「関係・思考・行動」が高い集団と低い集団の、明確な違い

斉藤知明氏(以下、斉藤):兼清さんありがとうございました。たくさんお話いただく中で、僕ももっともっと聞いていたかったんですけど、ディスカッションのパートに入らせていただきながら、お話をもっと深めていきたいなと思っています。

斉藤:「共創を生み出すために何をするべきか」と書いているんですけれども。この図あったじゃないですか。

斉藤:横方向の連鎖があって『共創行動』までが長いなと。道のりがなかなかありそうだな、という実感を得られた方が、僕も含めているんじゃないかなと思っています。

じゃあ一人ひとりのマインドって、どうあるべきなんだろうか? という問いを、まず1つと。そのためにマネジメントってどう動けるだろうか? という2つの問いを軸に、ディスカッションを進めていきたいなと思っています。

「Ocapi(オカピ)のサーベイ実施してます」というチャットもいただいていますね。なのでインプットされてらっしゃる方もいらっしゃるかと思うんですけど。僕、内発的動機づけの本質的なところが、さっき紹介いただいたナデラさんが本に書いてらっしゃった「Microsoftが社員を雇うのではなく、人々がMicrosoftを雇うということである」という言葉

「ミレニアル世代のモチベーション」の上位の1番にある「社会・人々・世界への貢献インパクト」がバチっとハマると、大手企業における内発的動機づけというのがものすごく進むんじゃないかなと、聞きながら解釈をしていたんです。

斉藤:というのも大手企業って、リソースの宝庫です。今まで勝ち続けてきた地位があって、Microsoftなんかだと、たくさんのOSだったりユーザーさんがいる。その中だからこそ「それを活用して僕たちは社会への貢献、人々への貢献、インパクトを残していくんだ」という意識になるっていうのが、1つ理想の「Co-Creationが起こっている状態」の具体例としてくイメージが湧いたんですけど、兼清さんはこれどう思いますか?

兼清俊光氏(以下、兼清):すごくおもしろいですね。さっきの「関係・思考・行動のOcapi」みたいなものを全社で取り組んでいた、外資系の製薬メーカーの話なんですが。ある集団は、ものすごく「関係・思考・行動」が高いんですね。でもある集団は、すごく低かった。

インタビューに行って、いろいろ話を聞いたんです。その組織には、会社として実現したいビジョンとバリューがあるわけです。「これについてどう思いますか?」と若いMRの人たちに聞いたんです。そうすると「関係・思考・行動」の低い人たちは「あれって僕ら関係ないじゃないですか。外向けでしょ?」って言うんです。「僕らは営業ですから、数字ですから」って。

ところが、彼らと同じ仕事をしている「関係・思考・行動」の高い若手のMRに聞いたら「あれはすごく大事です」と。「自分が日々顧客に向き合って仕事をしている時に、本当に大事にしているバリューを踏み外してないか(の指標)とか、拠り所だ」と。自分が何のために仕事をしているか? については「『会社が僕らに提示してくれたビジョンを、自分も本気で実現したいからやっているんだ』っていうのを確認するためなんです」って言うんです。

これ、同じ会社内での話です。何が違うかと言うと「思考の質」っていうのは、先ほどのナデラさんが言っていたグロース・マインドセットの軸でして。この「思考の質」が深いレベルになると“意味を見つける力”が付くわけです。「私は何のためにこの仕事をやっていて、この会社で目指そうとしていることには、どんな意味があるのだろう?」とかですね。

だからビジョンは浸透(させる)じゃなくて、自分で意味を見い出だす。そういった力が付いてくるんです。それをやろうとすると、挨拶とか感謝の声も聞こえないような「関係の質」レベル3まで上がっていないようなチームでは、意味は見出だせません。上から下されると思っていますから。ビジョンとかが掲げてあっても「(数字としての)目標を達成したか、してないか」ってやられていると「ビジョンは(自分とは)関係ないものだ」になっちゃうんです。

そうすると、みんながグロース・マインドセットになるようにするには「関係の質」を、うんと高めていくことと。あと「関係と思考の質」というのは、組織でいうと「思考と行動の様式のカルチャー」ですから。「文化を作っていく」ということですね。それがナデラさんが言っていた「自分はCurator of Cultureだ」っていうね。そういう意味なんじゃないかなと思います。

ダメ出しばかりされていると失われる、努力に意味を見出す力

斉藤:ありがとうございます。僕が今のお話をお伺いした時に想起するのが、営業だったり人事のみなさんとお話させていただいた時に「とはいえ、一度そういう思考に入ってしまっている人たちの思考を変えるのって、すごく難しいよね」って言われるんです。

斉藤:まずは「共創を生み出すために必要な内発的動機づけとは?」という問いを用意させていただいているんですけど。

そういう「(ビジョン、バリューは)上から下されるものだ」ってなっている人たちの内発的動機づけは、どうしたら変わっていくんですかね? ここをもっと解像度高く、イメージ持ちたいなと思っていて。

兼清:人間は必ず変化・成長できます。そのマインドセットがグロース・マインドセットなわけですけど。ただ、すぐには変わらないですね。脳神経の可塑性っていうんですけど、脳を使っているとその領域の神経が太くなってきて、だいたい60回繰り返すとその領域が深く、強くなる。

例えば「ミッキーマウスの顔を描いてください」ってよくやるんですけど。描いたことない人は、認知できても描けないんです。ところが、何度も何度も描くと60回くらいですごく上手になるんですよ。神経ができると、しばらく描いてなくてもまた描けるようになります。(変化・成長までに)時間がかかるということですよね。

じゃあ何を育てる必要があるかというと、さっきの“意味づける力”です。意味づける力って、リフレクションして意味づける力を高めていく必要があるんです。“ポジティブな振り返り”っていうんですけど。我々の脳、僕らは現在にしか生きていなくて、過去から未来に向かっているんです。実際の脳の働きとしては、過去を振り返ることも未来をビジョニングしてアクションを生成することも、動く場所は一緒なんです。

大脳新皮質という領域と、左側の言語中枢位置が活動するんです。振り返った時にダメ出しばっかりされていると、自分が一生懸命やってきたことに意味を見出だす力が失われてしまいます。そうすると、その裏返しで「未来もきっとうまくいかないだろう」になっちゃうんですね。

一方、どんなにうまくいっていなくても「なにかしら発見があったんじゃないか?」というところに丁寧に寄り添っていって、意味を見つけられるような力が付いてくると「うまくいくかどうかわからないけど、やってみれば必ずなにかが得られる」という、こういうマインドセットに変わってきます。

そうすると(スライドを指して)下の部分(ダメ出しばかりされていた過去と、うまくいかないと思う未来)が「恐れと不安」で、上の部分(なにかしら発見があったんじゃないか? と思う過去と、必ずなにかが得られると思う未来)が「希望とワクワク感」。こういうのをチームやマネージャーたちが寄り添いながら、意味づける力を高めていくというのがすごく大事なんじゃないかなと思いますね。意味づける力がどれくらいあるか? っていうのが、とても大事なことなんじゃないかなと思っています。

ただですね、最初から意味づける力なんか出ないんですよ。丁寧に問いを立てて探究して、言葉にしてもらうのをサポートする。これが「1on1」じゃないですか。そこから「この先どういうことを実現したくて、じゃあまず何からやってみる?」アジャイルですから、計画を立てるんじゃなくて、まずやれることのアクションリストを出してやってみてもらうというですね。こういうプロセスが重要なんだろうなと思います。

新入社員に与える仕事は、すべてが外発的動機でいいのか?

斉藤:僕が「内発的動機づけってどうやったら生まれるんだろう?」っていうのを今回のテーマだとした時に、兼清さんの言葉を聞いて、ある意味、トートロジーというか、感じてしまったのが。外発的反応・フィードバックがあることによって「内発的動機づけが生まれ得るインプット」が脳にどんどん入っていって、慣れていくというか。

「やってよかった」というのが形成されていくとか「やったらダメだった」っていうのが形成されていくことによって、どんどん内発性というのも変わっていくということなんですか?

兼清:それはずいぶん昔の……30年くらい前の人材開発とか組織開発によく適応されていた理論なんですけど。「成熟度の低い人には外発的動機で仕事を与え、成熟度が上がるにつれて内発的動機にシフトさせていく」というですね。

じゃあ「新入社員にはすべて外発的動機でいいのか?」っていうことがあるじゃないですか。「この人がどれくらいの成熟度か?」っていうのは、マネージャーにしたってわからないですね。本人の中で、(仕事に)内発的な意味を付けることをどれくらい早くやれるかなので。

最初は外発的で、そのあと内発とかですね。外発的でやらせているんだけど「あとで意味が見つかるから、お前がんばれ」っていうんじゃなくて。今やっていることに、意味を見つける力を高めていくということが、すごく大事なんじゃないかなって思います。