ネット環境はおろか、メールアドレスすら存在しなかった

宮崎善輝氏(以下、宮崎):ではさっそく、お話を聞けたらと思います。それではよろしくお願いいたします。

柳瀬隆志氏(以下、柳瀬):株式会社グッデイの柳瀬と申します。まず簡単に当社を紹介させていただきます。当社は嘉穂無線ホールディングスという会社が持株会社としてありまして、ここは私の祖父が創業した会社ですが、もともと電気のパーツのお店をやっていました。

事業の多角化の中で、ホームセンター事業であるグッデイ、ELEKITというブランドで電子工作キットを販売している会社、それから2017年からデータ分析事業をやっているカホエンタープライズという会社の3つの持株会社で運営をしています。

グッデイという会社をご存じない方が大半だと思いますが、今は北部九州と山口に64店舗展開しています。創業は1978年なので、約44年経っていて、年商約390億円の会社になっています。

業界の中での位置付けは、業界トップのカインズさんが4,850億円と圧倒的に大きく、それに比べると我々は、順番的にはいわゆる中堅ぐらいです。大手のカインズさん、DCMさん、コーナンさん、コメリさん、九州のナフコさんに比べると、非常に小規模なホームセンターとなっています。

私は2008年に前職の三井物産を退職して実家に戻りましたが、いろんな課題があるなと感じました。まず業績については、ホームセンター業界全体に言えることでもあるんですけれども、2000年をピークに売上がずっと下降傾向になっていまして、どちらかというと縮小均衡に陥っている状況でした。

今日のメイントピックであるIT活用、DXという観点では非常に進んでいなくて。会社に入ってビックリしたんですが、会社のネットワークがインターネットにつながっていないからネットにもつなげないし、そもそもメールアドレスも誰も持っていなくて、メールもできない状況でした。

Excelすら使えない状況で、DXに手がつけられない日々

柳瀬:2008年というと、ちょうどiPhoneが発売され始めた頃なので、スマホは持っておらず、みんなメールやWebを使っているという状況でした。インターネットやクラウドはもってのほかですが、新しいIT技術はなるべく使わないようにするという方針になっていました。

自社の古い基幹システムがあったので、とにかくそれを維持管理することに、システム部のメンバーは注力していました。そもそもエンジニアもほぼいなくて、ずっと当社のシステム部長をやっていた者と、中途で採用した者の2名でシステム部は運営されていました。

私自身はもともと電気屋の息子なので、会社としてIT投資はするべきじゃないかと思っていました。ただ、普通に考えてITの投資は数億円レベルのお金がかかるんじゃないかと思っていまして、それほどの投資力もないですし、そもそも人材がいないので何も手が出せない。

POSがありましたので、毎日の売上データが日別、商品別、店別に蓄積されていたんですが、分析しようと思ったらそのデータをExcelで分析するしかなくて、せっかくデータがあるのにまったく使えない状況でした。

それから、いろんな資料やレポートを作ってもらおうとしても、毎回データをダウンロードしてピボットテーブルとかで加工して作らなければいけないので、下手するとレポート作成に半日くらいかかってしまいます。毎回私がなにかをお願いすると、レポート作成のために残業してしまう状況で、非常に仕事がやりづらいなという感じでした。

「クラウド」とか「ビックデータ」という言葉も出始めていましたので、興味はありましたが、それをどういうふうに会社の仕事として使うと売上アップ、もしくは利益のアップにつながるのかという話を聞くと、「よくわからない」という答えが返ってきました。

システムを外部にお願いすると非常にお金がかかってしまうし、やはり人月商売なのでなるべく内製化をしたいが、システムに関する人材がほぼいなくて、それも手は付けられない。それから、当社の社員のほとんどがメールも使ったことがありませんでしたし、Excelを使える人も本当に少ない状況でした。

2015年よりツール導入を開始

柳瀬:基本的なITリテラシーが足りず、仮に投資をして新しいシステムを作ったとしても、「使い勝手が悪い」「今までの画面とぜんぜん違う」ということで、「周りができなかった」「これができるようになった」というのが錯綜し、なかなか現場の支持も得られないんじゃないかということがありました。そんなふうに2015年ぐらいまでは、どこから手を付けていいものやらわからないという状況でした。

我々は、これをなるべくシンプルに解決しようと思っていろいろ考えた結果、「3つの解決策」を思い立って実行に移して、これらをうまく解決したと思っています。

まず1つは、ITツールを導入しました。BIツールのTableauと、あと最近はTeamsを使われている方も多いかもしれませんけれども、我々はGoogle Workspaceを使っています。当時はGoogle Appsという名前でしたが、2015年にこの2つのツールを使い始めて、当社のITの課題がだいぶ解決したなと思っています。具体的な使い方についてはあとでご説明させていただきます。 

私は2016年から社長になりましたが、ちょうど電気屋の息子ということもありましたので、ビッグデータとか、当時言葉として流行り始めたデータサイエンスやクラウドのことをもう1回勉強してみようと思いまして、Google CloudやAWSのカンファレンスに参加して、いろんな情報を集めていきました。

もともと『マイコンBASICマガジン』という雑誌を見てゲームを作ったりしていたので、パソコンを使うのはけっこう好きでした。『マイコンBASICマガジン』を見てゲームのプログラムを打ち込んでいたことを思い出しながら、データサイエンスの本を買ってきて、PythonやR言語のコードでサンプルプログラムを書いてみて、データは自社のデータを入れてみる。

「プログラムを使うとこんなことができるんだ」ということを学んだり、チュートリアルを見ながらGoogleのサーバーの立ち上げをやってみて、「こういうふうにやるとクラウドって便利だな」「エンジニアはこういうことをやりたいから、このサービスを使うんだな」と学んだりしました。 

デジタル人材育成のため、毎週勉強会を開催

柳瀬:それから、私だけがわかってもあまり意味がないので、社内の人材育成をしなければいけないということを思い立ちまして、システム内製化を旗印に体制作りをやっていきました。

若手社員を中心に10人くらい集まって毎週勉強会を開催して、Tableauの使い方とか、ちょっとしたプログラムや統計の勉強を部門横断で行いました。Tableauの初心者向けの資格試験があるんですけれども、会社がお金を出して取得してもらったりもしました。

そうこうしているうちに、「こういうことをITのプロジェクトとしてやりたいよね」ということが徐々に出てきましたので、中途でエンジニアも少しずつ増やして、今は20人から30人くらいのエンジニアが当社の中で働いています。

具体的にどんなことをやっているのかというと、Tableauについては、クラウドのデータウェアハウス(DWH)にデータを貯めていって、データ分析のためのデータの一元管理をしています。

ITの投資では、基幹システムを作り変える投資をやることが多いと思うんですが、ここを変えてしまうとかなりコストがかかってしまうことがわかっていたので、実は基幹システムやそれ以外の人事システムや会計システム、POSシステムはまったくいじっていません。

ここ(基幹システム)に入っているデータを毎日バッチでGoogleのBigQueryに取り込んでいく仕組みを、システム部に作ってもらいました。ここ(基幹システム)に入ったデータを可視化したり分析する必要があるので、それはTableauを使って分析する。

ここは普通の会社とちょっと違う考え方だと思うのですが、分析するところは、システム部の仕事じゃないと言われてやっているんですね。データを使いたいのは営業本部のメンバーなので、私自身や経営企画室、商品部、店舗運営部の担当者が直接このデータベースにアクセスして、Tableauで簡単な帳票を作って、日々の業務に活かしていこうというコンセプトで、こういう仕組みを作っています。

なので、システム部はこのシステムからデータウェアハウスに投入するところまでが仕事の範囲ですが、営業本部はTableauの使い方と基本的なデータベースの操作の仕方を学んで、場合によっては機械学習や需要予測もやって、自分たちの業務に完全に活かしていこうというコンセプトで活用しています。

半日かかっていたレポート作成が、わずか3秒に短縮

柳瀬:そうすると商品部だったら、例えば今までは商品別の売上は紙の帳票をめくりながら見たり、Excelで見ていたんですが、こんなテンプレートのダッシュボードを作って、週のこの数字のところをいじると、ここが全部切り替わっていくんですね。今まで半日くらいかけてバイヤーが作っていたレポートが、3秒くらいでできます。

店舗を運営しているところはだいたいみんなそうだと思うんですが、店舗軸と商品軸の2つの軸で数字を見なければいけません。店舗軸はマップに落とし込んで、エリア別、お店別の数字がすぐにわかるように、前年比と予算比で散布図を作って、各お店の状況が一発でわかる仕組みを作っています。これが一番最初にやったことですね。

それから、これも1年目にやったことなんですが、分析の仕組みができましたので、ここ(分析データベース)に入っているデータを取引先にも共有して、「グッデイデータリンク」という仕組みを作りました。これを有償で取引先に公開しています。

もともとはぜんぜんお金になっていなかった、我々の持っているデータを取引先の方に見ていただいて、データベースのサービス化というか、サービス料を取ることによって提供しています。

我々は取引先が200社くらいあって、50社くらいにこのサービスを使っていただいています。今までは電話やメールで「この商品の売上はどうなっていますか?」「このお店の在庫がなくなっていたみたいですが大丈夫ですか?」という問い合わせがバイヤーに入っていたんですが、基本的にはこの仕組みの中で全部見えるようになっています。

A社がアクセスしたらA社だけのデータが見られる。B社がアクセスしたらB社だけが見られる、という仕組みを作ったりしています。

Web上の口コミを集計し、店舗づくりにフィードバック

柳瀬:それからちょっと変わったところでいくと、Google Mapsに出ているいろんなコメントや評価を自動的にプログラムで集めてきて、毎週集計しています。星がいくつなのかというレーティングが気になると思いますが、同じように私もお店に行く前にこのコメントを見てしまいます。

星の数とコメントの両方をデータとして持っていて、コメントが付いたら毎週自動的に店長に配信する仕組みを作ったり、会社としてはGoogle Mapsのコメントの評点が平均で4点以上を取れるように、接客や品揃えやお店の改装をしっかりやっていこうということを行っています。

これは意外と単純な仕組みなんですが、効果があります。やっぱり小売業はどこでもそうだと思うんですが、お店の利便性や品揃え、それから店員の接客によってこの評価が明らかに変わってくるので、日々の接客をしっかりやっていこうという意識付けにもなっています。

こういうダッシュボードが無数にありまして、私が把握している限り当社の中で3,000個ぐらいあるんですが、それは全部システム部ではなくて、営業のメンバーが現場のニーズに基づいて作っている状態になっています。

それから、Google Workspaceでは基本的にメールやカレンダーを使ってますが、もともとは別の会社さんのサービスを使っていました。オンプレのサーバーで運用していましたが、Wordのファイルを開こうと思ったら、サーバーが弱くて開くのに1分くらいかかったりして、ファイルサーバーの使い勝手が非常に悪かったです。

2015年以前の当社はとても紙文化な会社で、例えば会議室の予約は、会議室の前に置いてあるホワイトボードにみんなで「誰々、何月何日何時から会議で使います。お客さんは誰々です」と書いて管理をしていました。それをGoogle カレンダーで一括管理できるようになりました。

災害時にもすばやく店舗の状況を共有

柳瀬:毎月店長会議をやっていますが、100人くらいが参加する会議で、各個人に渡す資料が1人あたり100枚ぐらいありました。

64枚は各お店のP/Lの数字だったんですが、その資料を用意するだけでも100人×100枚なので1万枚の紙を印刷して、社員が会議室に来る前に全部並べて、1枚ずつフォルダに閉じるという作業もやっていて、非常に手間がかかっていました。

今では会議資料も一切印刷しないように、ペーパーレス化しています。資料はGoogle Driveで共有して、タブレットもしくはChromebookで見る体制になっています。結果として、デジタルを使った働き方改革になりました。コロナになって、本部はまだリモートワークをしているんですが、特に支障なくできています。

今のは一般的な使い方ですが、ホームセンターならではの使い方をご紹介します。熊本地震の時の対応の例ですが、64店舗をやっていると、どの店が開けられて、どの店が開けられていないのかを、オープンの時間にすぐに把握しなければいけないんですよね。

九州は、台風が来たり地震が来たり大雨があったりして、どういう状況なのかが朝になってもわからない。お店に行ってみないとわからないという状況が多発しています。

しかし店舗の状況をすぐに共有するために、Googleのスプレッドシートを使って、64店舗の社員や店長が同時編集で、いわゆるExcelの表のようなものにどんどん状況を書き込んでいって、どの店が開けられていないのかを把握しています。

それから、今までは被害についても電話で全部報告を受けていたので、電話が殺到してしまって状況がよくつかめなかったんですが、タブレットで撮った写真が自動的にGoogle Driveに保存されるような仕組みを作って、地震でどんな状況なのかがわかるようになりました。

物が落ちているだけは、まだ被害が少ないほうですね。ガラスが落ちてきたり壁にヒビが入っている箇所を共有して、緊急度が高いところから対処しています。そのためにシステムを作るんじゃなくて、前日にスプレッドシートを立ち上げて情報を共有するということが、会社としてはだいぶ根付いてきています。

連絡手段がチャットになり、気軽に情報共有ができるように

柳瀬:以前は業務日誌をWordに書いて、印刷してみんなで見ていましたが、今はチャットで報告してくれていますので、いろんな情報をバッと送ってくれるとわかる。台風だったり、コロナの対策情報などを見ながら、今、お客さまがどういうことを店舗に求めているのかを本部にいながら把握できています。

今までは紙だったので、コメントを付けようと思ってもなかなか返信できませんでしたが、今はチャットなので、良い事例だなと思ったら「いいね」を付けたり、いろんなリアクションをして情報共有したり。場合によっては、店長に個別に「もう少し詳しく教えてください」と聞いたりして、以前に比べるとだいぶ簡単に情報共有ができるようになっています。

それから、Google Workspaceで仕事を全部回すようにしていますので、Windows端末もだいぶ使わなくなりました。全店舗にChromebook、もしくはAndroidの端末を渡して、在庫の検索もそれでやったり、いろんな資料を紙ではなくタブレット、もしくはChromebookで見るようなかたちになっています。

以前はローカルなパソコン上に全部のデータが保管されていましたが、担当が変わるたびにいろんなファイルをハードディスク上に移す作業がシステム部に発生して、半日くらいかかって行っていました。それはもう一切なく、簡単にドライブでクラウド上のデータを共有すれば済むので、効率化しています。

もう少し詳しいことをやろうと思ったら、Googleの仕組みの中にGAS(Google Apps Script)というものがあるので、これを使いこなす人材を育成しています。当社の社員で「GASがすごく好きです」という人がいるので、彼に講師になってもらって社内の勉強会を開催して、具体的なApps Scriptの書き方を教えたりしています。

自動で売上の日計表とかが送信できたりするのですが、こういうことをやっているのがおもしろいということで、Googleの事例にも紹介されていますので、もしも興味があればぜひご覧ください。