強いブランドが共通して持っているもの

平原依文氏(以下、平原):さっそく、自己紹介に入っていきたいと思います。まず、齊藤さんからいきますか。

齊藤三希子氏(以下、齊藤):みなさんこんばんは。エスエムオーの齊藤三希子と申します。よろしくお願いします。私は、もともと電通におりまして。と言っても広告の仕事はしたことがなくて、最初は人事にいて、その後電通総研に行くという、ちょっと変わったキャリアだったんですけれども。

その中で、特に後半の電通総研にいる時に企業さんから、「どうしたらイノベーションを起こせるのか」とか「強いブランドを作るにはどうしたらいいのか」というご相談をよく受けていたんですね。いろいろお手伝いさせていただくんですが、なかなか手を離れてしまうと強いブランドが作れない、世界で戦えるブランドが作れないと、ずっともやもやした思いで仕事をしていました。

電通に7年勤めた後に独立し、「齊藤三希子事務所」というすごくベタなブランディング会社を作ったんですが、ロゴを作るとかコミュニケーションといった、わりと表面で見えるところのお仕事、お手伝いをさせていただいていました。

そこでもやっぱり手を離れてしまうと、なかなか強いブランドが作れないというか、ブランドの損失がどんどん激しくなるという状態が起きまして。

「強いブランドを作るには、世界で戦えるブランドを1つでも多く作るためにはどうしたらいいんだろうか」と考えていたのがだいたい10年前ですね。

うちのチームメンバーにジャスティンさんというアメリカ人がいるんですけれども。今ロサンゼルスにいる彼が、「それって、『パーパス』がある、なしで大きく変わるんじゃないの。アメリカの強いブランドは『パーパス』があるよね」と言ったんですね。

その時の私は「パーパス」というと、中学生の時に習った「目的?」ぐらいのレベル感だったんですけれども。うちのジャスティンさんはオタクですからね。「ジャスティンさんが言うってけっこうすごいことだよな」と思って、みんなで調べてみようってところから、私たちの「パーパス・ブランディング」の旅が始まりました。

ロゴ作成やコミュニケーションだけが、ブランディングではない

齊藤:その頃、ちょうど社名も「齊藤三希子事務所」から、「チームみんなでやっているんだから社名を変えようよ」ってことで、「エスエムオー」に名前を変えました。ちなみにこちらのロゴは佐藤卓さんにお願いして、きれいに作っていただきました。それもやっぱり佐藤さんに、「強いブランドを作りたいので、素晴らしいロゴが欲しいんです」と直談判をして作っていただきました。

我々がやっているパーパス・ブランディングのお話を少しさせてください。そもそもブランディングとは何かということについてです。いろいろ解釈があるかと思うんですけれども、一言で言うと「企業価値を高めること」に他ならないと思っています。

ロゴを作ることもコミュニケーションすることももちろん含まれるんですけれども、それだけではなく、企業価値を高めることがブランディングになっています。

いろんなモノやコトという無限の選択肢の中から、ステークホルダー、お客さまは意思決定をして選んでいくわけですよね。その中で、企業やブランドがどのようにしてステークホルダーとつながって、生涯にわたってかけがえのない関係を作っていけるのか。その関係を築くための1つの大切な手法がブランディングだと思っています。

強いブランドは密度の高い市場の中でも目立ち、人々に信頼されて愛される。それが強いブランドたるゆえんだと思っています。

ブランディングの手法が変わった、3つの理由

齊藤:ブランディングの手法が変わってきたというお話を少ししたいと思います。今ものすごく市場環境が変わってきていて、パーパス・ブランディングが注目されていますが、大きく分けてブランディングの手法が変わった3つの理由があると思います。

1つ目が経営環境と時代の変化。本当にスピードが早くなり、1ヶ月前のことがもう古いような時代になっている中で、近い将来であっても正確に予測することが困難になっていること。

2つ目は、時代のニーズが変わってきているということです。何度も言いますが、明日何が起こるかがわからない時代。コロナも誰も予想していなかった中で、消費者のみなさんが求めるものはつながりや絆、やりがいにシフトしていきます。消費者は企業やブランドからもっとヒューマニティ、人間らしさを求めるようになっています。

それから3つ目、経営手法。これも大きく変わってきています。これまでのブランディングは数年単位、本当に長いと10年単位で計画を策定し、実行しているものが多かったんですけれども。今日のような激しい変化ではそれは通用しないという中で、変化に迅速かつ柔軟に、フレキシブルに対応してブランディングを行っていく必要が出てきています。

ここでパーパス・ブランディングのご説明をしたいんですが。ブランドパーパス、組織でも企業でもブランドでも良いんですけれども、「パーパス」は「それ1つで社内の人々を結束させて、競合との差別化を図るもの」としています。これはインターナル(内部)なものでも、エクスターナル(外側)に向けても、「パーパス」1つでやり抜ける、ブランディングができると私たちは考えています。

私の自己紹介がてらのご説明はこのへんにして。次に、楽しみな永井さん、佐々木さんの自己紹介を。

HAKUHODO DESIGN代表の永井一史氏が登壇

平原:じゃあ続きまして、永井さんお願いします。

永井一史氏(以下、永井):よろしくお願いいたします。僕もスライドを用意してきたんですけれども。「パーパスとデザイン経営」とあるんですが、まず簡単なご紹介です。

僕自身はアートディレクター/クリエイティブディレクターをやっておりまして、2003年にHAKUHODO DESIGNという会社を立ち上げまして、今そこでクリエイティブディレクター、主にブランディングの仕事をしております。あと同時に、7年前から多摩美術大学の統合デザイン学科で学生を教えております。

仕事としては、みなさんもよくご存じのお茶飲料に商品開発からずっと関わっています。もう19年ぐらいになりますかね。僕が一番古くから残っていて、クライアントの方より逆に古くなっちゃっているという(笑)。あと、東京都のブランディングの「Tokyo Tokyo」ですとか、さまざまな仕事をさせていただいております。

「パーパス」との出会いは、長くなっちゃうのでごく簡単に言うと、ブランディングの仕事はもう20年近くやっておりまして、最初はブランドのストラクチャーを作る仕事をやっていたんですね。

主にはブランドの価値の規定をしたり、ビジョンを作る仕事をしておりまして。それが当然ブランドの真ん中であると、当時からずっと意識していたんですけども。その中で……。それはちょっと後にしますね(笑)。どこまでどう語るかが難しいですね。

平原:焦らしがすごいですね。

永井:後で話すことがなくなっちゃう気もするので、すっ飛ばします。後でちょっと引き出していただくということで。

「ビジネスにおけるデザイン」を支える3つの要素

永井:そこから2018年まで飛びますね。「『デザイン経営』宣言」というのが経産省・特許庁から出まして。僕はその委員をやらせていただいて、佐々木さんもいらしてますけど、Takramの田川(欣哉)さんやA.T. カーニーの梅澤(高明)さんですとか、いろんな方たちと1年間ぐらいかなりディープなディスカッションをしてこの宣言を出したんですね。

デザイン経営をどう定義しようかという時に、いろいろ紆余曲折はありました。「ブランド構築」というのは15年前に経産省から発表されたものにも、「ブランディングに資する」という話が出ていたんですけども、近年の環境の中では、デザインシンキングを含めて「イノベーション」も非常に重要であるということで、その2つ(ブランド構築とイノベーション)がデザイン経営だという定義をしました。

ブランド力向上とイノベーション力の向上が、結果的に企業競争力の向上につながって、それがデザイン経営であるということです。いったんはそれを発表した段階で研究会は終わったんですけども。ある種自分の「パーパス」として、デザイン経営をどう広めていくかをみなさん個々にやられています。

「『デザイン経営』宣言」は比較的イノベーション寄りでして。あの資料はPDFになっているのでご覧いただきたいんですけど、実はあんまりブランディングについては触れられていなくてですね。それが自分自身ではとても心残りで、あらためてちゃんとデザイン経営を深めたいと思って本を書きました。

これはデザインをどう考えるかといった時のフレームワークというか、説明する時によく使っていたものなんですけども。当然、ビジネスの上でデザインを考えた時、経済性は重要なんだけれども、同時に社会性と文化性もとても大事だよと。その交点がデザインだとずっと説明していて。僕自身は「パーパス」も、たぶんこれに深く関係することじゃないかなと思っています。

デザインって、当然美意識をすごく大切にする思想であり方法論なんですけども。例えば社会性で言うと、社会的価値や倫理性、透明性などが、文化性で言うと「らしさ」や一貫するストーリー性などが重要になってきます。当然、審美性も美意識として入ってくるなということで、これがよく使っている図です。

自社視点で書いた社会的役割がミッション、「パーパス」は……

永井:従来の経営がロジカルを重視したのに対して、デザインを活用した経営は創造性が重要だったりとか。今までは経済性や部分最適でも成り立っていたとは思うんですけども。今は社内と社外だとか、組織と個人といった一貫性が非常に重要視されていくんじゃないかなということで、デザイン経営はそれを包含する考え方だと思ってます。

「企業の社会的存在意義(パーパス)を見定めて組織文化を構築し、新たな価値を創造し続ける経営手法」というのが、僕のデザイン経営の定義です。

これは、それをモデル化したものです。先ほど齊藤さんが説明されたインターナル、エクスターナルともすごく近いと思うんですけど。真ん中に「パーパス」があって、そこから組織や仕組み、人材、場というのがあって。

そこから創出されるものが右側の「価値創造」で、イノベーションや事業、ブランディングもここに相当するかもしれないですけども、全体がデザイン経営になっているという整理をしています。すべての土台となる存在価値が「パーパス」と。ここらへんが今日のディスカッションのポイントになるかもしれないんですけど。レイヤーとしてはミッションのレイヤーかなと思っています。

どちらかというと、社会に果たすべき役割を自社視点で書いているのがミッションだとすると、もうちょっと社会視点、世の中における自分たちの存在意義が「パーパス」なので。非常に近いレイヤーにあるんですけど、定義の仕方がより社会性にストレッチされたものが「パーパス」かなと僕は整理しています。

「なぜ今パーパスが重要か」の1つの自分なりの考え方なんですけども。リフレーミングして変化のきっかけを作る時に、パーパスを再定義することが重要かなと。企業そのものに新しい意味を与えていくことが「パーパス」の大きな役割かなと思っています。

先ほど齊藤さんからフレキシビリティという話もあったと思うんですけども、組織文化の構築は柔軟に新しいことを生み出し、価値創造し続けていくための土台作りかなということで。以上です。ありがとうございます。