株式会社鳥人間、久川と申します。よろしくお願いします。
大学のころ、人力飛行機を鳥人間コンテストで作っていたので、(社名に)付けたのですが、ウェブやアプリの開発会社として6年前に起業しました。
社員は私と奥さんの2人だけ。あとは猫が1匹います。私たちのサービスは30万人以上の方に使われているのですが、飛行機作ると、キーボード叩いて終わりじゃ満足できないんです。
私の家はこのような感じになっています。いわゆるスマホ連携ガジェットというものが、プロトタイプから量産までできる環境がそろっています。
このぐらい小さな部品も、はんだ付けできるので、
スマホ向けのリアル集客サービスを作ったりしているのですが、似たような話は今日たくさん出てきたので、一番イロモノのプロジェクトをご紹介したいと思います。
DNA増幅器をつくりました。なぜ作ったか。それを説明させてください。
遺伝子を採取するのは簡単です。綿棒で口の中をちょっとこすります、そうすれば細胞の2、3は取れるんです。染色体、DNAを染め上げることも可能なんです。左のもやっとしたのがDNA。でも小さすぎてこんなもの見えない。結果が見えないのであれば、DNAの実験など、何をやっても無駄です。
なので、DNAの実験はこのようなプロセスを必ず踏みます。さっき採取したDNAのコピーを、クローンを何万倍も作ってその全部を着色し、重さごとにふるいにかけます。そうすると、しましまになる。
6番に線があるから男ですね、8番が薄いから酒に弱いですね、おふたりのしましまは似てるから親子ですね、みたいなことをやっているわけですが、
このコピー機がすごく高かったです。私もみなさんも、DNAの実験などほとんどやったことがないと思いますが、それはこれに尽きる、と言っていい。
私がここに来たのは、これを10分の1以下の価格で作り、しかもオープンソースハードウェアとして、全部ばらまいちゃったからなんです。
じゃあ、何ができるようになるの? 遺伝子実験だけじゃない? 小学生でも遺伝子組み換えができてしまう。
それまずいんじゃないの? 怖いよね、みたいな話になりますが、知っていますか?
輸入作物の半分以上が遺伝子組み換えなんです。
糖尿病やマラリアの特効薬なんて、大腸菌に人間の遺伝子を組み込んで生産している。工場みたいにしているんです。
iPS細胞というのも、体皮の細胞などの一部を組み換え、初期化フラグをあげて作るんです。
私はこれの善悪を言っているのではないのです。こういうのが一般化して陳腐化しないと、科学はいつまでも感情を超えられない。それが私にゆだねられた。プログラマーなのに。じゃあ、やるしかないでしょ、ということでこれを作りました。
デモにいきます。
この上のふたが開くようになっていまして、
このプラスティックチューブに、先ほどの少量のサンプルと2種類の酵素、あとDNAの材料を入れてガチャン。
電源とUSBがこちらに周るので、PCに繋げば完了です。
私たちのアプリは、Chromeブラウザが動くすべてのOSで起動します。
クロームアップというものです。
それで起動したあと、何が起きるか?
さっきのチューブの中に1本だけDNAがあったとします。二重らせんがね。まず下のヒーターでがーっと温めます。
この緑の線がDNAの温度だと思ってください。
95度くらいになったときに何が起きるか?
DNAがふわーっと2本の片割れに分かれます。
ではそれを少し下げます。最初の酵素ががんばる温度に下げます。
すると、そいつが取り付きます。
もう1種類の酵素ががんばるように、ちょっと上げます。
そうすると反対側を作ってくれます。
温度を上げ、下げ、ちょっと上げる。これを1サイクルと呼びますけれども、1本のDNAが2本になる。
もう1サイクルで4本になる。
そのまま30サイクルで、理論上は10億本のコピーが作られる。これがこの機械の仕組みです。
このくらいありますと、実際にこういう白い、もやっとしたものの中には、断片が入っているわけです。
これを開発パートナーさんと一緒に、国内販売を開始しています。ただマーケットに上限があるので、海外にも売らなければならない。海外の担当は私です。2人で何ができるの? という話なのですが、
もう売ってきました。マレーシアの科学技術館に売れたのは、その開発パートナーさんの営業力のおかげなのですが、帰りにちょっと寄りました。
どこにかというと、ハッカースペースという、オープンハードウェアを推進する仲間たちが、いろんな拠点をつくっています。そこをぐるっと周って帰ってきたら、生産や海外販売の拠点を、来年中国の深圳に作る目途が立ちました。
私、物理の理学部出身なんです。ITですらないのです。でも、オープンソースやオープンハード、
つまりネット上の誰かから真摯に学べば
これくらいのものは作れるんです。教育もない、組織もない、お金もない、日本だからとか、世の中がクソだから、とかそういうことは、作らない理由には全くならないのです。
これ自身もオープンにしています。誰が作ってもいい。だから私以外の誰かが、形を変えて使い続けて
彼らのような若い人たちが、新しい産業をこれで起こしてくれると確信しています。それはいつなの? 遺伝子の歴史はネットより長いですからね。人類が滅亡するか、遺伝子が要らなくなるときまでこの機械は作り続けられ、そのなかに私の思いは生き続ける。なので、私はかなり満足しています。たとえ今日死んでも笑って死ねるくらいです。生きるというのはそういうことではないでしょうか? そういうものを作って残すというのが、やることの喜びではないでしょうか。
インターネットもまた、人類文明のDNA。何を引き継いで何を作っても自由ですが、ルールを守ってルールを変えていく。そして大きなものを残していきましょう!