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LikeではなくLoveなファンの増やし方(全2記事)

店に顧客が殺到し「来ないでください」とnoteで発信した過去も そんな“山奥のパン屋”が、今こそ認知拡大に動き始めたワケ

経営者、事業責任者、マーケターからPRパーソン、デザイナーまで、業界業種を問わず、企画職の誰もが頭を悩ます「ブランディング」をテーマに、じっくり向き合う音声番組「本音茶会じっくりブランディング学」。今回のゲストは、長野県にあるパンと日用品の店「わざわざ」代表取締役社長の平田はる香氏。第二部の前半となる本記事では、これまでは断っていたテレビ取材や書籍化の依頼を受けた背景や、「わざわざ」の今後の展望について明かしました。

平田氏の著書『山の上のパン屋に人が集まるわけ』を深掘り

工藤拓真氏(以下、工藤):この番組は、業界や業種を超えて、生活を魅了するブランド作りに本気で挑まれるプロフェッショナルの方々と、ブランディングについて、Voicyさんが構える和室でじっくりじっくり深堀るトーク番組です。

こんばんは。ブランディングディレクターの工藤拓真です。では、前回に引き続き、株式会社わざわざ代表の平田はる香さんにお越しいただいています。平田さん、わざわざ渋谷までありがとうございます。

平田はる香氏(以下、平田):ありがとうございます。

工藤:すみませんね。本当にはるばる。

平田:とんでもないです。

工藤:先ほど、衝撃の『陰翳礼讃(にえいらいさん)』の解釈からの話で、3冊目に推薦いただいた、ご自身の著書である『山の上のパン屋に人が集まるわけ』という本についてお話をうかがっていきたいなと思っています。よろしくお願いします。

平田:はい。お願いします。

工藤:以前も働き方のことだったり、noteでの発信だったり、さまざまな発信をされていると思います。あらためて1冊の本として、こちらをポンと世に出したきっかけや理由からお話をうかがっていき、中身の話にも触れていければなと思います。

noteに書いた日記がバズって大反響

平田:まず、2018年にnoteで初めて書いた日記が「山の上のパンに人が集まるわけ」というタイトルで、それがたぶん、当時のnote至上一番バズった記事になったんですよね。

工藤:むちゃくちゃバズってましたよね。

平田:実はこのタイトルは、その前に沖縄で講演をしていて。那覇市の方から「辺境地にどうやって人を集めたらいいのかを、沖縄のみなさんにも教えてあげてほしい」と呼んでくださって。島や田舎の何もない過疎地とかに、そういった文脈で呼ばれることが多くて。

何回か行ったところの1つである沖縄の講演の時に、だんだん考えがまとまってきて、noteに書いたようなことを話したんですよね。毎回それを話してはいて、あらためて3つの視点に区切ってnoteは書いたんですが、それが反響がすごかったんです。

今までやった講演会の中でも圧倒的に反響があって、「これはノウハウとしてもすごく役に立つし、自分たち以外の地域でも、こういう考え方をすれば運用できるかもしれない」みたいな感想もすごくいただいて。これは講演会という閉ざされたところではなくて、無料で公開すべきノウハウだなと思ったんですよ。

複数の出版社から書籍化の依頼が舞い込むも……

平田:noteというツールは、経営者の方や個人事業主の方が読むようなプラットフォームに私からは見えていて、やったことないけれども書いて出してみようと思って、まとめて書いたらバズったんですね。それがバズったことにより、出版社7社ぐらいからバーっと連絡が来て。

工藤:来そうですね。

平田:「すぐ書籍化したい」と言われたんですね。メールがいっぱい来て、「ああ、いっぱい来たな」と思って(笑)。

(一同笑)

工藤:普通はうれしいんじゃないですか? 「わー!」みたいな。そうじゃなくて、「あはは」という感じなんですか?

平田:いや、その時は私もすごく性格が悪かったなと思うんですけど、「今見つけているの遅くない?」みたいな(笑)。

工藤:うわぁ。来た、来たよ。

平田:感じでしたね。

工藤:遅いんですよ。

平田:遅いんですよ。「気づくの遅くない?」って思って。でも私、たった1回のバズで本を出すなんてないし、誰とも関係性を築いていないし、「まあいいか」と思って、全員に一律にお断りのメールを送ったんですよ。めんどくさいなーと思って。

工藤:ボロクソ(笑)。

平田:いやいや(笑)。ボロクソじゃないです、正直な気持ちです(笑)。

工藤:正直ね。

それでも書籍化を決めたきっかけ

平田:いろんな人とお話をする機会をいただいて、noteの加藤さんも実際に長野にすぐ来てくださって。

「すごい、こんな大きな会社の社長の方が来てくれるなんて、ありがとうございます」と言ったら、「平田さんは自分の価値に気がついてないかもしれないけど、こんなの1年に1回出るかどうかの逸材なんだから、会いに行くに決まってるでしょ」と言われて。

工藤:へえ。かっこいい。

平田:5時間ぐらいずっと話して、めちゃくちゃおもしろかったんですよ。あれをきっかけにいろんな人が訪ねてきてくれるようになって。

訪ねてきてくれる人は「来てくれているお客さま」なので、全部精一杯応対しようと思ってアテンドさせていただいて。「長野ってこんなところなんですよ」と、うち以外のところもご案内したりして、紹介していったんですね。そうしたら、その中にサイボウズの方がいらっしゃって。

工藤:そういう流れなんですね。

平田:はい。「副社長の山田(理)さんと1回サイボウズで対談しませんか?」ということでお誘いいただいて。その時もまた山田さんと話がものすごく盛り上がって、「IT会社の副社長でも、こんなに話が盛り上がるなんて感動的だなぁ。パン屋なのに」と思って。

それからゆるくサイボウズさんとのお付き合いが続いていて、何年か後にコラムを依頼されたり、そのコラムがまたいい感じに読まれたり。「サイボウズ式ブックスの3冊目を社外の人が書いた本にしたいんですが、平田さんどうですか?」とお誘いいただいて、「じゃあやります」と言って出したのが経緯ですね。

書籍化にあたり、インタビューは10時間以上にも及んだ

平田:だけど、ライツ社の方とサイボウズ式ブックスの編集の方と何人かでミーティングした時に、「平田さん、それにしても忙しいですね」という話になって。

「本を書いている時間ありますか?」と聞かれて、「いや、正直めちゃくちゃないんですけど、なんとかがんばって」と言ったら、「平田さんが書かなくていいっていう選択肢があるんですよ」と言われて、「え! そんなのあるんですか?」って(笑)。

工藤:(笑)。

平田:「書かなくても本を出せるんです?」と聞いたら、「出せるんですよ。嫌がるかと思った」って相手に言われたんです。「インタビューをまとめて本にする方法もあるから、良かったらそれでどうですか?」と言われて、じゃあぜひお願いしますと。

「じゃあライターの方、誰か指定ありますか?」と聞かれて、「今まで過去のインタビューで一番すばらしいと思った土門(蘭)さんにお願いしたいと言ったら、土門さんも快く受けてくださって、それでチームができたのが3年前ですね。そこから10時間以上のインタビューを取って。

工藤:10時間。

平田:10時間以上。私の話が飛ぶので。

工藤:(笑)。

平田:(笑)。

いろいろな人が“ちょっとずつ執筆”した集合知

平田:内容が幅広くなり過ぎてしまって、本の話から、経営の話から、人事の話とか、とにかく話が飛ぶんですよね。

(一同笑)

平田:みんなで「うんうん」って言いながら聞いてたら、十何時間のインタビューになって、それを書き起こしたらものすごい膨大な文字数になって。「じゃあ何の本にする?」というところで相当時間が掛かっちゃって、それで結局「お金の本にしよう」ってなったり。

工藤:へえ! おもしろいですね。

平田:いろんな構成に書き換えられて、最初に私が目にした原稿とはまったく違う本になっています。

工藤:最後の仕上がりはぜんぜん違うものになっているんですか?

平田:なっています。やはり経営のところは土門さんが書ききれないので、わりと私も執筆して、3割ぐらいは書いたかもしれないです。「はじめに」はライツ社の編集の大塚(啓志郎)さんが書いていて、みんながちょっとずつ書いてるんですよ(笑)。

(一同笑)

工藤:集合知が。

平田:そう。直しまくってみんなで赤入れて、おもしろかったですよ。自分の本なのに、みんながそうやって「こっちのほうが伝わるんじゃないか?」って書き直したりとか。

「本を読んだことのない人」にも届けるための工夫

平田:すごく印象的だったのは、私は簡潔に物申したいタイプなので、熟語にしたりとか、漢字に書き換えるきらいがあるんですよ。

本が好きだったというのもあって、長く形容詞で説明するよりも、「四文字熟語をそこに当てちゃえば一言で済むじゃん」みたいな感じになったんですが、そういうふうに、私が修正した文字がひらがなに変換されていくんですよ。

工藤:(笑)。なるほど。

平田:私はそういうことに対してイライラはしないので、なぜそれが毎回繰り返し行われるのかをすごく聞きたくて。

工藤:訂正に興味がある。

平田:はい。「どうしてひらがなに直すんですか?」って聞いたら、編集用語で「閉じる」と「開く」という言葉があって、「閉じる」は漢字を多くする。「開く」はひらがなを多くする。

「平田さんはこの本を10万部売りたいと言った。でも本を読む人は、今は10万人いない。それにはいつも読まない人にも読ませることが必要で、本を読んだことのない人にも届かせる必要がある。だから文字数も少なくして、漢字をひらがなに開いて、行間も開けて読みやすい紙面を作る必要性がある」と言われて、「なるほど。じゃあ開いてください」と言って。

工藤:(笑)。開いて開いて、本当にめちゃくちゃ読みやすい本ですもんね。

平田:はい。めちゃくちゃ読みやすいと思います。その本にも出てくる、取引先の靴下の工場のタイコーさんが「僕、もしかしたら人生で初めて一日で本読んだかもしれない」って。

工藤:(笑)。確かにササーッと行きますよね。

平田:はい。「僕でも4時間で読めたから、みんな読めるよ。すっごいおもしろかった」って言ってました。でもたぶん、私が書いていた文体だと閉じているから、神田さんも読めなかったと思うんです。そういう集合知でできた本です。

工藤:すごく素敵ですね。

平田:ありがとうございます。

かつてはメディア露出などを控えていた理由

工藤:そうやって開いていった先で、新しい読者さんとの出会いとかが、今まさにいろいろなところで起こっていると思うんですが、今までとは違う「わざわざ」のブランドが広がった感覚がおありだったりするんですか?

平田:なぜ本を出す決意をしたかというと、前は断ったわけですよね。でも、今度は断らないでやるという決断をしたのには、1個きっかけがあって。

2018年にたくさん取材(依頼)が掛かった時に、1つテレビの取材を受けたんです。その当時、テレビに出るっていう気持ちは一切なかったんですよね。なぜなら、テレビに出たら認知が上がって店に人が殺到して、物がなくなるから。

私たちはその時体力がなくて、生産能力もなかったので、今パンが足りてない状態なのにテレビも出るべきではないと思った。生産能力があって耐えられる状況になったら出たいと思ったんですよ。

でも、今までは「テレビに出る」っていう決断を自分1人で決めてたけど、社内のみんなに聞いたほうがいいんじゃないかと思って、アンケートをとってみんなでミーティングしたんですよ。そしたらみんな「出たほうがいい」って言ったんです。反対した人はほとんどいなくて、多数決に近いかたちだったんです。

「山の上のパン屋」からロードサイドへ

平田:(テレビに)出る選択をして出たら、案の定お客さまが殺到してパンが枯渇して、来てほしくないお客さんも来たので店が荒れて。それで「来ないでください。」っていうnoteを書いたんですね。そしたらまたすごくnoteで反響があったんです。

今度は本の(執筆依頼の)声がかかった時に「今こそ本を出すべきだ」って思ったんです。今はもう生産能力も十分あって、スタッフも揃って、ECも強化されて、在庫切れもするところはないから試してみたい。

前と同じことは起こりえないだろうから、今こそちゃんと認知を取りに行くべきだ。人にもっと知られないといけない。もう山の上のパン屋をやめよう、ロードサイドに降りようと。それでわざマートも作ったんです。

今までは、山の上じゃないと耐えられなかった側面があったんですよね。そこをちゃんと開いて、降りていって、みんなの目の前に立つことがこれからは必要だっていう、決意の表れでもありますね。

工藤:なるほど。めちゃくちゃ素敵ですね。

平田:ありがとうございます。

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