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シリコンバレーからみたDX(全3記事)

ディーゼル車をアタッチメント1つでハイブリット車に 業界を技術で変える、世界のスタートアップDX企業

日本とシリコンバレーを繋ぐコンサルティング会社TOMORROW ACCESSでは、シリコンバレー発の業界エキスパートが最新情報を解説する「01 Expert Pitch」を開催しています。今回は「シリコンバレーからみたDX」をテーマに、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ加藤良太氏が登壇したピッチの模様を公開します。最終回の本記事では、加藤氏が注目するスタートアップ企業について語られました。

日本型DX企業が世界で勝つためには

小川:それではまたご質問いただいておりますので、お答えいただいてよろしいでしょうか。「現在の日本型DXの課題の本質は『困っていない』とのこと、納得です。一方AmazonやUberをはじめ、抜本的にビジネスモデルを変えた米国型DX企業が増えていくと、日本型DX企業は将来的には淘汰されてしまうのではと危機感を感じています。

登壇者のお二方は、将来的にどうなるとお考えでしょうか。日本企業は危機感が弱すぎて、気づいた時には手遅れになっていそうな気がしています」というご質問です。いかがでしょうか。

加藤:DXという観点で言うと、やっぱり日本ってどうしても出遅れた感があるというか、それは否めないと思うんですよね。Amazonも日本ですごく成長してますし。

とはいえ日本発のIT企業でがんばってるところもあるという話もそうですし、トヨタとか世界的な日系の企業というのも、中の人の優秀さとか見てるとそう簡単には負けないというか。現場力というか、彼ら現場の人たちの力とか見てると、このまますんなりと日本の企業が負けていっちゃうっていうほどの危機感は、私はまだ持ってないですね。

傍島:確かに。

加藤:もう少し言うと、デジタルっていう話は今が旬というか、今もう使える技術としてあると思うんですけど。このあと出てくる環境価値の世界だとか、脱炭素だとかいう世界に入ってくると、今投資すべき時期だと思うんですよね。

日系企業の、特にメーカーとかが多い中で、そういう投資にどれぐらい国を挙げて力を入れられるかとか。そういうのによっては……デジタルも1つの手段でしかないので、次くるのってやっぱりどうしてもそういう環境系の話とか。そういうところに使う力を今入れていくと、5年後、10年後に勝てるようになってくるのかなと思います。

日本は「オペレーションをいかに無駄なくやるか」が強い

傍島:まだまだチャンスありますよね。そもそもトヨタさんのカンバン方式とかじゃないですけど、オペレーションをいかに無駄なくやるかみたいなことは日本の人たち・企業さん、強いですからね。

それを便利なツールを使ってもっと良くしましょうっていうことなので。あんまりツールの部分だけで「日本が淘汰されるか」みたいな感じは、確かにないかもなぁという感じはしますよね。あくまでツールはツールだ、みたいなことで。

特にアメリカの企業とかって合理的なので、便利なものがあったらなんでもポイポイ使うんですよね。歯ブラシも「これ使いやすいからいいじゃん」ってちょっと使って、みたいな話ですけど(笑)。合理的ですからね。でも日本は日本で良いことがすごくあるので、まだまだがんばらなきゃいけないですね。

加藤:危機感を持たなきゃいけないっていうのは本当に事実で。

傍島:がんばりましょう、ということで。

小川:ありがとうございました。それでは続いてのスライドへ、お願いいたします。

シリコンバレーから見た、注目のスタートアップ

加藤:ここらへんの話はもうけっこうしてるので次にいきますと、注目のスタートアップの話を少しします。さっきちょっとお話ししましたけど、DXの取り組みって1つのソリューションを入れておしまいという話は基本的にはない。どういう姿になりたいのかという将来の絵があって、それに向けてどういうピースが必要なのかっていうのを考えなくちゃいけないので。

必ずしも「このスタートアップ良さそうだから、じゃあ話してみよう」っていう話ではないんですけど、ただおもしろいですし、世界ではこんなことをやってる人たちがいるんだというのは参考になるなと思うので、いくつか紹介しようと思います。

私一応コンサルタントなので、なんでも軸で考えちゃうんですけど。「業界の汎用性」という軸で、どんな企業・どんな業界でも使えるようなサービス・システムに対して、業界に特化してる話と。

あとは「技術の成熟度」として、今すぐ使えるわりと成熟している技術と、本当にこれから、今まだ開発中みたいな、研究中みたいな技術と。両方用意して、この4象限とってお話しさせていただきたいと思います。

私は職業柄この右上のほうというか、今困っているお客さんだったりとか、そういうところをお相手にしてるので、どうしても右上のほうを見がちなんですけど。やっぱり左のほうもおもしろい会社さんがいて、いくつか私が注目してるところをご紹介します。

山積みになるイベントログデータから課題を分析

加藤:1つ目はCelonisという会社ですね。ここはもう企業価値も10billionとか超えているところなので、わりと大きいです。

傍島:スタートアップじゃないレベルですよね、10billion。1兆円ですね。

加藤:ドイツの会社なのでシリコンバレーにないですけど、でもすごくおもしろいんですよ。彼らのビジネスモデルを聞いて、私は「おもしろいこと考えるなぁ」と思って。要はSAPとかERP系のシステムだったりSalesforceとかのシステムって、大量のイベントログデータが出るんですね。

「誰が」「いつ」「どのレコードを」「どう変えたか」っていうのをすごく詳細に捉えるデータがあって、山積みになってるのを全部取り込んで分析してくれて、プロセスの課題とかをデータから浮き彫りにしてくれるようなサービスなんですね。

見るとわかりやすいんですけど、例えばこの受注から始まって支払いを受け取るまでのプロセスが、普通のコンサルタントとかがヒアリングして絵を描くと、真ん中の主流の線が出てくるんです。

これに対してデータとして、どこのプロセスにどれぐらい時間がかかっていて、どれぐらい戻りが発生していて、本来いくべき次のステップではなくて横道にどれぐらい逸れてるのかとか。

そういうのが浮き彫りになってくるので、課題がどこにあるのかとか、「ここの課題をこれだけ短縮できると、いくらの投資対効果が出るんだ」みたいなのがデータで語れちゃうっていうのが彼らのサービスです。コンサル泣かせですけどよくできてるなって思う(笑)、そういうようなサービスですね。

ここらへんはもう日本でも大きいですし、よく使われている会社もたくさんあるようなところですね。

ピッキング作業をロボットを使って自動化

加藤:右下の領域に入っていくと、技術的にはけっこうmatureで、でもこの場合は物流に特化しているようなスタートアップですね。OSAROという会社で、ここはもしかしたらKenさんのほうが詳しいかもしれないですけど(笑)。

傍島:会いましたね、2016年ぐらいかな。

加藤:じゃあけっこう始まった当初にお会いしてるんですね。彼らはピッキングっていって、例えばAmazonとかにオーダーした時って、何を何個箱に入れなくちゃいけないかっていうのがわかるじゃないですか。あれを倉庫の中で歩き回ってピックしてる人がいるんですけど、それをロボットを使って自動化してしまえっていう話です。

そのためにはコンピュータービジョンで、商品が何なのかを見なくちゃいけないですし。つかんで持ち上げて箱に入れるためには、形とか重さとかを計算してどこをつかむべきかとか見ないといけなかったりとか。バーコードはどこにあるのか分析して、それをピッてやったりとか、そういうことを技術として開発しているような会社ですね。

サンフランシスコの会社ですけど東京にも拠点がある、けっこう日本にも大きなお客さんがいっぱいいるような会社になってます。

傍島:おもしろかったですよ。唐揚げの山の中から唐揚げを取って、お弁当箱に詰めるみたいなことをやったりとか(笑)。

加藤:すごいですね(笑)。

傍島:唐揚げの山から1個の唐揚げを取るのって、コンピューター的にけっこう難しいんですよね。どれが唐揚げかって(判別したり)、あと透明のものをピックアップして取ったりとか、難しいみたいですけどね。すごくがんばってるスタートアップですよね。

カーボンクレジットをブロックチェーンで取引可能に

加藤:ここからはもう少しアーリーステージな会社の話になってきます。Flowcarbonという会社があるんですが、カーボンクレジットをブロックチェーンで取引可能にするということを考えている会社ですね。

カーボンクレジットってそもそもいろんな事業者がいて、彼らがCO2の排出を削減するとクレジットになって、それをCO2を排出したい会社が買うんですよね。でもそれが成り立つためには、今の世界だと真ん中に政府とかがどーんと入って、一元管理しなくちゃいけなくて。「総量として何億トンのCO2が今年は削減できたので、何億トンぶんのクレジットを売っていい」っていうようなプロセスなんですけど。

ブロックチェーン上で、事業者がCO2を削減したタイミングでトークンを渡してしまうと、より細かい粒度で売り買いができるんですよ。例えばある航空会社がCO2を1万トン排出したぶんを、できればここのエリアで地産地消というか、もしくはこういうやり方でCO2を削減した事業者から買いたいとか。そういうより細かい粒度での取引ができるようになるんですね。

というので、ブロックチェーンの使い方としてすごく素直というか、良い使い方をしている会社でおもしろいなと思って。

傍島:良いことをしてますけど、WeWorkの元CEOのお騒がせ男が(笑)。

加藤:そうですね、悪名高い人ですけど(笑)。

傍島:孫(正義)さんがすごく大変だったWeWorkのCEOの方なんですけれども、今回世の中のためにこういうことをやろうって、またお金が集まるのがおもしろいですよね。シリコンバレーらしいですよね(笑)。

加藤:ブロックチェーンのこういう使い方って彼らが初めてではなくて、いろんな会社が今までやってるんですけど。今回アンドリーセン・ホロウィッツから70millionとか、多額の資金を調達してたりするので、今たぶん資金的に言うと彼らがちょっとリードしてるという感じですよね。

傍島:おもしろいですよね。

加藤:おもしろいです。どうなるかはわからないですけどね、まだまだアーリーステージの会社なので。

ディーゼル車をハイブリット車に変える技術

加藤:もう1つ、もっとアーリーステージな話ですけど。物流に特化した話で、これ私どっかのサイトで見つけて、単純におもしろいこと考えるなって感心したんですけど。

アメリカって、たぶん日本もそうだと思うんですけど、物流っていろんな場所に移動させるのに、最終的にはトラックに頼るんですよね。で、1台のトラックって年間で32万ドルの燃料費を使うんですよ。4,000万円以上ですね。ディーゼルだから。かつ1台1台のトラックってすごく高いものなので、簡単には買い換えられないじゃないですか。

このスタートアップは何やってるかというと、絵を見せたほうが早いのでお見せすると、この真ん中の部分を作ってるんですね。このアタッチメントはディーゼルで走ってる車をハイブリッドに変えてくれるっていう、優れものです。

小川:えー、すごい(笑)。

加藤:よくこんなの考えるなって感じですけども。車とか、ハイブリッドって普通初動のところで力が必要なので、ガソリンとかディーゼルを使うんです。そのあと電気に切り替えるじゃないですか。

その電気に切り替えたあとのところは真ん中のアタッチメントがやってくれるので、これがつくとディーゼルの消費量が9割減るんですね。そうするとさっきの4,000万円が単純計算で400万になるんですね。3,600万のコストが1台あたりセーブできるはずっていう。

小川:「はず」(笑)。

加藤:皮算用ですけど(笑)。彼らのビジネスモデルはこれを売るんじゃなくて、長距離トラックが停まる拠点、ガソリンスタンドとかにこういうチャージングステーションを置いといて。3分で付け替え可能らしいので、すでに充電済みのアタッチメントが置いてあって、トラックがくると外して新しいのつけて、また行くっていう。そういうビジネスモデルを考えてるみたいですね。

まだ実証実験前なので本当にできるのかとか、そのへんはまだこれからですけど(笑)。でもよく投資対効果も見せやすいビジネスですし、温室効果ガスっていう話でも、アメリカ全体の26パーセントは、トラックが出してる排気ガスが温室効果ガスを出してるんですね。なので環境面でも良いですし。なかなか新しい視点でおもしろいなって思ったスタートアップですね。SixWheelという会社です。

DXで一番大事なのは「目指すビジョンを明らかにすること」

小川:ありがとうございます。それではお時間迫ってまいりましたので、そろそろRonさんからまとめを頂戴してもよろしいでしょうか。

加藤:私が今日お伝えした意味では、日本的に言うとDXって大きく捉えたっていいと思うんですよね。「抜本的なビジネス変革しかDXではないんだ」と言ってしまうと動けないですし、やっぱり社長に「やれ」って言わないと動けないよりは、日々の仕事でのデジタルシフトでやっていけるのであれば、会社のカルチャーが変わってきますし。波及効果で会社は良くなっていくと思うので、両方含めてDXって考えてもいいと思うんですよね。

シリコンバレー的にはやっぱり抜本的なビジネス変革をもってDXというか、トランスフォーメーションだっていう話ではあるんですけど。一番本質となるのが「目指すビジョンを明らかにしましょう」ということです。それはなぜかというと、DXというのは本質的には「問題解決型」ではなくて「ビジョン駆動型」の取り組みだからです。これがお伝えしたかったことですね。

ビジョンはいかに具体的な絵姿で世界観を語れるかが勝負です。人のビジョンを使って「これが俺のビジョンだ」って言っちゃダメですよと。具体的にどういうふうに世界が良くなるのかというのが伝えられるようにしましょう。そうすると周りも巻き込めますし、DXが成功できるんじゃないですか、ということが今日お伝えしたかったことになります。

小川:Ronさん、ありがとうございました。ご視聴いただいたみなさまも、ありがとうございました。

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