シリコンバレーにおける従業員とストックオプションの関係性

ベン・ホロウィッツ氏(以下、ベン):それではお楽しみの時間です。サムのブログ記事を評価していきましょう。なかなかいいことを言っていますが、中には議論したいこともあります。

(会場笑)

さてサム、これがそのブログの記事の内容です(笑)。

「ほとんどの従業員は、オプション取引の権利を行使するために辞めるまで90日しかない。不幸にも、これは権利行使価格と税金を埋め合わせる資金を必要とする」

これについては後で説明します。まずは読み終えてしまいましょう。

「行使の年に従業員が持っている資金を上回る場合がある」

これが鍵です。

「従業員は、仕事を辞めて行使を補償できないために投資したオプションから撤退するか、会社に残るかの選択を迫られる」

「このように従業員が限界に至るのは非常に良くない状況である」

これも後で触れますが、非常に重要な鍵となるポイントです。

「これは公平には思えない。Quoraのアダム・ダンジェロという男に聞いた最適な解決方法は、このようなものである。付与されたオプションの執行が付与日から10年後であるとき、これはほとんどの状況に対応する」

ここには難しい問題が潜んでいます。

「いずれにせよアセットを失うよりは遥かにいい。これは全てのスタートアップが受け入れるべきポリシーだ」

さて、我々の質問は、果たしてサムは正しいのかということです。これが本当に全てのスタートアップが受け入れるべきポリシーなのかということです。

1000万ドル手に入れるために250万ドル必要なルール

それでは、もう一度これが何を意味しているかについて説明しましょう。

現在では、全てのシリコンバレーとスタートアップにおけるストックオプションは、このようになっています。株式に投資を行ったが会社を去らなくてはならない場合、会社によりますが、執行期限は90日になります。その期間で株を購入しなければ、なくなってしまいます。もうあなたのものではなくなるわけです。会社に入るタイミングによっては非常に大きな問題になります。

ほとんどの会社は、AirbnbやUberのような素晴らしいスタートアップは、409Aの価格を見て、推奨価格を見れば、オプションは1000万ドルに達しているわけです。するとあなたはこう思うでしょう。1000万ドル! やったお金持ちだ!

しかしその資金を手にいれる方法については教えてくれません。1000万ドルを手に入れるためには、およそ250万ドルほどかかるのです。退職するときそれだけのお金が手元にないと、1000万ドルは消えていってしまいます。

サムはそれが問題だと考えて、ブログの記事を書いたわけです。みんなこのルールはおかしいから変えたほうがいいと。まず最初に考えなくてはならないことは、なぜこのルールが80年代から30年以上にも渡って続けられてきたのかということです。

サムがこれを知っていて言っているのか、直感で辿り着いたのかはわかりませんが、実際にこれが行われたことがあったのです。2004年まで、APBオピニオンNo.25という法律がありました。この法律が、ストックオプションを扱う古い方法です。そしてたくさんの人を牢屋に入れた法律でもあります。なくなって本当に良かったと思っています。

これは非常に混乱を招く法律で、ほとんどの人は理解していませんでした。そして文字通り、牢屋に入れられたわけです。

しかしそれが法律としてあったときは、オプションを執行するために10年間を与えるということはできなかったし、獲得することはできませんでした。なぜなら費用が株式価格に紐付いているからです。基本的には、株式の価格が上がれば、その分を補償する必要があるわけです。

そして最悪のことは、それがどうなるのか全く予想できないということです。完全に予測不能です。どれだけの資金を生み出すのかわからないのです。なぜならそれは株式価格によるからです。

そして株式の価格が上昇すればするほど、たくさんのお金を失うことになります。かつて人々は、ストックオプションの費用がわかりませんでした。だからそれは不可能だったし、90日間という期限でみんなが納得していたのです。

これがこのような法律があった理由です。なぜそれがあるのか、という質問をすることは絶対に正しいと言えるでしょう。

みなさんついてきていますか? わかりますか? これは今までのふたつの例に比べて複雑ですが、非常に重要です。

辞めていく従業員にもフェアであるべき理由

さて、あなたの側から見れば、従業員がいるとき、フェアでありたいと思うはずです。誰だって、「さあ、4年で君の株はこうなるよ!」なんて言いたくないはずです。特に誰かを解雇しようとするときに「さあ、君はクビだ! 君のお金も全て取り上げる!」なんて誰だって言いたくはないでしょう。

(会場笑)

これは問題です。そのため常に頭に入れておかなくてはいけません。残る人のこと、そして残る人に報酬を与えることについて考えなくてはならないのです。さて、それでは去る従業員について考えてみましょう。これは非常に重要です。なぜならこれは信望の問題だからです。

1年働いたとして、その1年分の報酬はどこにあるのか? そしてこの90日間の執行の問題が出てくるわけです。確かにストックオプションの契約書には書いてあったけれど、誰もそれについて説明はしてくれなかった。株式を購入するために200万ドルも用意することはできない。お金持ちだったらその株を買うことができるかもしれないけれど、それはフェアじゃない。解雇されて、酷い目に遭っていると。

そうなれば、必ずどうしてひどい状況になったかを他の人に話すでしょう。これは信望の問題なのです。こうしたことについて、このポリシーを設定する前に考えなくてはなりません。

それから残る従業員についても考えてみましょう。ある人が辞めたのを見れば、そっちの方がよりよいのだろうか? と思いはじめます。従業員はあなたのことはよく知らないかもしれませんが、お互いのことは良く知っています。どの企業でもそうです。実際に一緒に働いている人間のほうがお互いを良く知っているものです。

その人がいなくなったら、自分も辞めるべきだろうかと思うのは当然です。自分の場合はどっちが得だろうか、と考えるでしょう。それでは状況をさまざまな要素から分析してみましょう。

シリコンバレーの企業はたくさんの人を解雇しています。平均は10%ほどで、これは上昇していくでしょう。サンフランシスコでは、もっと高い値になっています。これは文化の差です。シリコンバレーは6%から8%、あるいは10%をストックオプションで支払うことで、報酬を薄めようとします。このとき頭に入れておかなくてはいけないことは、少々意地悪ではありますが、従業員が去り、そして決済できないという状況のときです。これらの株が戻ってくれば、これを他の人に与えることができるようになるからです。

必ずしもこれを行う必要はありません。しかし考えるようにはしておきましょう。

スタートアップ株の10年後の価値

次に、株を全て失うということは、会社に残るということを動機づける非常に大きなインセンティブになります。これは良い側面と悪い側面があります。失ってしまうかもしれない人を止めておくというのが良い側面、逆にいなくなるべき人が留まってしまうというのが悪い側面です。彼らに手錠がついているようなものなのです。

しかし一方で、10年という選択肢は、保証の揮発性を考えれば非常にいい手段です。これがオプションの価値です。スタートアップの株の10年後を考えれば、これは非常に大きな価値があります。

そして思い出してください。会社に残る従業員は、その株を得ることはできません。去る従業員だけです。残る従業員は、新しい仕事と新しい株式は得られません。ひとつは得られますが、両方を得ることはできないのです。

さて、決断を下さなくてはならないのですが、これは非常に難しい判断です。私は全ての企業が再評価すべきだとは思っています。しかし全ての企業がこれを導入すべきだとは言えない。何を優先するかを考えなくてはなりません。ふたつの考え方を定義しておきましょう。

ひとつめ、従業員にはできる限り正直であること。フェアでなくてはなりません。そうすれば、株を決済するまでに10年の猶予があります。どれだけ豊かだろうと、貧しかろうと、あげるといったものはあげます。これはもう済んだ契約です。

ふたつめ、給与については契約で保証するが、株においてはその限りではない。投資し、会社が成功するまで留まり、そして会社の価値を上げなくてはなりません。なぜならゼロの10%はゼロだからです。こちらのポリシーを採用する理由は、会社に人を留まらせる力があるからです。そうでなければ社員は損をするわけですから。

この問題に対して、解答はこの2種類です。あなたやあなたがやっている会社において、どのような文化を作りたいかによって選択する必要があります。

繰り返しになりますが、全ての視点から物事を検討する必要があります。人に何かを押し付けるのは非常に問題だからです。こうしたことが、最終的に会社のパフォーマンスを決めるのです。

サム・アルトマン氏(以下、サム):少し自分の記事を訂正したいのですが。

ベン:どうぞ。

サム:私は人が長い間会社に残るためのインセンティブが必要だと思っています。

ベン:滞在のインセンティブを加えましょう。

サム:辞めてしまうと、問題が発生しますから。

ベン:サムが指摘したもうひとつの重要な点は、どれだけのお金を持っているかということだと思います。お金があれば、特に問題はない。辞めても株が買える。リスクはありますが、株は買える。でもお金はないところにはありません。 

奴隷を率いて欧州列強を倒したトゥーサンから学ぶこと

さて、それでは私のTシャツの人物、トゥーサン・ルーヴェルチュールに話を移しましょう。彼は非常に優秀でした。みなさんの力になるであろう、いくつかの事例を紹介したいと思います。

それではまず最初に、トゥーサン・ルーヴェルチュールが何者であるかについてです。彼は奴隷として生を受けました。しかもただの奴隷ではありません。もっとも過酷な場所の奴隷です。今では「ハイチ」という国名で知られる、サン・ドマングで生まれたのです。

砂糖の産地であったこの場所は、歴史的にも有数の奴隷制度を持っていたアメリカなどと比べても、もっと厳しい奴隷制がしかれていました。

数字を出しましょう。例えばアメリカでは、400年間で100万人の奴隷が連れてこられました。これが奴隷解放時には400万人になっていたと言われています。対してこのカリブの砂糖の産地では、200万人の奴隷が導入され、そして奴隷制度が終わるときには、たった70万人しか残っていなかったと言われています。量的な観点から言えば、ほとんど10倍近くの厳しさだったわけです。

みなさんにこの本を読みたいと思います。これを読んでいる時間があるかわかりませんが、気にしません(笑)。この奴隷制が単に量的に厳しいものであっただけでなく、質的にも激しいものであったということをみなさんに知って欲しいのです。

トゥーサン・ルーヴェルチュールが暮らしていた場所での奴隷制の描写を読み上げたいと思います。

鞭打ちは、臀部に熱した木を当てるために中断された。塩、胡椒、柑橘類、消し炭、アロエなどが、流血している傷に流し込まれた。治癒のためではない、もっと傷を悪くするためだ。切断は日常茶飯事だった。

四肢や、耳や、ときには秘部までも、お金を使わない楽しみとして切断されていた。主人は腕や頭や肩に熱した蝋を流した。溶かした砂糖を頭からかぶせて、生きたまま殺した。弱火で火炙りにしたり、体に火薬を詰めてマッチで爆発させたりした。

首だけ出して埋めて顔に砂糖をまぶして、ハエが卵を産みウジが肉を食べるようにした。アリの巣やハチの巣と一緒に閉じ込めた。排泄物を食べさせ、尿を飲ませ、そして他の奴隷の唾を舐めさせた。ひとりの開拓民は、怒った時に奴隷に馬乗りになってその肉に歯を立てることで有名だった。

これが彼の育った奴隷制です。この状態を理解することは重要です。こうした見方を変えるのは非常に難しいからです。