2024.11.26
セキュリティ担当者への「現状把握」と「積極的諦め」のススメ “サイバーリスク=経営リスク”の時代の処方箋
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今井裕平氏(以下、今井):じゃあ時間も残り限られてきたので、ちょっと話を変えて。今回はデザイナーさん向けのセミナーなので、ターニングポイント。独立していきなりバンバン仕事を……。
青木:ぜんぜんですね。それはないです。
今井:もちろん、むちゃくちゃやりたいのもあれば、そうじゃないとかもあったと思うんですけど。そこは自分たちがやりたいこと(ができるようになった)とか、どんどん相談が来るようになったとか、説明が楽になったとか、ターニングポイントというのはあるんですか?
青木:自社商品を出したところが一番のターニングポイントで、自社商品が知ってもらえたことですね。
これは後からわかったのですが、例えばバックバンドとしてやっているギタリストがいたとして、「何でも弾きますよ。どんなのでも弾きます」という人ってたくさんいると思うんですよ。でもそれだと「誰にしようかな」となっちゃうじゃないですか。そうすると、「値段で決めようかな」とかなっちゃうんですけど。合う人といっても面接が必要だったり、セッションをいっぱいしなきゃとか。
一方でそのギタリストがソロで、セルフでもいいから、アルバムを1枚出していたとしたら、「この人の100パーセントはまずここなんだ」というのが見られるので、もうその時点で合うか合わないかを判断もしてもらえると思うんですよね。
それでまず声を掛けてもらいやすくなる。「僕たち、こういう人たちでーす」というのが、人じゃなくてモノで明確に出ているので、「あ、こういうものを作る人たちなんだ」とかが宣言できたのが、自社商品を出したことの良さだったかなと。
今井:それは「BOOK on BOOK」ですか?
青木:「BOOK on BOOK」と、「Display Cleaner」という商品があるんですけど、その2つが一番でした。あの2つはパッケージとか伝え方とか全部、自分たちしかいないので自分たちでやっていて。上司もいなきゃクライアントもいないので、そこで起きていることって100パーセント自分たちの判断になるので、ある意味妥協がないというか、素っ裸で出ちゃったみたいな状態でした。
その裸の姿を見てもらって、気に入る人にとってはすごく依頼しやすくなったと思いますし、気に入らない人にとっては別に声を掛けなきゃ済む話なので、そこがクリアになったのが良かったと思いますね。
今井:クライアントワークだと100パーセント自分じゃないから、ちょっと濁りますものね。
青木:そうなんですよね。どうしても。
今井:まさにフラッグシップ的な話ですね。
青木:確かに、そう考えると自社のフラッグシップ(看板商品)を作るってことかもしれないですね。
今井:青木さんの初めのメッセージに戻って、「自分でやればいいんですよ。3.0ですよ。フラッグシップを作ったらええんですよ」という、そっちのほうがいろいろ早いというのは、一貫していますよね。
青木:そうですね。あと実は僕、「そうか、自社のフラッグシップか」ということで、話が完全に通じていると思ったんですよね。それを他社のためにやるか自社のためにやるかだけの話で、同じ話をしているなとは思いました。急に自社になると、「フラッグシップは要らない」となるのもおかしな話だなと思って。
今井:けっこう刺さっています。「そういや、なんでないねん」みたいな。
青木:そうですよね。たぶんできちゃうと思うんですよね。本当に今までやってきたことをそのまま自社に活かすだけだから。
今井:なんで僕がこの質問をしたかと言うと、1つうまくいった瞬間に、同じ話をしていても、ぜんぜん相手への伝わり方が違うなと。モノとか成果みたいなものが必要だと当時感じたので、質問しました。
クライアントワークをやっている1つの理由は、自分からのゼロイチがなかったりするんですね。むしろ、クライアントからお題を出されたほうが……。
青木:ああ、わかります。例えば(「DRAW A LINE」で言えば、普段自分たちは)「突っ張り棒の会社」を認識してないじゃないですか。もちろん使っているんですけど、そういうレベルで、「そんな方向にプロダクトがいた」ぐらいのことって、投げ掛け合って気づくことなので、クライアントワークはそういう意味でめちゃくちゃおもしろいなと思っていますね。
今井:にもかかわらず、自社商品を考えて出すという。僕はそのゼロイチの部分のガソリンが足らんと思うんですよ。すみません、悩み相談みたいになってますけど。
青木:(笑)。
今井:途中でエネルギーが切れへんかがすごく不安なんです。
青木:実はその敷居を下げることを意識してやっていて。自社商品ってDIYがスタートでしかなくて、これもそうなんですけど、まずDIYで自分の使いやすいものを作ってみて、「あわよくば世に出せるかも」という順番でやっているんですよ。だから、「自社商品をやろう」という覚悟を持ってやると、だいたいうまくいかなくて。
今井:今のも刺さります(笑)。
青木:(笑)。DIYであるじゃないですか。「玄関にベンチが欲しいな」とか「うちのここにちょうどハマるごみ箱はないかな」とか。そういうことをコツコツやっていく中で、「これはひょっとしたら、他の人も喜ぶかも」みたいなのが見つかって、それを自社商品にしているという感じです。
今井:だからストライダーみたいなものが?。
青木:(笑)。そうですね。本当に自分の身近で、「この狭いところにごみ箱が欲しい」という時に、昔だったら僕は検索して探していたんです。でもいったんそこで我慢して、段ボールで作ってみるんですね。段ボールで作って使ううちに、気づいたらオリジナルの機構が生まれちゃったりしちゃうんですよね。
買い物をちょっと我慢してDIYすると、そういう自社商品につながる、「自分ってこういうことが不満だったんだ。知らなかった」みたいな気づきが生まれて、「じゃあこうすればいいのか」みたいな。
今井:おもしろいですね。ゼロイチのところをちょっと補ってますよね。モチベーションというか。買いたいと思っていて、それを我慢するから。
青木:そうですね。切実に「今ここにごみを捨てたい」という現実があって、そこは別にオリジナリティも何もない。デザイナーだとどうしても「それは美しいか」とか「オリジナリティがあるか」とか(を気にしてしまうんです)。そういうのを全部捨てて、「いったん段ボールで置いておくか」みたいなことでハードルを下げることで、その奥にある真の欲求にようやく気づいてという、段階を経てやっている感じというか。
今井:なるほど、おもしろいですね。ありがとうございます。
今井:そうそう、質問タイムを忘れていました。質問をお受けしたいなと思っていてですね、まずはお越しいただいた方、もしよろしれけば、ご質問があれば優先して回答させて頂きたいのですがありますか?
青木:呼び水的に1つ何か(笑)。
今井:「青木さんが今後、ITの世界へ進出することもありますか? プロダクトの概念が無形のデジタルサービスに及んでいますが」という質問があります。
青木:ここはなんて言うんでしょう、必要な時は自然にやるんじゃないかなと。アプリも作ったことはありますし、Webもやっていますし、そんなにジャンルで分けてないというのはありますね。
今井:なるほど。「自分が欲しいものをデザインする」って青木さんは言われているじゃないですか。基本的にはクライアントワークもそのスタンスなんですか?
青木:シンプルに言うとそうなんですけど、それだと誤解を生むんです。
今井:ぜひ補足してください。
青木:自分のわがままを通したいわけではなくて、自分の真の欲求を掘っていくと、「人間が欲しいもの」というものが掘り起こされて、「人間が欲しい」というすごく深いところまでいくと、クライアントさんも「確かに欲しいわ」とリアルに感じ取ってもらえるので、わがままを押し通すとは違うんですよね。
今井:根本の人間のところまでいってやるからデザインできるかもみたいな、そんな理解でいいですか?
青木:そういうスタンスですね。それでできるもの、できないものは当然あると思うんですけど、考え方としては、例えば僕が気に入って使っているもので、うちの奥さんやうちの娘も一緒に使っているものって実在するので、そういうものはあると思うんですよ。もちろん女性向けのものを作る時は、奥さんとか娘とかに聞くのが前提なんですけど、その上で自分も奥底で乗れているかどうかはすごく大事だと思いますね。
今井:誤解したままになったかもしれませんが。
青木:(笑)。
今井:ありがとうございます。事前にいただいている中で1つ。これは青木さんも言われていたので。「発案から計画、販売までのプロセスやその過程で重要なこと、計画途中で頓挫することはありますか? その場合、どのような理由や条件で中断するのか、見切りポイントがあれば教えてください」というのが。たぶん青木さんが選ばれていたので、ちょっと僕の話で。
青木:いや、聞きたいんですよ。逆にこれ、質問したいなと思っていて。
今井:でも、振り返ると圧倒的に多いのは外部要因ですね。プロジェクトの中身が良くなかったとかではなくて。プロジェクトチームとしては健全な状態なんですけど、多いのは経営者、責任者が替わったとか。
青木:ああ、なるほど。
今井:あとは、投資が半分になったとか。外部要因が多いかもしれないですね。でもこれ、聞きたいのはあれですよね、「どんな理由や条件で」。見切りポイントの話ですよね。
青木:僕は意外と多いのは、試作までやって、わりとみんな使っていて「これいいね」となって、見積もりがめちゃくちゃ高かった時。例えば5,000円で買えるつもりが3万円だったみたいな時で。
もちろんその後近づけるべく努力するんですよ。それが1万円までいったらありかなしかとか、3万円が動かなかった時とか、そうなっちゃうと企画自体を疑わないといけないですよね。
作り方によって価格は変えられるので努力はするんですけど、「価格」はすごく外部要因としてでかいなと思いますね。
今井:そこって、「3万円でも、いろいろ売り方を工夫して売ろう」みたいな。
青木:そう、それもあるんですよ。
今井:それらも選択肢ではあるんですね。
青木:選択肢としてあるんですよね(笑)。ただ、それって覚悟がいりますよね。
例えば、数は減りますよねと。数が減って、じゃあ「どこを成果としますか?」というところで、数じゃないという判断は少なくとも必要になるので。5,000円のものを3万円で、数も変えたくないという状況だとしたら、止めないといけないと思うんですよね。
今井:先ほどの話で言うと、リスクをどれだけ解像度高く見れるかですね。
青木:そうですね。「このプロジェクトにおける成功とは何か?」というのが、都度都度そこで判断があって。「でも、これを成功と見なすんだから、やる価値がある」なのか、「この成功には当てはまらないからダメ」かというのは、話し合って、止めるべきものは止めるべきかなとは思いますね。
今井:プロジェクトの成功条件って、わりと初期で議論したりします?
青木:議論は初期からずっとしているんですけど、「じゃあこれくらいの値段でできるといいね」というのも、当然最初から言っているはずなのに、なぜかということはあるんですよね。
今井:いや、わかります。
青木:「なんでだろうね?」という話なんですけど。
今井:でも見積もってみないとわからないしというのもあるし。
青木:そうなんですよね。だから本当に、企画がいいか悪いかとかアイデアの良しあしって、本当にそこで判断しちゃダメで、「見積もってみないと」も込みなんですよね。それって試作してみないとわからなくて。というのは経験を積んで、本当に試作まではだいたいやらないと、「これはいける」というプロジェクトがとんでもなく高くなった時の、Bプランがない怖さってすごくあって、引くに引けなくなっちゃうとか。
今井:確かに。
青木:そういう意味でいくつか持っておくのが前提かなと思います。自分だったら、「5年後ならまた作れるかな」とかで済むんですけど、クライアントさんとだと、そういう訳にいかないので。
今井:会場からは、プライシングの質問を頂きました。「今の例は3万円と5,000円という大きな差があったけれども、その幅が狭かった時にどんな風に考えるんですか?」という質問でした。いかがですか?
青木:でもプライシングの話は聞きたいなと僕は思っちゃうんですけど。
今井:まず目標というか、「こういうプライシングがいいな」という理想でいくと、ユーザーが「ちょっと高いな」と思うぐらいが理想かなと思っています。「思っているより高いけど欲しい」というバリューが作れているかどうか。理想としているのはそれですかね。
あとは真面目な話になりますけど、一般論として3パターンぐらい価格の付け方があって。原価を積み上げるか、競合商品と比べるか、あとは完全無視してバリューベースでやるか。基本的には青木さんの話と同じで、まずは原価を積み上げて、そこからですかね。
競合がいた時に、「競合よりも高い値段で、でも競合と同じぐらい売りたいな」とか、「そのためにはどうしたらいいんやろう?」みたいなところで、うちの場合だったらPRでどうやって露出するかとか、ホームページで何と言ってユーザーに理解してもらえるかって考えながら作っていく感じです。
そういうプライシングの議論ってけっこうされるんですか?
青木:めちゃくちゃしますね。一番難しくて困るところでもあるんですけど、大事なところでもあるので。新しい発明をやると、安いものは作れないですね。積み上げるとどうしても「ああ、ちょい高い」とか「けっこう高い」になっちゃう。消費者としての自分で言うと。
まずは、安いものをわざわざ高く売るというのは、現実的に状況として経験したことがないのでそれは置いておいて、「ちょっと高くなっちゃうじゃん」というのをどう考えるかというところで、自分が買うというより、「友だちにプレゼントするならいくらか」。そういう時ってちょっと見栄を張るというか。
今井:そうですね、わかります。
青木:安いものを贈りたくないので、「友だちにプレゼントするんだったら、これでも1万円出せるな」とか、そこはわりと意識していますね。
青木:あと、「それでもちょっと高いな」という時に、ひょっとしたら競合と思っているものを間違えているかもしれなくて。先ほどの「DRAW A LINE」で言えば、突っ張り棒の競合(を基準に)にすると高くなっちゃうんですよね。でも、僕たちは家具だと思っているので、家具と照らし合わせるとめちゃくちゃ安いんですよ。
どのジャンルに当てはまるのか。競合がどこか、そこでちょっとバランスを取るというのも、先ほどの「贈り物にするなら」も含めて、贈り物として家具に見えるか便利グッズに見えるかで価格は変わると思うので、というのはあります。
今井:今の「DRAW A LINE」の場合、「家具の値付けなんです」というのは、クライアントはすんなり通じたものですか?
青木:ぜんぜんです。そこはまったく。
今井:そうですよね。ずっと突っ張り棒を売られていた会社だったら。
青木:ただ、経営者の方はすごく理解されていて。社内の方と「こんな高いもの、誰が買うねん」という、今まで作ってきたものがあるので、そこで社内で話し合いがあった。でも一方で展示会には出して、家具の販路のバイヤーさんからすでに声が掛かっていたので、進めることができたんじゃないかなと。
今井:まったく同じ経験をしています。
青木:ああ、そうなんですね。
今井:「こんな高いの、誰が買うねん」を何十回クライアントから言われらことか。
青木:(笑)。そうですよね。
今井:そればっかりかもしれないです(笑)。
青木:そういう時は、「どこで売られるものを作りたいですか?」というのもよくお話ししています。プライシングのところで、「こんなの100均で作られたらどうすんねん」みたいなものも出てきちゃうんですけど、「そもそもが売り場として100均も視野に入れますか? 入れませんか?」みたいなところも。それはそのままロットの話と完全にイコールになるんですけど、やりますよね(笑)。
今井:めっちゃわかります。価格を決めていたけど、作り方を変えたらもっと安くなるというのが途中でわかった時に、クライアントさんがそのまま下げようとしたのを止めたことはあります。
「この値段で売るといって進めていたのに、原価が安くなったら機械的に下げるのはどうなんだ」という議論をしました。
青木:そうですね。
今井:ありがとうございます。ちょっと時間を過ぎちゃったんですけど、じゃあ1部はこれで終了とさせてください。青木さん、ありがとうございました。
青木:ありがとうございました。
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