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ティール組織において「人事」はどうなるか?(ユニリーバ・ジャパン 島田由香さんインタビュー)(全1記事)

日系企業出身者が抜け出せない「上司の言うことが絶対」文化 ユニリーバ流、忖度や遠慮のない組織のつくり方

働く場所と時間を自由に選べる制度「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」を導入し、その考え方に共感する人々が集まるコミュニティ「Team WAA!」を立ち上げるなど、社内外でその影響力を発揮する、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの島田由香氏。本記事では、ティール組織における「人事」の在り方について語っています。 ※このログは英治出版オンラインの記事を転載したものに、ログミー編集部でタイトルなどを追加して作成しています。

ピラミッド型ではなく、フラットな組織作りを目指して

── 『ティール組織』出版以来、島田さんには感想コラムを書いていただいたり、さまざまなイベントで取り上げていただいたりして、本当に感謝しています。あらためて、島田さんにとって『ティール組織』はどんな本だったのでしょうか?

島田由香氏(以下、島田):こんなことを言うのはおこがましいですが、この本を読んだ時、「私がずっと考えてきたことが言語化されている!」と感じました。

── ご自身の組織で実践されてきたことが書かれていた、ということですか?

島田:もちろん、完璧にはできていませんが、重なるところが多いと感じました。2013年に私が人事のヘッドをやることになった時、「どんなチームがベストなのか」と考えました。その時私は、ピラミッドの上からみんなを見下ろすんじゃなくて、ピラミッドの三角形をぱたんと横に倒してフラットになったところを自由に動き回りたい、そんなイメージを持ちました。

それから6年間ずっと、毎月1回はチーム全員で集まって「私たちってどういうチームかな?」「何に困ってる?」「どうしたらもっと良くなる?」という話をしてきました。そこに『ティール組織』が出てきて、「目指してきたのはこれだ!」と気づいたんです。私が実現したい組織のあり方がロジックと感情の両面で言語化されていた。これは私たちのバイブルみたいなものです。

さらに社外では「Team WAA!」というコミュニティを運営していて、こちらは完全なるティールだと感じています。大きなパーパスに基づいて集まってきたメンバーは、立場も置かれている状況や環境もぜんぜん違う。だからこそ、それぞれのやりたいことや持っている強みを生かし、お互いを見ながらパーパスに向かって動いています。

会社全体がティール組織になれば、無駄なストレスもなくなる

── 確かに、コミュニティやプロジェクトのレベルでは「ティール的に運用しよう」という声がいろいろなところで聞こえてくるようになりました。一方で、会社の中にティールを持ち込むというのはまだまだ難しい面もあるのではないですか?

島田:そうかもしれないですね。特に、組織の構造がピラミッド型で役職というものがある以上、完全にフラットな関係になるのには相当な時間がかかるかもしれません。

私の人事のチームには階層が3つしかありません。それでも、その階層の一番上にいる私の言うことが絶対だと思ってしまう人はいます。「そうじゃないよ」という話はずっとしているのですが。例えば日系企業から転職してきたメンバーなどは役職が上の人の言うことを聞くのが当たり前になっていますから、ものすごく戸惑うんです。

ずっとユニリーバにいたとしても、役職を気にする人はいます。もちろん人は変わることができるので、少しずつ私たちのやり方に慣れてはいきますが、会社が組織構造を変えない限りは完璧にはなりえないでしょう。それでも私のチームにおいては、理解者を増やし、ティール組織を体現できることを目指しています。

── 人事のチームだけでなく会社全体がティールになるとしたら、それはユニリーバさんにとって良いことですか?

島田:素晴らしい質問ですね! 感覚的には良いことだと感じます。きっと無駄なストレスがなくなると思うからです。今はピラミッド型の組織でかつ部門というものがあるため、みんなが勝手に「これはどこどこがやるべき仕事だ」というイメージを持っていたり、「これ、私がやってもいいのかな」という遠慮があったりします。そうなると、やるべきことをやらなかったりするんですね。

ユニリーバには、「サステナビリティを暮らしの”あたりまえ”に」というパーパスに共感した人が集まっているわけだから、そのパーパスのための仕事であれば誰がやってもいいはずなんです。「これは誰々の仕事」と区別してしまうのは、組織がある程度大きくなってサイロになっているからでしょう。

本当にティールになることができれば変な遠慮がなくなり、パーパスに向かってもっと自分の強みを生かしていけるはずです。でも、もしやるとしたらけっこう大変でしょうね。評価や給与はどうするのかとか、みんな制度的なことにものすごく関心がいきますから、最初は抵抗が大きいと思います。

リーダーの色が、チーム全体の色となる

── 部門を越えて俯瞰できるトップの心持ちや取り組みが重要になってきそうですね。

島田:リーダーの色がそのままチームの色になりますよね。2018年にユニリーバ・ジャパンの社長が変わって、「組織はリーダーがどの段階にいるかで決まる」ということを本当に体感しました。そして、ちょうどその時期に『ティール組織』を読んで考えることができたのは、私にとってはとても良かったと思っています。

以前のトップは本当にパーパス中心で、世界の見方を引き上げてくれる人で、私は勝手に「ティール・リーダー」と呼んでいました。その当時、ユニリーバは少なくともグリーンだと感じられて、このリーダーがいることによってティールになっていける可能性が非常に高いと感じていました。

もちろん、制度も何もかも変えるのは難しいかもしれないけれど、目指すべきところや共通言語としてティールを追求していけることはあり得ると信じられたのです。

ところが、リーダーが変わった当時は組織がオレンジになったように感じました。私はそのことを勝手ながら残念に感じたりもどかしく思ったりしていました。ですが同時に、「あの人はティール・リーダーだったけれど、この人は……」と勝手に思っている私はティールなのか? 自分自身がオレンジなのではないか? ということも考えるようになったんです。

そして「私ができることって何だろう」と考えると、ティール・リーダーと一緒に働くという稀有な体験をしたのだから、自分がその視点と世界観を持てるように日々努力と精進をし、トップの世界観がグリーン、そしてティールに進化できるような刺激を与えることなんだと思いました。

それはこの本のおかげです。ここに答えが書いてあったわけではないですが、「自分はティールなのか」という内省をさせてくれました。

組織において、「究極的には人事部はいらなくなる」?

── そのことは、以前のコラムにも率直に書いてくださっていましたね。その後、島田さんと社長との関係性は変わりましたか?

島田:当時から悪いわけではないので大きくは変わりませんが、ありがたいのは、新しい社長も私の言うことによく耳を傾けてくれるということです。

私は、感じたことは相手に直接言うようにしています。一般的には、自分より年下の女性に色々言われることを心地よく思わない男性が多いかもしれません。でも社長は、「わかった。自分なりにやってみる」と言ってくれました。だから私も「自分ができることをしよう」と決め、実際に関係性にもチームの在り方にも変化を感じています。

── トップが変わっても、変わらずに残っていることもありますか?

島田:はい。「Be Yourself」という個人を大切にする文化や、パーパスを中心においているという点は、新しいリーダーになっても変わらない部分です。

── パーパスはすでに根付いているから、誰がリーダーになろうとも変わらない?

島田:おっしゃるとおりです。軸になるところは変わりません。今の社長(※2019年時点)は30年以上ユニリーバにいるので、そういう意味ではパーパスへの理解もとても深いものだと思います。

── ここまでお話しいただいたことも踏まえ、 組織における人事の役割として、何が大切だとお考えですか?

島田:私は、究極的には人事部はいらなくなると思っています。会社が存続するために、働いている人たちに給与という名の価値の対価を支払っていくプロセスはもちろん残りますが、それはアウトソースできることですよね。

今のユニリーバにおける私たち人事の存在意義は何かというと、社内の必要な人にコーチングをしたり、うまくいっていないところに介入して人間関係を修復する手助けができるということです。例えば、ある部門で上司と部下で揉めている時に、両者が対話できるように間に入ります。

これも各部門の中でできるようになれば、私たちが出ていく必要はないんです。例えばNLPやクリーン・ランゲージなどのスキルや知識を一人ひとりが持っていたら、当事者同士で解決できるんですよ。

これからの人事に残された「究極の役割」とは

島田:そうなった時に私たちに残される役割は何か。それは、会社全体を見て、人のつながりや関係性、温度感みたいなものを把握した観点から、リーダーにアドバイスや提言をし、時には異議も唱えるパートナーであるということ。これだけです。

もちろん、社内のいろいろな人の相談に乗ることはあるかもしれないけれど、本当にティールな組織になれば、今みたいに各所に呼ばれて問題解決をする必要はなくなっていくのだと思います。

── 「人」のことに関して「トップにアドバイスをする」、これが究極の役割だということですか?

島田:それを自分でできる社長もいるかもしれません。ただ、社長という仕事は大変孤独なものだと思うのです。ですので、愚痴も聞くし時には叱咤激励する、そういう存在は必要なんじゃないかな、と。それを「人事」と呼ぶかどうかはわかりませんが、「リーダーのコーチ」という役割は残るのだと思います。

── 日本の企業の人事部で、今おっしゃったような役割を認識している方はとても少ないと思います。

島田:私は外資系企業にいますが、日本企業とは人事の意義の捉え方が大きく違うということは感じています。私自身が在籍したことはないので見聞きしただけなのですが、日本企業の人事は給与や労務の対応や制度作りなどに重きを置く傾向があるようです。

一方で外資系の会社における人事は、スタッフに伴走する「ビジネス・パートナー」として捉えらているように感じます。本質的に大事なことは両者の間で変わらないと思うのですが、どうしたら立場の違いを越えて「より効果的な人事」を追求していけるか、よく考えなければいけませんね。

ティール組織を「制度」で語るのはナンセンス

── 「人事」とは別の、新しい言葉が必要なのかもしれません。島田さんがおっしゃったことは、リーダーシップを発揮したいという意思がある人のためのコーチやアドバイザーのような役割だと思います。日本の企業でいわゆる「人事」というと、社員全員に対して公平であることやルールを課すことをイメージする人が多そうです。

島田:確かに。Team WAA!のセッションでティールについてディスカッションした時にも、出てくる質問の多くは「制度」に関することでした。私からすると、それはナンセンス。

例えば、近年「ノーレーティング」という人事評価制度が出てきて、「A」「B」「C」といった評価をなくすところも出てきています。ですがそれも、「制度としてどういうものなのか」ということよりも、「評価の結果によって人にラベルを貼るのをやめる」という本質こそが大事。そのコンセプトから理解しないと、組織の血肉にはならずに終わってしまいます。

── 制度や仕組みそのものの話に目が向きがちなのは、より具体的に自分の世界に置き換えやすいからなのかもしれませんね。人は自分がいる世界からしか物事が見えないものだと思うので、新しいものと出会った時には特にそうなってしまうのだと感じます。

島田:そういう意味では、「給料を自分で決められるの!?」とか「評価ないの!?」といったことだったとしても、「まずは気になる」というのはいいことなのかもしれません。おっしゃるとおり、私たちは自分の世界からものを見ていて、それが思考や判断のパターンになっています。でも、誰かとの出逢いや、何かにハッとさせられたりドキッとしたりすることが、そのパターンを良い意味で崩すこともあるんですよね。

最初は「制度としてどうなの?」という関心でもいい。次第に、「評価がない」とか「給料を自分で決められる」というのは、いったいどういうことなんだろう? というところが気になるようになる。

やがて、これによって「選択肢が増える」「自分をより活かせるようになる」「生産性を上げられる」というコンセプトレベルの理解にたどり着く。そうして「これは望ましい取り組みだ」という深い気付きにつながるのかもしれません。そういう観点からティールを読み解いていくのも、いいかもしれませんね。

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