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“デザイナー3.0”こそ目指すべき姿?! 経営に関わるためのデザイナーのあり方とは(全6記事)

プロジェクトが成功するとハマってしまう「らしさの沼」 成長するブランドの中で「新しいこと」をする難しさ

東京都中小企業振興公社主催で開催される、最前線で活躍している講師からの実践的な学びを通じて、「デザイン経営」を推進する「人財」を育成する「デザイン経営スクール」。今回はそのプレセミナーとして行われた、クリエイティブユニットTENTの青木亮作氏と、ビジネスデザイナーの今井裕平氏による対談の模様をお届けします。本記事では、新しい製品を出すときにはまってしまう「らしさの沼」について語られました。

個人のエネルギーだけでいけるところには限界がある

今井裕平氏(以下、今井):世の中の言葉でいくと、「オーナーシップ」という言葉があるじゃないですか。オーナーシップと今青木さんが言われているのって近いというか、その通りですか? それともちょっと違うニュアンスが入っているような気もしたんですけど。

青木亮作氏(以下、青木):そこがわりと課題も含んでいるなと思っていて。僕は例えば先ほどの「フライパンジュウ」とか「DRAW A LINE」とかも、初期の立ち上げの時に、わりと個人的エネルギーがすごく注がれちゃっていると思うんですね。

先ほどの今井さんの資料でも、最後の10を100にするというところ。そのフェーズに来ると、個人と100がどう関わっていくかと言うと、どうしても個人の熱で行ける領域と、そこから先って、あるいは切り替えなきゃいけないのかもしれないところは、ずっと課題としてありますね。

おかげさまでいろんなプロジェクトがうまくいって、本当に愛用者も増えて、すごく応援していただいている良い状態な中で、ここから切り替えるか、あるいはこれをどうするか。

だから「オーナーシップ」という言葉も、僕はそういう作ったものを届けたいと思っているけど、見ようによっては「あの人がオーナーだ」みたいになっちゃうとしたら、メーカーさんからしたら、外にオーナーがいるっておかしいから、絶対間違っているんですよ。オーナーでは絶対ない。間違いないです。メーカーのオーナーがいるので。

その上でそういう、前にオンラインで「ソースはどこにある?」みたいな話をしたんですけど、そこで「オーナーシップ」という言葉は違うなと思いますし、じゃあソースなのかとか、じゃあソースが外にいていいのかとか、そこは課題な気がしますね。

今井:「ソース」というのは「源泉」という意味で使ってもいい?

青木:そうですね。最初の着想というか、最初にエネルギーをムダに注ぐ覚悟のある人を「ソース」と言っている本があって。仮にその言葉を拝借してソースという言葉を使うとして、すごく火が付いているその人がいたとして、それをチームにしていったり仕組みにしていくというのが、きっと必要なんだろうとは思いますね。

「土壌づくり」に必要なのは、判断軸を作ること

今井:聞いてみたかったのが、フライパンの時もそうですし、「熱意」があるじゃないですか。クライアントより熱意は自分のほうが大きかった。

青木:大きかった時もあります。

今井:ありますよね。その時って、ちょっとギャップが生まれたりとかして。

青木:しますね。

今井:こっちのほうが熱意があり過ぎて、なんていう表現がいいのかな、向こうがついてこれてないというか……。

青木:おかしなこととして、メーカーの担当者さんが良かれと思ってやったことに、僕が「そうじゃない」と言っちゃう状態が生まれるんですよね。こっちが熱意があり過ぎて。

でも本当はこっちが正解なわけじゃないわけですよ。そこで「こうじゃない?」「いや、こうじゃない?」というもみ合いでアウトプットすればいいところを、スタートがあんまりにも個人に寄っていると、そこでちょっとぶつかっちゃうようなことが起きちゃうなと思っていて、そこは僕は経ていまして(笑)。

今井:(笑)

青木:今はもうちょっとまろやかな、混ざることを良しとするというか、できればオーナーよりは、チームのムードに変換されていったほうが良くて。ムードというか、土壌作りにすごく貢献したほうが良いんです。

今井:確かに。

青木:土壌でよく言っているのが、判断軸をしっかり作ること。「この畑ではこれが育って、これが育たないんだよ」みたいな。そこを今は意識したいなと思っていますね。

ブランドの持つ「価値観」を都度都度確認する

今井:今の話は、クライアントワーク?

青木:クライアントワークでも継続しているお仕事に関しては、「STAN.」も「DRAW A LINE」も「フライパンジュウ」も継続して、「これからどうしていく?」というのは常に話しています。

そのたびに「このブランド、このチームは、こういうことを良しとするチームで、こういうことは良しとしないチームだよね」というのを、僕だけが決めるわけじゃなくて、みんなで都度話し合っている気がしています。

今井:具体例で挙げられたりします? 言えることと言えないことはありますけど。

青木:具体例とは?

今井:今のブランド3つの中で、「こういうのは土壌的にムードとして作ったかも」とか。

青木:具体例。うーん、難しいですね。すごくわかりやすい例で言うと、世の中に出る写真とかバナーとかいろいろあるじゃないですか。デザイナーとして「これはきれい」「きれいじゃない」とかいう話はもちろんあるんですけど、その一歩手前の、そのブランドはそういうバナーを作る価値観を持ったブランドかどうかもあるじゃないですか。

例えば端的に言うと、「大安売り」と書いたら、たぶん違うと思うんですよね、どれも。それは誰にだってわかるんですけど、一方で「DRAW A LINE」だったら、「DRAW A LINE」自身が「突っ張り棒です」と自分で言うのは違うんじゃないかなとか。

あと、どのブランドもそうなんですけど、自分で「便利」と言うのはちょっと違うんじゃないかとか、そういう感じを常に、いろんなものを一緒にやりながら、都度都度確認し合っているという感じはありますね。

プロジェクトが成功するとハマってしまう「らしさの沼」

今井:今のはどっちかと言うと、商品があって、それをどういうふうに伝えていくかという時の土壌じゃないですか。今やられているブランドの中で、「次の新製品はどうしよう?」っていう話の時の判断軸も、けっこう難しかったり。

青木:めちゃくちゃありますね。そこがどんどん難しくなっている気がしています。都度都度話して、試作までしてから、「これって出していいものなんだっけ?」みたいな話にどうしてもなっちゃうんですよね。「ブランドが成長していくと、その勢いが、明らかにすごく出しやすい状態ではなくなっていくんだな」という感覚はあります。

でも、一方で僕、「らしさの沼」と言っている話があって。成功したプロジェクトがあって、「次に何を作る?」となった時に、そのプロジェクトを世に出していいか悪いかとなったタイミングで、「それってウチらしいかな?」と誰かが言い出すんですよ。

そのアイデア、その製品の良し悪しじゃなくて、「いいのはわかったけど、これってウチらしいかな?」と。みんなが「え? ウチらしいって何だろう?」となって、「よし、じゃあウチらしさについて話し合おう」となって、製品が全部出なくなるんですよ。

今井:(笑)。

青木:すごくおかしくて。ブランドの立ち上げは、たまたま出したものが世の中とフィットしたからうまくいったのであって、自分たちが自分らしかったからうまくいったなんていうところは1ミリもないはずなのに。

ちょっと成功しちゃうと、「ウチらしくやれば次も成功できるんじゃないか」という誤解が生まれちゃって、そういうふうにハマっていっちゃうんです。僕も先ほど言っていた話は、若干「らしさの沼」も含んでいるので、いい状態でもないけど、バランスも必要だと思います。

「ガイドライン」は極力作らない

今井:でもトレードオフがありつつ、それをどう解消していくかみたいな話ですよね。

青木:はい。チャレンジングなことをどんどんやらないと、世の中との接点で成功するとかうまくいくようなことが生まれないので。内側で「らしい」とか「らしくない」とかばっかり言うのは良くないと思います。

今井:確かに。何か既存のものがあるから新しいもの(を作る)となった時に、自身のブランドを、否定まではいかなくても、どこかでそういうものがないと、結果、新しくなくなったり。

青木:そうですね。

今井:たぶん僕の場合、判断軸とか、呼び方によってはもうちょっとカチッとしたもので「ガイドライン」ってあるじゃないですか。

青木:はい、ありますね。

今井:ああいうものは、極力作らないようにしているんです。あれが必要なのはたぶん、相当組織が大きくなったら。そうじゃなかったら、クリエイティブディレクターが属人的に判断で決めるのかよいと思っています。

百歩譲って作るんだったら、1年とかまず動かして、動かした上での結果をまとめるのがお勧めって話をしているんです。

でも怖いのは、ガイドラインを作っても、ガイドラインからはみ出たところに価値があったら、それはやるべきじゃないですか。「ガイドラインを作ったからやらへん」って本当におかしいので。

青木:そうなんですよ、おかしいんですよね。

今井:なので、判断軸とか土壌の話もおもしろいなと思っていて。

青木:ガイドラインを作るとか、過去の自分たちらしさを参照するとかって、たぶん楽に安心したいからやっているだけかもしれなくて。「面倒くさいことをちゃんとやろうね」と決めるのが、一番大事なガイドラインかもしれないと、私はだんだん思えてきましたね。

今井:確かに。

クライアントのフェーズが変わったことを認識する

今井:これも聞いてみたかったんですけど、今の続きの話でいくと、ブランドで1つ目の商品が成功して、2番、3番とやるごとに、企画は難しくなっていません?

青木:なりますね。期待値が上がっていますし、難しくはなりますよね。(今井さんも)難しくなっていますか?

今井:いや、めっちゃなっています。

青木:(笑)。

今井:ただ、うちの場合は、1つ目でうまくいかんこともあるやろなと思っているんです。なので、3打席ぐらい立つつもりで1つ目の企画をしていたり、1つ目ダメでも2発目の球でなんとか盛り返せる時もあるので、その流れがある分には大丈夫な気がするんです。

でもそこから先となると一気に難しくなるし、結局初期を超えられないこともあったり。

青木:そうですよね。わかります(笑)。

今井:あとはクライアントが、初めはまったくBtoCをやっていなかったところから始まって、成果も出て、メディアとのやりとりもできるようになってと、クライアントのフェーズが変わっているのに、そのことを認識しないままコミュニケーションを取ってしまっていることもあるなと、話を聞いていて思いました。

青木:ああ、逆に。

今井:本来はものづくりの企業さんなので、作りたいし考えるのが好きなんやと思うんですよね。となると、今まで8ぐらいこっちで企画していたものも、分量を減らすとか。クライアントから出てきた企画を成功するように持っていくとか。

青木:そのほうがいいですよね。

今井:そうなんです。フェーズが変わったのもちゃんと理解をしてやらなきゃなと思っています。

青木:そうですね。

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