ネットメディアは転換期を迎えている

瀬尾傑氏(以下、瀬尾):すごくたくさんの方が集まってくださっています。今日は「メディアとプラットフォームの今後はどうなる?」という話です。

メディアといった場合に、僕や津田さん、藤代さんはニュースメディアで語りがちですが、プラットフォームも含めて、本当はメディアってもうちょっと広いんですね。今日はもっと広げて議論をしたいと思っているんですが、一番最初にニュースメディアの話をしたいと思っています。

今、ニュースメディア、特にネットメディアが転換点にある感じがします。10年ほど前にバイラルメディアなどが注目されて、新興メディアがけっこう出てきました。

その後ビジネスモデルが変わり、既存の新聞やテレビが苦戦していく中で「BuzzFeed」や「ハフィントンポスト(現ハフポスト)」「NewsPicks」など、いろいろなメディアが出てきたんです。

みなさんご存じのように、それぞれがいろいろなところで頭打ちの状態にあったり、中には「ニュースから撤退します」というところも出てきています。

そういう意味で言うと、10年近くかかったけれども、まだビジネスモデルが見出せていない。あるいは、このかたちでは続けられない。違うステージに行かなくてはいけないのか、そのあたりが問われてるところだと思うんですよね。そこを、お二人はどのように見ているのかを聞いてみたいと思います。

大手新聞社でも、上場している会社はほとんどない

瀬尾:まずは津田さん、現状をどうご覧になっていますか?

津田大介氏(以下、津田):どうも、津田と申します。どちらかというと(今回の登壇者は)ビジネス寄りの人が多いと思います。ふだんは政治の解説や、時事のニュースへのコメントが多いので、本日はあまりしないような話をしたいと思います。

メディアビジネスで言うと、もともと僕はIT系の雑誌のライターからキャリアをスタートさせています。2011年に東日本震災があってから、テレビやラジオの番組などで時事ニュースについてコメントするようになり、現在はジャーナリストと名乗ってます。

一方で、僕はメディアの起業家としての経験もあります。エンタメコンテンツのニュースサイト「ナタリー」などを運営する、KDDIグループのナターシャの共同創業者です。

今の瀬尾さんの話につながるところで言うと、確か2014年だと思いますが、『ニューヨーク・タイムズ』が「デジタルメディアはこれからめちゃくちゃ成長するぞ」という、内部向けの社内レポートを出していました。

瀬尾:「イノベーション・レポート」ってやつですよね。

津田:本当は内部向けのものですが、僕も流出した内容を見たらすごくよくできていました。それが何の役に立ったのかというと、「こういうふうに(メディアは)変わるんだぞ」ということです。

僕が「ナタリー」というメディアを2007年から立ち上げて、次の展開を考えていた時に、やはりメディアの上場は難しいじゃないですか。実際、大手新聞社でも上場してるところはほとんどありません。それは、メディアがある程度「編集の独立性」を確保しなければならないからです。

よく「経営と編集の分離」とも言われますが、これがなければ、資本の論理で全部動いていくとコンテンツに影響があるからです。これは、今日のプラットフォーマーの議論にもつながる話だと思います。

“バラ色の未来”と思われたネットメディアが軒並みコケた

津田:メディアとプラットフォームでは、いかに「中身の話」と「経営の話」を分離するのかが非常に重要でもあります。上場を目指すのではなく、メディアの価値を理解してくれるところ、そしてシナジーがあるところにバイアウトして買ってもらって、成長させることがよいのではないでしょうか。

10年ぐらい前からレポートを見ながら、僕がバイアウトする際のIM(企業概要書)を書く時に非常に参考にさせてもらいました。そして、2014年にナターシャを売却したことがあったんですよね。

あの時に語られていたテック系からデジタルメディア、無料のものから有料のものまでありましたが、残念ながらここ1〜2年ぐらいで、軒並み厳しい状況に置かれています。

「BuzzFeed」や「ハフポスト」、アメリカの「The Verge」も今はもう厳しいのかな。あとは「VICE」というネットメディアも厳しかったりしています。あの頃、本当に“バラ色の未来”みたいに語られていたものが、ほぼみんなコケている状況となり、この10年間で圧倒的に変わりました。

それによってオールドメディアが強くなったかというと、トランプ現象があったので、『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』などデジタル化に力を入れた英語圏のメディアのいくつかは、ある程度いい感じになったんです。でも、別にものすごく儲かってるわけではないしコストがかかる中で、結局、勝者は誰もいません。

みなさんも名前を聞いたことあると思いますが、『ナショナルジオグラフィック』という、世界中のいろんなところに行って、すばらしい写真を撮ってきた雑誌ですが、フルタイムのスタッフが全員解雇されました。

オンラインに移行するといっても、基本的には今までのアーカイブでビジネスをするしかないような状況になってきているので、1からコンテンツを作って商売をすることが非常に厳しくなっています。

津田大介氏「僕は今、Xを捨ててもほとんど関係ない」

津田:さらに言えば、かつては「デジタル広告でなんとかなるんじゃないか」と言われていたのが、オンラインで無料でやることで、軒並み全部コケた。あれから10年経ってようやく結論が出たかなっていう、いきなり暗い話になってしまいますが、そのことを思い出しながら聞いていました。

瀬尾:そこを少し詳しく聞きたいんですが、まさにレガシーメディアがビジネスモデルを変えなきゃいけない状況になる中で、新しいメディアは「テクノロジードリブンでやるんだ」と。

組織も新しく立ち上げ、ユーザーもネットでマーケティングをしながら「マーケットに向かい合いながらやっていくんだ」と打ち出した。離陸はうまくいって盛り上がったように見えました。では、なぜ最終的に頭打ちになってしまったのか。そこはどう見ていますか?

津田:当事者としての実体験で生々しい話を語ると、「なんで今、自分はご飯を食べられているのか?」というとYouTubeです。YouTuberになっているわけではなく、YouTubeで毎日番組をやっていますが、無料でコンテンツを出すのではなく、サブスクのモデルにして会員を一定程度集めてやっています。

僕はTwitter(現X)を黎明期から始めてフォロワーがいたので、番組を始めた時には告知して誘導したんです。告知力があるから、YouTubeに誘導すればけっこう有利だと思ったんですが、最近はアナリティクス見るとまったくそれがないんですよね。

今、自分がやってる『ポリタスTV』では、Xからの流入は2パーセントもないんですよ。どこから来てるかというと、YouTubeの中で検索するか、あるいはYouTubeが自動的にフィルターになっていて、おすすめ機能で入ってくることが9割とかの世界になっています。逆に言うと、僕は今、Xを捨ててもほとんど関係ないんです。

瀬尾:「tsudaる」がXを捨ててるわけですね(笑)! すごい。

津田:衝撃なんですよね。だから今は、インターネットがあって、Xがあって、YouTubeがあって、それぞれが別の経済圏と別のエコシステムで動いてる。すごくセグメントが分かれてしまった。そのことを意識する必要があるんだろうなというのは、生データを見ていると、どんどん落ち込んでいきます。

瀬尾:なるほどね。

Web2.0から10年間、コンテンツビジネスは拡大していた

瀬尾:藤代さんは現場におられたこともありますし、その後はテクノロジーやアカデミズムなど、いろいろな立場でメディアを見てこられました。この10年の動きとして、現状で特にニュースメディアに関しては1つの転換点を迎えていると思いますが、どうご覧になっていますか?

藤代裕之氏(以下、藤代):藤代です。今日はありがとうございます。グロービス経営大学院でも「ソーシャルメディア・コミュニケーション」というクラスを持っていて、ソーシャルメディアで顧客のインサイトを探るという、けっこうおもしろい授業をやっています。

今回初めて参加させてもらったんですが、メディアビジネスの大きな潮流が変わってきているのは間違いないと思います。

オープニングのセッションで、COTENの深井龍之介氏が「歴史を知ることが、現在地がわかる最も重要なポイントだ」という話をされていましたよね。メディアの歴史はすごく長くて、マスメディアの歴史から言うと、グーテンベルクが活版印刷機を発明したところまで行きます。

ちょっと振り返ってみると、2005年ぐらいにWeb2.0がありました。Web2.0って何なのかというと、プラットフォームと、そのプラットフォームの上に乗るビジネスの相互関係ですね。お互いが得をする、互恵的関係による分業システムだったと言えると思います。

つまり、AmazonのアフィリエイトやGoogleのアドセンスからお金をもらったり、ヤフーさんから配信料をもらったりして、コンテンツを出していく。

それからプラットフォームも肥えて大きくなっていき、その上のコンテンツビジネスも大きくなっていくというのが、2015年から2016年まで10年間ぐらいは確実に続いていたと思います。

今の若い世代は、SNS上のリンクを押さない

藤代:それが大きく転換したのは、アメリカ大統領選挙でトランプが勝った時ですね。その時に「プラットフォーマーがあまりにも巨大な力を持ちすぎてるんじゃないか」という議論が起きて。それで何が起こったかというと、さっき津田さんがおっしゃっていましたが「リンクを切る」という方向に行くんですね。

みなさんはXとかでリンクを押して(サイトや投稿を)見るじゃないですか。企業をされている方によると、それが自分たちの広報していく大きなタッチポイントになってるわけですね。

それが、2016年のアメリカ大統領選挙で「フェイクニュースを流してる」という批判が高まったら、なぜかプラットフォームは「ニュースや情報へのリンクをやめます」と言ったんですね。それによってプラットフォームとコンテンツの互恵関係が崩れてしまい、その後は囲い込みの時代に入ってきている。

人は「サブスクの時代だ」と言うかもしれません。でもサブスクの時代じゃなくて、「分業」から「囲い込み」の大きな流れの変化が2016年を起点に起きて、2020年代になってから本格的に進んできた。

私は大学で教えているので、若い人たちの情報接触を毎年見ているんですが、まさに津田さんのおっしゃっているとおり、やっぱりリンクを押さないですね。

どんなものを見てるかというと、例えばTikTokやインスタってリンクを押しませんよね。ハッシュタグを押して、水平には展開するんだけど、レイヤーを超えて別のWebサイトを見にいくことがないんですね。

Instagramだったら、その中で横には展開していくんですよ。TikTokもそうです。TikTokを流したら、その中では展開するんです。YouTubeもそうです。これが大きな変化と言えると思いますね。

“バズり”から誘引する時代は終わった

藤代:これによって、ニュースメディアの情報のあり方が変わってきたし、企業としても「どこに情報を出したらいいのか」がすごく難しくなってきたと思います。どこかに出していればリンクをたどってきてくれた人たちが、今はもうぜんぜん来ないわけですから。

授業でも聞かれるんですが、食品や家電メーカーとかで、ものすごくフォロワーを持っている有名企業のアカウントがあるじゃないですか。「ああいうふうになりたい」と言うんですが、「戦略的、経営者的な目線でどんな意味があるんですか?」と聞くと、だいたいみんな答えられないです。

だから実は、バズってそこから誘引する時代は終わっていると言えると思います。互恵関係がないので、ただバズってるだけなんですね。そこから何かは生まれない。でも逆に言えば、今から次の時代が来るんだと思っていて。どんな時代が来るのか、このセッションでもぜひ聞いてみたいです。

逆に言うと、僕はワクワクしてるというか。この互恵関係は、そもそも最初からプラットフォームを肥え太らせるためのコンテンツが下位レイヤーにあったわけです。これからは、もっと違う仕組みがこれから生まれていく。それを作っていけるんじゃないかと思っています。

瀬尾:プラットフォームとコンテンツ・メディアの話は後で突っ込んで聞きたいと思います。