“日本一オーラがない監督”として早稲田ラグビーを2連覇に導く

森本千賀子氏(以下、森本):まさに早稲田の監督をされていらっしゃったときは、こちら(自律した人材の育成)を実践されての優勝ですかね。

中竹竜二氏(以下、中竹):そうですね。もう僕自身が監督として大したことがなかったので(笑)。

森本:いえ、いえ。

中竹:選手にばかにされながら……。

森本:ね。この“日本一オーラがない監督”ということでしたけれども。

中竹:まあ、いまだにばかにされていますけど。

森本:いや本当に、私も実はこちらの『監督に期待するな』を読ませていただいて、早稲田のラグビー部の監督時代に、たぶんそこでやっていらっしゃったことがこちら(『リーダーシップからフォロワーシップへ』)に、いわゆる体系的にメソッド化して、1冊の本になっているなと感じていたんですね。

特に早稲田の監督時代で、選手が自立に向かうことについて、一番思い出深いエピソードはありますか?

選手を信じるしかなかった

中竹:当然、スポーツは監督がいてキャプテンがいてと、縦系統になりがちなんですけれども、僕の前任の清宮さんがいたときは、どちらかというとそのチームだったんですが、僕のときに僕の指導が……。

僕はど素人で監督になってしまったので、否応なしに選手たちが考えなければいけない状況に追い込まれ、最初はそれに対する反発や不安や不満が多かったんですけれども。

選手たちが本当にもがきながら自分たちで戦術を考え、自分たちでゲームを修正し勝っていくプロセスは、本当に僕が引っ張ったわけじゃなく、彼らについていって優勝させてもらったわけですけれど(笑)。非常に勇気をもらいましたね。

森本:やっぱりリーダーとして信頼するということですかね? 

中竹:そうですね。まあ選手たちには言っていましたけれども、僕はやることがなかったので信じるしかなかったんですよ。

森本:(笑)。でも、リクルート時代もマネージャーとしてのロールモデルは、何もしないでいいチームをいかに作れるか、本当に自走できるメンバーをどうやって育てるかということを、ずっと私も教え込まれていたので。まさにそこに通じるなと、この本を読みながら感じていました。

コミュニケーションの「暗黙知」は武器であり、進化の壁でもある

森本:今、チームボックスでもグローバルリーダーの育成に注力されていらっしゃると思うんですけれども、海外との違いなど何か感じられることってありますか? 

中竹:はい。それで言うと、海外をどう定義にするかにもよりますが、もちろん海外でもアジア・ヨーロッパ・アメリカはぜんぜん違いますよね。

森本:そうですよね。

中竹:その全部を引っくるめた海外と日本の大きな差は何かというと、コンテクストが違うというか、日本人って言語的にも暗黙知がすごく多いわけですよ。

森本:はい、はい。

中竹:言葉にしなくてもわかり合える文化があるところが、根底的に他と違うので。これはやっぱり武器でもあり、進化の壁にもなると思います。

そういう意味では、僕自身がやっぱり気をつけているのは、日本でマネジメントして、日本の良さをどんどん進化させるためには、あえて足りないところである「言語化していく」とか、「論理的に物事を整理していく」という、今まで日本人があまりやらなかったことをちょっとエッセンスとして加えるだけで、これを軸に置くとたぶん失敗するんです。

だけど、日本が持っている文化の中でエッセンス・武器としては非常に大事だと思いますので。そこは僕自身も意識しています。

強すぎるメッセージに中身が伴わないグローバルリーダー

中竹:実際、僕自身海外にも行きましたし、グローバルリーダーと接する中では、彼らのメッセージ性の強さはすごく勉強になりますね。だけど、逆にメッセージ性が強すぎて「いや、お前そこまで思ってないだろ」みたいな。

森本:(笑)。

中竹:だけど、プレゼンしないといけないようなプレッシャーの中で言葉が飛び交っているのは、ちょっとこう、言い方はあれですけど、うさんくさいじゃないですけど。ああ、またこの表面上のやりとりが始まってるな……。

森本:パフォーマンスみたいな感じですね。

中竹:そうですね。そこは気をつけないといけないので、どちらの文化を今、軸として組織が進化しようとしているか。これから日本人も海外で活躍すると思いますし、日本企業もこれから海外で活躍すると思いますけれども、まねごとではなく、いかに自分たちがそもそもどんな文化が大事で、どういうことをやろうとしているのかということを大事にすべきかなと思います。

森本:改めてアイデンティティを見直すようなことですよね。

中竹:そうですね。明らかに違う部分はありますので、海外と何が違うのかは見極める必要があります。逆に海外に行っても同じだなというものもあるわけですよね。

特に最近は、研究の中でも日本人が昔から大事にしている謙虚さとか思いやりが研究領域として成り立ち、日本人がそういうものをちょっと忘れて成果主義に行って、改めて海外からそういったメソッドが入ってくるというちょっとおかしな構造が起きているので。

森本:そうですよね。

中竹:そこは日本人としては、いや、これは昔から大事にしていて、やっぱり大事だったんだと。もう1回海外から逆輸入というよりは、自分たちのものを再定義して進化させる必要があるんじゃないかなと。

森本:おもてなし文化とかですね。

中竹:まあ、そうですね。それは非常に感じますね。

「謙虚なコンサルティング」への需要

中竹:今はコンサルティングの領域でも、ハンブルコンサルディング、要するに謙虚なコンサルティングというものが領域として立っているぐらいですね。

森本:あ、そうなんですか。おもしろいですね。

中竹:コンサルティングのイメージって、どんな感じがあります? 

森本:いや、もう謙虚さというよりも、むしろなんというんですかね……。そのままストレートに……。

中竹:そうですよね。あとは、上から「こうやればいいんですよ!」みたいな。

森本:はい、そうですね。

中竹:今は逆で、本当にニーズがあるのは「ある問題があります」と言うときに、今までのコンサルティングは、「いや、わかります。これはこうします」というふうにやっていましたが、今は「いやぁ、これ、我々もわかりませんねぇ」と言う。

森本:(笑)。あ、そうですか。

中竹:「これを一緒に解決していきましょう」と。

森本:解決していきましょうと。伴走型ですか? 

中竹:そうです。何が始まるかというと、「じゃあ、ちょっとここを離れてお茶に行きましょうか?」とか、「私の家に来てください」と言って、本当の人間関係を築いていくというコンサルティングが、実は領域として立っているんですね。

森本:ああ、でも本質かもしれないですね。

中竹:それで、問いかけもいろいろな質問のスキルを使うというより、そもそも謙虚に問いかけることがビジネスリーダーに求められてきているので、そういう本も実際にあって、研究領域もあります。これって自然に日本人がやっていたことを逆に今、欧米では上の階層からやり始めているのは事実ですね。

目標に向かって日々がんばれる人の方が少数派

中竹:では、アスリートも全員が全員自律的になれているかと言うと、実は勝利ってそんなに手に入れられないし、見えていないんですよ。例えば大会が年に1回だとすると、日々ほぼ大会が見えない練習をやっているわけで。勝利に向かっていないので、基本そんなにモチベーションが高くないんですよね。

これは大きな誤解で、部活動をやっている日本中の子どもたちがみんなやる気があって勝利を目指しているかというと、練習の瞬間を切り取るとほぼないんですね。これはビジネスマンと一緒で。そう考えると、実は誰もが目標に向かって日々がんばるというのは難しいものだと思ったほうがよくて。

森本:なるほど。

中竹:「なぜやれないんだろう?」と考えるよりも、そもそもやれることのほうが難しい。だから完璧になろうとせず、「今日はちょっと、自分は目標のことを忘れずちゃんとがんばれたな」とか「今日はやらされるんじゃなくて自分でちゃんと決めたな」ということを、ちゃんと自分で目標を立てて振り返る。この作業しかないと思いますね。

この本にも書いていますけれども、自分が今、1日をどう振り返り、今日どんなできごとがあり、1週間経って何がどれだけ進捗したか。成功ではなく、一歩でも進捗したことや成功した実感を持てるようにしていくことが、たぶん自律にとって一番大きなことだと思います。

他者比較をせずに、過去の自分を観察して認める

中竹:それで言うとビジネスマンよりアスリートがわかりやすいのは、筋力というのは実は人の思考や心理よりも明らかにわかるので。

森本:あ、確かにそうですね。

中竹:そういう意味ではわかりやすい。「ああ、俺は成長しているな」と。「なんかトレーニングをして、足が太くなって速くなったな」と。

けれど、一般のビジネスマンはそこがわかりにくいので、自分の中で指標として「ちょっと議事録を書くのが早くなったな」とか、「物事を何か考えるとき、決めるときの勇気が出たな」とか、自分の指標になるものを明確に決めて、自分で振り返り、他者比較ではなく過去の自分との比較ができれば、アスリートと同じパターンになると思います。

やっぱり、本人が自分で決める場面をどう設定してあげるかですね。「お前、これをやれ」じゃなくて、「今日は何をやるんだっけ?」「昨日から今日と、何を変えてやるのかな?」とか「明日はどこまで行くんだろう?」といった問いかけですよね。

それと同時に、外から見て、「ああ、君、こことここが変わったね」「変化があったね」と、観察して承認する行為だと思います。褒める行為ではなく。

森本:自らに自覚させるということですね。

中竹:そうですね。人間って、いろいろ経験しているんですけど、経験する脳と認知する脳は違うので、やっぱり「ただただ経験しました」ではなく、ちゃんと立ち止まって「ああ、今日、俺はこれをやったな」「今ここに立っているな」「これをできなかったけど、これはできるようになった」というような、認知をする場面を、実はリーダーはサポートしてあげるべきだったんです。

「毎日が試合だ」と言いたがる組織では成長できない

中竹:もう1個ですね、これは多く勘違いされるケースなんですけれども、ビジネスマンの方はよく、「いやスポーツは試合と練習があっていいけど、ビジネスっていつも試合なんだよ」と言う人がいるんですけど。

森本:そうですよね。はい、はい。

中竹:そういう人は残念ながら成長しないんですよ。

森本:(笑)。はい。はい。

中竹:その人に「本当に毎日試合で、毎日勝負していますか?」と訊いたら、しているはずがなくて。だけど、明らかにいい企業やいいビジネスマンは、自分の中でトレーニングという練習を設けて、試合を明確に設定しています。そこを設定することがたぶん大事で、これを仮に部活動とした場合、今日1日の試合やゲームはどこで、そのための準備や練習はどこなのか。

本当に優秀な企業は、圧倒的に研修というか、トレーニングの時間を作っています。そこにお金をかけているので。「毎日が試合だよ」と言っているところは、残念ながら、その組織も人もなかなか成長できなかったですね。

森本:(笑)。まあ、確かにその評価なども、たぶんその1つの手法だとは思うんですけれども、目標に向けたマイルストーンをしっかり置いて、ちゃんと進捗しているかどうか。評価や面談を通じて、しっかり本当に本質的にやれているかどうかが大事だということですよね。

中竹:そうですね。進捗を見るのではなく「勝て」とか「数字を上げろ」と言うと、ほぼ失敗しますので、気をつけてほしいですね。

森本:なるほど。結果だけということですね。

「勝て」「売り上げを上げろ」という言葉が逆効果な理由

中竹:結果を約束させられると、人間ってパフォーマンスが落ちるのと、やる気がなくなるんですよ。なんでだと思います? 

森本:なんででしょうね? 

中竹:自分でコントロールできなくなるからです。

森本:ああ、はい。はい。確かに。

中竹:人間って自分がコントロールできることはがんばれますが、今日は雨が降っていますけど、「明日天気にしてくれ! みんなの望みだ」と言われても、がんばれないですよね。

森本:できないですね。はい。

中竹:「明日雨が降るかもしれないから、傘を用意してね」だとがんばれますけど。人ってやっぱり、今まで勘違いしてきたんですけど、リーダーってついつい結果を求めたり、コーチも「勝て」と言っちゃいますけど、「勝て」「勝て」と言っているコーチは勝てないんですよ。

森本:なるほど。すごくわかりやすいですね。

中竹:「売り上げを上げろ」と言っているマネージャーの部下は、売り上げを上げられないんですよ。そういうところにリーダーとして勉強して気づいていくことが大事だなと思いますね。

完璧な人ではなく、前に進んでいく人になろう

中竹:みなさんはいろんな夢や悩みを持っていると思いますが、僕自身が経験してきたことの中で1つお伝えできることとすれば、僕自身も過去いろんな裏切りとか、人にばかにされたり、常に人から上から目線で対応されてきた中で、もちろん悩んだんですけれども。

そういうときにどうしたらいいかなと思って考えたり、いろんな言葉を探しに行ったんですけど、結局自分のことをちゃんと理解し、自分らしくやるしかないなということに行き着きました。

いろんな人がいろんなことを言って、昔から言われているような「リーダーはリーダーらしく」みたいな話とか、「人はこうあるべきだ」と言われていましたが、結局人の期待は都合で変わっていくので。

みなさんも、いろんな悩みがあると思いますが、まずそもそも自分はどういう人間なのか。何が好きで、何にこだわり、どう生きていきたいか。答えは教科書にはなく、自分にしかないので、比較するとしたら、「ちょっと昨日より今日のほうが俺ってよくなってるな」と。

逆に「失敗したけど、チャレンジした自分ってえらいな」というかたちで、ぜひ自分と向き合って、自分らしく歩んでいくことを期待しています。

僕自身もまだ道半ばですが、ぜひ完璧な人になろうとせず、前に進んでいく人に、お互いになっていければと思います。ということで、みなさんまたどこかで会いましょう。ありがとうございました。