僧侶・煩悩クリエイターとして活動する稲田ズイキ氏

司会者:今日のイベントのテーマは「HYOUGE NIGHT」です。周囲から見ると損してそうな選択をしながらも、自分の感性や価値観を大事に起業していて、多様なジャンルで愉快な働き方をしている方を、スタートアップカフェ大阪では「ひょうげている人」と定義をしています。そういった方をゲストに迎えて、参加者と対話形式で話すスナック形式のイベントです。

「あの人はなぜ安定の会社を辞め、副住職をしながら煩悩クリエイター兼編集者になったのか?」ということで、今日はゲストとして稲田ズイキさんに来ていただきました。もういらっしゃってるんですが、みなさん拍手でお迎えください。

稲田ズイキ氏(以下、稲田):(笑)。

司会者:ここから自己紹介を踏まえて、イベントを開始していきたいと思います。大きく1~5のトピックスをご用意してるんですが、稲田さんのご経験を別の資料でまとめていただいてるので、そちらも見ながらお話聞ければと思います。では早速、稲田さん、お願いしても大丈夫でしょうか。

稲田:はい、大丈夫です。みなさん、あらためましてよろしくお願いします。稲田ズイキと申します。今日は本当に少人数で、かつ主に起業を目指してる方向けのイベントだという話を聞いてるんですが、残念ながら僕がしたのは起業という起業ではなくて(笑)。個人事業というかたちで、今は僧侶でありながらいろいろなコンテンツを作ってます。

会社を作っていくための、わかりやすい起業の話・Tipsの話を期待されてもなかなか答えられないという(笑)。悲しいかな、それが今日の(トークの)お題になっちゃうんですが。

その代わり、僕はお坊さんでして、「生きていく上でこういうふうに考えたらいいのではないのか」とか、メンタルのいなし方とかの話はできるんじゃないのかなと思ってます。それに(今回のイベントは)少人数なので、今日の目的は「友だちになる」というのが一番いいんじゃないかなと思うんですよ。

どれだけ活躍している人でも「孤独」である

稲田:ごめんなさい。最初からめっちゃ脱線してるけど、現代でこれから解決しないといけない問題が3つあって、それが「孤独」「不安」「退屈」だと以前聞いたんです。「じゃあ、その3つのうちのなにかを稲田はコンテンツで解決しないといけないよ」と友だちに言われて、「あぁ、そうか」と思いましたが、どれもなかなか解決できないしなぁと思って。

そこで今思いついたんですが、めっちゃ単純だけど、やっぱり孤独って「友だちになる」のが一番ですよね(笑)。もしみなさんがなにかに困ったり「今夜、眠れねぇな」みたいな時は、せっかく出会った機会なので、メッセンジャーやLINE、TwitterのDMでもいいですが、ぜひ連絡ください。これが今日一番の良い場のあり方なのかなと思ったりしてます。

ごめんなさい、前提が長くなりすぎました。本日伝えたいことを軽くまとめてきたんですが、まず『プロフェッショナル』を見ると誰でも不安になるということです。これ、わかる人はわかると思いたいんですが、『プロフェッショナル』とか、職人や人生の成功者の人生に迫る誰かのドキュメンタリーとか、不安になりませんか?

もちろん、僕もあれを見ると「うわぁ……」って不安になってきます。テレビの画面の向こう側ではめちゃくちゃがんばってるわけじゃないですか。かたやこっちはチョコチップクッキーとかを食べながら見てるわけでしょ(笑)。だからその時はすごく焦るし、焦燥感、不安になってくると思います。

「お前めちゃくちゃ売れてるだろ」みたいな作家の友だちや、年収8,000万ぐらいのYouTuberの友だちとか、僕もいろんな友だちに出会ってるんですが、実はみんな不安なんですよ。どんなに稼いでいて、どんなに客観的に見て「こいつは大丈夫」と思うような人でも、誰しもがそうです。

いざ話してみると、「俺よりもおもろいYouTuberが出てきた」「俺よりもおもしろい作家が出てきた」「会社がどうなるかわからん」とか、みんな当たり前のように不安を言っているので。たとえ『プロフェッショナル』を見て、「俺って本当にどうしようもないな」と思いながらクッキーを食べてたとしても、大丈夫だという話です。これを一番伝えたいです。

SNSでは他人のがんばってる姿が見やすいので、やっぱり「何者かになりたい」という欲望がありますよね。そういう時も、「誰もが自分を奮い立たせるために、ああいう言葉を使ってああいうふうに見せてるんだ」というイメージで捉えると、けっこうみんなが孤独に見えてくる。実質、みんな孤独です。こういうマインドを持っていたら、僕は楽になりました。

大学卒業後、デジタル広告の会社に就職

稲田:ごめんなさい、まずは「お前は何者やねん」という話をしたほうがいいと思っていて。知らない人が多いですよね。「ちょっと変わったお坊さん」というかたちで、こないだテレビに出たんです(笑)。劇団ひとり、ファーストサマーウイカ、DJ松永がMCの『任意同行』という番組にゲストで出ました。

まず経歴を簡単に説明すると、1992年生まれで29歳。京都の南のちょっと田舎のほうなんですが、久御山町にある浄土宗という宗派のお寺で副住職をしています。住職になったら、僕が41代目になるらしくて。

司会者:41代も続いてるんですね!

稲田:(建立は)安土桃山時代らしいので、400年ぐらいの歴史ですよ。次の(スライドの)「同志社大学」という言葉を見た時点で「こいつなんやねん」と思う人も、もしかしたらいるかもしれないけど(笑)。

同志社はキリスト教のプロテスタントの大学なんです。これを見てわかるとおり、浄土宗の寺に生まれ、プロテスタントの大学に行き、これには書いてないけど、高校は浄土真宗という別の宗派の高校に行ってるんですね。

だから“宗教のサラダボウル”みたいな状況になっていて、経歴がとっちらかってるんですが、それでもお坊さんなんですね。「なんでもいいわ」「どこで学んでもいいよ」みたいに、父・母がけっこうゆるい家庭だったので(笑)。

これを話すと長いんですが、大学院に行き、そのあと新卒で渋谷にあるデジタルエージェンシー、つまりデジタル広告系の会社に入りました。ちょっと変わっていて、デジタルマーケをしながら編集で、コンテンツの技術で企業のマーケティング上の課題を解決する。簡単に言うと、企業のブランディングやデジタル上のコミュニケーション手法を考えていました。

要するに、Webサイトを作って、コンテンツをどう作って、YouTubeにどういう動画を作って、どういうふうにSNSでコミュニケーション取るのかを考える会社でした。ですが1年で退職して、今は作家・編集者として活動しています。経歴がとっちらかってますよね(笑)。

司会者:(笑)。そんなことないです。

稲田:そんなことないですか? みなさん、ツッコミながら反応してくれたらうれしいです。

司会者:そう、皆さまも気になったことはツッコんでくださって大丈夫なイベントです。

家族総出演で制作した、お寺ミュージカル映画『DOPE寺』

稲田:じゃあ、具体的に今は何をやってるのか。『フリースタイルな僧侶たち』という、13年ぐらいやっている息の長いフリーペーパーなんですが、みんな知らないと思うけど仏教界隈では超有名で、自分で言うのもおかしいけど名の知れた媒体でして(笑)去年からこれの3代目の編集長をしてます。

これは地獄について研究した「地獄」号ですね。このあいだの最新号は孤独特集で「ひとり」。

司会者:すごい特集ですね(笑)。

稲田:自分で本を出してます。集英社から出た『世界が仏教であふれだす』という、おもしろおかしくいろんなものを使って仏教を説明する本です。よかったら、お買い求めくださったらうれしいです。

これは『DOPE寺』という、お寺ミュージカル映画です。映像作家の友だちと、学生の時に自分のお寺を舞台に(撮影しました)。主人公が私で、おじいちゃん・おばあちゃん・お父さん・お母さん、家族総出演。檀家さんというんですが、僕らがよく法事をしているような近所に住んでるおじいちゃん・おばあちゃんも総出演で、お寺ミュージカル映画を作りました。映像で見せられたらいいんですが、用意してないんです。

司会者:YouTubeでも見れたりするんですか?

稲田:ティザーがあるので、数十秒のやつは見られる。……何コマかだけ切り取ってきてまして、これは映画のラストシーンなんですが、父と僕との説法ラップバトル。お寺ミュージカル映画なので、説法でバトるんですね。

司会者:(笑)。

稲田:自分でも「何言ってるんだろう」と思うけど(笑)。後ろにいるのが近所の檀家さんのおじいちゃん・おばあちゃんで、オーディエンスは檀家です。こういうかたちですね(笑)。これは檀家が「We are Dan Dan 檀家 檀家 Dan Dan」と言ってるシーンですね。

司会者:(笑)。

稲田:これがお寺ミュージカル映画『DOPE寺』です。あとでしゃべるんですが、実はこれが僕にとってすごくブレイクスルーになった1つのコンテンツなんです。

『鬼滅の刃』を仏教視点から読み解く連載も

稲田:これは最近の事例なんですが、京都にコンテナハウスがありまして。「そこを寺として使ってくれないか」というすごく斜め上の提案がきたので、コンテナを寺として使ってみようということで、なにもないコンテナに仏像だけ置いて「コンテナ寺院」というのをやってました。コロナで閉じちゃったので紹介だけ。

これはもしかしたら、起業やビジネスを考えてる人にとってはおもしろいかもしれないです。仏教ってすごくいろんな世界観があるんですよ。簡単に言ったら地獄があったり、天国的な極楽浄土という場所があったり、すげぇでかい海があったりとか。そういうのを「仏教マルチバース」と呼んでいるのですが、それをデジタル空間上に再現しようじゃないかと。

今、メタバースがはやってますよね。アーティストのたかくらかずきさんという、仏教をモチーフに現代美術を作っている人がいるんですが、その方と一緒にメタバースで仏教の世界観を表現しようとしています。そのプロジェクトが「浄土開発機構」です。

その一環で、今やっているのがNFTブッダというものです。仏像ってめちゃくちゃ種類があるんですよ。仏像の中にも「如来」「菩薩」「天部」「明王」と4カテゴリあったり、それぞれにめちゃくちゃ数があるので、それをキャラクター化するとおもしろいんじゃないかなと。人間とポケモンとの距離感ってすごくいいなと思うんです。

司会者:仏像で遊んでますね(笑)。

稲田:NFTブッダを作りつつ、仏像だけじゃなくて煩悩もキャラ化しようかという話になってます。煩悩は108個あるんですが、108それぞれをキャラクター化する煩悩NFT「BONNONE」。自分で言っていて「何なんだろう」と思うけど(笑)、そういうのをやってます。今、実際にそれを売ってますが、すぐ売り切れちゃうんです。この間も、僕のデザインした「BONNONE」が10分もかからず売り切れましたよ。

司会者:それはすごい、めちゃくちゃ人気ですね。

稲田:実は、あんまり意味もなく「煩悩クリエイター」と名乗ってるんですが、煩悩でキャラクターをクリエイトする仕事をなぜか今してまして、ここで伏線回収されたというか(笑)。僕の人生が名前にちゃんと追いつきました。

これはわかりやすいかも。『ジャンプ』の仕事なんですが、『鬼滅の刃』を仏教的に読み解く連載をやってます。

司会者:やはり、編集ですね。

稲田:そうですね、コンテンツを作ってます。あとは固めの雑誌でエッセイを書いたり。

司会者:そんなこともされてるんですね(笑)。

稲田:実はいろいろやってるんですよ(笑)。というわけで、「この人何やってんの?」という感想はたぶん正しいです。僕の人生も本当にとっちらかってるので、これを機に自分の人生をまとめさせてもらいました。これからさらに深く自己紹介できればなと思います。