データ分析が苦手な経営者×分析担当者でバディを組む

工藤拓真氏(以下、工藤):なるほど。今2つおっしゃったうちの1つの、バディ制を組む時に、例えば、分析官が優れているかどうかも、データをちゃんと見られない経営者だとわからないかもしれないなと。なので、まず経営者サイドからデータサイエンティスト側に対して、どういう素養を見るべきか、どういうことを考​​えるべきか。

逆に、経営者側がデータサイエンティストに対応する時に、先ほど「尊敬されないといけない」というお話がありましたけど、「尊敬されるために、いったい何が必要なんだっけ?」というところを、深掘っておうかがいできればなと思います。

榊淳氏(以下、榊):なるほど。それはすごく深遠なテーマですね。自分ができないことを部下にお願いするんだけど、その部下の人は、なぜか僕のことを尊敬しているシチュエーション、時々ありますよね。

工藤:(笑)。先ほどおっしゃったのは、たぶんそういうマジックを起こさないといけないわけですよね。

:たぶん1つは、やはりデータサイエンティスト側は、ビジネス感覚に苦手意識があるんですね。だから、その方(経営者)はビジネス感覚がすごく優れていて、ただデータが触れないと。データを触れる人は、ビジネス感覚が苦手で、それができる人にあこがれているという組み合わせは、すごくいいですよね。

榊氏から見た、最近のデータサイエンティストの傾向

工藤:なるほど。榊さんから見て「こいつ、イケているな」というサイエンティストは、どんな特徴があるんでしょうか。

:たぶん、飲みに行って楽しそうかとかだと思いますよ。日本のデータサイエンティストやエンジニアの特徴だと思うんですけど。僕は50歳なんですが、昔、僕が理工学部でプログラミングの授業を受けた時は、本当につまんなかったんですよ。

なんかもう訳がわからないじゃないですか。なんか「int」とか書いて数字を定義したりしなくちゃいけない。「なんで『int』って書くんだ。マジムカつく」とか思っていた時に、それを真面目にできる人ってだいたいオタクだったんですよ。どっちかというと、「お前、ちょっとノート貸せ」と言われて、渋々貸してくれるような人だったんですよ。

データサイエンティストでそういうプログラムをしている最近の子って、イケているんですよ。スポーツもできて合コンでも強い、みたいな。なので、そういう子はビジネス感覚もコミュニケーション能力も優れている可能性がけっこう高い。

工藤:そうか。単純に人として接していた時の「こいつおもしれーな」という人のほうが、いろいろ発見できる。

:だと思いますね。ビジネス感覚って、コミュニケーション能力とけっこう比例すると思いますね。

経営者から選ばれるのは、ビジネス感覚が強いタイプ

工藤:逆に、勝手なイメージなんですけど、コミュニケーション能力がぜんぜんなくて、数字だけはめちゃくちゃ見られるみたいな。それこそ先ほどおっしゃっていた、オタク気質なイメージ像も世の中一般のイメージにはあると思います。そういうタイプは今どうなんですか?

:そういう人をどういうプロジェクトにアサインするかというのもけっこうあります。例えば、今流行りの生成系AIとか自然言語の理解とか、「言葉をベクトルにする」というシンプルなゴールじゃないですか。言葉を上手にベクトルにするということなので、これはビジネス感覚は要らないんですよ。

もう完全にゲームが決まっているので、あとはこれをどう最高のものにするかという話ですよね。でも例えば、どのお客さんにどういうクーポンやリコメンドを出すかとかって、ビジネス感覚なので。

工藤:あー、なるほど。問いと答えの無限生成というか、行ったり来たりを考えるのに当たって、そもそもそういうことを考えられる脳みそじゃないと思いつかないということですね。

:そうです。

工藤:先ほどおっしゃったビジネスのバディ制で、経営者がいてデータ担当くんとなった時は、ゴリゴリな専門性に特化したタイプよりは、普通にリアルなユーザーの動向に関心を持っているような人がいいと。

:はい。今日はうちを受けに来てくださる方のレジュメを見ていたんですけど、例えば同じことをやっても2つの書き方があります。

「私はこの事業で○○のデータサイエンスを使って、こんなリコメンドを使って、事業が20億円伸びました」と書く人もいれば、「私はナントカのモデルを使ってどうのこうので、リコメンドを作りました」という人(もいる)。

「それを使った論文はこれで」とか「そこで使った時の因果推論はどうのこうの」とか、やたら道具の説明をする人と、ビジネスインパクトにフォーカスしてレジュメを書く人っているんですよ。

どっちのほうが経営者からバディを組みたいと思われるかというと、やはりビジネスの人ですよね。僕は「因果推論を使ってモデルを作りました」とか言われたら、「それを自慢するってどういうこと?」みたいに思ってしまいます。

どっちかというと、やはりビジネスにどうやってインパクトを出したかとかのほうが興味深い。

アメリカでは、同じデータサイエンティストでも給料が違う

工藤:データサイエンティスト側も改めないといけないところもあるんですね。道具は道具で突き詰めたほうがいいけど、何のためにその道具を使っているのかを(考える)。

:そうです。それを言うと、「いや、わかっていますよ。ビジネスのためですよね」と言うんです。でも辞める時に「榊さん、僕は本当にビジネスに興味ありませんでした」と言われるんですよ(笑)。「なんで興味がないのに『ビジネスのため』と言ったの?」と聞いたら、「だって『ビジネスに興味ない』と言うと怒られそうだから」と。

工藤:(笑)。「ちゃんと興味を持とうよ」ということですか?

:ビジネスに興味があるデータサイエンティストが海外には多いわけです。「じゃあなんで日本では少ないのか?」というのを、ちゃんと問うたほうがいいと思うんです。なぜアメリカに多いのかというと、アメリカではデータサイエンスを実ビジネスに活かしている人と、データサイエンスだけで止まっている人の給料がめちゃくちゃ違うんです。

だから、「ああいうことをすれば、俺も給料が上がるのね」という成功モデルを見るわけですよ。

工藤:なるほど。同じ学科で育っていてもぜんぜん違うんですね。

:雲泥の差があります。それか、本当に天才サイエンティストになるかです。

工藤:そうか。僕らがイメージしちゃっているのは、たぶんその「天才」だけだったんですね。

:けど、天才ってそんなにいないので。

工藤:そんな人は別に学びどうのこうのとか関係なくて、勝手に自走でとんでもないところへ行っちゃうわけですものね。「どうしようかな」と悩んでいる時点で、「じゃあビジネスをちゃんと学べよ」と。

:それか、「こういう分析をして」と言われたことだけをやる「作業マン」になっちゃうかもしれないですよね。作業から付加価値が出せるかどうかが一番価値が高いので、なんでもかんでもわーっと分析するのは、誰でもできるんですよ。

データ分析ができなくても尊敬される経営者

工藤:ちなみに今の逆側の見方で、(経営者が)尊敬されるために(どうすればいいか)。

ビジネスの意識も明るくて、先ほどおっしゃっていたみたいなイケているデータサイエンティストが、(経営者に対して)「この人イケているな」と思うタイミングは、どんなことがあるんですかね? 

:例えば今でいくと、常に経営者って問いがあるわけですよ。例えば「先週は業績が思わしくなかったね」といった時。

データサイエンティストくんは「なんで思わしくなかったんですかね?」となったら、「訪問者が減ったからですかね?」とか「いや、購買率が減ったからでは」「もしかしたら単価が下がったかもしれないですね」みたいに、すぐ数学的分解ができるじゃないですか。

でも、「じゃあなんでだと思います?」と聞いた時に社長は「いやいや、ゴールデンウィーク前だから、今お客さんの予約は終わっているんだよ。今予約しているのは、たぶん安い宿を探す人で、高い宿の人はゴールデンウィークが終わってから夏休みを取ろうと思っているんじゃないの?」と。

「そういう分析をしたらおもしろいんじゃない?」ということを言えたら、「確かに!」となるじゃないですか。やはりそれが実ビジネスの人の発想ですよね。

工藤:それこそちゃんと見える化されているものの裏にある見えないものを、とらえているんですね。目の前で「分解のやり方はどうだろうね?」と言って一緒になって議論していたら、「お前、経営者だろうが」という話になりますよね。いや、めちゃくちゃおもしろいですね。

ターゲットが絞られるビジネスほど、定量分析が重要

工藤:僕の場合はマーケティングという領域もあれば、クリエイティブの制作もあるので、ダイレクトにつながらない部分もあるんですけど。僕がこの本ですごく革命的だなと思った箇所が何ヶ所もあるんです。そのうちの1個が、戦略の定義というので、「Who」と「What」だという話があるじゃないですか。

「『Who』と『What』で定義せよ」ということ自体は多くの方もおっしゃっていると思うんですけど、榊さんの組み立てですばらしいなと思ったのは「何をしたら喜ばれるのか」という。「喜ばれる」ことが定義に中に入っているって、実はありそうでなかったのではないかと思いました。

:えー!? そうですか?

工藤:「提供価値」という書き方で書いているというのはあると思うんですけど、読んでいると、基本的に「ちゃんと喜ばせていますか?」と矢継ぎ早に聞かれる感覚に陥ってくるんです。だから、そこが「データ」というもので勘違いされている部分かなと思っていて。

一般的なイメージとして、すべてをただの数字で処理して、誰々とかこの人が喜ぶかどうかじゃなくて、「5,000が右にいって7,000になりました」というところしか見ていないような、冷たい印象があるかなと思うんですけど。

あと、花束の話で、「『誰に届けるのか』を考えないでお花を買うバカはいないでしょ」というのがこの真髄なのかなと思ったんです。

:なるほど。まず我々の会社のサービスを考えた時に、すごく特殊な人をターゲットにしているビジネスなんですよね。すごく細かい的を狙うので「誰に」を考える時に定量分析は欠かせない。

「なんとなくペルソナはこんな感じで、こんな雑誌を読んでいる人じゃないかな」「じゃあ、ここに広告しましょう」だと、当たらないんですよね。なので、こういったことをすごくやっているというのがありますね。

あとたぶん、会社で実際に経営者として仕事をしていると、ほとんどの時間を「誰に何をするか」じゃないことに時間を使いますよね。「最近、○○ちゃんが元気ないらしい」とか、「今、あそこの部門は荒れている」とか、「それとこれ、何の関係があるんだっけ?」という疑問がずっとあって。

「誰に何をするのか」がすごく大事だとずっと思っているんですけど。特にうちの場合はターゲットをものすごく絞るので、「誰に」が大事なんですね。というところに定量的な解を持ち出すのが、業績としては一番うまくいくだろうなと思ったんです。

業績が落ち込んでいる時も、伸びているポイントがある

工藤:富裕層の方々を狙うという特殊性で「Who」が大事さを増すところはあると思うんですけど。僕は恥ずかしながら「その視点でちゃんと見られていなかったな」と思ったのが、業績が落ち込んだ時に「とはいえ、伸びているところと落ちているところがあるでしょ」という話。すごいなと思ったんですが、ああいうのって、榊さん以外でも普通にやっているんですか。

:そうだと思います。私は業績が低調なところに送り込まれることが多かったので。ある特殊な人に好かれていて、そうじゃない人にあんまり好かれていないというのがよくありました。そこが会社の本当の強みであって、それを伸ばすことがやはり多かったですね。

工藤:その分析手法だったりは、榊さんがいろいろ実務として触っていく中で編み出したものなんですか?

:そうですね。これはたぶん、どこの会社でもやってきたんじゃないかなと思いますね。

工藤:まさにデータってそういうことだよね、と。だから、もともと『DATA is BOSS』って、書名としてはたぶんP&Gの(組織文化である)「Consumer is Boss」がモチーフになっていると思うんですけど。

まさに「データの先にいる人をちゃんと見る」というのを実践しているから、線としては落ち込んでいるかもしれない。だけど、実は変にめっちゃ上がっているところがあったら、そこをすくい上げる。「ちゃんと人を見よう」という話が徹底されているなという印象です。

マイナーな商品の売り上げを格段に伸ばした例

:マイクロセグメントが大きく影響を及ぼす商材ってけっこう多いんですね。昔、僕は味の素さんの「アミノバイタル」というプロダクトのコンサルティングに入ったことがあるんですが、筋肉が疲労した時に助けるというマイナーな商品なんですね。

企業がターゲットを決める時に「じゃあどのスポーツを狙う?」という話にだいたいなるんですが、人口が多いスポーツから狙ったりするんですよ。でもサッカーや野球なんて若者が多いから、そんなに疲れないんですよ。「もうちょっと年齢層の高いところを狙おう」とやすると、エアロビにいくんですが、そもそもエアロビって疲れたらやめるので。

工藤:なるほどね。

:それでいろんなスポーツに分解していったら、高齢者の登山がめちゃくちゃアミノバイタルを使っていたんですよ。なぜかというと、山に登る時にがんばって登って、今度は下りなくちゃいけない。高齢者のおじいちゃんおばあちゃんが下りでついていけなくなったりすると、次は呼ばれないんですよ。

だから、アスリート並みのマインドで自分の体を増強したいニーズがあるんです。それで、疲労を軽減させるのにアミノバイタルがめちゃくちゃ使われていて。そういうのって、ただ見ていたらわからないんですけど「このマーケットだね」といってターゲットにしたらめちゃくちゃ伸びたんですね。

工藤:へえ、おもしろい。

:こういうことはけっこうあるんです。だから、そういうのをちゃんとつぶさに追っていけば、どんなに元気がないと言われているブランドでも、今存在しているということは誰かが愛用してくれているということでしょうと。

工藤:ありがとうございます。いったんここで切らせていただいて、また次のチャプターへ移られればと思います。ということで、榊さん、ありがとうございました。

:ありがとうございます。