2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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経営者、事業責任者、マーケターからPRパーソン、デザイナーまで、業界業種を問わず、企画職の誰もが頭を悩ます「ブランディング」をテーマに、じっくり向き合う音声番組『本音茶会じっくりブランディング学』。今回のゲストは、『DATA is BOSS 収益が上がり続けるデータドリブン経営入門』著者で株式会社一休 代表取締役社長の榊淳氏。本記事では、データに強いチームを作るポイントや、データ分析では「心の持ちよう」が重要な理由についてお話しします。 ■音声コンテンツはこちら
工藤拓真氏(以下、工藤):確かにこの本でも、データの先に人を見る活動をさんざんすることが促されているように感じるんですけど、逆に世間一般で言われるデータのイメージって、データだけ見るみたいな。要は人じゃなくて、インプだったらインプ(だけ見る)みたいな人たちに対してお伝えしたいことはありますか?
榊淳氏(以下、榊):顧客行動データの場合は、生身のお客さんが合理的な活動をした結果、そのデータになっているわけです。「それをちゃんと理解していますか?」と問わないといけないですよね。
工藤:ふわっとしたイメージで、「数字が好き」というのと「人が好き」というのは紐づかないように感じちゃうんですけど、榊さんがやっている30分の時間の使い方は、人間観察時間という感じですよね。そういうことを経て、みんなの意識が変わっていくと、意思決定はどう変わっていくんですか?
榊:実は意思決定をあんまりしなくなるんですよ。だって、すべてのパフォーマンス結果がチャートに出ているわけですよね。例えば「スマートフォンのコンバージョンレート(CVR)を改善したいです」というチームがあったら、そのチームが勝手に決めていますよね。僕に何をするかは言う必要がないので、末端の意思決定がかなり増える感じがします。
工藤:なるほど。このGoogleの本の中で唱えられているような、それぞれがスマートクリエイティブになっていく。
榊:それが理想ですよね。
工藤:その方針でみんなが顧客理解をできるようになると、いちいち経営会議に上げるような議題じゃなくなっていく。みんなが自走的にどんどん体験を良くしていくという。
榊:そうです。ただ、顧客行動をよく見えるようにして、レポートする機能だけは必要です。なので、それは会社の中の誰か1人がやればよくて、意思決定は全員がやるみたいなのが、一番理想的かなと思いますね。
工藤:一休だと、それは榊さんがご自身で(やっていらっしゃる)。
榊:はい、日曜日にレポートするようにしています。
工藤:日曜日にご自身で見られて、ばっとみなさんに展開されて。ここで「そりゃ榊さんはできるけど」みたいな人が参加するじゃないですか。
榊:いやいや、このレポートを分析が得意な人に渡したらできるはずなんですよね。データを見れば全部書いてあるので。
工藤:とんでもないExcelとか、すごい計算式が出てくるかと思いきや、ぜんぜんフラットな。
榊:そんな魔法のようなものはないです。けど、実際にこれをやり切るのがけっこう難しいので、そこに対してどれぐらいの情熱を注いでやるかですよね。
工藤:その難しさがあると思うんですが、第一歩を踏み出すためにはどうしたらいいんでしょうか。
榊:たぶん会社によると思うんですけど、うちの場合最初に苦労したことでいうと、まず「顧客データにアクセスさせてよ」と言うわけです。そうしたら、「顧客行動データは本番環境に入っています」と。「いや、本番環境にアクセスさせてよ」と言ったら、「サーバーが壊れたら困るから、コピーされた場所を準備します」みたいな。
工藤:そういう会社もありますよね。
榊:それをデータウェアハウス(企業内のシステムやアプリ、クラウドサービスなどから定期的にデータを取得し、時系列に蓄積していくデータサーバー)にコピーして、そっちのデータだったら好きに見てくださいとなるんですよ。そうすると、それがデイリーのバッチ処理で、朝の状態にしかならないんですよ。「いやいや、昼には、昼の状態になっていてよ」みたいな。
「だってそれはセキュアにコピーされたものだから。コピーに6時間かかるんですから、1日に1回に決まっているでしょ」みたいなことを言われるじゃないですか。
「それはあなたの理屈であって、世の中ではリアルタイムでサービスしているよね。Amazonのリコメンドは1時間ごとに変わるよね。なんでAmazonはできて、うちはできないんだろうね」「Amazonのほうが、うちよりもデータベースは小さいんだっけ? 違うならやろうよ」みたいな。
工藤:(笑)。なるほどね。
榊:少しずつ、データ分析環境もリアルタイム化してきて、それに最初はSQLサーバというオンプレのデータベースなんですね。それだとクラウドのコンピューティングパワーを使えないので「AWSに移行しようよ」とか。
コンピューティングパワーが自由に使えるようになって、「事業が大きくなってもスケーラブルに対応できるようにしようよ」と少しずつ移行していく。そうすると先ほどのGoogleの働き方にあったように、データとコンピューティングパワーが個の力で使えるような環境に近づいていくということですね。
工藤:そうですよね。本来的には初期セットはむしろ小さい時にやり切っていたほうが、成長の足かせにならないですものね。
工藤:最後にお聞きしたいことがあります。今までのお話でも出てはいるんですけど、「データでは見えないこと、あるいは見てはいけないことはあるのか」とうかがいたいです。
榊:一番よくあるのは、希望的観測を持ってデータを見ること。結局、都合良く切り取っちゃうんですよ。例えば事業がうまくいってないんだけど、うまくいっているふうに見せたい中間管理職が、データを切り取って「ほら、うまくいっているでしょ」と見せるレポーティングって、日本企業の中でめちゃくちゃ見るじゃないですか。
工藤:(笑)。ありますね。
榊:それが良くないんですよ。データというのはきれいなニュートラルな心で見ないといけないんですよ。
工藤:データを見る時に、心の持ちようも大事なんですね。
榊:そう。まず、何か分析する時に、例えば自分のやった施策のほうが伸びていてほしいと思うじゃないですか。でも「伸びていてほしい」という気持ちで見てはいけません。まずはニュートラルな気持ちで、「どうなっているんだろう?」と見る。
工藤:「自分がやっています」とか「チームでこれをやりました」となったら、「その施策のここの部分が良かったです」という、細かい話を実は見ている。
榊:はい。よく報告を受けるのが、「私たちの施策はこうこうで、こうなりました。すごく伸びているんです」みたいな話。その時に経営者はどういうことを考えているかというと、例えば先週10パーセント伸びたとした時に、「その改善が何パーセント寄与しているの?」と考えているんですよ。それが「0.2パーセントです」とかだったら、その報告は要らないという話です。
工藤:なるほど。
榊:先週10パーセント伸びたんだったら、「その8パーセントはこの施策が効いたんですよ」と言われないと、こっちは興味がないわけです。
工藤:(笑)。そうですよね。
榊:だから、そういう小さなことじゃなくて、なるべくニュートラルに(見る)。
工藤:邪な気持ちを捨てる。けど一方で、それこそダライ・ラマ的な、「とはいえ、ワイン飲みたいしな」という難しさがあるじゃないですか。そうしないような仕組みとかレポーティングの仕方とかも、工夫があるんですか?
榊:うちの場合は、社内の数値のレポーティングをしているのは、僕だけなんですよ。僕に数値のレポートが上がってくることはないんです。
工藤:社員のみなさんや、あるいは部門のトップから上がってくるのは、どういうものですか? 「このデータに基づいて、こういうことをやります」というのが(上がってくるんでしょうか)。
榊:どちらかと言うと、「あの取引先が怒っています」とか、「このチームがちょっと不調です」とか。一応、「あ、そうなんだ」と言っておきますけど。
工藤:(笑)。先ほどの「それは誰の、何を喜ばせることに関係するの?」という話。
榊:基本的には事業の数値は誰が見ても同じなので、上からばっとレポートされたほうが(いい)。そのレポートの話をすると、みなさん「それはTableau(専門的な知識を持たない人でも簡単に始められるデータ分析ツール)でやればいいじゃん」と言われると思うんですけど。毎週状況に応じて、どこのKPIが大事かが変わるんですね。
だって、その時その時で会社の状況は違うので。先ほど申し上げたように、今はゴールデンウイーク前なので、今の顧客の行動は違うわけですよ。だから、今見たいKPIはこのKPIだとしても、例えば来週ゴールデンウイークが明けたら、今度は夏休みの予約が始まります。
そうすると、「ゴールデンウイークが明けました。さあ、夏休みだ」と言って、箱根とかを取る人はあんまりいないんですよ。沖縄とか遠いところから動いていくんですね。沖縄(に行く)人が一番先に動くので。「今年の夏は箱根も行く」という人は、7月下旬ぐらいに動く人です。なので、夏の動きを見る時は「沖縄がちゃんと動いたのかな」とかを見る。
工藤:はあ、めちゃくちゃおもしろいですね。
榊:だから、まったく見るKPIが違うんですね。実は同じようなレポートをしていても、経営者として見ているページがぜんぜん違うんです。
工藤:KPIを見る時の「ゴールデンウイークだね」という指標は、どうやって設定しているんですか? 毎週考えながら生み出されるものなんですか?
榊:基本はだいたい100ページのレポートのうち、80ページから85ページぐらいは毎週一緒です。でも、5ページから15ページぐらい、その週に見たい情報の深掘りが追加されています。
工藤:一休の場合は榊さんがそれをされていると思うんですけど、経営者が毎週そこを決めて判断していくのがベストなんですか?
榊:やはり定番の分析をした時に、「なんでこれはこうなっているんだろう?」と、経営者は誰でも思うと思うんです。そうしたらそこを深掘りして、ピンポイントで理由を探れるのがデータの強みなので、普通は誰かにお願いするわけですよ。
そうしたら、それが返ってくるまでにまた時間がかかったりして、大変じゃないですか。僕の場合は、自分で自分にオーダーするので、全部その日のうちに完成する。
工藤:100ページのうちの80ページのベーシックな部分を見ているうちに、「カレンダーはこうだし、こういうことかな?」「ここを深掘りしよう」というのが付加されたものが、社員さんに配られている。
榊:そうです。
工藤:凄まじいですね。それは榊さんが代表でできることでもあるけど、先ほどのバディ制とかで実現しようとすると、そういう会議をデータくんと経営者がやった上で、レポートをみんなに配ればいいってことですかね。
榊:ということだと思いますね。
工藤:本来的には、まずウィークリー(のレポート)でどんどん上げていくほうがいいわけですよね。
榊:マーケットはウィークリーぐらいで十分かなと思います。
工藤:なるほど。まずやってみようというところで言うと、マンスリーで。
榊:そうですね、マンスリーでもいいと思います。ちなみにうちの場合は、ウィークリーでレポートされるものと、マンスリーでレポートされるものは違うので、月初は両方ある感じですね。マンスリーってわりと長い期間見ているので、5年ぐらいのマンスリーを見たりします。
ウィークリーのレポートに関しては、基本的には16週・12週だから、28週ぐらいの数値を見ていますね。
工藤:前年比の動きと、一昨年とかコロナ禍とかも重ねながらの28週ぐらいがあって、「こういう動きが特殊そうだね」というところを特定していく。めちゃくちゃおもしろいですね。
榊:だけど、この『DATA is BOSS』の中に書いてある分析しかやってないんですよね。この分析をどの粒度にして、どういうふうに見るか。うちの場合は、事業は3つ、宿泊は2つ、レストランが1つある。そうすると、この1つが40ページぐらいのレポートで、合計すると120ページ。なので、見ていらっしゃるのが1つの事業だったら、このレポートをどう使うのかっていうだけです。
工藤:そういう意味でスペシャルな何かじゃなくて、ちゃんと情熱を持ってExcelと向き合えれば作れるよということですね。ただ、僕の想像ですけど、この本を読んで「いいな」となっても、そのExcelデータをちゃんとダウンロードして使い倒している人がどれぐらいいるのか。
榊:そうなんですよね。今一瞬思ったんですけど、もしExcelが得意な経営者がいたら、実際に自分で作ってみるといいかもしれないですね。その時にデータベースってやはり大きいので、Excelに入らないんですね。
例えば下一桁が00番の購入IDだけExcelに入れて、とかをすると、データサイズが100分の1になるじゃないですか。100分の1がExcelに入るんだったら、それをピボットを組んで分析したら、いろんなことがわかりますよね。それを100倍のデータで出してと(分析の得意な人に)言ったらできますよ。
工藤:なるほど。まず自分でできるレベルでやってみて、「こういうのを、もっと全社レベルでやってよ」と分析の得意な人に投げてみる。
榊:そうです。やはりスマートクリエイティブは、自分で手を動かすことが大事なので。そうすると部下への指示もだいぶ詳細に伝えることができるんです。
工藤:経営者は「Excelぐらい触れや」ということですね。
榊:まあ、触ったほうがいいですよね。
工藤:めちゃくちゃおもしろいお話でした。この話は『DATA is BOSS』に付録で付いてくるExcelを見ながら、聞いていただくと、ちゃんと身にしみるんじゃないかなと思います。榊さん、いろいろお話をありがとうございました。
榊:いえいえ。ありがとうございました。
工藤:ごめんなさい、何か告知がありましたらお願いします。
榊:告知という告知はないんですけど、今八ヶ岳でワイナリーをやろうと思っていて。僕、2024年の5月から八ヶ岳でブドウの苗を植えるんですね。だから、ブドウ農家になるんですよ。
工藤:ええ!? ブドウ農家になっちゃうんですか。
榊:3年後にワインができちゃうので、ワインができたら買ってくださいね(笑)。
工藤:(笑)。ぜひ3年後にまた来ていただいて、今度はワインの話ができれば。
榊:ビジネスとデータとワインって、なんか良くないですか?
工藤:全部つながってくるわけですね(笑)。ちなみに、ワインの育成においてもデータは駆使するんですか?
榊:できれば使いたいと思っていますね。
工藤:へえ。日照条件だったりとか。
榊:はい。そっちもそうなんですけど、やはり醸造ですよね。醸造って基本的には、ブドウを搾るじゃないですか。タンクに入れて発酵してワインになるんですけど、その時に人間ができることは、温度管理だけなんですよ。だからプロの天才醸造家のところに弟子入りして、何℃で何日醸造しているのかとかを測りたいですよね(笑)。そういうのをデータ化できたら、おもしろいですね。
工藤:それがデータ化できれば、誰でも天才になれるかもしれない。めちゃくちゃおもしろいです。ということで、株式会社一休の榊淳さんでした。榊さん、ありがとうございました。
榊:ありがとうございました。
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