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一休 社長 榊 淳|データを見る時に絶対にやってはいけないこと(全2記事)

1人の顧客の行動履歴を30分間じっくり分析 一休の事業トップを集めた「勉強会」でやっていること

経営者、事業責任者、マーケターからPRパーソン、デザイナーまで、業界業種を問わず、企画職の誰もが頭を悩ます「ブランディング」をテーマに、じっくり向き合う音声番組『本音茶会じっくりブランディング学』。今回のゲストは、『DATA is BOSS 収益が上がり続けるデータドリブン経営入門』著者で株式会社一休 代表取締役社長の榊淳氏。本記事では、顧客理解を深めるために一休でやっている「カスタマージャーニー勉強会」について明かします。 ■音声コンテンツはこちら

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一休・榊淳氏と、データにまつわる誤解を深掘り

工藤拓真氏(以下、工藤):「本音茶会じっくりブランディング学」。この番組は、業界や業種を越えて生活者を魅了するブランド作りに本気で挑まれるプロフェッショナルの方々と、ブランディングについて、Voicyさんがかまえる和室でじっくりじっくり深掘るトーク番組です。

こんばんは、ブランディングディレクターの工藤拓真です。本日も引き続き、株式会社一休の榊さんに来ていただいております。榊さん、よろしくお願いします。

榊淳氏(以下、榊):よろしくお願いします。

工藤:「データとはなんぞや?」というところが、めちゃくちゃ、ひしひしと伝わってくる2回分を聞かせていただいてありがとうございます。今日は、最後に「本音のクエスチョン」というコーナーを設けておりまして。

ここまでのエピソードでも、本音をさんざん出していただいているんですけれど。やはりデータにまとわりついている誤解だったり、あるいは「バシッとできます」と言っても、「いや、とはいえ難しいよ」という、あんまりバサッと切れないような話も含めて、うかがいたいなと思っています。

データを重視しない人にどう働きかけていくか

工藤:まず、1つ目にうかがいたいことがあります。これこそもしかしたら榊さんが「経験と勘の経営で退場すべき」という経営スタイルかもしれないんですけど。「市場調査からはイノベーションは生まれない」とか、「データからはイノベーションは生まれないんだ」と、ちらほら言われると思うんです。

「本当にそんなことを言っている原著なんてないよ」ということもあるかもしれないんですけど。ただ、「なんとなくデータを見ているとかじゃなくてさ」みたいな議論が出てきたり、「データからイノベーションは生まれないんだ」とか言われたりすることもあると思うんですけど。そういうものをどうお考えですか。

あるいは、今は代表(取締役社長)というお立場で指揮系統をされていますが、コンサルだった時代に、そういう脳じゃない人に、その必要性を訴える機会もあったのかなと想像するんですけど。そういう時、どう働きかけていらっしゃったのかなというのを聞きたいです。

:確かに「市場調査とか意味ないじゃん」といった主張があるとすると、なんとなくそれはわかる気がする。と言うのは、例えばどこかの会社が新しい事業をする時には、必ず最初に顧客を理解しようと努めるじゃないですか。だいたいインタビューから入りません?

フォーカスグループのリアルなお客さんに会って、どういう人がそのサービスを利用しているのか、その人はどんな服装なのか、どういう思考で生きているのかを学ぶことが多いじゃないですか。

工藤:ありますね。

:あと、その方がふっとおっしゃった一言がすごく腹落ちしたり、「なんかそれわかる」と思ったりすることがすごくあるじゃないですか。そこで「この会社のこの事業や、このサービスって、こういうふうな感じなのね」というのをなんとなくつかむ。

それが10人や20人の定性コメントだとつらいから、「これをもうちょっと面で理解したいよね」という時に、よくある方法としては、定量調査をします。シャープな仮説をぶつける定量調査の場合は、インサイトが出ることが多いですよね。

工藤:そうですね。ありますね。

:市場調査をしてインサイトが出ないんだとすると、仮説が弱いことが疑われる感じなのかなと思いました。

一休でやっている「カスタマージャーニー勉強会」

工藤:なるほど。榊さんはデイリー、ウィークリー、マンスリーで、データの先の行動が見えている状態だと思うんですけど。一休では、そういう市場調査もするんですか?

:市場調査もやりますし、定性的なインタビューもすごくします。あとは最近、うちは「カスタマージャーニー勉強会」をすごくやっています。

工藤:ほう。それはいったいどういうものなんですか?

:例えば、「箱根」と検索して一休(.com)にランディングしてきたという、お客さまの、URLの履歴が残っているわけですよ。その後、50,000円以上の予算にして検索を始めて、この宿を見て、この商品を見て、この商品で離脱したみたいなシーンがあったとするじゃないですか。その時にまず、「この人は、どういうニーズを持ってここに来たんだろうね?」とか。

だいたいカスタマージャーニー勉強会の時は、「このお客さんは過去に何回ぐらい泊まっていて、こういう宿泊履歴の人で、いつもは3人なのに、今回は1人で検索しているね」とか。

その人の行動を見て、「何か使いにくかったことはないかな?」「今なんでこの人はこういうことをしたんだろう?」「今、離脱したよね」といって、30分後戻ってきたら、「あ、ひょっとして、他社で値段を決めてきたな」とわかるわけですよ。

例えば僕らがコンビニの店長さんだったとしたら、お客さんが入ってきた時に「あの人はいつも20時ぐらいに来る人だ」って思うじゃないですか。いつもは弁当を買っていくのに、今日はワインも買っていったとしたら、「あれ? 今日は会社で何か良いことがあったのかな?」って思うじゃないですか。

それをデジタルの中でやりたいんですよ。毎週1回、うちのメンバーとやっているんですが、めちゃめちゃスキルが上がってくるんです。

URLの履歴から見えてくる顧客の真意

工藤:え? どういうスキルですか?

:「この人は今こんなサーチをしたけど、これってすでに持っている予約の値段を再確認する時に最短なんじゃないか?」とか、なぜこの人がこういう行動を取っているのか、わかるようになってくるんですよ。

工藤:「この人はこういう行動の結果、こういうことをやっているんだろうね」というのを透視するスキルが身につくということですか。

:そうなんです。「今もしかしてこの人は、ここが使いにくかったんじゃないかな?」とかが、手に取るようにわかるように習熟してくるわけです。

工藤:すごい。例えばその場を設けて、榊さんが全部見つけていたら、みんな育たないじゃないですか。どんな場なんですか?

:例えば1人のお客さんが20ページ見ていたとすると、その人のURLの履歴をみんなで1個ずつ見ながら30分ぐらい議論しています。

工藤:ええ!? そのお客さんの履歴は任意で取ってくるんですか?

:誰かが取ってくるんですが、もちろんテーマを持って臨む時もあります。最近だと、例えば「ビジネスホテルの顧客が伸び悩んでいるね。じゃあ、ビジネスホテルのお客さんを見ようか」となったり、「高級旅館が伸び悩んでいるから、そういう人を見ようか」となったり。いろんなテーマで見るんですけど、とにかく習熟度が上がってきます。

そういったミクロの情報をよく見ていると、経営会議とかで「先週、この事業の業績が良かったね」となった時に、ミクロなことに対して「それね、たぶんこれだと思います」って言えるようになるんですよ。

工藤:なるほど、なるほど。

1人の顧客を長時間見る理由

:鳥の眼と虫の眼が紐づくというか。もちろん顧客へのインタビューもデータ分析も大事ですけど、一人ひとりの行動を見るのは、すごく勉強になります。本当は100万人ぐらい見たほうが良いんですよ。けど、100万人も見たら、ちょっと退屈しちゃうんです。なので、できれば1人のお客さんを長い時間見ることを、すごくやるようにしていますね。

工藤:その30分というのは、例えばジネスホテル(のページ)で課長Aさんがこういう行動をしていたと。どうやら途中で離脱したと思ったら、そこから急に検索する金額の感じが変わってきました、みたいなことも。

:あります、あります。

工藤:「どうなんですかね?」みたいなことを持っていって、それにみんなが「こういう読みなんじゃないの?」という、読みのぶつけ合いみたいなことですか?

:はい。みんなでディスカッションしている感じです。「この人は、本当はこういうことをしたかったんじゃないかな?」とか。

工藤:じゃあ、当然答えは出ないわけじゃないですか。

:出ないです。

社長自らの行動履歴でも分析

工藤:みんなで「こうかなあ?」というのを30分、言うんですか?

:そうなんですけど、例えば僕が長野県の宿を予約したというシーンがあったとするじゃないですか。そうしたら、まず「僕のURLの履歴を持ってきて」って最初は言っていたんです。なぜなら、僕がなぜこの行動を取ったのか、自分ではわかっているから。

僕は、自分とは言わずに話をして、「僕はこう思ったんだよね」「ここが使いにくかったんだよね」「なんでここで絞り込みが自動的に出てこないの?」とか。そういう細かなことがいっぱいあるじゃないですか。

もちろん、一つひとつの未充足のニーズに答えを出そうとはしないんですけど、時々「これは直したほうが良い」というのが見つかるんです。

工藤:これに触ったら、この人だけじゃなくて、もっと大多数に響くよねという。

:そうです。「こういう悩み方をしている人が、昨日何人いたのか、調べてみようよ」ということもできる。

工藤:へえ。めっちゃおもしろい。

:「その悩み方をしていた人は8人でした」といったら、「じゃあその悩みは無視」しようとなるけど、「20,000人いました」となると、「それは問題なんじゃないの?」みたいな感じで見る。その両方をやるようにしていますね。

勉強会は顧客への理解を深めるため

工藤:それができるようになると、具体的にどんなスキルが身につくんですか?

:僕がカスタマージャーニー勉強会を主催していたんですが、最初は何が悩みだったかというと、毎週に1回なので、最初の1ヶ月ぐらいはみんな「おもしろいね」「顧客ってこんな行動をするのね」とか言っていたんです。

でも、もう1ヶ月ぐらいしてくると、「榊さん。これ、おもしろいんだけど、何のためにやるんですか?」みたいになってくるんですよ。「バカもん。これは目的なんかないんだ」と。

工藤:ないんだ(笑)。

:「顧客を理解するのである」と言って、キャッキャ言い始めてからは楽しそうになっていますね。

工藤:だから短期的に、これで何か課題を発見して解決しましょうというのではなくて、顧客の行動をちゃんと見られる考え方や目を養う、筋トレみたいな感じなんですね。

:筋トレというか、ただの座談会ですね。別に間違っていても良いし。けど、その勉強会には、本当に事業のトップしか呼んでいないです。

工藤:ほう、なるほど。

:その人たちが理解していないと話にならないので。

工藤:そうか。何気なく決めちゃっているかもしれない「(Webサイトの)タブ(のデザイン)をちょっと変える」とかが、リアルなユーザーから見るとどうなのか、みたいなことへの想像力を身につけていくということなんですか。

:そうですね。

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