法事用弁当の受付ミスを謝罪に行ったら、まさかのおせち受注

坂東孝浩氏(以下、坂東):おふくろさん弁当の話が出てきました。規則も命令もないし、きっと髪型や服装も自由ですよね。

岸浪龍氏(以下、岸浪):もちろん。

坂東:「今日は疲れたから」という理由で休んでいい。ミスしても怒られない。お弁当の配達ミスもあったりする。

武井浩三氏(以下、武井):(笑)。これはお客さんから何と言われるんですか?

岸浪:ミスしたくないんですけどね。したくてやっているわけじゃないですよ(笑)。

坂東:何回もミスしていると、お客さんから「今日、大丈夫だよね」と確認の電話がかかってきたりするって。

岸浪:こんな話をしていいのかわからないですが、この間法事のお弁当の注文を受けたんですよね。こっちの受付のミスで抜けちゃっていたんですよ。

坂東:法事、大事じゃないですか?

岸浪:法事の弁当が抜けるって、めちゃくちゃ怒られるじゃないですか。

坂東:めちゃくちゃ、というか申し訳ないよね。

岸浪:本当にそれは申し訳ないです。僕らも法事にはおいしいお弁当を届けたかったし、そのことで本当にいい法事になってほしかった。

坂東:そうですよ。

岸浪:そのことはめちゃくちゃ反省するし、二度と起こらないようにしたいとはすごく思ったんですが、その時点ではもう起こっちゃったわけですよね。そのことは謝りに行くしかないし、「すみませんでした」と言うしかない。

ヨシダさんという、ちょっと年配のスタッフが「じゃあ僕が行ってくるよ。ちょっと話をして謝ってくるね」と言って出掛けていったんです。何時間かして帰ってきて、「おかえり。大丈夫だった?」と聞いたら、「うん。なんかね、おせちの注文をもらったんだ」と言ったんです。

坂東:なんで?(笑)。

岸浪:「本当に申し訳なかった。本当にいいものを作りたかったんだ」というのを、たぶん真剣に伝えてきた。

坂東:なるほど。

岸浪:人と人ですからミスしちゃうこともあるし、もちろんそれを良しとしているわけじゃないですが、こうなってしまったというのは本当に申し訳なかったと伝えていく中で、最初はそのお客さんもけっこう怒っていたみたいなんですが、「本当に真剣に向き合っているんだな」とたぶん感じてくれたんじゃないかな。

どういう流れかは知らないですが、おせちの話になったらしくて、「じゃあ、おせちを頼むわ」と言って、注文してくれたと言っていました。

仕事が「自分のこと」になることの重要性

岸浪:本当にどこまでも人と人でいきたいなというか、自分たちもミスがあったりするんですが、ミスなくその人のことを思いながらやりたいとは思っている。

働いているスタッフがそういう心持ちというか状態になるのは、雇われていたらならないと思うんですよね。そのお店のことが本当に自分のことになっているスタッフが行ったから、お客さんにも伝わったんじゃないかなと思っています。

スタッフが自分のこととしてお客さんと向き合えるのは、その会社やお店を本当に自分が愛していたり大事に思っているから。自分が大切にしている会社やお店、または一緒に働いているメンバーから本当に大切にされていることが、その人のそういう心の状態になっていくんじゃないかなと思う。

だから僕らは、例えば「疲れたという理由で休んでいい」と話したりすると、わりと「そういう権利があるんですね」と受け取るんです。これも不思議で、「権利と義務」の頭になっているんですよ。

坂東:なるほど。

武井:わかる。

岸浪:洗脳の一種みたいな感じ。

武井:「自由と責任」みたいなね。

岸浪:そう。「こうしていいよ」と言うと、「そうしていいって言ったじゃないですか」「休んでいいって言ったじゃないですか」みたいな。それが権利になる時点で、権利を持っているほうが上で、権利を主張されるほうが下という上下関係になるので、人と人じゃなくなっちゃうんですよね。

だから、例えば「休みたい時は休みたい」と安心して言えるし、シフトを見ていたり製造管理をしているスタッフは、「そうか。休みたいんだね」とまずはその人の気持ちを受けて、「今日はお弁当がこのくらいあって、ぜひ君には出てきてほしいんだ」とか「今日は余裕があるから休んでも大丈夫だよ」と言える。「それでも来てほしいよ」というのも言える。

上下関係がなかったら、本当にお互いに「こうしてほしい」「こうしたい」と言うだけでいけるんじゃないかなと思っている。

武井:わかる。超わかる。

岸浪:例えば、「今日は休みたい」と言った人も、ふだんから自分の意見というか気持ちを本当に大切にしてもらっていたら、「今日はできたら来てほしいな」という言葉を聞くと、「だったら行こうかな」と気持ちはわりとコロコロ変わるんですよ。

坂東:(笑)。「やっぱ行くわ」みたいな。

岸浪:「それでも行かない。今日は行きたくない」と言って弁当ができなかったら、それはそれでしょうがないので、「今日はこれだけしか弁当ができませんでした」と言うだけです。本当にフラットな人と人、上下のない、気持ちと気持ちだけで運営していくことをやってみたいなと思っているんですよね。

「よくがんばっているように見える」ことを理由にクビに

坂東:なるほど。「会社が社員の気持ちを大切にする」じゃなくて、「お互いにお互いの気持ちを大切にしようね」ということですかね。

岸浪:そうですね。

坂東:いわゆるサーバントリーダーシップみたいな、「マネジメントサイドやリーダーは社員に奉仕しよう」という一方通行じゃないと。

岸浪:そうなんですよ。最初にやり始めた時は、僕がそういうみんなの気持ちを受けて上手に回すみたいにやっていたんですが、2018年1月に他のスタッフから「龍くん、1回お弁当屋さんを辞めたほうがいいんじゃない? よくがんばっているように見える」と言われたんです。

坂東:がんばっているように見える? それはダメなんですか?

岸浪:「『がんばらなくていいよ』とみんなに言っているのに、『じゃあ休みたい』『こうしたい』というのを受けて、なんとかするのをわりとがんばっているんじゃない?」と周りの人に言われて。クビになったんですよ。

坂東:え、クビに?

武井:(笑)。

岸浪:(笑)。若い子たちが「一回手放してみて。僕たちがやっておくから、龍くんはちょっとゆっくりしたら?」みたいな。

坂東:何ですか、それ。

岸浪:本当に人と人でがんばり合わない。縛り合わない。そういう会社をやりたいと思ってきて、もちろん本の内容どおりやっていたんですが、自己犠牲とまでは言わないですけど、自分が背伸びしてがんばって、「みんなが幸せに働けるように」というのを無意識にやっていた。

周りのみんなからは、「龍くん、ちょっとがんばっているんじゃないの?」と見えていたみたいなんですよ。社長係だから周りが言わないとかじゃなくて、「見ていてこう思うよ」とみんなが言ってくれて、自分が気づかなかったところを気づかせてくれる。

坂東:その時はどう思ったんですか?

岸浪:その時はね、「こんなにがんばってきたのに」。

坂東:いや、でしょうね。

岸浪:「みんなが認めてくれない」ってけっこういじけたんですよ(笑)。

でも、その反応を自分で見た時に、やはり「こんなにがんばってきたのに」というのが出てくるわけです。

「みんなで本当にがんばらないでやれる会社を作ろう」と言っているのに、「こんなにがんばってきたのに認めてくれないのかよ」というのが出てきて、「やっぱりがんばっているんじゃん」となっていく。だから、経営もその時点で一切手放しました。なんか、ほっとしている自分がいるんですよね。

坂東:そうなんだ。

岸浪:「月末の支払いを心配しなくていい」という感じがふっと出てきた時に、「やっぱりがんばっていたやん」「これを周りのみんなが見ていて、『ちょっとがんばっているんじゃない?』と見えていたんだ」と思った。

2種類の「がんばる」

岸浪:やっぱり、がんばっている人がいるとやりづらいですよね。

坂東:そういう空気も出ちゃいますよね。

岸浪:そうそう。知らず知らずのうちに、「自分はこんなにがんばっているのに、あいつは何だよ」となる。

坂東:ちょっと毛穴からにじんじゃうみたいな。

岸浪:そうそう。そういう感じがあってみんなにクビにされた(笑)。

坂東:(笑)。なかなかすごいことですね。チャットにも書かれましたけど、「がんばっているからクビ」ってね。でも、誰かががんばらないと成果が上がらないというか、維持できないよねって私も思っちゃいます。

それから、さっき画面(スライド)でも出したんですが、「できるだけがんばらなくていい」「縛り合わなくていい」のに、利益率が非常に高い。営業効率、利益効率も高い。

これはなんでですか? がんばっている人からしたら「え?」ってなるじゃないですか。

岸浪:「がんばる」という中身もあると思うんですが、ここで僕が使っている「がんばる」は、何かに縛られて動いているとか、「がんばる」をしなければならないとか、「こうあるべき」という状態で動いている。外からの価値観で動いてがんばっている。

坂東:なるほど。強いられるということですね。

岸浪:そう。強いられる状態でがんばっているのと、本当にそういうのがない状態で「自分がこうしたい」と自分の内側からだけ出てくるもので一生懸命やる「がんばる」もたぶんあると思うんですね。言葉は一緒なんだけど、完全に質が違う。

坂東:そうか。

岸浪:だから本当に何にも縛られない、強制されない状態で、自分の内側から出てくるもんでがんばる分にはどんだけでもがんばったらいいと思うんですけど。

坂東:そうか、そうか。

岸浪:人を責めたりしないですから。そういう場合は。

坂東:そうっすね。「俺はこんなにがんばってんのに」がないですもんね。やりたくてやってると。

岸浪:やりたくてやってるから、周りがどうでもあんまり影響を受けないというか。

坂東:毎朝10キロメートルとかランニングしてる人がいて、はたから見ると「すっごいがんばってるよね」って思うけど、その人は走りたくて走ってるんだと。

岸浪:そうそう。走らなきゃいけないとかじゃなくてね。お互いがそういう感じになって会社を運営していくと、ものすごいパワーが出るんですよ。

坂東:なるほど。それは出そうな気がします。