2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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手塚良則氏(以下、手塚):西さん、いかがだったでしょうか?
西経子氏(以下、西):「日本食とは何か?」という話があったので、西井さんにもご紹介いただいた、ユネスコの無形文化遺産に和食文化が登録されたことをお話ししたいと思います。
まず、2013年に日本の食文化がユネスコの無形文化遺産に登録されました。もともと日本食が人気だから表彰・登録されたんじゃなくて、むしろ逆です。「無形文化遺産」ですから、非常に文化として価値があるものなんだけれども、放っておくとなくなってしまうと。
「世界にとって非常に価値があるものだから、なくなることがないように保護・継承していきましょう」という責任を国に課すために、ユネスコ無形文化遺産に登録されたということなんですね。2000年を超えて日本にあった「食」が、このままではなくなってしまうと(危惧されていた)。
それに対して危機感を持たれた料理人の方々を中心として、食の関係者のみなさんが一体となって、分野や料理のジャンルを越えて政府と一緒に動いてくださって、登録がなされたんです。
登録された時には「保護・継承する」という責務が発生するんです。登録された翌年の2014年に、農林水産省に保護・継承の責務を担う食文化・市場開拓課という課と、その中に「和食室」が設置されました。
私はその和食室長と食文化・市場開拓課長をしたということで、現在は違う職責にあるんですが、今日ここに参加させていただいています。
では「何が登録されたのか?」ということですが、私自身が和食室長の時には、「何が登録されたんですか?」「寿司ですか?」「天ぷらですか?」「ラーメンは入ってるんですか?」「カレーライスは入ってるんですか?」と、たくさん聞かれました。
今回ユネスコに登録されたのは「文化」なので、個々のメニューや品物ではなくて、「日本にある食に関する文化」が登録されたんですね。いろんな食のジャンルがある中で、統一して日本に見られる「自然を尊重する」というもの。
日本人のいろんな生活スタイルの中に表れている、日本人の精神性が食にも表れていて、その食に関する慣習。自然を尊重する心が表れた食の慣習、食の習わしが、ユネスコに登録されたものです。
西:じゃあその特徴は何なんですか? ということで、4つの特徴に分類したものがありますので、それを少しご紹介したいと思います。
自然を尊重するということで、まずは「多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重」。海山里、それから春夏秋冬のいろんな自然の恵みを、それぞれの食材の持ち味を活かすように料理をして、食事をいただくのが日本の食の特徴であると。
2点目は「健康的な食生活を支える栄養バランス」。一汁三菜、ご飯・汁物・おかずという食生活は、自然といろんなものを食べるので栄養バランスが摂りやすい。
先ほどあったように、フランス料理はデザートにいくまでにカロリーは2000キロ近くて、品数が少ない。日本は逆で、カロリーは少ないけど品数や使っている食材数が多い。まさにここに表れていると思います。一汁三菜でいろんなものを食べる、そして味付けはだしのうま味を中心にしていて、動物性油脂をあまり使わないのでカロリーが少なく済む。
それから3点目は、「自然の美しさや季節の移ろいの表現」。秋であればもみじ、紅葉の葉っぱがお皿の上に載っているとか。食べないものがお皿に載っている食事って、あんまり他の国にはないんじゃないかと思うんですね。お寿司の場合だと、載っている笹の葉にも意味があったりすると思うんですが。
手塚:そうですね。
西:もみじの葉っぱは季節の表れなど、食べないものにも意味がある。それからお皿の上での表現をするだけじゃなくて、設(しつら)え。お部屋にかかっている掛け軸やお花とが季節に応じてあります。
また、お皿も違いますね。冬は湯豆腐で熱い器に入れて、温かいお豆腐が出てくると思いますし、夏は涼しげなガラスの器で冷奴が出てくる。同じ豆腐でも、季節によって食べ方が違うというのが3点目。
4点目が「正月などの年中行事との密接な関わり」。さまざま人間が健康で長生きできるように、1年間のうちでも行事食があります。年末には年越しそばを食べて、お正月にはおせち料理を食べます。おせち料理に入ってるものは、それぞれにすべて由来があります。
日本ならではの自然資本、環境、それから伝統・文化・歴史が表れてる食だということが日本の食の特徴です。これは日本になければならないものだということで、ユネスコに登録されました。
少し長くなりましたが、「日本食とは何か?」「世界でどう闘うか」とか、世界の人にどこが日本らしいと思っていただいたのかというご紹介になるかと思いましたので、ご説明しました。
手塚:ありがとうございます。お話を聞いてると、何かの「食」というよりも「文化」ですよね。要は文化の無形のものなんですが、それを日本人以外の世界の人にも伝えるには、可視化しなきゃいけないということです。
西井さんに先ほど少しおっしゃっていただいた、世界共通でみなさんがわかるようにするデータサイエンスもすごく重要だと思うんですが、西井さんはいかがですかね?
西井孝明氏(以下、西井):そうですね。先ほど簡単に触れましたが、WHOの評価、それからいわゆる投資家が参考にするインデックスATNIの評価、それからユネスコの評価って、評価する対象がそれぞれ少しずつ違うんです。だから「日本食って何だ?」ということと、文化まで含めて評価するのかによっても違います。
我々はそれを最大の武器にできるはずなのに、データがなかったりエビデンスがはっきりしないことによって使いきれてないんじゃないかと思います。もったいないなと思いますね。
特に私は立場上、「日本食はヘルシー」というのは大変追い風で、すばらしいなと思ってるんですが、ここにエビデンスがついてないのはビジネス上でものすごく脆弱性を感じてて。
実は洋食ブームになる前は、特に西欧人から「塩分が高すぎて不健康だ」と言われてたんですよね。それが、さっきのマクガバン・レポートでひっくり返っちゃうんです。
その時に浸透したインパクトが強いから、“逆風評被害”のように、「日本食は健康に良いものだ」というポジティブなイメージが世界中に広がったのは、間違いのないことだと思うんですね。「ちょっともったいないな」ということと、脆弱性を感じます。
手塚:実際、さっきの日本料理店のお話をうかがったのも、世界の方々に嵐山吉兆さんが「日本食がどういったものか」をおっしゃったり、いろんなエビデンスを出したことによって理解されて、日本食ブームが起こったんじゃないかということもありました。
井澤先生はカナダでもいろいろご覧になられてると思いますが、日本食の健康志向、もしくは世界ではどういうふうに日本食が見られてるんでしょうか?
井澤裕司氏(以下、井澤):おそらくなんですが、西井さんがおっしゃったように「エビデンスがない」というのはものすごく弱いところなんですが、日本食は「なんとなく健康的なんじゃないか」と思われているところはあります。
私も何年かカナダで暮らしましたが、彼らが健康的だと思っている日本食はいったい何なのか? というのは、結局のところはわからないです。彼らが「これは日本食でしょ」といって食べているものが、本当に日本食なのか。
これはカナダじゃなくてアメリカなんですが、私がアメリカの大学へ行ってた時に、そこの女性事務長が「私は健康志向だから、毎日ランチは日本食を食べてるのよ」と言うんですよ。すごいなと思って「じゃあ明日は一緒に食べようよ」と言って私も弁当を持って行ったら、彼女が持ってきたのはカップラーメンだったんです。
カップラーメン(業界)の方、すみません。僕はカップラーメンが好きだし、不健康だと言うつもりもありませんが、ただやっぱりその時はギョッと思ったんですよね。
「えっ?」と言ったら、「これは日本製じゃないの?」って彼女が言うから、「いや、日本製ですよ」「だったら健康的なんじゃないの?」と。ちょっとそれは、イエスともノーとも答えられないですよね。
カップラーメンの業界の方には申し訳ないですが。見てもわかるように、カップラーメンには非常にいろんなビタミンも入っていて健康的なんですが、日本人が考える「健康的な食事」と、外国人が「日本食は健康だよね」と言うものは、実はすごくギャップがあるかもしれなくて。
問題は、そこをちゃんと理解していないとビジネスとしてはうまくいかない。それから、日本へ来た外国人もがっかりするし、そういったことをきちんと我々は理解していく必要があるんじゃないかなと思います。
井澤:繰り返しますが「日本食って何なんだ?」と。日本人が食べているものはすべて日本食なんだけれども、日本人もいろんなレベルで食事をしてるわけですよね。毎日食べているもの、それからお寿司なんかはまさにそうですが、ごちそうとして食べるもの。
これも海外へ行った時にカナダ人から言われたんですが、「日本人って毎日寿司を食ってんのか?」と。「いや、そんなことないから」「そりゃ食いたいけど、無理だから」と笑)。天ぷらだってそうだと思うんですよね。
毎日食べているものと、ごちそうとして食べているもの、それから先ほどもあった行事食とか(「日本食」の中でも違いがある)。私は京都に住んでいますが、京都の懐石なんて一生に何回食べるか? というレベルの話ですから。
そういったものを分けることによって、データもマネタイズの仕方も違う。より細かな、きちっとした戦略を立てられるような基本的なデータを、もう少し我々は持っていたいなと思います。
手塚:私は現場の人間なので現場の意見を言うと、洋食はすごくビタでいろいろな数値が決まるんですよ。ただ、和食って「だいたい」「適当」「適量」がすごく多いんですね。
また同じように、僕は寿司屋なので、寿司がグローバルだと思って生きてたんですが、世界150ヶ国の人にお寿司を握る機会が一度あったんですよ。生の魚を食べる方も少ないので、生のものを怖がり、食べたことがないから生のお寿司をツンツンして、においを嗅いで、ちょっと触ってみて、「やっぱりダメだ」という方がほとんどなんですね。
なので「寿司が世界でブームだ」と言われても、これは違うんだなと思いました。日本食がブームだと言われても、じゃあ何がブームなのか、どういったものが受けているのか、どういうものがビジネス的にはチャンスがあるのか。
もしくは、海外の方が日本に来た時にどういったものを求めてるか、どういうものが魅力的なのかも数値化することで、すごく可能性はあると思うんですね。そういった点、西さんはすごくいろんなデータとか(をご存知なんじゃないでしょうか)。
西:まず、「健康に良い」というエビデンスは徐々に集まり始めていて。私が和食室長や食文化課長をやっていた時はあんまりなくて、そのあとにいろんな省庁にも働きかけをして出始めてきているんですが、やはり全般的に見ると、世界的に健康に良いと言われている地中海料理と比べれば、圧倒的に研究の量は少ないと思います。
でも、例えば国立がん研究センターでは「日本食パターンと死亡リスクの関連について」という研究をしていて。「日本食パターンと死亡リスクの関連について」と調べていただいたら、Webサイトでも出てくるかもしれないです。「日本食パターン」というのは、ご飯・汁物・おかずの一汁三菜。おかずも海藻や肉や魚や緑黄色野菜とか。
そういう、伝統的な日本人の食べてきた食事を食べていた方と、食べていない方をコホート分析(世代や社会的な経験によって被験者を分け、行動や意識にどのような変化が表れるのかを調べる分析手法)してみると、日本食パターンのスコアが高いグループの方は循環器疾患や心疾患で亡くなるリスクが低いというデータもあったりします。
あとは、大豆を中心に豆腐や納豆とか、発酵性食品を摂られる方は病気になる・生活習慣病にかかるリスクが低いとか、そういったデータも集まり始めてるんです。
でも、もっともっと「健康に良い」というエビデンスを蓄積していかなきゃいけないと思っていて。私自身もそういう政策的な取り組みをしていかなきゃいけないなと、非常に思います。さらに、見える化していくことが大事なんだろうと思います。
西:先ほどの西井さんのプレゼンの中の「保護継承していく人がいるのか?」という話なんですが、平成30年ぐらいと、令和2年にも国民のみなさんにアンケートをとっていて。
「行事食、それから日本にずっとある食事の作り方や箸の持ち方を誰かから教わって、それを誰かに伝えていますか?」というアンケートをとったんですね。そうしたら、2人に1人が「教わって、伝えてます」という回答をしたんです。ということは、「2人に1人しか」という状況なので、もっと幅を広げていかないといけないという課題はあります。
食文化を次につないでいく人たちは、次世代を担う方々だと思うので、まずは子どもたちに知ってもらおうと。学校給食で和食や出汁のうま味、それからご飯・汁物・おかず、地域のもの、旬のものを食べてもらう「和食給食」というのを、政府もお金を出して進めていたりします。
文科省とも連携して、学校の教育課程の中で地域の食文化のことを伝えてもらう。それは生活科や社会だったり、いろんな場面があると思うんですが、給食の時間も使って栄養教諭の先生にやっていただくことも進めたりしてます。
そうしたら今度は、栄養教諭の先生や自治体に勤められる管理栄養士の方が「母親学級で教えなきゃいけないんだけど、いったい何を地域の食文化だと教えればいいんだかわからない」と。さっき言った「日本食って何だろう?」という議論に戻るんですが(笑)。
「どういうことを伝えたらいいか」をまとめようということで、まずは地域にしかない郷土料理をいくつか選んで、どういう食材から構成されて、どういうふうに作るのかというものをデータベース化しました。
農水省で昨年度、全都道府県(の郷土料理のデータベースが)仕上がったと思います。農水省のホームページで「和食」というところがあって、そこから飛んでいただくといろんなデータがあるので、ぜひ見ていただければと思います。
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