2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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齊藤三希子氏(以下、齊藤):まさに外的要因の話はそのとおりで、本当に10年くらい前から「パーパス」「パーパス」と言っていたんですけど、はっきり言って見向きもされなかった中で、ラリー・フィンクさんが2019年に日本にやってきて日経新聞のインタビューを受けたんですね。それがけっこう大きな記事になって。
それを見たら各社さんから、「齊藤さん、そういえば『パーパス』って言っていたよね。ラリーさんが『パーパス』って言っているんだけど」と言って。「ああ、みんな日経新聞を読んでいるんだな」と思って。そこは、すごく思いました。
佐々木康裕氏(以下、佐々木):「10年前から言っていたのにな」みたいなのね。
齊藤:そう。でも、やっぱりこういうインパクトのある外的要因というか、メディアの報道がないと、なかなか変わるチャンスってないのかなって。そういう意味では今回のコロナも、大きく変わるというか前進、進化するいいチャンスなのかなとは思いますけど。どうでしょう、永井さん。
永井一史氏(以下、永井):そうですね。まさにおっしゃったみたいに、ESG投資やコーポレートガバナンスコードなどの外的要因がまずあるのと。
企業も、「このままでは良くないぞ。何か変化したいな」と思った時に、あらためて自分たちの目標や目的だとか、「自分たちって何なんだろう?」みたいなことの問い直しが始まっていて。そこがパラレルに進んで、「パーパス」への注目が高まっているんじゃないかなと思います。
あと、企業レベルということもあるんですけど、まだまだこれからな気がするんですね。その時に、今「パーパス」に注目されている、ある程度感度のいい方たちは、当然そういう外的要因だとか、今お話にあったようなコロナで働く意味みたいなことを、すべての人が問い直されていて。
そういう時に、「何のために仕事をしているのかな?」とか強烈に感じてリフレクションする時間がたぶんあって。あらためて働く意味を考えて、感度のいい方たちはそれに気が付いて、「もういっぺんちゃんと考えてみようかな」という機運が高まっているじゃないかなという気はします。
平原依文氏(以下、平原):コロナもあって、本当に企業だけではなく私たち個人もすごく「なぜ」「何のために」というパーパスを考える後押しをされているのかなと思いました。
平原:お三方とも、ふだん「パーパス」を見つけるお仕事をされていて、恐らくそれぞれ違う手法で見つけているかなと思うんですけど、みなさんどうですか。
エスエムオーに、「どう見つけたらいいかわからないです」という問い合わせがあったりするんですが、どうでしょう。じゃあ佐々木さんから。どんなふうに「パーパス」を見つけていらっしゃいますか。
佐々木:そうですね。やることは、「自組織の探索」と「社会の探索」の2つかなと思っています。社会の探索はもちろん大事で、今何が課題として大きいのか、どういうペインに悩まされている人が多いのかということですね。人だけじゃなくて、環境も含めて探索することが必要です。
この前、ある方と話をしてびっくりしたんですけども、例えば一般論として日本の企業の方は、R&D(研究開発)ってだいたい理系のイメージがあると思うんですね。でも海外のR&Dって、例えば文化人類学者がいたりするわけです。
まさに、技術だけじゃなくて社会的コンテクスト、それこそ永井さんがおっしゃる文化的コンテクストを読み解いていく専門の人も含めて、社会の探索が必要なのかなと思っています。だけど、それだけだと「じゃあなんで我々が?」という紐付けが難しい。
自分たちがどういう会社でどういうふうに生まれたのかというところと、自分たち従業員がどういう思いを持ってここに就職し働き、未来に何をしようとしているのか。その2つが交差するところが「パーパス」かなと思いますね。
平原:ありがとうございます。けっこう意地悪な質問をしていいですか。
佐々木:はい。
平原:「言っていることはわかるけれども、本当にできるの?」って質問もよくあるかなとは思うんですけど、どうでしょう?
佐々木:そうですね。「パーパス」を見つけることはできちゃうんですけど、やっぱりそれを設定するのは会社にとってすごい大ごとなんですよね。なので、プロセスがけっこう大事だったりします。
経営陣がトップダウンで「じゃあこれが『パーパス』だから、これでいくぜ」といっても駄目で、ボトムアップだけでいっても駄目で。時間をかけてやらないといけないものかなと思っています。
ちょっと齊藤さんがどういうかたちでクライアントの方とやりとりされているかわからないですけど、僕は「パーパス」についてはじっくり時間をかけて設定したほうがいいと思っている派なんですね。
数ヶ月のコンサルティングとかでできるものじゃないかなと思うので、いいものを見つけるまでやるという感じで、腰を据えてやることが大事かなと思ってはいますね。
齊藤:私も「ディスカバリー」と呼んでいるんですけれども、自分たちの中を探索していくプロセスになるので、やっぱり短時間でというのはなかなか難しいかなとは思っています。クライアントさんともじっくり時間をかけて、しかもリーダーだけでなく、おっしゃるとおり経営陣と、あとは次世代のリーダーも巻き込んで、みんなで考えていくことが重要かなと思っています。
そうしていかないと、次に浸透となった時になかなかうまくいかないですよね。なので、じっくり時間をかけて腹落ちするものを。「実は株主総会で発表したいんだよ」みたいなのもあるんですけど、「わかります。わかりますけどどうしましょうか」っていう(笑)。なかなか時間の短縮は難しいですよね。
平原:今、永井さんは上を見て深くうなずいていらっしゃったんですけども、どうでしょう?
永井:いや、何か違うことを言おうかなと思って(笑)。まさしく言われているとおりなんですね。
つまり、「パーパス」を浸透させるプロセスのほうが実は大事で。決めること自体は比較的簡単にはできるんですけど、その浸透にどれだけ準備をするかという中だと、たぶん、トップダウンとボトムアップの両方って話で。そういうプロセスを踏んだほうがいいし、僕も比較的、「こうやったらこういうポイントを大事にしなさい」と方法論を言っているんですけど。
永井:ただ、実際は、かなりいろんなパターンがあります。半年だとか、長いところは1年かけてやるようなプロセスもあれば、コンパクトに、本当にエグゼクティブのインタビューだけから「パーパス」を設定して、それを逆に浸透させるというパターンも正直言うとあるんですね。だから、やっぱり企業によってかなという感じがあります。
トップの影響力がすごく強ければ、トップが言ったことで一気に浸透することも実際はあるんですよね。なので、ケース・バイ・ケースかなと。そんな簡単に「これとこれとこれをやっとけばいいですよ」とは、なかなか言えないかなと思いました。
佐々木:本当にいろんなスタイルがあるなと。べき論で言うと、「じっくり時間をかけて」みたいなのはあるんですけど。
僕は5,000人ぐらいの大企業に所属していたことがあるので、会社の方針の浸透の難しさも知っているし、「社長が代わっただけでこんなに会社って変わるんだ」「社風より社長風」とか言ったりしますけど。そういうのを目の当たりにしたのでいろんなスタイルがあるんだろうと思います。本当に大賛成ですね。
齊藤:おっしゃるとおりだと思います。ただ、それでもやっぱり我々はじっくり時間をかけてやりたいなと思います。さっき永井さんもおっしゃったように浸透がすごく重要なので、そこにつながるプロセスの前段階として、作る過程もじっくり時間をかけられるといいなと思っていますね。
平原:新しく「パーパス」を策定するって、つまり変わることでもあって、変わることってすごく痛いことだと思うんですね。成長痛もそうで。
だからこそ、それに対してどう向き合うかは企業それぞれであって、ここを自分たちはどうしたいのかを考えるというところが、浸透につながる一番のポイントなのかなと思いました。
平原:ここからは、企業名は出さなくてもいいですが、お三方の「これは泣けるぞ!『パーパス』エピソード」があれば、ちょっと聞いてみたいなと思いまして。今、目をまったく合わせてくれない佐々木さんからいきますね。
佐々木:公開された事例から言うと、これはアメリカの話なんですけど、Victoria's Secretっていうブランドがありますよね。いわゆる白人女性のスリムで背の高い金髪キラキラみたいな、毎年ジェンダーのバイアスを強化しまくる新作のショーをやっているんですよね。
それを去年からがらっとインクルーシブな(排除せずに包み込む)かたちにして、モデルも多様な人種で、体のサイズも多様な感じ。本当に「これはVictoria's Secretのブランドの根幹からがらっと変えたな」という感じで。
自身がクィア(Queer=性的マイノリティ)であることをカミングアウトしたアメリカの女子サッカー代表のミーガン・ラピノー(Megan Rapinoe)をブランドアンバサダーに設定したりしているんですけども。外から見ているだけだとわからないんですけども、このブランドのチェンジってものすごかっただろうなと思いましたね。
Victoria's Secret的な世界観に憧れて入社した従業員とか、それを支持しているお客さんがたくさんいたと思うんですけども、それをがらっと変えた。さっき成長痛みたいな話がありましたけども、成長痛どころか、かなりの痛みを伴う変革だったと思いますね。
あと、僕がサポートさせていただいているのでそこまで大きなチェンジはなかったりするんですけども、最近だと「パーパス」がDXと絡まって、複雑な感じになるのも多くてですね。そうすると、自分たちの業態と、経営陣の方たちが培ってきた知識とかエクスパティーズ(専門知識)を離れたところに「パーパス」を設定しないといけないケースがあります。
「こうするとけっこうわかるけど、ちょっと心理的に抵抗があるな」みたいなことを包み隠さずおっしゃる経営陣の方とかがいらっしゃって、けっこう難しい問題だなと思っています。
僕自身もだし、「自分たちで変わらないと」という時に、30年間使ってきたものの上じゃなくてちょっと違うところに、「そこの山から下りて別のところから登らないと」という状況はこれからたくさん出てくるだろうなと思っていて。そこに向き合いながら「パーパス」を作っていくんだろうなと思ってはいますね。
平原:ありがとうございます。グローバルな事例から、今ご自身が向き合っている事例まで話していただいてありがとうございます。
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