個人と組織が信頼関係を持って進んでいくには

坪谷邦生氏(以下、坪谷):今回は「目標管理(MBO)とソース原理」というテーマでお話ししていきたいと思っています。まずは私から、目標管理について考えていることをお話しさせていただきます。

私は企業人事やその支援を行ってきましたが、個人と組織がどうやって信頼関係を持って一緒に進んでいけるかをずっと考えてきました。

その中で、目標管理に問題があるなと思うシーンがたくさんあったのですね。例えば、個人があえて低い目標を立ててしまうとか。組織との信頼関係がないので、元来自分がやろうと思っていることをごまかしながら会社に提出しなければならない。

人事制度のコンサルティングをしている中でも、仕組みではないところに、何か深い問題があると探究していったところ、ピーター・F.ドラッカーが1954年に『現代の経営(The Practice of Management)』で提唱したMBO(Management by Objectives and Self-control)に辿り着きました。「目標管理」とは、この「MBO」が日本で翻訳されて各企業に広がっていく中で定着した言葉です。

「目標管理」ですれ違う、個人と組織

坪谷:ドラッカー学会共同理事の佐藤等さんとのご縁があって、ドラッカーのMBO(目標管理)について考えていく中で、日本企業で起きているよくある誤解と、ドラッカーが伝えたかったMBOの違いが見えてきました。

  (坪谷邦生氏『図解 目標管理入門』2023年発売予定 より)

よくある誤解としては、MBOは「経営者と人事が管理するための人事制度」だと思われているのですが、MBOとは元来「マネジャーとすべての働く人が持つべき哲学」だとドラッカーは言っています。また「上から振ってきたノルマを目標にしなければならない」と誤解されているのですが、ドラッカーは「自分の果たすべき貢献を明らかにして目標とする」と主張しています。

「上司が管理するための目標を設定し、その達成度を評価して報酬につなげる」という人事制度になっている企業もよくありますが、ドラッカーは「自分の仕事を自分で測定して評価する」としています。

今の日本の目標管理では「目標は必ず数字にする」ということが原則のように語られていますが、ドラッカーや(「品質管理の父」と呼ばれたエドワーズ・)デミングは「真に重要なことは数字にならない」と言っているのです。

ドラッカーは哲学や物の見方・考え方を語っているのですが、日本ではMBOが目標管理として手法や制度・ツール論に落ちてしまって、そこから深められていない。そのあたりに問題の根本があるのではないかというのが、今、私に見えてきたところです。

1,000人に聞いた「目標管理はうまくいっているか?」

坪谷:その中で、「目標管理はうまくいっているか?」という質問を1,000人の方に市場調査させていただいたんですね。

(坪谷邦生氏『図解 目標管理入門』2023年発売予定 より)

実際に目標管理をしている方は1,000人中520人。その520人のうち、うまくいっている人は24パーセント。うまくいってない人が27パーセントでした。どちらとも言えない方は41パーセントですが、これもややネガティブな回答だと解釈するなら、24パーセントしかうまくいっていないと捉えることができます。

さらに「なぜうまくいっていると思うのか」「うまくいっていないと思うのか」という要因を聞いてみたところ、うまくいっている人は「見える化された環境と、適切な上司の支援のもと、目標に集中している」ことがわかりました。

(坪谷邦生氏『図解 目標管理入門』2023年発売予定 より)

おもしろかったのは、「成果が出ている」という声が多かったことです。フィードバックが返ってくる、目標が共有されている、上司の支援がある。そして、目標管理がうまくいっていると思っている人からは、一番下の評価/報酬の話はほとんど出てこないんです。

評価/報酬は衛生要因(仕事の不満に関わる要素)なので、うまくいってる人からすると気にならないのですね。動機づけ要因(仕事の満足度に関わる要素)しか出てこないということがわかりました。

うまくいっている人・そうでない人の違い

坪谷:一方、目標管理がうまくいっていない人の場合は逆でした。成果の話はほぼ出てきませんでした。そして評価や報酬の話が多く出てきます。「形骸化した仕組みと不明瞭な状況の中、上司と評価に不信感を持ち、表面的な低い目標を掲げる」という状態になっています。

(坪谷邦生氏『図解 目標管理入門』2023年発売予定 より)

うまくいっている人は仕事や目標に着目し、うまくいってない人は会社や上司、評価や報酬に着目していることが、この調査結果から分かったことです。ここまでのお話について、いかがでしょうか。

成果と目標管理は相関関係はあっても、因果関係はない

山田裕嗣氏(以下、山田):目標管理がうまくいっている人は成果が出ていることを喜び、うまくいってない人は、評価や報酬の仕組み側にすごくネガティブな感情を持つ。

大変わかりやすい整理だなと思ったんですけど、因果関係ではなさそうじゃないですか。成果が出ているから制度に不満がないということではない感じがしますよね。そこの関係を、坪谷さんがどう見られたのかをお聞きしたいです。

坪谷:相関関係であって因果関係ではないというのは、まさしくそのとおりです。目標管理がうまくいっているから成果が出ている可能性も、成果が出ているから目標管理がうまくいっていると感じる可能性も、どちらもあり得ます。

つまり「うまくいっている」と答えた24パーセントの人の中には、努力によって目標管理自体がうまくいっている方だけではなく、会社が儲かっていたり、業界自体がうまくいってるから、目標管理もうまくいっていると思えている人たちもいることでしょう。

成果が出ているから報酬/評価に着目する必要もなく、ご機嫌にやれている、ということです。そう考えると、目標管理自体が本質的にうまくいっている方は10パーセント、いや数パーセントくらいなのかもしれません。

目標管理への向き合い方で、組織は4タイプに分けられる

坪谷:この流れの中で、目標管理が「本質的にうまくいく」とはどういうことか、についてお話しさせてください。パナソニックやキリンビールで目標管理を推進してこられた、五十嵐英憲さんという方がいらっしゃいます。

私が人事コンサルタントになったばかりの時、目標管理のバイブルといえば五十嵐さんの『目標管理の本質』という著作でした。私もそこから多くを学ばせていただきました。

五十嵐さんは「目標管理には4つのタイプがある」と言います。縦軸が業績向上重視の「組織の幸せ」、横軸が人間性尊重で「働く人の幸せ」だとした時に、元来はどちらも高い右上の「葛藤克服型」を目指すべきだ、と。

(坪谷邦生氏『図解 目標管理入門』2023年発売予定 より)

業績が向上しつつ、人間性も尊重する「葛藤克服型」を目指すべきなのですが、これまで多くの日本企業は、左上の「ノルマ管理型」になってしまっている。つまり、業績向上は重視するけれども人間性尊重は低いという状態が、多くの日本企業が陥った目標管理です。

4タイプの中で、最悪の目標管理とは

坪谷:目標管理を業績向上の仕組みだと捉えている場合、会社がうまくいっている成長期以外は機能しないんです。低成長期には目標に追われて疲弊した組織になってしまう。

つまり、先ほどの「うちの会社はうまくいってるから、目標管理ができてる」と思っている24パーセントの人たちのうち、ノルマ管理型が多くを占めている可能性があるのです。

ノルマ管理型でも、高度経済成長期のように全体がうまくいってる間はいいんですよね。でも、業界や会社が低成長期になるとガタガタと崩れていく。最近はそこで崩れてきている日本企業がすごく多いんだと思います。

そういう時に何が起きるかというと、「人間性尊重ができてないからだ」という話になり、右下の「人間性偏重型」にシフトすることになります。

特に真面目なマネジャーほど、ノルマ管理型に陥らないように「とにかく傾聴しなければ」と思って、部下の言うことを聞きすぎて前に進めなくなり、ぬるま湯組織になってしまう。そして、業績向上の主体がどんどん薄れてしまうのです。

そして、4つのタイプの中で最悪なのは、業績向上と人間性尊重のどちらも低い「形式重視型」です。私が人事制度のコンサルタントとして関わった中でも、この形式重視型に陥ってしまっている企業は多くありました。状況が見えていない人事担当者や人事責任者の方が「いい仕事をしなければ」と思えば思うほど、本質を忘れた仕組みに走ってしまうのです。

「組織と個人の目指すところの統合」は知られざる課題

坪谷:私は「人事制度を作ってほしい」という形式重視型の組織からのご依頼は、お引き受けしないことにしています。人事制度自体は作ることができたとしても、実態にそぐわないため、どんどん現場は冷めていく。余計な仕事が増えて、非現実的なのに見直されないゾンビ目標が量産され、無気力組織になってしまうからです。

このように、五十嵐さんやMBOの本質がわかっている人たちの悩みは、元来は「葛藤克服型」を目指さなければならないということが、なかなか伝わらないことだと思います。組織と個人の目指すところをどう統合していくか、その悩み自体に、多くの人はなかなか到達しないからです。

ここからは私の主張ですが、(ティール組織のベースになった)アメリカの思想家のケン・ウィルバーが提唱する「インテグラル理論」の四象限(個の主観/客観、組織の主観/客観)で考えると、統合の思考を前進させることができると思ったんですね。

(坪谷邦生氏『図解 目標管理入門』2023年発売予定 より)

サブジェクティブズ(主観)とオブジェクティブズ(客観)を横軸にして、縦軸を個と組織にした時に、その真ん中に目標を置けば、スパイラルアップ(螺旋状に上昇)していけるのではないかと、思考を進めているところです。

「インテグラル理論」は嘉村さんたちが日本にティール組織という考え方を持ってきてくださってなかったら、私は知らなかった概念ですので、もうすごく感謝しています。

嘉村賢州氏(以下、嘉村):これは見事ですね。

坪谷:「主観に寄るべき、客観に寄るべき」という主張もあれば、「個に寄るべき、組織に寄るべき」という主張もある中で、重要なのは「すべての統合」であるという話ができるのは、目標管理やMBOでは初めてではないかと思っています。このあたりが今、私が考えていることですね。

「主役は現場」というティール組織の考え方

嘉村:おもしろいですね。ティール組織的な観点と、このあとお話しするソース原理的な観点の2つがあると思います。

まずティール組織的な観点では、(『ティール組織』著者の)フレデリック・ラルーは、「今までのマネジャーや上司の役割は3つある」と言っています。1つ目は、理想の状態を描いて共有すること。2つ目は、それが進んでいるかどうかをモニタリングすること。3つ目がズレなどを調整するフィードバックです。

誤解も多いところなのですが、ティール組織の場合、主に2つのパターンで違いを生み出していきます。1つは、現場で理想の状態をみんなで一緒に掲げて作るという話。みんなでモニタリングできる仕組みを導入し、相互にフィードバックしていきます。要は上司は一切置かずに、完全民主化するようなかたちで展開していくパターンですね。

もう1つが、あえて現場にマネジメントの機能を置くというものです。当然、現場は現場に埋没する可能性があるので、緩やかにマネジャーを残すというやり方です。そこでおもしろいのは、マネジャー側に命令権限や結果責任をあまり課さないことや、現場がマネジャーを選出する場合があることです。

つまり、主役は現場なんです。もともと「良い仕事をしたい」「この人たちと仕事がしたい」という関係性がある中で、自分が選んだわけではない上司に目標を設定され、さらに進捗管理をされる。

経営者が部長を指名し、課長を指名し、人を割り当てるという組織は、現場にとっては選択権がない中でベルトコンベア状態で働くような、主人公感覚がまったくない状態になってしまいます。

そこから主人公感覚を取り戻して、高い目標に向かってやっていく。ティールと聞くと、どうしてもぬるま湯とか「自由にしていいよ」と思われる方も多いのですが、そんなこともないんですね。

ティール組織は上意下達ではなく、使命に対して、自分たちが高いクオリティを発揮していくという仕組みを内包しているのですが、それがないと思われがちなんです。だから、今の坪谷さんのお話は、オレンジ組織でもグリーン組織でもティール組織でも通用する、根底にある考え方だと思いながら聞いていました。