株式会社COTENの「すごく変わった事業」とは

入山章栄氏(以下、入山):『浜松町Innovation Culture Cafe』。今週は常連さんの株式会社COTEN代表取締役CEOの深井龍之介さん。そして、もう一方、こちらも大常連のフィラメントCCO(チーフカルチャーオフィサー)の宮内俊樹さんをお迎えしました。深井さん、宮内さん、どうぞよろしくお願いします。

深井龍之介氏(以下、深井):はい。よろしくお願いします。

宮内俊樹氏(以下、宮内):よろしくお願いします。

田ケ原恵美氏(以下、田ケ原):深井さんのプロフィールです。大学卒業後、大手電機メーカーの経営企画に配属。その後、複数の企業を経て、2016年には歴史領域をドメインとした株式会社COTENを設立されました。

会社を経営する傍ら、人気ポッドキャスト番組『歴史を面白く学ぶコテンラジオ』のパーソナリティも担当されています。

入山:はい。というわけで、どうぞよろしくお願いします。深井さんは、この『浜カフェ』に3~4回ご来店いただいてると思うんですが。

深井:はい。そうですね。

入山:COTENがどういうことをやってるかをあらためて教えていただけますか。

深井:COTENはすごく変わった事業なんですが、世界史のデータベースを作る会社です。出来上がるまでにはまだもう少し時間がかかるんですけど、今でもずっとその研究開発をしています。

それを作る傍ら、会社の広報活動として『コテンラジオ』っていうポッドキャストの番組をしています。そこではシンプルに歴史の話を1つのテーマにつき10時間ぐらいし続けるような活動をしている、変わった会社ですね。

歴史のデータベースから法則性を見出すことの利点

入山:もう少し具体的に、歴史のデータベースってどういうイメージかを教えていただけますか。

深井:そうですね。まさに前もここで紹介させていただいたんですけど。例えば、大器晩成型の人たちだけ(のデータ)を出して、「何歳ぐらいから盛り上がっていったのか」の傾向を見るとかですね。

「どのエリアで、大器晩成型の人間がよく出てるのか」を見るとかですね。「どの時代だとよく出るのか」だとか。あとは人口や気候と比べて、「気温が下がってくると戦争が増える」といったことを見たり。

正直なんでも検索できるようになります。「自分の人生に似た人」とかも検索できるし、「今起こってる戦争に似た戦争」とかも検索できるし。そうやって過去のものにアクセスしやすくして、そこからもう少し簡単に温故知新ができるようにするものですね。

入山:僕ね、東京大学の本郷(和人)先生と対談していたんです。

深井:あぁ、本郷先生。

入山:世界の歴史学はどうか知らないけど、少なくとも本郷先生の知ってる日本の歴史学って、意外なぐらい法則性の探求をやらないと言うんです。

深井:はい。そうですね。わざとされてないと思います。

入山:なんかどちらかというと細かい知識とか、文献の解釈のこのへんはどう……っていう議論はあるけど、歴史全体の法則を、いわゆる科学性をもって捉えることは、意外なぐらいやってなくて。

実は本郷先生は、それをすごく問題意識として感じてるんだけど、「けっこう理解してもらえる人が少ないんだよね」っていう話をしてて。そう考えると、もしこのCOTENの事業でデータベースが確立されてくると、法則を見つけるためのデータがかなり整備されるってことですよね。

重要な経営判断に役立つ「歴史上のパターン」

深井:そうですね。なので、法則を見つけやすくなるし、一番わかりやすいビジネス利用の例で言うと、ものすごく重要な経営判断をする時に使えたりしますね。いったん歴史に残ってるやつなら、今自分たちが置かれている状況と類似した事例の、人類が経験したすべてのバージョンを全部出せるわけだから。

「全部で50例ぐらいあって、それが4パターンに分かれます」みたいな。自分がやろうとしてたのは、そのうちの1つでしかないことに気づくとか。そういうこともできるわけですよね。

入山:データベース化されて、「歴史上もっとこういうパターンがあって」と整理できるって、相当おもしろいですよね。

田ケ原:そうですよね。

入山:そんな話も含めて、また今日もよろしくお願いします。

深井:はい。お願いします。

ヤフー、ディップを経て新しいチャレンジを始める宮内俊樹氏

田ケ原:続いて、宮内さんのプロフィールです。宮内さんは大学卒業後、出版社で15年間雑誌編集者として勤務。2006年にはヤフー株式会社に入社し、「Yahoo!きっず」や「Yahoo!ボランティア」の担当、社会貢献サービスや「Yahoo!天気」「Yahoo!防災速報」といったサービスの統括を担当されました。

オリジナルメディア『FQ(Future Questions)』の編集長を経て、現在は株式会社フィラメントCCOなど、多方面でご活躍されています。

入山:はい。というわけで宮内さんもよろしくお願いします。

宮内さんもこの『浜カフェ』の大大常連でいらっしゃいます。とはいえ前回のご来店から意外と間が空いて、2022年の9月だったということで……。

宮内:そうですね。けっこう忙しかったっちゅうのもあるんですけど。

入山:確かに。この半年以上、どういう活動をされてますか。

宮内:一応本業はディップ株式会社で、雇用についての研究を1年間はやっておりまして。その前は「バイトル」とかの、アルバイト系のサービスをやっていました。当然副業がいっぱいあるので、前回出た時もテーマに合わせて、副業を出してきて。

入山:そうですね。

宮内:「それをメインに据える」っていう。

入山:宮内さん、その謎のポートフォリオを持ってますからね。

宮内:ポートフォリオが入れ替わるみたいな。

田ケ原:多才ですよねぇ。

入山:はい。今日は何の立場でいらっしゃってるんですか?

宮内:今、ちょっと中途半端になってまして。実はディップを4月末で辞めようとしておりますので。

入山:4月末って、今ですよ?

宮内:はい。今4月末なんで、もう最終出社を迎えた状態でここにいるということなんですけど。

入山:そういう状態なんですね。

宮内:はい。また新しいチャレンジをしたいなと思ってまして。まあ、もう年齢的にもね。次は自分のやってきたことを統合できるような、価値のある事業に関われたらいいなぁと考えておりまして。つなぎでフィラメントCCOを(メインに)使うみたいな。

入山:フィラメントに失礼ですよね(笑)。

(一同笑)

宮内:そんな失礼な話なんですけれども(笑)。

2年かかる学術論文を3週間で書き上げるChatGPT

入山:なるほどね。この半年ぐらい、どうですか。今、けっこう世界中が激変してますけど、宮内さんからご覧になって「こういうのおもしろいな」とか。

宮内:そうですね。まあ、技術がすごく好きでヤフーにいましたので、やっぱりChatGPTをひたすらいじり倒すとかね。「新しい技術はとりあえず使う」みたいなのはひたすらやってます。

入山:ここからはですね、「ChatGPT時代の歴史思考」というテーマでお話をしていこうと思います。

ChatGPTは、もう最近いろんなところで話題になってるんで、耳にされてる方もいらっしゃると思います。ありとあらゆるネット上の言語情報を使って、新しい文章や言葉や情報の整理を、さも人間がやってるかのようにやってくれると。

ありとあらゆる「言葉にまつわるもの」を処理してくれる技術が出てきたっていうことで、まあ大騒ぎになってるわけですよね。

田ケ原:そうですよねぇ。

入山:今週は特に、ChatGPTと人の関わりみたいな、今何が起きていて、今後どうなるかをおうかがいしていこうと思っています。まず宮内さん、ちなみにChatGPTはもう使われていますか。

宮内:はい。けっこうヘビーに使ってます。特に研究テーマみたいな難しいものをひもとく時にはまず(ChatGPTに)聞いてみると、漏れなく全部(情報が)出てくるのが、もうとにかく便利ですよね。

入山:わかります。僕がびっくりしてるのは、経営学でトップクラスの海外の学術誌向けの論文を書くと、普通2年かかるんですよ。僕の肌感覚ですが、今はこれが3週間でいける。

田ケ原:へぇ~。

入山:まじで。

宮内:だから「論文を書く意味があるのか」とよく言われるぐらい。

入山:とんでもない世界になってますよね。でもみなさん、そういう感覚ですよね。

宮内:まあ、単純に「仕事がなくなるんじゃないか」と考えるパターンももちろんありますし。

これからのAI時代、人間に残される役割

入山:宮内さんはいっぱいいろんなことをやられてるじゃないですか。その中で、例えば「この仕事はもうChatGPTが全部やっちゃうな」っていうのと、逆に「このへんは(人間のほうが)もっと価値を発揮できそうだな」っていうのは何かありますか。

宮内:(人間のほうが価値を発揮できそうなのは)やっぱりアイデアを出すこと。その時のイノベーティブな離れた点と点をつなぐって、やっぱり人間のある種のひらめきと蓄積によってできることなのかなぁとは思いますよね。

入山:例えばChatGPTに「そういうのを思いついてください」みたいな質問をするじゃないですか。それでも、やっぱり自分の発想のほうがもっと飛躍していることがある。

宮内:そうですね。やっぱり「ChatGPTであんまりできすぎるのも問題だ」っていうプログラムやアルゴリズムの作り方もしてますので。「犯罪的なことが出ないように」とかももちろんですけれども。多少、やっぱりざっくりとまとめて返す傾向はあるかなと。

だから、それに対してより詳しいことやイノベーティブなことが出てくるようにするにはどうすればいいかを、一般的には「プロンプトエンジニアリング」って言いますけれども。「こういう投げ方をすると、こういうものが返ってくる」っていうのを、とにかく(最適化する)……。

入山:そうですね。今までコードを書いてたんですけど、「自然言語で『こうしてください』っていうのをいかにうまく聞くか」というプロンプトエンジニアリングがやっぱり大事になってくる。

宮内:そうですね。それがやっぱり(ChatGPTでは)確率論的に出てくるので。いきなりひらめいたような、とんでもないところから出てくることは、確率論的に少ないんですよね。それもあって、やっぱり人間がやれる領域はまだまだあるんじゃないかなと思います。

AIは真似できない「新しい価値観を生み出す」こと

入山:なるほど。深井さんは、ChatGPTをどう捉えてますか。

深井:そうですね。僕たちも仕事の中ですごく使ってるし、世界史のデータベースにもどう活かせるかを、もうすでに議論してるところなんですけれども。やっぱり確率論で出してくるところは本当にミソだなと思っています。

次に出てきそうな言葉の、確率が高いものを出してくる性質があるわけじゃないですか。そうするとやっぱり最後の最後、どうしても残る課題が、「新しい価値観の付与は、このアルゴリズムだとやっぱりできない」ということ。

つまり人間って、歴史とか勉強してたら特にそうなんだけれども、急にまあまあ新しいことを言うようになるんです。めちゃくちゃ新しいと誰も受け入れられないんだけど。それがめちゃくちゃ新しいのにもかかわらず、そこそこみんなに受け入れられている意見を言う人とかが出てくるんですよね。

入山:うーん、なるほど。例えばどういう……。

深井:例えばマルクスとか、そうですよね。

入山:あぁー、なるほどね。

宮内:なんかすごく新しいことをボンッて言って、それが正しいかどうかとか、その周りの人たちが理解してるかどうかも別として、受け入れられている。

入山:なるほどね。おもしろいな。

深井:こういう現象は世界史上やっぱり起こってるんですよ。これはChatGPTには起こせないですよね。やっぱりあれは、学習データが必要だし、データを学習した結果、一番言われていそうなことを言ってるだけなんで。

入山:ま、そうですよね。特に、あれはいわゆる強化学習ってやつなんで。最後は「これはいい、これはだめ」みたいな過去の人間の判断が入っているわけですよね。

深井:そうです。過去の人間がやってきた言説の多いものに関しては精度が高く返せる。けれども、まだ語られてないことを語り始めるのと、その時にそこそこコンセンサスを得られるかが、けっこうまだ人間の仕事として残るのかなぁとは思ってますね。