クリミア訪問の経緯について

鳩山由紀夫氏(以下、鳩山):マイケル・ペンさんにご紹介をいただきました。鳩山でございます。今日は私をお招きくださったのは「なぜお前、クリミアに行ったんだ?」というお話だと思っておりますので、その話をまずメインに申し上げながら、あとで総理時代の事柄など、普天間の問題など、お話する機会があればと思っております。

なぜ私がクリミアに参ったのか? その答えをひとつ申し上げるならば「日本という国を真の意味で独立した国家にしたい」と。その思いからでございます。

私は祖父の頃から、ロシアとの関係が、鳩山の家においても重要な位置を占めていたものですから、北方領土問題の解決の役に立ちたいと、そのように考えておりました。

当時のメドベージェフ大統領との間で数回会談はいたしましたけど、北方領土問題に十分な解決を見出せないまま総理をやめることになりました。

私はプーチン大統領のときに、この問題を解決させていかなければならないと、そのように強く考えています。そして、大変これは良いことに、安倍首相とプーチン大統領は6回も首脳会談を行い、両者の関係は非常に良好だと聞いております。

したがって、そのプーチン大統領と安倍首相との間で、いよいよ領土問題の解決に向けた議論がスタートするのではないかと、そのように期待もしておりました。

ところが昨年の冬から春にかけて、いわゆるクリミアの問題が起きて、日本はアメリカに追従するような形でロシアに経済制裁を加えました。

多分私が推察するに、安倍総理、日本政府は本当は経済制裁をやりたくなかったんではないかと思っておりますが、しかし、アメリカに強いられる形で、お付き合い程度の軽微なものでありますが、制裁を課したわけであります。

モスクワを訪れたときにナルイシキン下院議長から「日本の政治の間違いによって制裁というものが課されて、大変私たちはそのことを遺憾に思う」というふうに言われました。

たとえ軽微なものであっても、ロシア側とすればその経済制裁というのを深刻に受け止めたのは無理もありません。結果、プーチン大統領の来日がいまになっても決まらない状況になりました。

日本に来るというのが決まらないという中で、真摯な議論ができるはずもありません。私はそれは、大変にもったいないことだと思っております。

したがって私は、本当にアメリカの意に従うような形で日本が経済制裁を行うべきであったのか、これからも経済制裁を続けていくのか、そのことをぜひ現地に行って見ていきたいと思ったのです。

今回の問題のテーマはそこにもあると思っています。

日本の政府、外務省は基本的にアメリカという国の情報というものを、基本的にそれが正しいと受け止めて、それで日本政府の対応を判断しているように見えます。

ロシア・ウクライナ問題について

今回のウクライナの問題に関して申し上げると、必ずしもアメリカ側の情報がすべてではないと、私のほうでは思えてなりません。

これはウクライナ問題に詳しい知識人の方々の意見として、私が理解しておりますのは、ウクライナ問題というもののきっかけはやはり、アメリカ、あるいは欧米側がプーチン大統領がソチのオリンピックのときに、ある意味手足が縛られているときに、さまざまな画策を行って、起こしたものであるというふうに理解するべきだと思っております。

特にアメリカの物産複合体に支援を受けているネオコンが背後で様々な活動をしていたということが明らかになっています。ヤヌコーヴィチ政権がそのような方々の手によって、非合法に追放されたと。そのように解釈するべきではないかと思います。

これは見方によって大きく異なることであるわけですが、アメリカ側とすれば当然、いわゆる市民運動の皆様方が、民主化を求めてヤヌコーヴィチ政権を倒したと。そういう見方になります。

これは見方によるものですから、どちらが正しいとか一概に申せないかもしれません。

ただし、一方の側が正しくて、オバマの側が正義で、プーチンが常に悪であるという判断をすることは、これは必ずしも適当ではないと、そのように思っております。

私が申し上げたいことは、このような問題を解く鍵でございまして、たとえば市民活動家と治安部隊の双方に多くの死傷者が出た事件がございましたが、そのとき、両者側に同じ銃弾で殺されたと。そういう事実があります。

市民活動側、民主化を求める者からすれば、当然これはヤヌコーヴィチ側がやったということで責めているわけでありますが、どうも事実はそうではないということでございます。

閣僚の中に、多くのネオナチの人が存在しているいうことも含めて、この新しい政権において、ウクライナ語が公用化されて、ロシア語が公用語からはずされるということがおきました。

クリミアは特に、ロシア系の方が5割を超えております。もしロシア語が公用語から外されると、いわゆるそういう人たちが公務員で登用されていく道が閉ざされることになります。

そういった人たちの新しい政権ができることへの恐怖が、彼らを住民投票に導きました。9割を超える方が住民投票において、ロシアへの編入を賛成したのでありました。その住民投票が行われた1年後にクリミアを訪れました。そこにはもちろん戦車もありませんし、戦士の姿も一切見ませんでした。

当然私がクリミアの全ての現実を見られたわけではありません。しかし、私は2度クリミア連邦大学とセヴァストポリにあります、モスクワ大学の分校で講演をさせていただきましたが、そのとき集まった多くの学生たちの目は大変輝いて、朗らかでありました。

したがって私は、今彼らが満足をしているということにおいて、彼らの状況というものは1年間で好転してきていると理解すべきだと思いました。

住民投票が9割を超えたという数字そのものに意味を持っているとは思っていません。なぜなら、クリミア・タタール人というのは、その選挙のときには55%の投票率だったと聞いております。

55%という数字は(日本の)国政選挙の数字を見ると、そんなに悪い数字ではないと思っていますが(笑)。それは冗談としても、申し上げたいことは、そのクリミア・タタール人、1年前は必ずしも投票行動に対して好意的でなかった人たちも、1年間の新しい政権の行動によって現在は99%の方がロシア人のパスポートを持っていると。

7割の方はロシアへの編入に賛成をしているということを伺いました。

ロシアへの経済制裁の解除がもっとも適切な処置

クリミアは一言でいうと、18世紀後半からロシアの領土であったということであり、それが再びまたロシアの領土になったと。私は理解するべきだと思っております。

したがって今、クリミアがロシアの領土になって、平穏を取り戻している中で、欧米の国々、日本も含めてではありますが、これからも経済制裁を加えるべきかどうかということに関しては、しっかりと慎重に考えるべきだと思います。

私は(2015年)2月に行われた、東ウクライナを中心とする停戦合意というものがミンスクで行われたときに、ミンスク合意の中にクリミアの文字がどこにもなかったということに注視するべきではないかと思っています。

すなわち、ドイツやフランスから見ると、クリミアの問題というものはこれ以上大きな問題にしないと、基本的に解決済みだと思っているのではないかと期待しています。

したがって、私はクリミアの問題において、ロシアに対しての経済制裁を日本が解くのが最も適切な処置ではないかと思っております。

元外務官僚でございました、東郷和彦さんが「近々、安倍首相がオバマ大統領と会談をするときに、この話をするべきではないか?」と話をされていました。

彼の主張は、これからもロシアに対する経済制裁を加え続けると、ロシアは急激に中国に接近すると。そのことは決してアメリカにとっても日本にとってもメリットのある話ではないだろう。

私はこのようなことが首脳会談において議論されることを期待しています。

安倍、オバマの会談において、もっと期待すべきことはあるはずですが、まずはクリミア問題に関してのみお話を申し上げた次第であります。

以上で前半の私のトークを終了させていただきます。