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キャリアを切り拓く恥のかき方 ~梅田悟司×中川諒~(全5記事)

一流コピーライターが語る「自分が納得できる仕事」をする工夫 諦めないのは、「誰からも頼まれていないけどやりたい」こと

失敗したり、かっこ悪い姿を見られたりした時に感じる「恥」。恥をかきたくないと思うと消極的な選択ばかりをしてしまい、なかなか新しいことに挑戦することができません。「恥」とうまく付き合っていくためには、どのようにすればいいのか。そこで今回は、『いくつになっても恥をかける人になる』発売記念イベントとして行われた、著者の中川諒氏と『「言葉にできる」は武器になる。』著者・梅田悟司氏の対談の模様をお届けします。同じコピーライターで、元同僚の両氏。最終回の本記事では、本を書く上で感じた「恥」や、自分の本意ではない仕事で諦めてはいけないことについて語りました。

ありのままの自分のプロフィール

中川諒氏(以下、中川):次の質問です。「本を書くという行為において、どのような『恥』に直面し、乗り越えてこられたか教えてください」。

梅田悟司氏(以下、梅田):中川くんはどうですか?

中川:本を書くって恥ずかしいですよね。

梅田:(笑)。恥ずかしいよね。よくやるよね。

中川:自分の考えてることをこんなつらつらと、6万字もかけて、200ページ、250ページと書くわけなんで、恥ずかしいです。

梅田:そうですよね。頼まれてもないのにね。

中川:僕がこの本(『いくつになっても恥をかける人になる』)を書いていて印象的だったのが、今回プロフィールを書く時に、ありのままの自分のプロフィールで書いたんですよね。

いくつになっても恥をかける人になる

梅田:プロフィールいいよね。表版・裏版という。

(引用:https://www.amazon.co.jp/dp/4799327429)

中川:はい。最初は2種類書いていて、千葉さんと梅田さんに送って。

梅田:「なぜ僕のところに送ってくるんだろう?」って思ってたけどね。僕のところに通知が常に来るからね(笑)。

中川:(笑)。千葉さんから、「これは、このさらけ出しているほうがいいんじゃないですかね」と言われて。それで背中を押してもらって書いたんです。

梅田:新しいよね。

プロフィールでさらけ出すことが、自分自身への恥への挑戦

中川:他の人の本とかプロフィールを見ていても、紹介される時のプロフィールを自分が書いてるっていう恥ずかしさがあるじゃないですか。「○○を受賞、××で好評を得る」みたいな。

でも、その「好評を得る」って書いてるの、自分じゃんみたいな。なんかそういうことよりも、例えば僕もこういう仕事をしていると、一見華やかに見えるかもしれないけど。そうじゃなくて、その内情というか実情を書いたんです。自分自身の恥への挑戦でもあるような。

梅田:新しいプロフィールのかたちだと思いますね。ここで恥を乗り越えたなという感じがしちゃうよね。

中川:(笑)。

梅田:「一皮むけたな」と言うと、ちょっと言葉が簡単かもしれないけど、それはすごい感じたなぁ。「よく見せない」ということも含めてね。かといって自分を卑下しているわけでもない。

その上から下からという対比で考えちゃうんだけど、普通である自分というか、横である自分というか。そこをちゃんと表現できてる点が、すてきだなと思いますよね。

中川:これは事実だからしょうがないかなって。

いい本の条件は、Amazonレビューで「5」と「1」が同じだけつくこと

中川:梅田さんはいっぱい本を出されてますけど、どうですか?

梅田:そうですね。これは自分に対する言い訳も含めてなんですけど、僕はこう思ってるという話で。いい本の条件があるんですよ。

中川:それ書く前に、僕、聞きたかったんですけど(笑)。

梅田:それはちょっと刺激的なので、言いませんでした。

中川:ごめんなさい。じゃあ、続けてください。

梅田:なにかと言うと、例えばアマゾンのレビューで言うと、5と1が同じだけつくというのがいい本の条件です。要するに、Amazonのレビューの星の数で、5だけ多い本って最近多いじゃないですか。5・4がめちゃくちゃ多い。5が一番多くて、4も少なくなっていって、1はほぼないという本って多いですよね。

いい本って、わかる人にはわかるんだけど、わかんない人にはまったくわかんなくていいんじゃないかと。僕はその「諦め」がちゃんとできたというのは、けっこう大きくって。

本はある種、その人の偏見の産物なんですよね。悪く言えば偏見、よく言えば価値観。でも本当にがんばってる人たちの意見って、やっぱりわからない部分が絶対あるんですよね。

その人じゃないとわからないこととか、その領域でがんばってる人しかわからないこととか。それと同じぐらいつらい思いをしたからこそわかるものって、あると思うんです。

書くべきものを書くための「わかんなくてもいいよ」という前提

梅田:その裏返しで言うと、わからないことが絶対にあってもおかしくなくて。そこをみんなにわかってほしいという力が強くなると、結果的に本当に書かないといけない部分が書けなくなるんですよ。

中川:ヘッジ(回避)させちゃうということですね。

梅田:そう。だから僕は「もうわかんなくてもいいよ」という前提を持てたことがけっこう大事でした。そうすると当然賛否はあるので、気持ち的にもぐちゃっとするんですけど。

でもやっぱり自分が思っていることや自分が感じたことが、同じような悩みを抱えている人にちゃんと届くといいな。だからこそ偏見でもしょうがないし、ある種批判の的になってもしょうがないな。そう腹をくくれたのは、けっこう大きかったと思います。なので僕の本は1も多いと思いますね。傷ついてますけどね。

中川:(笑)。

梅田:傷ついていますよ? 

中川:僕もエゴサーチする度に傷ついてますから(笑)。

梅田:でもその「5と1の数が同じ本がいい本である」という前提があると、けっこう救われますよ。

なにか自分を奮い立たせるとか、なにか行動を起こさせる時は、1からつくじゃないですか。基本的に悪いことから、やっぱりネガティブなほうからつくので、そっちのほうが声をあげやすいんです。だからそこに対する予防線という点でも大事な考え方なんじゃないかなと思いますね。

自分の思っていることを実現するための仕事の工夫

中川:いただいている質問で、あと2つご紹介してよろしいですか。

「会社員だったりクライアントワークだと、必ず毎回自分の本心でものを書いたりアウトプットできないと思うんですけれども、それをするためにしている工夫ってありますか?」

梅田:なるほど。中川くんはどうですか? 

中川:うーん。僕はこの1~2年でモードが変わっていたりするのはあるんですけど。前は、自分が思っていることを実現するためにがんばるというモードで仕事をしていて。最初に理想の像を全部描いて、それを実現するためにむちゃくちゃがんばるっていうやり方で仕事をしてたんですけど。

今は比較的、一緒にやってるメンバーとかクライアントも含めて、みんなの思ってることを一緒に達成していくモードにはなっていて。ちょっと違うっちゃ違うんですよね。

梅田:それを悪く言うと、チームの一体感とか、わりと“丸くなった”ことも含めてのことなんですけど。

「普通なこと」を提案するより、「普遍的なこと」を探し続ける

梅田:僕は、自分の本心が受け入れられないって言うんだったら、それは僕の本心にまだ到達してないんじゃないかなと思うようにしているんですよね。なに言ってんだって感じなんですけど。

基本的に、「普遍的なこと」は目に見えてる普遍と、目に見えていない普遍がある。目に見えていない普遍を見にいかないといけない。そこを諦めちゃいけないということだと、まず思っています。みんなが理解できることにいくと、やっぱり「普通」になるんですよね。「普通」と「普遍」って、言葉としてもすごく似てるんでね。

中川:普通と普遍は違うと。

梅田:やっぱり違うじゃないですか。さっきの“n=1”と“n=生活者”を考えて、“n=生活者”で考えるとやっぱり普通になっちゃうんですよね。普通に考えると、紙の上、要するに提案書の上ではめちゃくちゃ納得感が高いんですよ。

でも世の中でいうと、そんな当たり前のこと言うなよとか、逆に当たり前のことは、その人の生活をそのまま描写しちゃうので、批判の的になったりするんですよ。

実際にあった例も含めてですけど、僕はこんなにつらい仕事をしているのに、CMでもそんなつらい表現をする必要はないんじゃないかということで、やっぱり普通に表現しちゃうとよくないことってけっこうあるんですよね。

でもそこに対してもっと「普遍的」なもの。要するに「その中で大事なことってこういうことなんじゃないの」とか、「世の中がこういうほうに向かうといいよね」という、さっきの繰り返しになってしまうんだけれども、その圧倒的な真実に近づくことを諦めない。

やっぱり普通のことしか提案できないんだったら、それこそプレゼンの1秒前まで考えることをやめないってことですよね。

中川:探し続けるってことですよね。

「誰からも頼まれていないけどやりたいこと」を諦めない

梅田:よくCMの現場でナレーション録音があるんですよね。普通はナレーション録音って、ナレーション原稿があって、ナレーターの方が原稿を読んでくれて終わるんですけど。僕はそこまで答えを持ち越しますね。

CMって映像と音声と音楽しかないので、基本的には音声の部分って修正がナレーションの部分まで持ち込めるんですよ。しかもコピーって映像にテロップを入れるか入れないかだけの話なんで、最後まで持ち越せるんですよね。

なので自分が提案してしまったもので、仮に自分の本意ではなくて、ただみんなから合意は得られているという状態でも、自分は納得ができてない状態だったら、僕はもうナレーションの直前まで考え続ける。実際それで変わったこともあります。

変えることによっていろんなストレスはかかるわけですよね。企業の中でもストレスはかかるじゃないですか。

中川:「え、決めたのに」っていうね。

梅田:「いったんGO出したのに、なんでだめだって言うんだ」みたいな。さっきの言葉の話と同じになっちゃうんですけど、やっぱり「誰からも頼まれてないんだけど、やっぱり僕はやりたい」と思う。そこを諦めちゃいけないと常に思ってますかね。

テクニカルな部分としては、「いや、僕まだコピーを変えられる余地があると思っているんで、ちょっと現場でも試したいんですよ」とかって言うと、急に営業の方がわさわさっと、「もう上のほうでOK出てるんでやめてください」ってなるんですけど。

僕は僕なりにやらないといけない。職業の責任としてやらないといけないと思ってるので、そこは自分の矜持として諦めないし、最後まで持ち込む。

結果変わらないこともあるんですよ。でもそれでも、自分が本心でいいと思うところまでたどり着けていない。たどり着けたらみんなが理解してくれるかもしれない。そこの差分をちゃんと埋めにいくことを大事にしているかなぁと思いますね。

恥に対して人一倍臆病だった自分に向けて書いた本

中川:なるほど。ありがとうございます。最後の質問です。「この本はどんな人に読んでほしいんですか、次にどんな本を作りたいですか」という質問なんですが。

最後告知みたいになりますね。『いくつになっても恥をかける人になる』という本ですが、僕が読んでほしいなと思うのは、僕みたいな人って言ったらあれですけど。要するに、恥に対して人一倍臆病だった自分に向けて書いた部分があるんで。

人との関わり合いですごく悩んでたりとか、なんかこのままじゃいけないと思ってるけどどうしていいかわかんない人とか、そういう人の背中を押す1冊になればいいなと思って、書きました。

梅田:次にどんな本を書きますか? 

中川:僕はこの「恥」ってテーマがけっこうおもしろいなと思ってて。これは大人向けに書いているんですけど、子どもが生まれたというのもあって、子どもが「恥」と出会う瞬間とか、恥ずかしいという気持ちがどう構築されていくのかということに、ちょっと興味があって。

例えば絵本で「恥」をやったらどうなるんだろうとか、学校の教育で「恥」と向き合ったらどうなるんだろうとか。そういうことに興味がありますね。梅田さんはいかがですか?

「恥」は、なにかに踏み出すためのヒント

梅田:僕はこの中川くんの本については、ずっと一緒に壁打ち相手にしたり、生まれたところから一緒にやってるんで思いますけど。「恥」という言葉だけではなくて、「このままでいいのかな」とか、「ちょっと丸くなってきたな」とか、「収まるべきところに収まってきちゃったなぁ」みたいな、若干自分の行く先が見え始めちゃってる人。これは悪い意味でですよ。

中川:予想できちゃう(笑)。

梅田:見え始めるのには、いい点もあるんです。でも悪い意味で見え始めちゃったなという人たちに読んでいただけると、いくつになっても恥をかける人になるという。やり始めて恥ずかしいということじゃなくて、どうやってなにかに踏み出していくのかというヒントもすごくあるので、読んでいただけるといいかなと思いますね。

「恥」だけじゃなくて、ちょっとふん詰まり感というか、なんか行き先見えちゃった感がある人に読んでもらえるとうれしいなぁと思いますと。

中川:前のテーマは大人のモラトリアムでしたね。

梅田:そう、そう。もともとは僕が中川くんに対して思っていたのは「大人モラトリアム」というテーマだったんですよね。「大人モラトリアムみたいでいいじゃん」って、ずっと言ってたところから始まってますけど、こういうかたちになりましたね。

中川:そうですね。ありがとうございます。こちらで終わらせていただこうかなと思います。

梅田:はい。

中川:ご視聴いただいたみなさん、ありがとうございました。

梅田:ありがとうございました。

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