挙げてもらったんです。

おもしろかったのが、NHKの『あさイチ』という番組で取り上げられたんですが、結婚10年目が大事だってえらい言うんですね。

どういう意味やと思って聞いていたら、結婚満足度調査というのがあって、男性は10年経っても20年経っても30年経っても、満足度は横ばいなんですって。ただし女性は10年を境に一気に下がるそうなんですね。だからここが大事なんですって。そういうお気持ちの方もおられるかもしれませんので、今はこういうこともやったりしてますね。

数字を追い求めない「行き当たりばったり経営」

能作:産業観光の取り組みで大事なことは、受け入れ体制を万全にすることですね。うちの会社がやりだしたら、他の企業さんでも同じようにやりだすところができたんですが、なぜか(一般的には)土日休みにしていると。一番お客さんが来る時なので、これはおかしいですよね。

だからうちは、もちろん工場は土日は休みなんですが、産業観光に取り組む人たちは土日もやっています。ちなみに正月は1日しか休みじゃなくて、2日から営業再開という、とんでもないことをやってますけどね。やっぱり、それだけお客さんを大事にしたいなと思うんですね。

さっきからよく出てきますが、これも大事なポイントです。地方創生とは、民間ががんばることによって地方が創生するのは大事じゃないかなと思っているので、今後も産業観光には力を入れていきたいなと思っています。

これは2年前の9月にダイヤモンド社から出した、『踊る町工場』という本です。もちろん本屋にもありますが、Amazonでも買えますので。1冊1,500円です。これが売れると、数パーセントのロイヤリティも入ります(笑)。

この本は非常に読みやすいので、だいたい1時間半ぐらいで全部読んじゃうと思います。うちがこんな新しいことをやってきて、どうなったかということが書いてあります。ちょうど『カンブリア宮殿』に出た時と同じタイミングでこの本も出させていただいたんですが、見学者300倍、社員は15倍、売り上げは10倍になったんですね。

最近よく言われるんですが、「能作さんはすごいブランドになったけど、どうやってなったんですか?」って聞かれるんですね。正直な話、自分はブランド化しようなんて一切思ってなくて。「できない」という言葉が大っ嫌いなので、お客さんに言われたことに対してなんとか応えてきたら、今のこういう状態になった。

「行き当たりばったり経営」と言ってますが、先を読まない。あとは数字を求めないです。例えば社員に「今年は20億円いきなさい」とか、そんなことは一切言わないです。直営店に対してはもっと極端です。今は13店舗ありますが、月にいくら売りなさいとは言いません。極端に言うと「売らなくていいよ」と言います。

売らなくていいけど、ちゃんと富山県のこと、高岡のこと、職人のこと、素材のことを伝えてくれと。そう言っていると、不思議と売れるんですよね。そんなことを考えているということも、この本には書いてあります。

管理職の55パーセントが女性社員

能作:最後はSDGsですね。一般の方はまだあんまり意識がまだないみたいなんですが、やっぱりこれは企業としての責任であったりします。「SDGsってこういうことがいいよ」って書いてあるけど、実は当たり前のことばっかりなんですよ。

例えば僕がまだ子どもの時は、近所のおじちゃんによく怒られたんですね。「お前ら悪いことするな」って、頭をポカンと叩かれたわけでしょ。そんなふうにどんどん育ってきたんですが、今は近所の子どもに頭をポカンってやったら逮捕されますからね。こんな時代はないでしょ。

それと、電車の中でお年寄りに席を替わりますよね。昔はようやってたんですよ。ところが今はどこまでがお年寄りかわかんなくなってきていて、下手に「替わります」と言ったら怒られることもよくある。

司会者:難しくなりましたね。

能作:そういう時代なので、なおさらSDGsなんてできるのかな? と思ってるんですが、うちはこれに取り組んでいます。例えばついこの間、屋根の上に太陽光パネルをつけまして、自社の30パーセントを自家発電で賄おうとか。

あとは錫の材料を回収して再生する事業も始めました。これはおもしろいですよね。「錫材料が余ってたら送ってください」という時は、他の材料が混ざる可能性があるので、古物商の免許が必要なんですね。僕からしたら、金とか銀が混じってもらえれば一番うれしいんですけど(笑)。

うちが女性が活躍できる企業だというのは、実はそうなんです。今は160名中100名が女性なんですよ。直営店13店舗は(管理職が)全部女性だし、事務所も女性が多いんです。管理職の55パーセントが女性ですね。

例えば太陽光パネルにしても、本当はつけないほうが会社にとってはメリットが多いんですが、いくら電気代が安くなるといっても、元を取れる頃には耐用年数で新しいパネルをつけなくちゃいけないんですね。うちの会社としては、こういう取り組みをしています。

成功も失敗も悪いことではなく、一番悪いのは「何もしないこと」

能作:これが最後なんですが、変わらないことってあるんです。何かというと、自分がずっと歩んできた35年のポリシーである、「続けること」「諦めないこと」ですね。これは絶対に大事だと思いますよ。

僕自身もずっと諦めずにやってきたんですね。三十数年かかったけど、足蹴にされた職業だったのに、今はどんどん若い人が「就職したい」と来るようになったこともそうだと思うんですね。やはり途中で断念していたらこうはならなかったので、まずは続けること、諦めないことが一番大事だと思っています。

それからこれは当たり前なんですが、仕事を楽しむこと。仕事が楽しくなかったら、絶対に発展はありえませんよね。

僕は仕事が好きなんですよ。今はもう歳を取ったのであまりできないんですが、若い時は朝5時に会社に来て、夜11時に家に帰っていました。今でも自慢できるのは、1年間のうち364.5日働いた年もあります。正月も半日だけ休んで、あとは全部仕事をしたんですね。

なぜそんなに仕事をしたかというと、答えは簡単で「楽しかったから」です。だからやっぱり、楽しみを持つことが大事なんですね。

それともう1つ。よくみなさんいいことをいっぱい言うんですが、実行する人が少ないんですね。なぜかと言うと、失敗を恐れるからなんですよ。僕の場合はいろんなことをやりますので失敗もたくさんあるんですけど、失敗したら忘れることにしています。失敗した経験をなくしてしまえば、新しいチャレンジがどんどんできるんですよ。

だから、成功も失敗も悪いことじゃないんです。一番悪いのは何もしないことなんです。そういう意味では、仕事を楽しんでやることが、一番会社が発展する大本だと思っています。

営業をかけなくても、地元民が製品をPRしてくれる

能作:それからこれもくどくど言ってますが、地域社会に対して貢献することは非常に大事だと思っています。地域社会に対しては、うちの会社もいろいろやってるんです。

なによりありがたいのは、富山県民が県外に行く時にうちのビアカップやぐい呑とかをいろいろと県外に持っていってくれて、「これは富山県の高岡の能作という会社が作ったものだ」とPRしてくれるんですね。

うちの会社はほとんど営業はしてないんですが、富山県民がどんどんPRしてくれる。なんでそうしてくれるかというと、地域にとっては大事な会社だと思ってもらえるからですね。その裏には、地域に対する貢献が必要だと思っています。

よく県外の講演でこの話をすると「いや。ちゃんと法人税や住民税を払っとるって言うんですが、それは当たり前なんですね。当たり前のことじゃないことをやることが地域貢献であり、会社にとっては必要なことだと思っています。そんなこんなで、お時間になりました。

司会者:(イベント参加者は)画面越しだと思いますが、拍手をお送りください。ここまで、すばらしいご講演をありがとうございました。

能作:ありがとうございます。

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