インバウンド戦略にもつながる、日本の「祭り」文化

亀田誠治氏(以下、亀田):住んでいる場所は違うんですが、今いるスタジオの部屋は代々木上原にあるんです。代々木八幡は八幡さまがいるので、秋祭りがめちゃくちゃ盛んなんですよ。

ここ数年はコロナで規模は小さくなっているんだけど、今でも商店街でじいちゃんはハチマキをするし、子どもたちも神輿を担いで、祭りがすごく盛り上がっていて。僕はここで音楽を作っているし、「ピーヒャラドンドンカッカ」と始まると、音楽の仕事的には中断せざるを得ないんだけど、それを飛び越えて楽しめる空気があるんです。

みんなも「ええじゃないか、ええじゃないか」となっていて、9月の末ぐらいには赤い顔をしてお酒を飲んで、町内会にみんな集まってきちゃって、僕も楽しくなって焼きそばを買ったりとか。あとは「金壱萬円也」みたいにお金を入れたりとか、世代を越えて参加したくなるような空気や場が作れるといいんですかね。

志村季世恵氏(以下、志村):本当にそう思うな。日本人は、本当は全員お祭りが大好きなんですよ。どんな人でも嫌いな人はいないはずなんですよね。断言しちゃいけないと思うけど、多くの人は好きです。

しようと思えば、誰でも(お祭りに)参加できるじゃないですか。文化として引き継がれてきたものとして、今でもこれからも大事にしてほしいなと思うんです。それって、本当はインバウンドにも入っているんだろうと思うんですよね。

亀田:ああ、そうかも。

志村:浴衣を着てもらってお祭りへ行ったっていいし、そこには「お祭りのマナー」もあったりして。うちの(住んでいる)ほうもお祭りが盛んなんですよ。東京都内ですが、学校が休みになるんです。なぜかと言うと、校庭に山車が来てくれて。

亀田:(笑)。

志村:わらで作ったすごく大きな大蛇を引っ張っているんですが、「わらを拾った人のおうちは健康になる」と言われているからから、おじいちゃんもおばあちゃんも子どもたちも、みんな必死になって大蛇から落ちてきたわらを取るの。

今は(お祭りの開催が)土日になって、学校も土日休みになったけど、それでもみんなが喜んで元気になっている。亀ちゃん、これはすごくいいところに話が行った気がしますね。

佐藤明氏(以下、佐藤):うん、いいところへ行った。

日本の街中には、どんな「音」のあり方が求められているのか

亀田:ちなみに日比さんはまだお会いしてないと思うんですが、佐藤さんとかとダイアログ・イン・ザ・ダークに行って、うちの妻が盆踊りの輪の中に入って踊りに行ったんですよ。「亀ちゃーん!」って言って。

僕はみんなに「もっと心を開いて、音楽をなんとか……」と言っている割には、実はその輪にはなかなか入れなくて、横で焼き鳥とビールとか飲んじゃっているクチなんですが。「亀ちゃんもおいでよ」と言って、うちの子どもたちも小さい時からその輪の中に入って、「ああ楽しかった!」とか言って戻ってくるの。

佐藤:ああいうのって世界的にあるんですか? 日比さんや亀田さんが詳しいかな。

日比康造氏(以下、日比):街を挙げたお祭りだと、例えばパリのミュージックフェスティバルとかはありますが、僕が遊んでいたところでは「街を挙げて」というよりは、街に当たり前に音楽が鳴っている状態で遊んでいたことが多かったと思いますね。

佐藤:なるほど。「日々」ね。イベントとだとリオのカーニバルとかもあるし、毎日の音楽と、何かのイベント時の音楽の両方がありますよね。

日比:そう。毎日祭りをやるわけにもいかないしね。だから、そこが難しいところですよね。

佐藤:うん。でも、やっているんでしょう?

日比:お祭りというか、ピーヒャラドンドンで神輿を担ぐのもいいんだけど、これを毎日やるわけにはいかないし。

亀田:(笑)。確かに。

佐藤:確かに。

日比:インバウンドの話につなげると、外からの人がどういうことを楽しみにしてくださるのか、どうやって音が鳴っている状態が日本の中で求められているのかは、みんなと早く会って話をしたいです。

(一同笑)

佐藤:会って話しましょう。

亀田:会って話しましょうね。

志村:リアルでね。

人間の中には、音楽を楽しむ底力が備わっている

佐藤:でもさ、少なくともやっている人が楽しくないとダメだよね。やっている人がつまんなそうだったら、外の人にも(楽しんでもらうのは)どう考えても無理でしょう。どうですか?

亀田:それこそ季世恵さんがおっしゃっていたように、家の中のお母ちゃんの鼻歌でもいいし、教育か何かで潜在的に音楽を楽しむ状況が作れるといいんじゃないですかね。

佐藤:そうなんだ。今回のテーマじゃないけど、「音楽力」というか、音楽を楽しむ底力が人の中にはあるんじゃないですかね。僕はあるのかなと思ったけど。そのDNAを持っているんだけどオフにしちゃっているというか、オンにすれば本当はいつでも楽しめるような気はするんだけど。

亀田:確かに。

日比:まだ底にしか力がない、とも言えるかもしれないですね。ボトムにしかなくて、それがもう少し開いていくといいのかなと思います。

亀田:確かに。

佐藤:なるほどね。

日比:底力ばっかり、というか。「やればできる」と言われ続ける子どもみたいなね。

佐藤:なるほど。そういうことですか。

亀田:今、家の中や学校で音楽はどうやって習っているんだろう。

志村:私、小学校や中学校とか、学校の前を通るのが大好きなんです。歌が聞こえてきますよね。歌もだけど、楽器もちゃんと使っているし、意外といい感じの音楽が流れてきたり。音楽が好きな先生とか、先生にもよるんでしょうけど。

子どもたちって、合唱発表会を本気でがんばっていたりするじゃないですか。それを聴きに行ったお母さんとお父さんたち、来賓の人が涙することもよくあるし、学校(での音楽教育)はもうオッケーなんでしょうね。

佐藤:そういう気がします。

志村:だから、そういうことが教えられてないだけなのかな? と思ったりします。

視覚障害者のための「音付き信号機」に寄せられたクレーム

志村:底力というか、もともと哺乳類はみんな音楽を知っているんです。お母さんのお腹の中で心音を聞いていて、ずっと同じリズムを聞いているわけじゃないですか。動物たちもだけど、世界中の人たちに(音楽を楽しむ)底力はあるはずなんですよ。

佐藤:確かに。

亀田:ああ、確かに。

志村:亀ちゃんががんばっていらした(日比谷野外音楽堂の)金曜日の夜みたいに、「うるさいぞ」というのに対して、少しずつ融和していくことなのかな。こういうことがあると、「良かったんじゃない?」というところに早くに行くんじゃないかなと思ったりします。

佐藤:電車とか、街に出ると途端にダメになっちゃう感じなんですかね。

志村:どうなんだろう。ちょっと脱線しちゃうけど、目が見えない人たちって音付きの信号機が頼りなんですね。音楽が鳴ると「渡っていいんだ」と思って渡るんだけれども、昨今「うるさいぞ」ってクレームになると止まっちゃうんですよ。

ところが、近隣の方たちが目が見えない人と友だちになってもらうと、絶対に「うるさい」とは言わない。別にお願いしてないけど、ダイアログ・イン・ザ・ダークが街にあったところは、あの音が再開されているんですよ。

日比:あいさつもしていない、顔も見えない人だとアパートの上の足音が雑音でしかないけれども、あいさつして友だちになっていると、「あの子たちが遊んでいるんだな」と思えて、ぜんぜん雑音が変わってくるのと同じようなことかもしれないですね。

志村:そう。だから、関わりなのかなと思います。

日比:関わりですね。

志村:国内もだけど、インバウンドになって外国からいろんな方がいらっしゃるとか、関わることが増えてくるとおのずとそうなっていくだろうなと思うし、そうありたいと思う。

佐藤:確かに。

亀田:「関わり」、確かにね。

日本人には、つい評価してしまう癖が染み付いている

亀田:あとは白黒の間のグレーというか、「まあいいじゃん」みたいなことが人生の中に本当にいっぱいある気がしていて。「まあいいじゃないの」という寛容さを一人ひとりが持っているといいのかな。それこそ佐藤さんが言うみたいに、音楽を聴いていると「まあいいじゃん」という気持ちになれるかもしれないし。

佐藤:そうですね。

亀田:そういう循環をさせたいね。

佐藤:海外から人が来た時に銀座に行って、一緒にGINZA SIXやメインストリートも行くかもしれないけど、「ランチは『月のはなれ』で食べようよ」「一杯寄るか」とか。まずはそういう場所が1個あって、それがちょこちょこ増えていくと良い感じじゃないですか?

あるいは日比谷音楽祭のミュージシャンが、今の2日間とワンナイトのプログラムから、もうちょっといろんなところで音楽を披露できるとか。ミュージシャンに限らずね。でもストリートへ行こうとすると、さっき日比さんがおっしゃっていた規制の問題があるんですかね。

日比:規制の問題と、「評価してしまう癖」があって。ストリートでやっていても、「この人、歌上手いね」とか、演奏が上手いかどうかを評価してしまいがち。

特に絵の具屋さんをやっていると、音よりももっとひどいのが「絵を描く」という行為で。「絵でも描くか」ってなった時に、「いや、絵心ないから」「下手だから」と。下手とか上手いとかじゃなくて、絵を描くこと自体が気持ちいいはずなんだけど。

音楽の場合も、カラオケ文化で「ここでは歌っていいよ」という場所が提供されると、上手い・下手を飛び越えて気持ち良く歌うじゃないですか。あれは上手いから歌うんじゃなくて、歌っていることが気持ちいいから歌うんですよね。

「それが良いから人前に出るんだ」「自分にとっていいか・悪いか」とか、すぐに評価するところに行くんじゃなくて、「楽しいから」「気持ちいいから」とか、もう少し違うアプローチで、良い・悪いじゃない判断基準が街の中に生まれるといいですね。

インバウンド客が求めているのは「音が出る前の心持ち」

日比:それは、さっきみなさんがおっしゃっていた「優しさ」や「関わり方」なのかもしれないんですが、そんな優しさが街に溢れるとおのずと音が広がっていくのかな。インバウンドで来てくださる人たちにも、日本の音として楽しんでいただけるのは、実は音が出る前の僕らの「心持ち」なのかもしれないですね。

亀田:本当にそうかも。音が出る前の心持ちは大事です。コンサートホールで、トップのアーティストの演奏をインバウンドの方に見ていただきたい一方で、街の中でも「日本は礼儀も正しくて、しかも気分も良くて、空気も良くて、音楽も良くて、飯もうまい」と、何拍子もそろっていくといいですよね。

日比:確かに。それが周波数ですよね。

佐藤:なるほど。最後に司会の仕事を。あと3分くらいになりました。

日比:(笑)。

亀田:(笑)。もうですか?

日比:早いな。

佐藤:早い。この間「月のはなれ」へ行ったんですが、前から思っていたのは、外食の場での「流し」的な、アコースティックギター1本でもいい音楽を流すといったことを、外食(産業)の人たちと一緒にもうちょっとできたらなと思いました。

「月のはなれ」みたいにオーディションをやるのも1つだけど、楽しめるようなことや自分のできることを見つけたいなと今日は思いました。

音楽を通して考える、日本のインバウンドのこれから

佐藤:チェックアウトで一言、みなさんいかがでしょうか? もう、あと2分です。

亀田:じゃあ僕から。せっかくインバウンドサミットだし、こうやってMATCHAの青木さんとつながってやっているわけなので、「音楽がこの店で聴けるよ」「このストリートはこういう音楽が鳴っているよ」とか、ばんばん発信していきたい。

日比谷音楽祭もそうだし、「劇団四季の劇場の横にはダイアログ・イン・ザ・ダークがあるよ」「銀座には『月のはなれ』があるよ」とか、さまざまなポイントをアプリ上で掲載するとか。海外のガイドブックとかは、めちゃくちゃいっぱいインフォメーションが載っているじゃないですか。

佐藤:確かに。

亀田:そうなっていくと、日本はおいしいお店ばっかりになっちゃったりして。そういうふうに広がっていくといいなと思いました。

日比:確かに。

佐藤:さて、あと1分です。

亀田:すみません、しゃべり過ぎちゃった。

志村:今日、ここに集まったみなさんが何人いらっしゃるかわからないんだけど、このテーマを一緒になって考えてくださった方たちと出会ってみたいなとすごく思っています。仲間が集まったというか、ここから発信できることがあるんじゃないかなと思っていて、リアルでもお会いしてみたいなと思っている。そんな機会をみなさんで作りませんか? と思いました。

亀田:作りましょう。

日比:ありがとうございます。

佐藤:日比さん。

日比:じゃあ、本当に短く。冒頭で亀田さんが「たくさん質問をしたいと思います」と言っていたけど、一回も質問をされなかったなと思いました。以上です。

亀田:(笑)

佐藤:ありがとうございます。

亀田:本当に、どこかで続きをやりましょう。