2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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ベン・ホロウィッツ氏(以下、ベン):それではお楽しみの時間です。サムのブログ記事を評価していきましょう。なかなかいいことを言っていますが、中には議論したいこともあります。
(会場笑)
さてサム、これがそのブログの記事の内容です(笑)。
「ほとんどの従業員は、オプション取引の権利を行使するために辞めるまで90日しかない。不幸にも、これは権利行使価格と税金を埋め合わせる資金を必要とする」
これについては後で説明します。まずは読み終えてしまいましょう。
「行使の年に従業員が持っている資金を上回る場合がある」
これが鍵です。
「従業員は、仕事を辞めて行使を補償できないために投資したオプションから撤退するか、会社に残るかの選択を迫られる」
「このように従業員が限界に至るのは非常に良くない状況である」
これも後で触れますが、非常に重要な鍵となるポイントです。
「これは公平には思えない。Quoraのアダム・ダンジェロという男に聞いた最適な解決方法は、このようなものである。付与されたオプションの執行が付与日から10年後であるとき、これはほとんどの状況に対応する」
ここには難しい問題が潜んでいます。
「いずれにせよアセットを失うよりは遥かにいい。これは全てのスタートアップが受け入れるべきポリシーだ」
さて、我々の質問は、果たしてサムは正しいのかということです。これが本当に全てのスタートアップが受け入れるべきポリシーなのかということです。
それでは、もう一度これが何を意味しているかについて説明しましょう。
現在では、全てのシリコンバレーとスタートアップにおけるストックオプションは、このようになっています。株式に投資を行ったが会社を去らなくてはならない場合、会社によりますが、執行期限は90日になります。その期間で株を購入しなければ、なくなってしまいます。もうあなたのものではなくなるわけです。会社に入るタイミングによっては非常に大きな問題になります。
ほとんどの会社は、AirbnbやUberのような素晴らしいスタートアップは、409Aの価格を見て、推奨価格を見れば、オプションは1000万ドルに達しているわけです。するとあなたはこう思うでしょう。1000万ドル! やったお金持ちだ!
しかしその資金を手にいれる方法については教えてくれません。1000万ドルを手に入れるためには、およそ250万ドルほどかかるのです。退職するときそれだけのお金が手元にないと、1000万ドルは消えていってしまいます。
サムはそれが問題だと考えて、ブログの記事を書いたわけです。みんなこのルールはおかしいから変えたほうがいいと。まず最初に考えなくてはならないことは、なぜこのルールが80年代から30年以上にも渡って続けられてきたのかということです。
サムがこれを知っていて言っているのか、直感で辿り着いたのかはわかりませんが、実際にこれが行われたことがあったのです。2004年まで、APBオピニオンNo.25という法律がありました。この法律が、ストックオプションを扱う古い方法です。そしてたくさんの人を牢屋に入れた法律でもあります。なくなって本当に良かったと思っています。
これは非常に混乱を招く法律で、ほとんどの人は理解していませんでした。そして文字通り、牢屋に入れられたわけです。
しかしそれが法律としてあったときは、オプションを執行するために10年間を与えるということはできなかったし、獲得することはできませんでした。なぜなら費用が株式価格に紐付いているからです。基本的には、株式の価格が上がれば、その分を補償する必要があるわけです。
そして最悪のことは、それがどうなるのか全く予想できないということです。完全に予測不能です。どれだけの資金を生み出すのかわからないのです。なぜならそれは株式価格によるからです。
そして株式の価格が上昇すればするほど、たくさんのお金を失うことになります。かつて人々は、ストックオプションの費用がわかりませんでした。だからそれは不可能だったし、90日間という期限でみんなが納得していたのです。
これがこのような法律があった理由です。なぜそれがあるのか、という質問をすることは絶対に正しいと言えるでしょう。
みなさんついてきていますか? わかりますか? これは今までのふたつの例に比べて複雑ですが、非常に重要です。
さて、あなたの側から見れば、従業員がいるとき、フェアでありたいと思うはずです。誰だって、「さあ、4年で君の株はこうなるよ!」なんて言いたくないはずです。特に誰かを解雇しようとするときに「さあ、君はクビだ! 君のお金も全て取り上げる!」なんて誰だって言いたくはないでしょう。
(会場笑)
これは問題です。そのため常に頭に入れておかなくてはいけません。残る人のこと、そして残る人に報酬を与えることについて考えなくてはならないのです。さて、それでは去る従業員について考えてみましょう。これは非常に重要です。なぜならこれは信望の問題だからです。
1年働いたとして、その1年分の報酬はどこにあるのか? そしてこの90日間の執行の問題が出てくるわけです。確かにストックオプションの契約書には書いてあったけれど、誰もそれについて説明はしてくれなかった。株式を購入するために200万ドルも用意することはできない。お金持ちだったらその株を買うことができるかもしれないけれど、それはフェアじゃない。解雇されて、酷い目に遭っていると。
そうなれば、必ずどうしてひどい状況になったかを他の人に話すでしょう。これは信望の問題なのです。こうしたことについて、このポリシーを設定する前に考えなくてはなりません。
それから残る従業員についても考えてみましょう。ある人が辞めたのを見れば、そっちの方がよりよいのだろうか? と思いはじめます。従業員はあなたのことはよく知らないかもしれませんが、お互いのことは良く知っています。どの企業でもそうです。実際に一緒に働いている人間のほうがお互いを良く知っているものです。
その人がいなくなったら、自分も辞めるべきだろうかと思うのは当然です。自分の場合はどっちが得だろうか、と考えるでしょう。それでは状況をさまざまな要素から分析してみましょう。
シリコンバレーの企業はたくさんの人を解雇しています。平均は10%ほどで、これは上昇していくでしょう。サンフランシスコでは、もっと高い値になっています。これは文化の差です。シリコンバレーは6%から8%、あるいは10%をストックオプションで支払うことで、報酬を薄めようとします。このとき頭に入れておかなくてはいけないことは、少々意地悪ではありますが、従業員が去り、そして決済できないという状況のときです。これらの株が戻ってくれば、これを他の人に与えることができるようになるからです。
必ずしもこれを行う必要はありません。しかし考えるようにはしておきましょう。
次に、株を全て失うということは、会社に残るということを動機づける非常に大きなインセンティブになります。これは良い側面と悪い側面があります。失ってしまうかもしれない人を止めておくというのが良い側面、逆にいなくなるべき人が留まってしまうというのが悪い側面です。彼らに手錠がついているようなものなのです。
しかし一方で、10年という選択肢は、保証の揮発性を考えれば非常にいい手段です。これがオプションの価値です。スタートアップの株の10年後を考えれば、これは非常に大きな価値があります。
そして思い出してください。会社に残る従業員は、その株を得ることはできません。去る従業員だけです。残る従業員は、新しい仕事と新しい株式は得られません。ひとつは得られますが、両方を得ることはできないのです。
さて、決断を下さなくてはならないのですが、これは非常に難しい判断です。私は全ての企業が再評価すべきだとは思っています。しかし全ての企業がこれを導入すべきだとは言えない。何を優先するかを考えなくてはなりません。ふたつの考え方を定義しておきましょう。
ひとつめ、従業員にはできる限り正直であること。フェアでなくてはなりません。そうすれば、株を決済するまでに10年の猶予があります。どれだけ豊かだろうと、貧しかろうと、あげるといったものはあげます。これはもう済んだ契約です。
ふたつめ、給与については契約で保証するが、株においてはその限りではない。投資し、会社が成功するまで留まり、そして会社の価値を上げなくてはなりません。なぜならゼロの10%はゼロだからです。こちらのポリシーを採用する理由は、会社に人を留まらせる力があるからです。そうでなければ社員は損をするわけですから。
この問題に対して、解答はこの2種類です。あなたやあなたがやっている会社において、どのような文化を作りたいかによって選択する必要があります。
繰り返しになりますが、全ての視点から物事を検討する必要があります。人に何かを押し付けるのは非常に問題だからです。こうしたことが、最終的に会社のパフォーマンスを決めるのです。
サム・アルトマン氏(以下、サム):少し自分の記事を訂正したいのですが。
ベン:どうぞ。
サム:私は人が長い間会社に残るためのインセンティブが必要だと思っています。
ベン:滞在のインセンティブを加えましょう。
サム:辞めてしまうと、問題が発生しますから。
ベン:サムが指摘したもうひとつの重要な点は、どれだけのお金を持っているかということだと思います。お金があれば、特に問題はない。辞めても株が買える。リスクはありますが、株は買える。でもお金はないところにはありません。
さて、それでは私のTシャツの人物、トゥーサン・ルーヴェルチュールに話を移しましょう。彼は非常に優秀でした。みなさんの力になるであろう、いくつかの事例を紹介したいと思います。
それではまず最初に、トゥーサン・ルーヴェルチュールが何者であるかについてです。彼は奴隷として生を受けました。しかもただの奴隷ではありません。もっとも過酷な場所の奴隷です。今では「ハイチ」という国名で知られる、サン・ドマングで生まれたのです。
砂糖の産地であったこの場所は、歴史的にも有数の奴隷制度を持っていたアメリカなどと比べても、もっと厳しい奴隷制がしかれていました。
数字を出しましょう。例えばアメリカでは、400年間で100万人の奴隷が連れてこられました。これが奴隷解放時には400万人になっていたと言われています。対してこのカリブの砂糖の産地では、200万人の奴隷が導入され、そして奴隷制度が終わるときには、たった70万人しか残っていなかったと言われています。量的な観点から言えば、ほとんど10倍近くの厳しさだったわけです。
みなさんにこの本を読みたいと思います。これを読んでいる時間があるかわかりませんが、気にしません(笑)。この奴隷制が単に量的に厳しいものであっただけでなく、質的にも激しいものであったということをみなさんに知って欲しいのです。
トゥーサン・ルーヴェルチュールが暮らしていた場所での奴隷制の描写を読み上げたいと思います。
鞭打ちは、臀部に熱した木を当てるために中断された。塩、胡椒、柑橘類、消し炭、アロエなどが、流血している傷に流し込まれた。治癒のためではない、もっと傷を悪くするためだ。切断は日常茶飯事だった。
四肢や、耳や、ときには秘部までも、お金を使わない楽しみとして切断されていた。主人は腕や頭や肩に熱した蝋を流した。溶かした砂糖を頭からかぶせて、生きたまま殺した。弱火で火炙りにしたり、体に火薬を詰めてマッチで爆発させたりした。
首だけ出して埋めて顔に砂糖をまぶして、ハエが卵を産みウジが肉を食べるようにした。アリの巣やハチの巣と一緒に閉じ込めた。排泄物を食べさせ、尿を飲ませ、そして他の奴隷の唾を舐めさせた。ひとりの開拓民は、怒った時に奴隷に馬乗りになってその肉に歯を立てることで有名だった。
これが彼の育った奴隷制です。この状態を理解することは重要です。こうした見方を変えるのは非常に難しいからです。
しかし彼はビジョンを持っていました。このビジョンは、3つにわけられます。
ひとつ、奴隷制を終わらせたかった。ふたつ、権力を得て、この国を管理・運営したかった。みっつ、この国を世界に通じる一級の国家にしたかった。
彼はただ奴隷を解放しただけではなく、世界と競争できる国にしようとしたのです。これが彼の考え方です。
しかし、彼の境遇は過酷でした。そのため最初の例は、いかにして敵を征服するかです。まずはハイチを統一するため、戦いが行われました。しかしその後、ハイチを征服しようとする周囲の国家にどう立ち向かうかを考えなくてはなりませんでした。
スペイン、イングランド、フランスといった国々です。彼はこうした国の軍も破らねばなりませんでした。そのため、征服した兵士をどうするか、そして向こう側のリーダーをどうするかについても決断をしなければなりませんでした。そのため、彼は3つの異なった視点からものを見たのです。
ひとつ、彼の兵士の視点。ふたつ、敵の視点。みっつ、結果としてそれがどのような文化を作り上げるかという視点です。
それは彼がどのような国を作ろうとしているのか、ということでもあります。なぜなら軍隊は国全体の文化の種だからです。
兵士の視点から見てみましょう。まず略奪ができるのか。兵士は略奪を好みます。略奪は彼らの報酬でもあるからです。次に、敵がこちらを殺そうとしているなら、敵を殺さなくてはならない。これが彼のために戦う兵士の基本的な観点です。
さて、私は略奪は挙げましたが、強姦は挙げませんでした。非常に興味深いことに、彼は強姦を認めなかっただけではなく、将官の浮気さえも許しませんでした。もし浮気をすれば、すぐにクビになりました。なぜなら彼は、結果としてできる文化について考えていたからです。
それはどんなものになるだろうか? 生産的なものになるだろうか? 世界一になれるだろうか? あるいはそこまでは行けないだろうか? これが、彼が考えていたことなのです。
実際には、彼の軍隊は略奪を行わないことで有名でした。これは征服された側からすれば驚くべきことでした。これによって彼はハイチで高い名声を得ました。白人でさえも、彼には一目置くようになったのです。彼が戦いに勝って街に入っても略奪をしなかった、たったそれだけのことでです。
繰り返しになりますが、これは彼が文化を長期的に捉えていたからです。こうしたやり方が、最終的に彼を偉大な人物にしました。
彼はハイチの文化が、奴隷文化であり、砂糖プランテーションの文化が、ヨーロッパで経験した、ヨーロッパ人と話した時に感じたものに比べて、著しく程度の低いものだと考えていました。
そして奴隷文化はハイチの文化よりもさらに崩壊していると考えました。奴隷文化とは、言うことを聞かなければ殴り殺してやるぞ、あるいは火薬でぶっ飛ばしてやるぞ、というような文化だったからです。こうした行動をすれば、こうした行動に見合った文化しか生まれません。この文化をこそ、彼は変えなくてはならないと考えていたのです。アップグレードが必要だとわかっていました。
彼のソリューションは、イギリスやスペインやフランスを倒した後、最も優秀な人間を引き抜いて自軍の将軍に据えることでした。敵からしてみれば、予想もできないことだったでしょう。奴隷革命を率いている人物に殺されそうになっているとき、征服されたかと思えば相手の軍に編入されるのです。これは彼が熟練の技術と高い水準の文化が必要だと考えていたからです。
彼が抱えていた2つ目の問題は、もっと複雑です。奴隷の持ち主は、どのような処遇にすればいいのでしょう? 彼は奴隷革命を率い国の実権を握りました。奴隷の所有者をどうするかは重要です。
再びいくつかの視点から見ていきましょう。奴隷からすれば、奴隷が奴隷の持ち主に対しての戦争に勝ったのだから、彼らを殺してしまえと思うはずです。議論の余地はありません。彼らを殺せば、その土地は自分たちのものになるのです。勝利だ! やった!
しかしトゥーサン・ルーヴェルチュールの観点からすれば、事態はもう少し複雑です。彼はハイチを世界に通用する国家にしようとしていました。そう考えたとき、砂糖は重要な産業であり、奴隷は砂糖の生産と切っても切れない関係にありました。一方で彼は奴隷の出身だったため、先述したような奴隷制度の中では当然怒りも感じていたでしょう。
それから彼が危惧していたのは、砂糖のプランテーションをどのように運営するかについての知識と技術がないことでした。砂糖を取引する相手とのコネクションも一切ありません。しかし戦争に勝てば、土地は手に入ります。これは戦争の極めて基本的なルールです。
奴隷の持ち主の観点は非常に興味深いものです。彼らは奴隷労働に依存したコスト構造を持っていたわけです。そのため、奴隷労働なくしてはビジネスが成り立ちません。もし労働の対価を払わなくてはならないとしたら、キャッシュフローがうまく機能しないでしょう。
彼らは奴隷を買うために資金を使い、土地にも資金を使っていたため、運営するためには奴隷が必要だというのが彼らの頭の中にあったことです。経済をガラッと変えてしまって、そのままそれが機能するということはありません。階級の持つ特権性を利用していたのです。
それでは、奴隷の所有者への対応はどのようなものだったのでしょう?
ひとつ、奴隷制は終わらせる。ふたつ、土地は奴隷所有者が持ったままにしておく。みっつ、労働者にはきちんと賃金を払うようにする。よっつ、産業を維持するために、税金を引き下げる。
奴隷労働はもうなくなり、きちんと賃金が発生する労働者になったのです。みなさん感心するでしょう。奴隷を解放するために奴隷の所有者を倒した後で、なんと税金を下げたのです。彼にはもっと大きなゴールがありました。もっと強い文化が必要だったのです。彼がこのように奴隷の持ち主を扱ったのは、経済成長が重要だと考えたからです。
それでは結果を見てみましょう。まず最初に人類の歴史の中で、トゥーサン・ルーヴェルチュールの革命だけが成功した奴隷革命です。今までも、そして多分これからもです。
次に、プランテーションの所有者は土地を維持しました。さらに、彼はナポレオンを超えました。大幅な経済成長と、世界に通用する文化を作り上げました。またトゥーサン・ルーヴェルチュールの治世の元で、ハイチはアメリカを超える貿易黒字を出しました。
これが自分の視点からだけではなく、自分が憎む相手も含む全ての立場の人の視点から考えることによって得られる結果です。
これはCEOになるととても難しいことです。革命を率いているならなおさらです。結論としては、CEOとして最も重要かつ困難なことは、会社を全ての人の視点から見るように自らを律することです。
従業員の視点から、ビジネスパートナーの視点から、話したことのない人、目の前にいない人の視点から会社を見ることが大切なのです。
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