2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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サルのリーダーは腕力で決まり、ゴリラのリーダーは愛嬌やユーモアなどから、仲間内の推薦で決まる。“サル化”している現代社会の中で、どうして人間には“ゴリラ的リーダーシップ”が求められているのか。ゴリラ研究の第一人者である、人類学者の山極寿一氏を招き、脳科学者・駒野宏人氏、『リーダーシップに出会う瞬間』著者の有冬典子氏、株式会社eumo取締役の岩波直樹氏がインタビュー。本記事では、コロナ禍でオフラインのコミュニケーションが希薄化した人間がさらされている“危機”について、山極氏が解説しました。
山極寿一氏(以下、山極):もう1つ言うと、人間は頭で考えるようになったわけですね。実は人間は、身体的にも心的にも“模倣の名人”なんです。
社会って目に見えないでしょう。目に見えるのは、個体間の関係や個体間の交渉だとか、行動によって「こいつらはどういう関係にあるんだ」と見るだけなんですね。その大きなまとまりが社会であって、文化もそうなんですが、目に見えません。
そうすると我々が頭に描くのは、わりと近視眼的な人々の関係なんですね。だけど実際に構図として出てくるのは、「効率的な社会を作りましょう」「生産力を上げましょう」という、言葉によるものが多い。それは数字になって、結果として現れるわけです。そっちのほうにどんどん引っ張られてしまう。これは、落とし穴かもしれないんです。
最近、我々の分野でよく話題になっているのは、「150人」という人間の数が、実は人間の脳の大きさに匹敵する社会関係資本だということです。社会関係資本というのは、自分がなにかトラブルに陥った時に相談できる相手の数ですね。それがせいぜい、150人に留まっている。
今、人間の脳の大きさはゴリラの脳の3倍あるんですが、ゴリラは10頭から20頭ぐらいの集団で暮らしていて、これがゴリラの脳の大きさにぴったりです。
人間の脳は「社会脳」として大きくなったのであって、言葉によって脳を大きくしたわけではない。身体の結びつきによって集団を大きくして、脳も大きくなったと。そうであれば「150人」という数は、言葉や脳の結びつきによって作られたものではないということなんですね。
山極:じゃあ、どういう身体の結びつきなのかといったら、例えばスポーツや共同作業、あるいは喜びや悲しみを一緒にした経験だとか、そういう身体化されたものなんです。「食事を一緒にした」とかね。そういうものが、言葉以上に人々の間に信頼関係を作る接着剤になっているということに、もう一度気がつくべきなんですね。
我々は今、COVID-19でそういうことが禁じられているわけです。「3密」ができない状態、つまり対面して一緒に身体を重ね合わせて、なにかをできないですよね。音楽を演奏したり歌を歌ったり、スポーツをしたり食事をしたりというのが禁じられている。それは人間の社会を作る上で、本当に一番重要なことだったのかもしれない。
その代替案として、我々はオンラインでつながっていますよね。これでなんとか済むような気はしているけれど、本当はつながれないんじゃないのかなと思っているんですよね。そこをなんとかするためには、社交を復活させることだと思っています。
社交というのは、場、ルール、マナー、エチケットが必要です。そのために、さまざまな仕掛けがあるわけですね。場と時間を共有しているという経験を、ある物語によって紡いでいる。だから社交には、なんらかの物語がある。
その物語を作るのは、ホストなんですよね。ホストの物語をみんなが知っていくから、みんな自然にそれに合わせて、ある緊張感を持って、時間と場所を消化することができる。その経験が、人々をつなぐんです。それができないと、社会はどんどんバラバラになっていくと思いますね。ゴリラは自然にそれができているんですよ。
山極:我々の巣ごもり生活の中で、家庭に閉じ込められてイライラするのは、動かないからです。ゴリラは毎日毎日、流動生活をして動いていますから、イライラする必要がないんですね。それぞれの生理や身体に応じて、動きを作ることができる。
でも我々は、家の中に閉じ込められていると、老若男女が一緒になって同調しなくちゃならなくなる。同調できるわけないんですよ。それを同調させようとしているから、イライラが募るわけですよね。
会社なんかもそうだと思いますよ。そういう動きを自由に作ることができなければ、社会は命を持てないというか、活性化できないんだと思いますね。
岩波直樹氏(以下、岩波):今度、企業でも勉強会をやっていただきたいとすごく思ったんですが、今の社会で起きているコロナに対する対策も、まさにこの話だと思います。冒頭で言ったように、サルの社会ではルールに従わせる。そのほうが、効率的だから。今のコロナに対する対策も、根本的な対策になっていないと、実は私もかなり思っていまして。
「150人」というダンパー数の話をしていただいたんですが、まさに(人間は)社会性の生き物なので、ソーシャルキャピタルをどれだけ広げていけるかが、次の社会の大きなテーマだとやっぱり思っています。
僕らは「真善美」と言っていて、善の範囲は仲間の範囲だと定義しています。人間の発達理論の話もしますが、結局、仲間の範囲をどれだけ広げられるかというのは、人間の成長の大きな要素の1個なんですよ。
「そのために脳みそが大きいんだ」という話を聞いて、すごく納得感があります。まさにこれから、ソーシャルキャピタルをどれだけ積み上げられるかにチャレンジする社会になっていったらいいなと、すごく思いました。
山極:最後にちょっとだけ言わせてもらうと、これからは他業・副業の時代なんですよ。拠点を複数持って、いろんな仕事を同時にこなしていく。“単線型人生”から“複線型人生”になる時に、ソーシャルキャピタルは複数の拠点によって、また複数作られるものなんですね。
それをどうマネージして、これからはそれを含めた生活をどう設計していくのかが求められる。その時に、経済で言えば「シェアリングエコノミー」と「ギフトエコノミー」を重要視していく必要があると思います。
さっきもちょっと言ったんですが、農耕牧畜が始まってから、人間は「所有」にこだわるようになったわけですね。それまで何百万年間も、人類は流動生活をしていたから、所有をせずに暮らしていたわけですよ。狩猟採集生活は流動生活で、物を持って動けないんですよ。これから僕は、その時代がやってくるんじゃないかと思うんですね。
それは条件が違うんです。狩猟採集生活は食物を求めて行ったわけだけど、現代は階層システムが完備してるから、どこに行ったって物が得られるんですよ。だから場所を選ばなくていい。そういう意味で、狩猟採集生活だと言ってるんです。
要するに所有がなくなる時代で、なんでもシェアでいける。あるいは公共財が増えれば、お金はかからない。公共財を増やすことがベーシックインカムにつながるんじゃないかと、私は思っているんですけどね。お金をばら撒くのは日本のやり方だったんだけど、これからはお金をばら撒くんじゃなくて、シェアすることじゃないかなと思いますけどね。
駒野宏人氏(以下、駒野):いいですね。今、まさにそういう時代に向かっているような気がしています。
駒野:それともう1つ疑問があって。類人猿の中で、人間だけが白目がやたらと多いんですよね。白目ってぜんぜん(物が)見えるところじゃないんだけど、ゴリラが黒目だけかと言ったら、白目の部分が体と同じ色になって、目の動きがわからないようになっている。この辺はゴリラと人間の違いの点で、先生はどういうお考えでしょうか。
山極:これは、すごく大きな違いだと思うんですよ。ゴリラもチンパンジーも人間も、対面することができるんですね。
(一方で)サルは対面できません。相手を見つめるのは強いサルの特権だから、威嚇になっちゃうので、弱いサルは視線をそらさないといけないんですよ。ゴリラもチンパンジーも、人間よりもずっと近い距離で顔を見つめ合うんです。これは見つめ合っているんじゃなくて、顔と顔とを合わせて一体化しようとしてるんだと思います。
有冬典子氏(以下、有冬):どのぐらいの距離で近づくんですか?
山極:10~20センチメートルぐらい。だから、キスの直前だと考えてみてね。実はこれと同じことをやっている人間の行為が、2つもあるんですよ。
それは恋人同士か、お母さんと赤ちゃんですね。両方とも言葉がいらない。でも両方とも、一体化しようとして自分の意思を相手に伝えようとしているんですよね。それが、ゴリラやチンパンジー。
人間は離れるんですよ。1メートル離れているぐらいが、白目をモニターしながら相手の気持ちを察することができる。白目を通じて相手の気持ちを読む能力は、学校でも親からも習う必要がない。人間が生まれつき持っているわけですね。
おもしろいことに、この白目は犬にもあるんですよ。犬は人間の白目を見て気持ちを察する能力を発達させたんじゃなくて、自分の白目を人間に見てもらいたくて、家畜として発達したんじゃないかと僕は思うんです。
山極:白目があるおかげで、実は対面が非常に重要になった。だから企業なんかでも、面接するわけでしょう。FAXやインターネットですでに商談は進んでいるはずなのに、最後の決定を下す前に相手に会いに行く。なんで会いに行くんですか? ……答えられないですよね。
「相手の気持ちを確かめるためなんだ」「やっぱり最後、相手の状況を見ないとわからないからね」なんて言うんだけど、実際何をやっているのか、本人はわかってないですよ。でもそれは、対面することが重要なんですよ。それで相手が本気かどうか、相手がこれに賭けてるかどうかがわかるわけですよね。これは非常に重要なコミュニケーションだと思います。
駒野:そういう意味で、Zoomなんかも人の表情がちょっと見にくいかなと。白目と黒目の位置が、なかなかわからないところがありますよね。
山極:そうですね。やっぱり対話をする距離は重要なんですよ。だから政治家は、目の動きをモニターされないように、わざわざ演台を聴衆から離すんですね。そうすると、言葉や声のトーンが聴衆に響くんですね。だから聴衆は、顔は見てるけど目の動きを捉えることができなくて、政治家がしゃべった言葉とその力強さに惹かれるわけです。
今のマスコミは、それを破っちゃったわけですね。政治家が顔をアップで映されて、政治家はそんなことを思わずにしゃべってるんだけど、やましい気持ちが目に表れている。
有冬:(笑)。
山極:読まれちゃうというのは、よくあるでしょ。「いやぁ、管さん。ちょっとこれ、本気じゃないんじゃないの?」とかね。だからそれは失敗なんですよ。
有冬:なるほど。おもしろいなぁ。ありがとうございます。
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