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【手放すTALK LIVE#35】「規則も命令も上司も責任もない!」 のに業績が伸びるひみつ ゲスト: おふくろさん弁当前社長係 岸浪龍(全6記事)

家族的な暮らしに強く共鳴したのに、実際に始めると「不仲」に 本気で理想を求めて集う人たちが衝突する原因

管理しない組織や上司がいない会社、給料を自分たちで決める会社など、ユニークな進化型組織を調査する「手放す経営ラボラトリー」。同ラボが主催するイベント「手放すTALK LIVE」に、一風変わった経営スタイルが注目される「おふくろさん弁当」(三重県鈴鹿市)の「前社長係」岸浪龍氏がゲスト出演。社会活動家の武井浩三氏やラボ所長の坂東孝浩氏を相手に、「家族のような暮らし」に共鳴して集まっているのにコミュニティ内の仲が悪くなる理由などを語りました。

精神的な安心を阻害するもの

坂東孝浩氏(以下、坂東):さっき幸せになるためのキーワードは「安心」と言われていて、要するに安心を担保できることが幸せ度につながっていくということですよね。

岸浪龍氏(以下、岸浪):そうですね。1つの要素かもしれないですね。

坂東孝浩氏(以下、坂東):その安心は、安心して生活できるというか、何かあっても助け合えるとか。

岸浪:そうですね。物理的な安心だけでは独立性はたぶんなくて、精神的な安心がやはりベースにあって、表れとして物理的な安心につながってくるんじゃないかなと思います。

坂東:なるほど。精神的な安心について、もうちょっと教えてもらってもいいですか。

岸浪:そうですね。例えば、よく会社経営でも言われますが、会社の中で本当に安心が担保されているかとかね。会議で何を言っても責められたり攻撃されないとか、そういう中で人は伸び伸びと能力を発揮していくんじゃないかなと思っています。

やっぱり「こうしなければならない」「こうするべきだ」というのがあると、人を責めたり、自分が「こうするべきだ」と思っていることと違うことをした人を否定的に見たりとか。そういうことが無意識に発生しちゃうと思うんです。それが精神的な安心を担保できなくなる大きな原因じゃないかなと考えている。

坂東:確かに。

岸浪:僕たちは「こうしなければならない」「こうするべきだ」というのは手放していくことにけっこう比重を置いてやっています。

例えば「仕事に行かなければならない」「仕事だからやらなきゃいけない」とかも、是か否かは置いておいて、手放せるかどうか。自分の価値観とぜんぜん違う意見を他の人が発した時に、そのことを本当に受け入れられる状態かをみんなでトレーニングしながら暮らしている。そういう感じですかね。会社経営でもそういう感じですが。

坂東:トレーニングしながらなんですね。

岸浪:そうですね。例えば「約束は守らなきゃいけない」というのは、洗脳されているんですよ。

坂東:いや、されていますよ。「時間に遅れてはいけない」とかね。

岸浪:そうそう。「時間に遅れちゃいけない」「約束は守らなきゃいけない」「仕事だったら嫌でもやらなきゃいけない」とか。

坂東:そうですね。「会社のためにがんばらなきゃいけない」とか。

岸浪:「がんばらなきゃいけない」「人に迷惑を掛けてはいけない」とか、そういうことで自分を縛って人も縛る。そのことが精神的な安心を阻害しているんじゃないかなと考えていて、そこをみんなでまず手放していこうとやっている感じです。

家族のような暮らしを理想とするのに、仲が悪くなる理由

坂東:さっきトレーニングと言われましたが、意識して何かをやっているんですね。

岸浪:そうですね。僕たちは、「本当に仲良く家族のように暮らしていきたいね」と言って2001年くらいからちょっとずつやり始めたんですが、めっちゃ仲が悪くなるんですよ(笑)。

武井浩三氏(以下、武井):(笑)。

坂東:そういう理想を掲げているはずなのにね。

岸浪:そう。さらにそういう理想に共鳴して、全国から引っ越してきたり移住してきたりするくらい本気な人たちが集まっているのに、いざやり始めるとめちゃめちゃ仲が悪くなるんです。

坂東:うまくいかないんですね。

岸浪:最初の頃にやった保育園は、今まで保育に従事してきた人もけっこういて、「こうするべきじゃない」「この場面で子どもにこんなことを言うべきじゃない」とか。

坂東:確かに、言いそう。

武井:信念があるんですね。

岸浪:そうそう。そういうのがいっぱい出てきて、だんだん「もうあの人とはやりたくない」「もう口も聞きたくない」「目も合わせたくない」というところまでいくんですよね。

坂東:みんなこだわりがあるから、理想があるからこそですよね。

岸浪:そう。その理想が正しいか、間違っているかとか、すぐそっちの話になる。それで、「もうあの人とは合わない」という感じで、こういう活動を始めた最初の時にものすごくテーマになっちゃったんです。そこをどう越えていったらいいんだということが最初の課題。

思い込みを手放す練習

岸浪:みんなで、どうしたものかと考えた。研究していく中で、例えば「仕事だったらやらなきゃいけない。時間に遅れちゃいけない」というのは、「なんでそう思うようになっているの?」と。

武井:すごい。アンラーニング。

岸浪:ふだん暮らしていると「そんなの当たり前やろ」という感じで、「なんでそう思うようになっているんだっけ?」というところに疑いが入らないんですよね。

坂東:当たり前すぎてですね。

岸浪:でも「その根拠は何?」と聞かれると、「そういうことになっているから」という感じであまりよくわからないですよね。

それが良いか悪いかは別にして、「そう思い込んでいる」ということじゃないかなというので、「自分がなんでそう思うようになったか」「それは本当にそうなんだろうか」ということを丁寧に内省していく。そういうトレーニングというか、学ぶ場を自分たちで作った。手放していく練習をずっとやっています。

坂東:なるほどね。やはり、それがけっこうポイントですよね。

岸浪:そうですね。僕らも「ここがポイントだな」と見えてくるまでに数年かかっています。それをまた学び合って、自分たちの中に落とし込んでいって手放していくことに、また数年かかっているんですよね。

もちろん今も続けているんですが、そうしたら「時間に遅れちゃいけないというのは自分が思っているのか」「自分がそういう価値観を持っているんだな」と気づいていく。そう思っていない人もいるわけじゃないですか。

坂東:そうですね。

岸浪:そう思っていない人もそう思っている人も、「そう思っている」ということでいったら平等というか。

坂東:確かに。どっちが正しいとか偉いとかじゃないということですね。

岸浪:そうそう、ない。

坂東:すごいですね。

岸浪:お互いに「こっちが正義だ」ということじゃなくて、「じゃあどうする?」とフラットに話ができるようにしていきたいなと思って、みんなで日々そういう練習をしながら暮らしている感じですかね。

おふくろさん弁当のティール組織型の運営もそこがベースになっている。上下で縛り合ったり、「こうするべき」「こうあるべき」「こういうのが正しい」ということを持ち込まないで経営してみようというのがチャレンジスタイルの1つなんですけどね。

「何でも話をしていいよ」というトラップ

武井:やはり偉い、偉くないというのがあった時点で、心理的安全性なんてないですから。「おかしなことを言うな」という話。

岸浪:そうですよね(笑)。

武井:なんできょうだい喧嘩や夫婦喧嘩がすごく激化しちゃうかと言うと、どっちが偉いとかがないから言いたいことを言えちゃうわけなんですよね。激しく言い合うことが悪いとかじゃなくて、「こいつのほうが偉い」「こいつのほうが力がある」という立場の前提を丸ごとなくすことが本当のフェアネスだと思うんです。

だから、俺は「ヒエラルキー組織で心理的安全性を高める。ああだこうだ」と言っている時点で、「何を言っちゃっているの」と。

岸浪:そうですね。

坂東:「ああだこうだ」と言っちゃったけどね(笑)。

武井:「そんなことをする前に、まず上下関係をなくしなさいよ」と。

坂東:今日の話で言ったらそこですよね。

岸浪:そうですね。新入社員に「何でも話をしていいよ」と言って、何でも話をすると怒られるというのはいつものパターンですものね。

坂東:そうそう。トラップが仕掛けてありますからね。

岸浪:そして、みんな人に対しての警戒心がどんどん強まっていく。

坂東:ファイティングポーズになっていきますよね。

企業が学生に髪色やピン留めの位置を意識させる意図

武井:あと、見た目もそうですよね。俺は音楽もやっていたので、やはり若い時から髪の毛を染めたい、色を変えたい、派手な格好をしたいとかあるのに、高校生でアルバイトをするとなると黒髪じゃないといけないとか、ピアスはつけていたらダメとか、「それ、仕事と何の関係があるんですか?」と本当に理解できなかった。

坂東:(笑)。

岸浪:そうですね。

武井:意味がわからない。だって、髪の毛の色なんか人種によってみんな違うじゃん。パーマはダメとか、「いやいや、ちょっと癖っ毛の子とか黒人さんとかどうするの?」という話で。

坂東:今でも大きな会社だと新人研修の時は講師も髪を黒く染めなきゃいけない。あとは、ある会社だと「マスクは白の不織布じゃないとダメ」と言って、色まで指定されている。

岸浪:なんで髪を黒に染めなきゃいけないんですか。

武井:バカだからじゃないですか?

坂東:「新人とはそうあるべき」……。ちょっと強いね(笑)。だから「べき」の話ですよね。「新人はこうあるべき」。

岸浪:黒いと何かいいことがあるんですか。

坂東:いやいや、それを言ったら最近の就活生はできるだけ個性をなくすように、髪のピン留めの位置まで一緒だったりしますよ。

岸浪:へえ。髪を黒く染めると作業が2倍速くなるとか、そういうのは特にないですよね。

坂東:それを言ったらおしまいだから。

岸浪:(笑)。

坂東:それについていけないから、昔、講師をやっていたり実習したりしたけど、私も新人研修は手放しました。

岸浪:例えば「髪の毛を黒くしたら心理的な効果があるのか」「いい影響があるのか」を研究しないんですかね。

武井:結果、企業側からすると「言うことを聞くやつらを採用したい」ということなんですよ。

岸浪:(笑)。そうかそうか。

武井:だから「こういう格好してこいよ」と言って、そのとおりのやつらを採るわけですよね。

岸浪:そうしたら企業力が伸びないじゃないですか。

武井:そうそう。言うことを聞くやつらを採用するくせに、「何か提案しろ」「自発的に考えろ」と押しつけてくるわけですよ。

坂東:「ブレイクスルーしろ」とかね。

武井:「新規事業を立ち上げろ」とか。

岸浪:それは若い子も「どっちをやったらいいんですか?」となりますよね(笑)。

武井:そう。だからもう壮大なギャグ。

坂東:「新規事業を立ち上げろ」と言いながら、「でも失敗は許さん」みたいなね。

武井:「社会貢献しろ」と言いつつ、「採算はどうなんだ?」という話をしてきたりね。

坂東:ギャグと思ったらおもしろいですね。

武井:いや、本当に(笑)。僕らはそういう世代で、過渡期を楽しむために今を生きているので。

坂東:そうか。それがテーマなんだな。

武井:だから批判してもしょうがないんで、「おもしろいな」と思ったほうがいいですよ。

坂東:そうですね。

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