危機を成長につなげるリーダーシップの重要性

後藤翔太氏(以下、後藤):福田さんはいかがでしょうか? 事業を続ける中でなかなかうまくいかないという場面もあったのでしょうか?

福田悠氏(以下、福田):やはり何回か困難なフェーズも経験しました。上場前に1度組織がガタンと崩れたタイミングもありましたし、直近で言うとみなさんも同じかもしれませんが、コロナのタイミングは本当に大変でした。

私は苦境の時こそ、リーダーシップのマインドセットが一番重要だと思っています。1回目の緊急事態宣言が出たタイミングは自宅でテレビの会見を見ていて、移動を制限してくださいという話が出た瞬間に頭が真っ白になって、「会社をどうしよう」と本気で思ったんですよ。

翌日、社員の前で今後について話すべきだと思いネットで情報収集をしていると、大学教授が書いた「コロナが働き方を変える可能性があるかもしれない」という記事を見つけました。そういった可能性を見つけることで、自分自身や社員のマインドセットを一番最初に変えることが大切だと感じました。

ただ、長い目で見れば、このような危機が会社を強くし、新しい事業の成長につながることもあると思います。まずはここで弱音を吐かずに、事業拡大のチャンスと捉える気持ちを持つことが最も重要だと感じます。

安藤広大氏(以下、安藤):まあでもピンチの時はそうも考えられないですけどね(笑)。

南原竜樹氏(以下、南原):福田さんはすごい前向きでいいよね。僕なんか、よくピンチはチャンスだというやつに「馬鹿かお前、ピンチはピンチに決まっているだろう」って(笑)。

(一同笑)

安藤:いや、本当にコロナの時は終わったと思いましたよね。でも結果的にはそんなにやばくなくて、業績もそれほど落ちなかったんです。今、僕らは10期目に入っていて、僕は4年で上場しましたが、結論から言うと、6年目、7年目まではほとんど危機や困難がありませんでした。非常に順調にいっていたんです。

でも8期目、9期目ぐらいで初めて停滞を経験した時、これまでピンチを経験したことがなかったので、本当にしんどかったです。会社の規模が300人くらいになってからの初めての停滞期だったので、識学のロジックに基づきつつも、僕自身が問題解決に向けて一つひとつ問題をつぶしにいくのは手に負えないと感じました。

そこで、僕は意思決定に徹し、各部門の責任者に課題を課して、その課題解決に取り組んでもらうことにしたんですけど、会社がうまくいっていないので部門同士がよくぶつかるんですよね。

「いや、こっちはこうしたい」「こうしたい」という時に、その部門間の衝突をジャッジできるのは僕しかいないので、その衝突に対するジャッジだけを逃げずにやり続けることを心がけました。とにかく衝突させ続けることをやった結果、1年半から2年弱かかりましたが、ようやく今はピンチを乗り越え、次の拡大に向けての礎ができたかなと思いますね。

部門間の衝突とその対処法

安藤:本当に会社がおかしくなる時って、良かれと思って衝突が起きるんですよね。みなさんもそうかはわかりませんが、その時に「まあまあまあ」と流さずに、その衝突に対して僕が答えを出すことから逃げないことが大事だと思います。要は、その衝突に対してしっかりジャッジすることを意識してやりました。それが重要だったかなと思います。

後藤:役割に対して、それぞれが「こうやりたいんだ」という思いがぶつかること自体は悪くないということですよね。

安藤:悪くないです。今うまくいっていないからこそぶつかるんですよね。簡単に言うと、こっちの部門から見るとあっちの部門のここが悪い、あっちの部門から見るとこっちの部門のここが悪い、というような対立が少なからず発生してしまうわけです。

その時に、今の会社で何が正しいのかを指し示すのが僕の仕事で、それから逃げずにやり続けることが大事です。「どっちの言うこともわかるよ」と妥協してしまうと、永遠にぶつかり続けることになるので、それをしないようにしています。

南原:僕の場合は少し違っていて、結論を出すとそれが間違っていようと最終的に僕の答えがイエスになってしまうんです。会社が大きくなってくると、毎月の月例会議にはだいたい30人くらいが参加するんですよね。

その会議で、部門や部署によって「お前のところがそんなことをやっているから」とか、逆に「俺たちが手伝ってやるから」とか、いろんな話が出るんですが、結論は僕が出さないようにしていました。

後藤:そこで決める仕組みみたいなものはおありになるんですか?

南原:そうですね。僕が黙っていると自然に決まるんです。どこかに落としどころを見つけないといけませんから。

フェーズごとの成長戦略とリーダーシップの役割

後藤:持続的な成長を遂げていく上で、今のようなリーダーがいる中で組織がさらに機能していくことが重要だと思います。組織の状態や仕組みについて、例えばサーキュレーションの福田社長はどのような変化を遂げてきたのでしょうか?

福田:当社には大きく分けると、3つのフェーズがありました。まずは創業から100名ぐらいのフェーズ、次に200名、そして300名と、ちょうど100人区切りで3つのフェーズがあります。最初の100名は、仕組みというものはほとんどなく、とにかくトップが牽引して意思決定をして引っ張っていくかたちで乗り切りました。

先ほどお話ししましたが、一度組織がガタッときたのがちょうど100人ぐらいのフェーズでした。そこで、仕組みを整える必要が出てきて、具体的には、ITシステムやSFA、CRMといったデータをちゃんと残す文化を取り入れたのが、100人から200人ぐらいのフェーズにあたります。

ここでいったん組織が安定して再成長できましたが、ITシステムや仕組みだけを整えても、中間管理職がしっかり育たないとデータとの連携や仕組みがうまく回りません。

現在は第3フェーズ、つまり200人から300人の段階では、リーダーやマネージャーといった中間管理職の体系的な育成が重要になっています。人事部門で育成の仕組みを構築することが、今の我々の目下のテーマです。大きく言えば、今お話ししたような変遷を遂げてきたという印象です。

後藤:安藤社長、識学はコンサルティングで多くの会社のお手伝いをしていると思いますが、停滞するような会社の仕組みに共通する傾向はありますか?

安藤:そうですね、今まさに福田さんが話してくれたように、トップの影響力だけでカバーできる人数というのは、そのトップの戦闘能力によって変わってくると思います。戦闘能力の高い社長であれば、100名くらいまでは何とかなるかもしれません。

しかし、それ以上になると次の層、中間管理職がいかに機能するかが重要になってきます。ここで必ず停滞するポイントが出てきます。300人、400人といくのはほぼ不可能だと思います。南原社長のように特別なパワーがあれば別かもしれませんが。

組織化と権限委譲のタイミング

南原:いや、そんなことはなくて、僕も同じことを言っているんです。コンサル先で「うちにはろくな奴が来ない」と言われたら、「お前の会社を見てみろ。お前の会社がろくじゃないから、ろくな奴が来ないんだ」と返します。「とにかくお前が千手観音のように全部指示してやるんだ」と。でも、会社がまともになってきたら我慢しなきゃいけないと。うちの場合は一気に組織化して権限を委譲しました。

従業員30人ぐらいの会社では、FAXとかの複合機ですら社長しか決済しないことが多いんです。営業の人が来て、担当部長に一生懸命売り込んでも、最終的に見積書を見た社長が「じゃあ、俺の知り合いのところにこれより安くしてくれって頼むわ」と言って終わりなんですよね。

でも、30年くらい前ですけど、うちの会社に帰ったら大きな複合機が置いてあって、ホチキスでとじた小冊子がカラーで印刷されて出てくるんですよ。これには驚きました。「なんだこれ、すごいな。誰が買ったの?」と思わず聞きました。

すると「川崎さんが買いました」と言われ、「ふーん、いくら?」と聞いたら、「700万円です」と。「ふーん」と返しながら、「うちの会社も、まあ成長したな」と感じました。つまり、700万円のものを社長が知らない間に買える組織ができたということなんです。

安藤:なるほど。

南原:権限委譲をきちんと行い、責任を持たせてやっていくと、うまくいくんですよね。ただ、社長にはすごい我慢が必要です。

安藤:それって何名ぐらいの時から始められたんですか?

南原:うちの場合は意外に早くて、ちょうどその700万円の機械を買ったのが30人ぐらいの時でした。

安藤:なるほどですね。それぐらいの規模でもやるべきですよね。僕らはコンサルティングをしている会社なので、本当に5名、6名ぐらいの時から僕は営業会議に出なくなりました。完全に権限を渡すかたちにしていましたので、そういう意味では早いほうがいいと考えています。

南原:でも、あまり早くてもその社内に人材がいないからね。

安藤:いないパターンもあります。ただ僕は営業会議に出ないんですけど、営業部長に対してはゴリ詰めしますけどね(笑)。教育もしっかりしますけど、人材がいないパターンもあるでしょうね。

後藤:ありがとうございます。