フリーランスの王・株本氏の独立のきっかけ

田中龍之介氏(以下、田中):ありがとうございます。せっかくなので、ぜひ株本さんにおうかがいしたいことが1つあります。それこそ今、独立されて起業されてっていうかたちだと思うんですが。最初の独立当時はどんな案件があって徐々にどんな変化があったのかをぜひおうかがいしたいです。 

株本祐己氏(以下、株本):最初は簡単に言うと社員の代替みたいな、だいたい月30万円ぐらいもらって、法人クライアントさんのWeb担当者になる感じでした。月30万円だけど、実質稼働してるのはたぶん月の10分の1とか5分の1とかそれぐらいで。

なんでそれが可能かと言うと、やっぱりWebマーケ業界なんでリモートでもできるし、結果が出てれば別に文句を言われない業界でもあるんで、それを掛け持ちしたのが最初のほうですね。でも意外とあんまり再現性が高くなくて。

というのも、やっぱり「結果さえ出せば」というところが意外とハードルが高くて。法人の拡大に伴って、結果さえ出せばOKな案件と、結果にコミットしない案件とでやっぱり毛色が分かれていて、後者のほうも増えてきたというか、増やしてきたと。

簡単に言うと、それこそ動画を制作してくれればOKという案件もあれば、売上が上がるところまで支援してほしいという案件もあって、これは似て非なるものなので。

「言われたことだけやっとけばOKなのかどうか」で求められる人材の素養も変わってくる。法人の拡大に伴ってだいたいどこもそうなんですけど、コンサルと言いつつ実行支援に売上の重きを置いてるみたいな。アクセンチュアとかもそうですけど、そういう変化は、僕らの会社の規模ですらもうすでに発生し始めてる印象です。

「ホストの求人」からスタート

田中:それこそ最初は本当に1人で入ってたのか、それとも最初からチームで動いてたんですか。

株本:名前を出したら知ってる人がいるかもですけど、それこそ僕の最初のクライアントさんは、林(尚弘)さんと桑田(龍征)さんという方。桑田さんからは「ホストの求人をやってほしい」「(従業員を)増やしてほしい」って言われて。

ホストとか何も知らないですけど、でも夜職の業界って僕がふだんやってた昼職の界隈と比べると、Webマーケって意味ではやっぱり競合がぬるかったというか。なので当たり前のことを当たり前にやってたら、それなりに数字が上がっていって満足してもらったみたいな。答えになってるかわかんないですけど、最初はそういうところから始まった感じですね。

田中:案件数で言うと、どのくらいまで1人でやってました? おそらく途中からはチームに変わってますよね。

株本:あ、ごめんなさい。さっきの質問は、チームで何人ぐらいいたかということで、最初は1人ですね。今の代表をやってくれてるのは岩野(圭佑)ですけど、僕が案件を取って、アウトプットは全部岩野がやってるから黒子みたいな感じで。なのでそういう意味ではチームが何人か覚えてないですけど、数人はいたと思います。チームって言うほどのものじゃないですけどね。

1人で何案件持てるかという質問に関して言うと、僕はざっくり12件とかが最大だった気がします。その代わり13~14件以降は他の人も巻き込んで、そのまままるっとお願いしていました。

2人目が植本(涼太郎)って人間なんですけど。植本にお願いしてるのも何やかんやで5パーセント、10パーセントぐらいは頭のリソースというかメモリを使うんで。それがなかったとして本当に1人でやったら、もしかしたら15件ぐらいはいけたのかなと。だからコンサルだけだったら、月400~500万円はいけるのかなと思います。

会社員→フリーランス→起業、デイトラ大滝氏のキャリア

田中:ありがとうございます。逆に、デイトラの大滝さんが最初に独立されたのって、どういうきっかけだったんですか。

大滝昇平氏(以下、大滝):僕はもともと制作会社で普通にエンジニアとして働いてまして、そこから独立したかたちですね。

僕の最初のお客さんは、もともと働いてた会社だったので。そこから案件を「毎月このぐらいの稼働で」といただけてたので、本当に他の未経験からスタートする方よりはスムーズに独立できたかなと思います。

田中:最初は月30万円の案件を1つ、もともとの(会社の)方からいただいたイメージですか。

大滝:そういう感じですね。「月80時間稼働してもらう代わりにこのぐらい払うよ」という準委任契約というか、フリーランス契約をさせていただいたかたちです。

田中:そこから広がっていくのは、どういうステップをたどったんですか。

大滝:もう自社にいる段階から個人で副業として開発も請け始めてまして。そこの金額が毎月ある程度10万円とか15万円とか超えるようになってきたと。このまま独立しても、その半分プラスこっちがあればいけそうだなという感覚ができた段階で、独立しました。

田中:ありがとうございます。最初はフリーランスでその後が起業というステップで独立したんですか。

大滝:そうですね、はい。

田中:起業したのは、どんなタイミングだったんですか。

大滝:起業したタイミングは、別に狙って起業したわけではなかったんですけど。自分が未経験からエンジニアになって、フリーランスになった経緯があるので、その学習ステップをTwitter(現X)で発信し始めたところ、けっこうそれがバズりまして。

最初の1年半ぐらいはずっと無料でコンテンツを出してたんですけど、「お金払ってもいいからもっとサポートを受けたい」という声とか、それを受けてくださったおかげで「エンジニアになれた」みたいな声がたくさん届いて、そこからスクールになって起業したかたちですね。

田中:じゃあステップとしてはめちゃくちゃシンプルで。単純に自分がやってよかったことを発信して、そしたらそれをもっと学びたいって方が来て。それが今のデイトラの起点になったんですね。

大滝:そうですね。

「スキルを学んだら食っていける」という考えの甘さ

田中:株本さんは、最近それこそ動画編集者を育てるスクールをリリースされたと拝見したんですけど。このあたりはどんな経緯でやろうって決まったんですか。

株本:StockSunの中で、クライアントワークをやっている青笹(寛史)っていう人間がいて。彼がけっこうがんばってやってくれてるのもあって、「何か一緒にやろうか」っていうところから。

今、青笹がやってるサービスと、僕らが持ってるアセットだったりブランドイメージとかで、今まだ青笹ができてない部分を「じゃあ一緒にやろう」というところで。基本的には青笹のおかげというか、すべてやってもらってるかたちなんですけども。 動画編集をやるだけではなくて、そこからクライアントワークに生かせるようになるための差分を埋めるというか、ちょっとマニアックっちゃマニアックなんですけど。でもたぶん動画編集したい人は全員受けたほうがいいと僕は思っています。 ちょっと長くなっちゃうかもしれないんですけど、そもそも動画編集スクールを受けてなんとかなると思ってるのがまず根本がちょっと甘くて。

例えばiPhoneって、ムービーの編集のアプリみたいなもので自由に編集できたりすると思うんですけど。動画編集を学ぶっていうのは、あれができるようになるのと大差なくて、それで仕事にするのは基本無理だと思うんですよね。

だからやっぱり、さっき言ったようにレイヤーを上げる。単価が低いからレイヤーを上げるというよりかは、(動画編集だけでは)そもそも職業として成り立ってないぐらいに思ったほうがよくて。企業からお金をもらうことの重みや大変さを、ちょっと楽観視してる人が(多い)。動画編集のスキルを学んだら動画編集者として食っていけると錯覚してるというか。

そもそもプログラミングとかと比べたら、動画編集ってその100分の1にも満たないぐらいのインプット期間で得られるスキルなんで、参入障壁なんてほぼないに等しいというか。そんな感じのスキルで今後やってくつもりなのかという、けっこう動画編集スクールを受ける人と、実際の現場とで認識の乖離がある気がするんです。

なので動画編集スクールを受けた人は、そういうソフトスキルだったりアウトプットのクオリティも叩き直したほうがいいんじゃないみたいな。「それはいっつもお金もらわずやってたけど、お金もらってもいいんじゃない」というのが始めた経緯ですね。

駆け出しこそ「ビビりすぎないマインド」が必要

田中:確かにスクールで一通りの操作だったりスキル、最低限の「作る」部分はできるようになった後、(さらにレイヤーを上げる方法を)学ぶ場所やサービスは世の中にあんまりないですよね。このあたりはデイトラの受講者の方はどうされてるんですかね。やっぱり実践でやられてる方が多いですか?

大滝:そうですね。実践でやられてる方もいますし。僕らのコースの中にアドバンスコースというスタンダードコースが終わった後の人たちが受けるコースもあるんですけど。その中に「どういうふうに提案をしていったらいいか」を学ぶ営業支援コースとか、さらにその上の営業独立サポートもあったりします。

一次請けとして「自分がどういうふうに振る舞って提案していけばいいか」も教えるサービスを用意してます。

田中:スキルを身につけるサービスも、その後に次のステップにいくサービスもどちらもあるということで。例えば動画編集でいくと、編集、操作ができて、動画が作れるところから次のステップにいくコースがある時に、そこで成功する鍵ってどこになるんですかね。けっこう営業みたいな文脈が強かったりするんですか?

大滝:まずは仕事をしてみることは絶対に必要だなとは思います。まあ正直、今インフルエンサーとして偉そうにしゃべってる僕もそうなんですけど、駆け出しの時期はみんなあるわけですよ。そこでやっぱり間違いなく迷惑はかけてるので。

そこでビビりすぎないというマインドはどうしても必要だなとは思います。もちろん、今できる全力をやるんですけど、ただ全力でやっても足りないのはもうしょうがないので、そのマインドでやりきるのは大事かなと思いますね。

10年前に流行ったライター職がほぼ全滅している理由

田中:ありがとうございます。株本さんの動画編集のサービスで言うと、どんなところが次の段階に引き上げるための鍵になってますか。

株本:目標をどこに置くかですけど。動画編集者の中で、上位3分の1ぐらいに入ってれば、市況観的に、たぶん食ってく分には仕事は余るぐらいにはあると思うんで。別にそれはそれで、今のその場しのぎにはなると思うんですけど。

中長期でやってくとなると、結局別に動画編集に限らずですけど、ビジネスの理解が絶対に必要です。自分が編集しているこの動画が、まず「どれぐらいのコストがかかってて、最終的にどうなったらその発注主が満足するのか」という裏側のKPIを理解するとか。そういう、あくまで発注主側に寄り添えるかどうかが動画編集に限らず必ず必要でして。

たぶん今の若い人ってあんまり知らないと思うんですけど。これはもう10年前ぐらいにSEOのライターでまったく同じ流れが1回起きてるんですよ。動画編集の話ばっかりになっちゃって恐縮ですけど、昔「スタバでMac開いて仕事」みたいなのが流行ったんです。今じゃ別にカフェで仕事するとか当たり前の時代ですけど、当時はめちゃくちゃ流行ったんですよ。

当時は初めて「会社に行かずリモートワーク」みたいにノマドワーカーとか言われて。それは何かというとSEOの記事制作だったんですね。1文字0.何円とか、よくて1円とかで、ただただライティング業務でひたすら書く仕事が昔流行りまして。今の時代になってほぼほぼ全滅してるわけですよ。

あ、ごめんなさい。全滅っていうか消えてったかどうかの差が何かというと、結局まず前提として単価超安くやる人。それこそ主婦とか「月1万円稼げたらうれしいです」みたいな人はもちろん残るんですけど、普通に食ってくのは無理なんで。

そういう人たちは生き残るために何をしたかっていうと、要はSEOの理解ですよね。SEOディレクターから振られるコンテンツの記事じゃなくて、要は自分がSEOディレクターをやってレイヤーを上げるわけですよ。SEOディレクターもちょっと逆風になってきたから、もっと上のサイトの構築や設計みたいなところまで上がっていけた人は、今も残ってるんです。

SEOライターでノマドワーカーとか言ってやってた人はもう全滅したわけですね。動画編集もたぶんこれになるんですよ。要はSEOだって、別に記事なんてかなりマニュアル化してったら、正直そのライターをやる業務なんてほぼほぼ代替性が高すぎて、別に高校生でもできそうなことしかやんないと。

まあ10年はSEOライターも一応生き残りがいますけど、動画編集業もたぶんそうなるんで。それを参考にしてほしいなと僕は思ってますね。

AI時代にフリーランスが生き残るには

田中:なるほど。ライターの歴史を今の動画編集が繰り返すって、動画編集以外の職種でもまさにそうだと思うんですけど。じゃあ10年先はどうなってくかを考えた時に、直近話題になってるのは、それこそ生成AIで記事も自動で作れるとか動画編集も一部は自動でできるんじゃないかと言われていると思うんですけど。このへんはどう捉えてますか。

株本:例えば自分が飲食店とか学習塾とか美容院とかを経営してますと。生成AIが出てきたら「これを使ってどんなことをしていくと集客できるかな」と。要は競合との戦いなんでパイは限られてるから、競合にどうやって勝つかという。

「自分だったら何をするか」というところが、これから新しく出てくる市場になるんで。AIが出てきたら自分の仕事がなくなっちゃうとかじゃなくて、いかに発注者側の視点を持てるかが、自分の食いぶちに自然とたどり着けることだと思います。

でもそんなこと言っても、動画編集スクールを受けたばっかりの人にそんなのは無理だと思うんですけど。まあでも、その市場で生きていくって、そういうことなのかなと思います。

田中:なるほど。大滝さんから見てこのあたりはどうですか。

大滝:そうですね。AIはビビるものっていうよりは自分が使っていくものだと思ってるので。それこそ作業をAIで効率化したり、あとは企画立案のところ。ディレクション業務においても、そういう案出しみたいなところでAIを活用して、業務がかなり楽になるツールっていう考え方ですね。

自分が代替されるんじゃなくて、自分が使っていく側になる意識でいれば問題ないんじゃないかなと思います。

田中:なるほど。レイヤーを上げていけばいくほど、(AIを)使える範囲とか活用方法が広がっていくってことですよね。