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シリコンバレーからみたDX(全3記事)

日本企業の“DXっぽい案件”でよくある3つの症候群 従来の「プロジェクト」と違う、DXの本質的な難しさ

日本とシリコンバレーを繋ぐコンサルティング会社TOMORROW ACCESSでは、シリコンバレー発の業界エキスパートが最新情報を解説する「01 Expert Pitch」を開催しています。今回は「シリコンバレーからみたDX」をテーマに、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ加藤良太氏が登壇したピッチの模様を公開します。本記事では、日本企業のDX推進のポイントについて語られました。

日本企業が押さえるべきDXのポイント

加藤良太氏(以下、加藤)ここまでの話こはわりとデカい話をしてきたので、もう少し地に足のついた話もしたいんですけど、大丈夫ですか。

傍島健友氏(以下、傍島):はい、もちろんです。アメリカではもうDXって言葉が使われてない、当たり前すぎてみんな普通にやってますっていうところだったと思うんですけど。具体的にどんなことをやっているのか、日本の事例も交えて話していただけますか。

加藤:アメリカというかシリコンバレーだと、このへんが会社のあるべき姿になってるので。ただAmazonってタイガー・ウッズみたいなものなので、私とかへなちょこゴルファーが見ても参考にならないんですよね。

傍島:(笑)。

加藤:なのでちゃんと勉強しようと思うと、もう少し地に足のついたところを見て、学ぶべきことをピックアップしなきゃいけないので、「日本企業が押さえるべきDXのポイント」という話をしようと思います。

先ほど言ったようにDXって両極端というか、両方あって。抜本的なビジネス変革という話もあれば、日々のお仕事のデジタルシフトという、両方の側面がありますよね。それはそれで両方ありだと思うんですよね。

我々、日本で主に180人ぐらいでコンサルを展開してして、いろんな企業からいろいろとDXについての相談を受ける機会があります。どういう傾向にあるのかなって少し見てみたんですけど。

“DXっぽい案件”相談でわかる、3つの「症候群」

加藤:まずよくあるのが、とりあえずDX戦略室を作ってみました。で、社長に「あなたがDX戦略室長になってください」って任命されました。でもそれ以上なにも言われてないっていうパターンですね。「とりあえず」症候群です。

傍島:「とりあえず」症候群(笑)。

加藤:とりあえず室長になっちゃった、でも何をしていいのかわからないっていうパターンですね(笑)。こういう方もすごく多いんですよ。あとたぶんこれもよく聞く話ですけど、「それっぽいコンセプト」だけがあるDX。

傍島:(笑)。

加藤:それっぽいじゃないですか、「顧客情報を統合したいんですよ」って。確かにしたいのはわかるんですけど、それをどう活用するのかとか、それによってどういうメリットが生じるのかとか、そのへんがまだ詰め切れてない。ちょっとボヤっと「なんかこういうのやりたい」っていう。これはこれで悪い話ではないんですけど、そういうコンセプトだけがあるパターン。

あとは「ソリューションが欲しい」っていう方ですね。「マーケティングオートメーションがやりたいんです」っていう話。でもこのへんはやっぱり、これだけだとなかなか動けない。ソリューションを入れても周りを巻き込んでいかなくちゃいけないですし、そういう時に「マーケティングオートメーションやるんです」っていうだけだと、掛け声として弱いんですね。

DXが難しいのは「困っていない」から

加藤:こういう人たちってどうしても苦労しちゃっていて。なんで苦労してるのかというと、一言で言うと「特に今、困ってるわけじゃない」んですよね。困ってるわけじゃないんですけど、なにかやらなきゃいけないのでDXをやっちゃっている状態がよくある。

傍島:うーん、確かに。

加藤:で、本質的な難しさ。DXってなんで難しいのかっていうと、今までやってきた企業変革のプロジェクトだったりとか、ITを刷新するんだっていうプロジェクトって、基本的に「今困っている」プロジェクトなんですよね。

コストがかさみすぎてなんとかしなきゃいけないとか、今あるITのシステムは古すぎて、保守できるITの人が来年リタイアしちゃうから、今なんとかしなくちゃいけないとか。本当に「今困ってるからなんとかしなくちゃいけない」っていうのが、普通の今まであったプロジェクトなんですけど。

DXって、困ってない人たちが「会社をもっと良くしたい」「もっと明るい未来があるはず」っていうところを起点にスタートしてるプロジェクトなので、難しいんですよね。「もっと良いなにかって何なの?」「それってどういう絵なの?」とか、そのへんを描けてなかったり、ボヤーっとしちゃうので伝わらなかったり。そういうのがDXプロジェクトの本質的な難しさじゃないかなと思ってます。

従来のプロジェクトは“治療”で、DXは“予防”

傍島:なるほど。左側のことをやってて「DXだ」とか言ってる人は、多いですよね。とにかく紙とか手作業をやってるのをなにかやりたいんです、みたいな。

加藤:そうですね、左のプロジェクトもDXって呼んじゃってるパターンもけっこうありますけど。

傍島:多いですよね。

加藤:でもそれって、5年前でもやってたプロジェクトだと思うんですよね。DXっていう言葉がある前からもう「今困ってるからこれをなんとかしなくちゃいけない、業務改善プロジェクトを立ち上げるんだ」っていう話だったと思うんですよね。

それにたまたまDXってラベルをつけてるだけで、本当のDXは、やっぱり未来を見ていて。「今困ってるわけじゃないんだけど、明日のためになにかやっていきたい」っていうのが、本来のDXのある姿なのかなと思います。

傍島:なるほど。なかなかこれは深いですよね、本質的な難しさ。抜本的になにかを変えようっていうところが、冒頭にあったDXの定義だったりするので。なにか「ちょっと困ってるところが直りました」というよりは、未来に向かってやろうと。未来の病気予防じゃないですけど(笑)、そういうのに近いんですかね。もっとこうなりたいと。

加藤:そうですね。対症療法的に対応できたのが今までのプロジェクトだったんですけど、これからのプロジェクトは「体を鍛える」とか「食事に気をつける」とか「タバコをやめる」とか、そういう確実になにか良くしていくんですけど、でも何に向かっていくのかがはっきりしてないので、モチベーションにつながりにくい。そういう取り組みになるんですよね。

傍島:なるほど、ありがとうございます。

加藤:コンセプトとしてはそんな感じだと思ってるので、一言で言うと「問題解決型の取り組み」なのか「ビジョン駆動型の取り組み」なのか。その違いなのかなと思っています。

企業ビジョンからDXを考えるものあり

小川りかこ氏(以下、小川):ありがとうございます。それではここでご質問が届いておりますので、お答えいただいてもよろしいでしょうか。

3ついただいておりますが、まずは「レガシー企業(装置産業など)がトランスフォーメーション、ビジネスや組織の変革を実現する1つの方法として、デジタルも活用して企業ビジョンや目的から『別の方法ないの?』と新規事業を考えるスタイルもありでしょうか」というご質問です。いかがでしょうか。

加藤:このあと少し話したりしますけど、ビジョンの描き方ってトップダウンのアプローチとボトムアップのアプローチ、両方あると思っていて。今こちらでおっしゃってるのって、わりとトップダウンの「企業ビジョンとして、会社としてこういう姿を目指すんだ」っていうところからスタートしてします。

じゃあそれを少しブレイクダウンすると「デジタルを活用したら、こういう新規事業が立ち上げられますよね」とか「これをやると今の我々が向かっているビジョンに対してプラスにはたらくよね」って、そういう会社として向かう方向に沿ったかたちでのデジタルの活用はDXと完全に呼べると思いますし、そういうスタイルも当然ありだと思います。

小川:ありがとうございます。そしてもう1つ、ご質問きております。「アメリカでも『デジタイゼーションからデジタライゼーション』というステップを踏んだ時期があるのでしょうか」というご質問です。

加藤:デジタイゼーションからデジタライゼーション……どうでしょうね。業界によるんでしょうかね。デジタライゼーションというより基盤というか、ビジネスがデジタル上で発生するって感じなんですかね。

傍島:言葉がちょっと難しいですね。またこそっとQ&Aを入れていただければ、追加で後ほど。

草の根的な動きで、根本からビジネスを変えるのもあり

小川:ありがとうございます。それではもう1つご質問をご紹介いたします。「困りごとドリブンだと、既存ビジネスを問い直すことのない事例が多いのであまり良くない、いわゆる経産省が定義しているDXではない気がしていますが、最初の一歩としてはありなのでしょうか」というご質問です。

加藤:DXの定義が広すぎて、どうとでも捉えちゃうのでなんとも言えないんですけど、狭い意味でのDXという意味ではやっぱり「根底からビジネスを良くしていく」とか「根底からなにかを変えていく」という話になるので。「今困っているこのプロセスをちょっと直します」って、本来はあまりDXと必ずしもフィットしないと思うんです。

ただ日本のDXの使い方ですと、そこも含めてDXと言っちゃっていいと思いますし。会社を良くしていくって、必ずしも戦略的なポジションにいなきゃいけないとか、経営者じゃなきゃ変えられないっていう話ではなくて。

まずは自分の部署だとか自分の領域を自動化することからスタートして、それがちょっとずつ波及的に周りに広がっていけるとすると、それってすごく草の根的な会社を良くしていく活動になってきます。まずは自分のできる範囲でやっていくことは、すごく良い取り組みだと思うんですよね。

傍島:良いことですよね、まずは最初の一歩としてやっていくっていうのは。

加藤:逆に、社長の大号令が出ないと動けないのは良くないと思います。まずは自分の領域からとか、周りの自分の味方を見つけてとか。そういう草の根的なところができると結果も出やすいですし、良いかなと思いますね。

小川:ありがとうございます。ご質問いただいたみなさまも、ありがとうございました。

いいビジョンとは「世界観が伝わるビジョン」

小川:さぁ、それではやはりビジョンが大切ということですが、どのように描いていけばよいでしょうか。

加藤:ここにある「ビジョン駆動型の取り組み」が基本的にはDXプロジェクトなので、当然ですけどなによりも大切なのは「ビジョンを描くこと」ですよね。さっき言ったシリコンバレーの勝ち組の会社も、本当にビジョンが明確だからいろんな活動が明確になって、それに沿ったかたちで動けるので。

目指すべきビジョンを明らかにするってどういうことなのか、ちょっと説明しますと……良いビジョンってどういうものかというと、具体的なビジョンなんですね。それは一言で言うと「世界観が伝わるビジョン」、ちょっとデカい話ですけど(笑)。

こういうふうに例があるのは、スペースコロニーっていう発想をプリンストン大学の教授が作ったデザインですけど。これって説明とかなくても、見てるだけでワクワクするじゃないですか。こういうワクワクが伝わるような、具体的な絵姿ということです。

逆にさっきちょっと話に出てた「顧客データ統合したいんですよ」っていうのは、ビジョンじゃないんですよ。これは手段であって、顧客データを統合すると何がどううれしいのかとか伝わらないですし、じゃあ具体的にどう動いていいのかが伝わらない。

そのためにはやっぱり具体的な絵姿、世界観というのを伝えること。例えば「顧客データをデジタルマーケティングに使いたいんです」。どう使いたいのかというと「個々のユーザーに対してコンテンツを押し出していって、その人たちの行動を見ながらカテゴリー分けして、彼らが興味・関心を持っていそうなコンテンツをさらにレコメンドして、ファンになってもらうんです」と。

「そのためにこういうデータが必要で、こういうかたちで、この人たちに訴求するようなツールがバックエンドに必要なんです」みたいな話をしていくと、より目指す姿が伝わりやすい。「確かにそういう世界があったらうちの会社にとってもプラスだし、うちの知名度も上がるし、ファンが増えるよね」とか。そういうことが伝わるようなレベルで押し込んでいくと、それが伝わるビジョン、良いビジョンなのかなと思います。

DXは、システムを1つ入れておしまいではない

傍島:確かに。なまじっか情報を知ってる人が「世の中にあるこういうツール、便利だよ」みたいなことを聞いてきて「これ使ってやりたいんです」って、手段から入っていく人はけっこう多いかもしれないですよね。「ここでデータをこうして、こうやってマーケティングして……」とかって語るんですけど「で、何するんですか?」みたいなところがない感じですよね。

加藤:そう。結局そういう目指す姿があると、だいたいの場合って1個のツール入れておしまいじゃないんですよね。銀の弾丸、silver bulletって言いますけど、1つのソリューションですべての問題が解決できる話って、そんなに単純な会社もないですし。

なにか中核となるソリューションはもしかしたらあるかもしれないんですけど、それにどういう不随したものを付け加えなくちゃいけないかとか、どういうふうにマインドをみなさん変えてもらわなくちゃいけないかとか。

DXの取り組みって、システムを1個ポンと入れておしまいっていうことは、基本的にはないんですね。なので具体的に描くと、じゃあ例えばここの顧客データの話だと、ITの視点からすると「どういうデータをどういう仕組みで取らなきゃいけないのか」とか見えてきますし。顧客データを集めるということは、じゃあ法務の視点からするとプライバシーの観点から「どういうデータを持つんだったら、こういうことやらなくちゃいけない」とか。

いろんな関係者がそのビジョンを見ると「自分はこう動かないといけないんだな」とか「ここはじゃあ、ここまで考えなくていいんだな」とか、そういうのが伝わるんですよね。

ビジョンは「具体的な絵姿」で語る必要がある

加藤:なのでやっぱり「顧客データ統合するんです」っていう掛け声だけだと、どう動いていいのかわからない。でもそれがもっと具体的な世界観として語られると動き方がわかる。

もしかしたら賛同して「これだったら自分もちょっと残業しても手伝おう」みたいな、そういうワクワクが伝わったりするので。なのでビジョンというのは、具体的な絵姿で語る必要があるんですよという。それがここで伝えたかったことですね。

傍島:ちゃんと言語化して語るのも大事かなと思いますね。さっきの絵を見せてもらいましたけど、「こんなふうにしたいんだ」ってきちんと言葉にして語って、仲間を増やす活動も重要かなと思いましたね。

加藤:やっぱり企業の中で活動して、会社を変えていこうとする限り、仲間は絶対必要です。経営陣のバックアップとかあると千人力じゃないですか。そういうところをどうやってみんなに「助けてあげたい」と思わせるのかっていうと、それは抽象的な掛け声ではなくて、具体的な絵姿の期待感ですね。

傍島:確かに。けっこうありますね。「あれをこうして、こんな感じで、いい感じにしといて」みたいな(笑)。

小川:(笑)。抽象的な。

傍島:なんですかそれ、みたいな(笑)。

加藤:「いい感じにしといて」は完璧にビジョンじゃないですね(笑)。

ビジョンを語る人に「やり方」は関係ない

傍島:たまにアメリカのスタートアップと打ち合わせする時、通訳みたいなことをやる時もあるんですけど。今みたいなことを言われても、英語にできないんですよね(笑)。

(一同笑)

「今、何言いました?」みたいな。

加藤:でもスタートアップのピッチもそうですよね。やっぱりちゃんと資金を集められるスタートアップって、将来のビジョンというか、将来の目指している姿がすごく鮮明に描かれていて。それをしかも数値でバックアップしていて、なので説得力があって、なので何億単位でお金を入れたいと思うようになるわけですね。

傍島:確かに。こういう世界観を語ってるCEO・社長の会社に、なにかその解決策を持った、すごいプログラム書けるような人が集まってくるんですよね。だから手段はあんまり関係ないですね、CEOというかビジョンを語る人は。やり方は関係ないですよね。

加藤:その世界観がどれほど共感を得られるかとか、どれほどみんなが賛同できるかっていうものと、あとは人をどう集められるかっていうだけで。Howの世界は別に語らなくても、ビジョンさえあれば動けるようになってくるはずなんですよね。ちょっと熱く語りすぎてますが(笑)。

小川:ありがとうございます(笑)。

加藤:というスタートアップとかAmazonとかっていう話もしてますけど、でも組織がどんなレベルにあるとしても、DXに取り組むんであればやっぱり、まずはビジョンの鮮明ということを考えたほうがいいですよというところで。

他者を参考にしても、最終的には自分の言葉で語ること

加藤:参考になるのは、よく見る話ですけどDX銘柄とか、やっぱり自分自身の業界でほかの会社はどういうことやってるかなとか。そういうのを見て「確かにこういうおもしろい考え方があるね」とかっていうヒントを得るのは、けっこう大事なステップだと思いますけど。

ただ最終的に、やっぱりビジョンって自分の言葉で語らなくちゃいけないので。こういうものを参考にしながらも……ちょっと変な例えですけど、ビジョンって歯ブラシと同じなんですね(笑)。絶対必要なんですけど、でも人の歯ブラシとか使っちゃダメじゃないですか。

小川:(笑)。そうですね。

加藤:大事なものだし、自分のものはちゃんと持たないといけない。他社のは参考にしていいけど、ちゃんと自分のを持ちましょうねっていう。それがビジョンです。

傍島:おもしろい、確かにわかりやすい(笑)。

小川:なるほど、ありがとうございます。

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