CLOSE

ヘッドウォータースの『V字回復の法則』(全4記事)

思い描く未来のために、売上8割を占める事業を「捨てる」 Pepperのアプリ開発企業が決めた、会社としての「覚悟」

株式会社鶴が主催する「BUSINESS DRIVEセミナー」より、株式会社ヘッドウォータース篠田庸介氏が登壇したセミナーの模様をお届けします。「Pepper」のアプリ開発を行い、現在AIの分野で日本のトップを走り続けている株式会社ヘッドウォータースですが、上場前は大赤字を抱えていました。なぜV字回復を達成することができたのか、今井達也氏のモデレートのもと、その背景が語られました。本記事では、上場への向き合い方や「捨てる」覚悟について語られました。

世の中を変える「テクノロジー」に残りの人生をかける

今井達也氏(以下、今井):みなさんこんにちは。株式会社鶴の今井と申します。どうぞよろしくお願いいたします。本日は「1年で利益マイナス1億が黒字転換! Headwatersの『V字回復の法則』」のセミナーを行いたいと思います。よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

本日のテーマなんですけれども、5つございます。まず1つ目に「売上8割の事業を捨てる覚悟」。2つ目が「底なしの赤字を逆転させる正しいこと」。そして3番目が「『うちか、うちじゃないか』の採用手法」。そして4番目が「“人として美しい”が評価される評価制度」。

最後に特別編として、アンケートに答えていただいた方のみご視聴いただける「『全員経営! 日本独自のティール組織』とは」という、この5つのテーマで行いたいと思っております。

このセミナーの目的ですが、我々登壇者も共にこの時間の学びを深めて、そして実践していく。そのためにこのセミナーをやっております。みなさんがいろいろ良くすることで最終的に日本が良くなっていく。そんなセミナーになったらいいなと思いながら作っております。

ではさっそくゲストのご紹介です。株式会社ヘッドウォータース 代表取締役 篠田庸介さんです。どうぞご登壇ください。

(会場拍手)

今井:今日はお時間をいただきありがとうございます。

篠田庸介氏(以下、篠田):こちらこそありがとうございます。

今井:簡単に自己紹介をお願いできますか?

篠田:はい。私は株式会社ヘッドウォータースという会社で代表を務めております。こちらは私1人から立ち上げた会社なんですけれども、会社経営自体はこの会社を含めて、過去何社か創業社長ということで経営しております。

20年ぐらい前に、やはりテクノロジーが世界を変えていくだろうと非常に強く感じまして。今までいろんな営業的な事業とか不動産とかもやって、それはそれで儲かるとは思うんですけど、やはり自分の残りの人生を何に賭けるかと考えた時に、テクノロジーを中心に事業を考えていきたいということで、現在このヘッドウォータースという会社を設立しました。

独自の考え方とかユニークな取り組みとか、誰もやったことがないことが大好きで、そういうことをずっとこの20年ぐらい、事業としては取り組んでまいりました。

Pepperのアプリケーション開発を担当

今井:ありがとうございます。特に転機になったのが「Pepper」。みなさんご存じかもしれないですけど、それこそ一大ブームが起きた、あのPepperのアプリケーションの部分を作っていらっしゃったんですよね。

篠田:そうですね。先ほど申し上げた通り、テクノロジーで世の中を変えていこう、エンジニアが中心となって新しい価値とか文化を生み出して、世の中に発信していこうということで作った会社なものですから、前半の10年ぐらいはシステム開発の受託を中心にしながらちょっと稼いだらそれを全部つぎ込んで新しい事業、ちょっと稼いだらつぎ込んで新しい事業(を繰り返していました)。

僕は新しいもの好きで、「新しいもの萌え」みたいな部分があるので、儲かる・儲からないはだいたいいつも一回横に置いておくんですよ。なんとか儲けて生き残るということは考えるんですけど、「儲かる・儲からないって誰もわからない」ということで、誰もやらないことをやった。

結果最初の10年は、(新しい事業が)ほぼ市場の形成から3歩ぐらい早いものなので、上手くいかない事が多かったです。

エンジニアたちが「これはいけるんじゃないか」とか、「このテクノロジーを使ってみたい」とか、「これが来るだろう」って(話しているものが)、来るんですけど、我々が事業をやった10年後ぐらいに来るんです。なので、(私たちの事業は)早すぎてだいたい上手くいかない。

2014年に「ロボットアプリ制作サービス開始」ということで、みなさんもご存じのPepperというロボットにたまたまご縁があって、Pepperにいろんな仕事をさせるためのアプリケーション開発を、他社に先んじて取り組む機会をいただきました。

結果的に独占でもないですけど、市場シェアのかなりの部分を我々がアプリケーション提供するところから入りました。

ロボットに仕事をさせるために、もっとロボットを賢くしないといけないので、世界中のAIを検証して、ロボットにつなぎました。そしてマイクとかセンサーとかいろんなものをロボットと組み合わせて、例えばファストフード店の会計をロボットがやったり、大きなショッピングモールで、スマホとロボットが連動しながら、スマホの中に「この道に行けばこの店がありますよ」みたいなことを飛ばして道案内をしたり。こういったものを世界でも先駆けて取り組んでおりました。

人が使って、誰かが幸せにならないものは、事業にはならない

篠田:当時、世界でPepperほどの人型のロボットが世の中で仕事をしていることが日本以外になかったものですから、すごくちっちゃなマーケットなんですけど、世界のトップランナーになりました。

そこに完全に振り切って、AI(人工知能)、ロボット、そしてそれらを構成するセンサーとか、ちょっと前の流行りで言うとインターネットにつないだIoTのデバイスとか、これを巧みに使いながら、日本のトップランナーとしてソリューションの提供をやり始めたのが2014年ぐらいです。

今井:ありがとうございます。すごい会社さんです。それこそ今言われたのが(スライドの)こういったところですね。センサーを使って。ちょっとPepperくんが見えにくいんですけど(笑)。いろんな先進的な事例とか、実証実験とかそういったものをやっていらっしゃるんですね。

篠田:5~6年前だと、やはり実証実験が多かったですね。「AIをどう使ったらいいんだろう?」とか、「IoTのデバイスってどうやって活用するといいんだろう?」みたいなことがよくあったので、実証実験が多かったんですけど。(今は)もはや実証実験とか言っている場合ではなくて。

本当に人が使って、誰かが幸せにならないものは、事業にはならないしビジネスではないと思うんですね。これは我々がすでに提供している事例なんですけど、我々の大きなテーマはAIとかIoTという最新のテクノロジーを使って、社会の在り方を変えていくこと。よくキーワードで「スマートシティ」とか「スーパーシティ」とかを政府が提唱しているんですけど、ここに必要な機能を我々は次々に今作り続けています。

今井:ありがとうございます。AIでは本当に日本ではトップランナーの会社さんですよね。

初値11.9倍で、東証の過去歴史上1の記録を樹立

今井:今それこそ、この後ちょっとヘッドウォータースさんの偉業なんですけれども、上場した時の初値が11.9倍という日本記録を持っていたり。

あとみなさん最近話題の「ChatGPT」はご存じかと思うんですけども、2022年の11月ぐらいに出てから、ヘッドウォータースさんもいろんな連携のサービスを出したことで、一気に株価が5倍に上がったんですよね。

篠田:そうですね。これは一応11.9倍というのはちょうどコロナの時期です。一応東証の記録なんですけど、「証券会社がもうちょっと高く、最初から出させてくれたら11.9倍じゃなかったのに」みたいな気持ちも多少ありつつ、一応ネタとしては東証の過去歴史上の記録を持っています。初値が11.9倍。これが1つあるということ。

あと、この2年ぐらい市況があまり良くなかったので、株主のみなさまにはものすごく心配をかけたんです。非常に株価が低迷した時期がありまして。

ただ、未来の方向性とかやっていることは着実に積み上げていたので、いくつかのChatGPT的なものも含めて、テクノロジーがある一線を越えたタイミングで、我々はその中心にいる会社として評価いただきました。最近は株価も、我々の実力とか期待値とか未来で言うとまだまだですが、なんとかこのぐらいまでは戻しているという状態でございます。

今井:ありがとうございます。事前に篠田さんからお話をうかがった時に言われたんですけど、「やっと時代がちゃんと正しく追いついてきたな」という。今はそんな感じですか(笑)?

篠田:そうですね。いつも早すぎておもしろいことばっかりやっているので、この歳になってやっと「時代に合わせる」という能力がついてきたかなという気がします。

今井:ありがとうございます。

売上8割の事業を捨てる覚悟

今井:いろいろお話を事前におうかがいする中で、僕が篠田さんに抱いた印象が、紳士的ですごくフェアで、本当に真っすぐな方だなと。

あと、ここぞという時にある意味剛腕というか、すばらしい力を持って、「こっちのほうに行くんだ!」という、この力強さみたいなのが合わさっている方だなと思っていて。そこらへんの魅力を今日はお伝えできればなと思っております。

あらためまして、(私の自己紹介をします)。株式会社鶴の今井と申します。今回は「BUSINESS DRIVEセミナー」なんですが、うちのサービスとして今やっているのが「BUSINESS DRIVE」といいます。

会社さんに必要な仕組みを自分たちで作って、それを運用するSaaS型のサービスとコンサルティングで、人を育てていくような環境を作っていくサービスをやっております。

さっそく今日のテーマなんですけれども、全部を通して言えることとが「思想の体現」。先ほども「人生を賭けて」と篠田さんが言われていたと思うんですけども、後にも出てきます。「人として美しく生きるためにはどうすればいいのか」ということが、すべてのテーマに刺さっているような感じになっています。

1つ、「思想の体現をしていくことが大事なんだ」ということを念頭に置いていただければなと思います。

それではまず1個目のテーマからですね。「売上8割の事業を捨てる覚悟」というところから入りたいと思います。2014年から2015年にPepperをリリースされて、そして2022年までいろんなサービスを提供されているんですけれども、やはり2014年、2015年は、先ほどお伝えしたように転機になられたのかなと思います。

1つは先ほど言ったPepperによって、AIやロボティクスのノウハウが蓄積されたこと。あと、これは事前におうかがいしたんですけれども、篠田さんの周りのご友人とか知り合いの人たちが、リーマン・ショックの影響を受けて。

そこから立ち上がって上場する会社さんが増えてきて、上場するハードルがわりとだいぶ下がってきたり、リスクがだいぶ少なくなってきたりという状況だったので、「これは会社としてのビジョンを達成するために、戦略的に上場したほうがいいだろう」という決断に至ったと。

上場は手段であり、本来の目的は「こういう世界を作りたい」

今井:じゃあ上場するためにどうすればいいかと考えた時に、中途半端はやはりダメなので、完全に今あるロボティクスとかに全振りしようとされて、本来売上の80パーセントを占めていたSES、要はエンジニアの派遣をすることで売上を立てていたんですけど、その事業を閉めてロボティクスやAI・IoTに全振りされたという。

こんな大胆なことを決められたんですけれども、なぜこんな大胆なことを決めることができたのか、ちょっとお聞かせいただければうれしいんですけど。

篠田:まず前提に、僕がいつも思っているのが、市場もテクノロジーも変化する。それに伴って、組織とか事業が同じままで積み重ねていけるかというと、この時代はあんまりないと思うんですね。

30年前とか50年前だったら、同じものを積み重ねていくことが安全安心なんだと思うのですが、変わらないほうがリスクがあるということが1つ。そのため、変化することに対して一切の躊躇とか恐怖が僕にはない、ということが前提にあります。

これは上場のためというわけでもないのですが、一番大事なことは、「こういう世界、こういう未来を作りたい」ということがあって、このための手段で「上場」を採るのがいいだろうと。

上場については、精神的・心理的なハードルは周りの方の事例を身近に見ることによって下がったので、「戦略の中に上場というものは日常的に普通にあるな」という実感があったということが1つ。

そして上場する時(に考えたこと)は何かと言うと、会社が儲かるとか人が豊かになるということの前に、「社会を巻き込む」ということに責任を持ちすばらしい事業を作って、会社を必ず成長させて社会に貢献するんだと。

そのために世界中からお金も集めるし、多くの株主も含めて協力者を仰いでいる。その責任を背負う覚悟はありますか? ということが最大の要因だと思うので。それを決めたからには、自分の責任とかやらなければならならないことがあるので、これを考えると「中途半端はダメだろう」ということが1つあると思います。

未来を変えていくために「何かを捨てる」決断

篠田:その中で「何かを捨てる」ということが実は一番大事だと思っています。人間っていろんなものに分散すると、本来やりたいことに対して集中できないですよね。そのため、ヘッドウォータースがどういう会社になろうかということを考えた時に、我々はテクノロジーで未来を変えていく会社なので、そこに一直線につながる仕事(をしようと)。

当然事業ですから、生き残る、成長することは大事なのですが、とにかく我々が思い描く未来、そしてこのタイミングで言えばAI・IoT、ロボティクスの分野にとにかく全力で振り切る。勝ち負けはそれが正しければ必ず伸びるはずだということを決めてスタートしました。

SESの事業を閉めるというよりは、SESはSESですばらしい事業だと思うのですが、全員から「我々が元々やりたい事業はこれ、作りたい未来はこれ」ということはオーソライズ(公認)が取れているので、「全員ここに集中しよう」ということで(それ以外の事業を閉めました)。これも儲かる・儲からないはちょっと置いておいて......。

今井:(笑)。そこがすごいですよね(笑)。

篠田:思想的に自分たちが思っている正しいところに進んだ、ということだと思いますね。

今井:ありがとうございます。そういった意味で、ビジョンだったり自分たちが叶えたい世界観のための手段として、上場もそうだし、AI・IoTやロボティクスに全振りをされて、実際に決断されて進んだということですね。ありがとうございます。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 今までとこれからで、エンジニアに求められる「スキル」の違い AI時代のエンジニアの未来と生存戦略のカギとは

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!