2024.11.26
セキュリティ担当者への「現状把握」と「積極的諦め」のススメ “サイバーリスク=経営リスク”の時代の処方箋
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経営者、事業責任者、マーケターからPRパーソン、デザイナーまで、業界業種を問わず、企画職の誰もが頭を悩ます「ブランディング」をテーマに、じっくり向き合う音声番組「本音茶会じっくりブランディング学」。今回のゲストは、長野県にあるパンと日用品の店「わざわざ」代表取締役社長の平田はる香氏。第二部の後半となる本記事では、noteで記事を無料公開するなど、自分の持つノウハウをオープンな場所で公開した平田氏の思いが明かされました。
工藤拓真氏(以下、工藤):(『山の上のパン屋に人が集まるわけ』の)帯にも書かれていますが、「どこで売る、何を売る、誰に売る」みたいなお話じゃなくて、山の上で見つけられたお話ではあると思いつつ、それこそ僕みたいな人間が“山の下”で読んでも、どこでも通用するすごく普遍的なお話もいただいてるなと思っています。
ご著書は、リスナーのみなさんもぜひお買い求めいただいて読んでいただければなと思います。この本の中にも一部あるかなと思うんですが、今おっしゃった部分を深堀りしておうかがいしたくて。
山の下に出ていった時って、認知への挑戦とか、当然上と違うところがいろいろあると思います。共通してる部分、要は変わらない部分と、変えていくところって、どういうお考えで今は進めていらっしゃるんですか?
平田はる香氏(以下、平田):そうですね。やはり大きな違いは利便性ですよね。
工藤:めちゃくちゃど真ん中な話ですね。
(一同笑)
平田:本当に山の上って行きづらいじゃないですか。
工藤:(笑)。そうですね。
平田:住んでもない限り、毎日行きたいとか、通いたいとかってないですよね。「景色がいい」っていうすごい利点があったとしても、そこに日々の買い物をしに行くということは、やっぱりちょっとつらさも伴っていた。
平田:最初はアクティブな人たちが、遠くの山の上のパン屋を目指して、思い出作りのように通ってきていた側面はあると思うんですが、仕事のお客さんも増えていって、日常の買い物としてうちに来るっていうことも起こっていったんですよね。
その時に「ちゃんとこの人たちの役に立ちたい」という思いが強くなっていって、下に降りていくわけですよね。
格段に上がったのは利便性。わざマートに関しては年中無休、朝の9時から夜7時まで開いていて、営業時間もだいぶ長いんです。
もともと地域がすごく小さな町なので。エリアで区切って言えば旧北御牧村というところにあって、人口5,000人のエリアなんです。そのエリアには、セブンイレブンさん1軒しかないんですね。
買い物するところすらもけっこう遠い地域なので、そこに店ができるってわりと便利になるので、地域の人にも(影響が)大きいなと思って。そういったインフラ的な考え方もあって、大きく利便性が変わったのが一番ですかね。
変わっていないものは、やはりミッションやビジョンはぜんぜん変わっていないです。同じ基準で商品選定をしていて、添加物の少ないもの、健康を意識した商品、環境に負荷が少ないものとかを選んでいるので、商品の基準としては変わっていない。
工藤:なるほど。「人々が健康である社会へ」というビジョン自体は、どこの山の上だろうがどこだろうが、変わらずある。
平田:ただ、方法が相当変わって、お客さまにとってはもっと身近になったんじゃないですかね。
工藤:なるほど。
工藤:社名が「わざわざ」ですけど、わざわざってある種、利便性の外だからこそのお名前だったりするじゃないですか。
平田:そうですね。
工藤:じゃあ山の下に降りてくると、「わざわざ」じゃなくなっちゃう感じなんですか?
平田:わざわざ、私たちが降りていきます。
(一同笑)
工藤:逆に。
平田:逆に。近づいていきます(笑)。
工藤:なるほど。おもしろい。僕、この本を読んですごく不思議な気分になったんですが、先ほど(学生時代は)文学少女というお話をいただいて、若干勝手に納得していることがあるんです。
この本の中でも、最初にご自身でおっしゃっていますけど、いわゆる経営本というよりは、ご自身の葛藤や紆余曲折がドラマとしても描かれている本かなと思うんです。今おっしゃった「山の上から山の下」「わざわざの逆」という話もそうなんですが、その感じはすごく初期の頃からおありなのかなと思っていて。
まず、「健康オタみたいな人が集まっちゃったかも。だから看板を変えよう」というところも、すごく強固に「わざわざ」を背負ってやっている会社さんだったら、もしかしたら逆に「ごく一部の人たちに届けばそれでいいのよ」って考える経営者の方もいらっしゃるのかなと思って。だけど(「わざわざ」は)そうじゃない。オープンな側面もあるなと思って。
平田:そうですね。
平田:なんでそうなったのか、原体験として1つ挙げるとすると、うちの兄が研究者で物理学をやっているんですね。私がDJをやっていた20歳の時に、兄がうちに泊まりに来て話をしていて。
その時、私はWebデザイナーだったので、「自分の研究室のホームページを改装したい」って相談されたんです。それを見せてもらったら「オープンMX」って書いてあったんです。今もそのサイトはあるんですが、それを「改装してほしい」って言われて。
「何のために改装したいの?」と聞いたら、インターネットの概念の中には一緒なことがあるんですけど、オープンソース、自分の考えていることをオープンすると、世界を加速度的に進化できるっていう概念があるじゃないですか。
ネットができてからできたと思うんですけど、「自分の持っている知識や経験をオープンにして開くと、加速度的に社会が良くなる。そういうことをやりたいから、もっと世界の人に広がるようにサイトのデザインを変えて、もっと目に留まるようにしたい」と言われて、「いや、だったらこのままのほうがいい」と言って、私は(改装を)しなかったんですよ。
工藤:おもしろい。どういうことですか?
平田:テキストサイトだったんですが、研究者の論文が載っているサイトは、シンプルで軽いのが、更新しやすくて一番いいって思ったんですよ。そこにデザイン要素を入れて整えたりすると、更新のリソースもかかるし良くないと思って。その時に、オープンソースの概念を聞いていて。
平田:自分もインターネットが大好きで、そのあといろんなサービスがオープンソースになって、オープンになるサービスが好きだったんですよ。実際に社会はそっちで変わっていったっていう経験をすごくしていて。だから、自分の持っているものをいつも囲わない。
工藤:おもしろい。そういう思想なんですね。
平田:変わりたいし、囲いたくないし。noteを最初に書いて無料で公開した時も、友だちに「課金しろ、課金しろ」ってめっちゃメッセンジャーで言われた(笑)。
工藤:(笑)。
平田:「10円でもいい。100円でもいい。今閉じて課金したらいい」ってすごく言われたんだけど、「私がやりたいのはそういうことじゃない。社会が良くなることをやりたいから」と言って、受け入れられなかったんですよ。
だから「開く」っていうことが、けっこう好きで。「役に立ちたい」みたいな気持ちが大きいんですよね。それがきっかけになって、今もそういう気持ちがあるから。
工藤:なるほど、そういうことなんだ。オープンなところと、かといって「品質を保つぞ」という閉じる部分。開いて閉じて、開いて閉じて、みたいな。
平田:そうですね。品質を高める時には、確かにルールも大切なので、全部をオープンにするのは違うかもしれないんですけど、技法とかはすごくオープンにすべきというか。その知恵がみんなに行き渡ると、社会の質が上がるような(気がします)。
工藤:めちゃくちゃおもしろい。さっきサラッと「DJでWebデザイナーで」というのを聞いて混乱しているリスナーがいるかもしれないですが、詳細を話し出すと2時間ぐらいになるから。
平田:かかっちゃいますね(笑)。
工藤:DJもされていたし、ぜひ著書を手に取っていただけたらと思います。
工藤:本を読んで、今の話も聞いて「なるほど」と思ったんですが、もしかしたらけっこうお父さまの影響もあったりするんでしょうか。研究者だったり、オープンにしていくとか、学びを世の中にみたいなのって、そういう文脈もあったりするんですか?
平田:ありますね。たぶん何歳になっても、遺伝的要素を排除できない(笑)。
工藤:同じ遺伝子が(笑)。
平田:そう。もう、そこは持って生まれた性質ですよね。そういう性格、性質であることを理解した上で、もっとその能力をちゃんと自分で使えばいい、みたいな感じに今は思ってますね。「なんか似てるな」「似てきたな」とか、前は嫌だった時もあったんですけどね。でも今は、ちょっと話は逸れますが……。
工藤:ぜんぜん逸れてください。
平田:いつも私の髪を切ってくれる美容師さんがいるんですが、その人は私がいつも髪を引っ詰めてパンを焼いてた、忙しい時の時のお客さんだったんですよ。
「髪でも切りに来たらどうですか? 私、美容師なんです。たぶんリフレッシュできる」って、いつも通って来てくれる人に言われて行ったんですよね。私、その時は自分の見た目に気を配る余裕がぜんぜんなくって、薪窯で本当に炭だらけで(笑)。
それで取引とかに行っていたから、タイコーさんにも「平田さん、本当にきれいになったよね」と言われて。「それは清潔って意味かな?」って。
工藤:(笑)。
平田:その人のところに行ったらすごく良くって、気持ち良かったんですよ。じゃあ1ヶ月に1回行こうと思って。髪を切ってきれいにするとかじゃなくて、リフレッシュのために行ってたんですよね。
平田:私が「ストレートパーマをかけたい」と言った時があったんですが、その美容師さんが「平田さん、違いますよ」と言って。
工藤:違う(笑)。
平田:(笑)。
工藤:ストパーは違うと。
平田:「平田さんの天パはギフトですよ。神からもらった、天からもらった贈り物です。みんながその髪型になれるわけじゃないです。パーマをかけたみたいな素敵なカールだから、絶対にストレートパーマなんてやめたほうがいい」って言われて。
「ギフト」って言ったんですよね。その言い方がすごく好きだなと思って。性格、性質、親からもらったものとか、そういう嫌だった部分が急に好きになったんです。人に「ギフト」って言われただけで(笑)。だから遺伝的要素やもらったものは「ギフト」って言えばいい。
工藤:なるほど。
平田:そうすると直したいとか思わなくて、受け入れて楽しんだり、良いほうに使えるんだなぁと思って、美容師さんには感謝しています。
工藤:すごく素敵な話ですね。
工藤:ご自身にお父さまのもの(遺伝的要素)が出たこともあるように、山の上で「鍛えられた」と言ったらちょっとマッチョなイメージになっちゃうんですが、磨かれたブランドがこれからどんどん、インタビューによっては「倍どころか10倍だ」みたいな話もされてると思います。
ギフト的に引き継いでるものって、さっきの「ビジョンは変わりません」「物は変わりません」みたいなところはあると思うんですが、これから山の下でバーっと広がっていく時に、他にも「こういうところは引き継ぐぞ」ということはあったりあるんですか?
平田:ちょうど昨日その話をしていたんですが、うちのファンの方はすごく熱量が高いんですよ。「他のメーカーのファンの方とは違う」って言われたことがあって。「平田さんはさ、好かれているわけじゃないよね。愛されてるよ」って言われたんですよ。
工藤:Likeじゃない。
平田:中川政七商店の中川淳さんに、「それはLikeじゃない、Loveだよ。どんなブランドも持ってるわけじゃない。これはすごいことだ」って言われたんですね。
その時にハッと気がついて、「Loveのまま拡大することってできるんですか? LikeじゃなくてLoveでいけるんですか?」と聞いたら、「それは本当にみんながやりたいことかもしれないけど、時間がかかる。きっとブランディングやマーケティングの手法ではなかなか到達できないこと」(と言われました)。
「ファン化」とよく言いますが、「そうそう簡単に成し遂げられないよね。だいたいLikeになっちゃうよね。広がれば薄まるよね」という話をしていて、じゃあ私はLoveのまま広げたいって思って。
平田:昨日、広告代理店関係の方と話してたんですが、CMを打ったり新聞に広告を出すと、たくさん認知は取れるかもしれないけど、「知っている」「聞いたことがある」「あ、なんかちょっと好き」ぐらいの、Likeになる可能性がすごく高くて。
そうするとLoveだったファンの人が離れる傾向が強いから、わざわざとしてどうやるべきか考えないといけないですねっていう話をしてたんです。だから今、Loveのまま広くするにはどうしたらいいか、みたいな(笑)。
工藤:おもしろいけど、めちゃくちゃ難しいですね。
平田:難しい。「だからどうするのか」っていうのを、これから探していく。
工藤:そのための実験として、今はいろいろアイデアがおありな状態ということですね。
平田:いや。はっきり言って、今はそれを思いついてるわけじゃなくって、1店舗1店舗、いい店を作って出店する。わざマートに関しても、10年で30店舗を展開して、40億円ぐらいの企業規模になりたいっていう事業計画を書いてるんです。
平田:ダダダっと出店しても、各々が良い店でなかったらファンも離れると思うんですよ。だから「年間で3店舗出店したい」「10年で30店舗出店したい」と言ってはいるけれども、いい店じゃなかったら1店舗にしたりとか。
いい店が作れる速度で、柔軟に。10年で5店舗しかできなかったとしても、それがいい店だったらいいと思っていて。いい店を1個ずつちゃんと出す。
工藤:鈴木(敏文)さんのお話にもけっこうつながってくるところですね。
平田:そうかもしれないです。さっきの「チャーハンパラパラじゃない」ってやつと一緒かもしれないですね。きっとお店のことを愛してるんですよね。
工藤:Likeだったら、パラパラしてなくても売れりゃあいいかって言っちゃうのかもしれないけど。
平田:そうですね。
工藤:そういうところがあるかもしれないですね。ありがとうございます。びっくり、もう時間が過ぎ去ってしまいました。
平田:早い(笑)。早いです。
工藤:ここでもう一度切らせていただいて、最後にまたもう一括りいただければと思います。ということで、今日のゲストは平田はる香さんでした。平田さん、ありがとうございました。
平田:ありがとうございました。
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