ネコ科動物の毛色や模様を決める、ある要素

ハンク・グリーン氏:虎の縞模様、ジャガーの豹紋、トラネコの縞模様など、ネコ科動物の毛色や模様は多彩です。私たちは通常、動物の見た目は基本的に遺伝などにより両親から受け継いだものだと考えていますよね。

ところがその要因は、それほど簡単ではありません。例えば、イエネコの体毛の色は、性別と結びついています。茶トラのネコはオスが多く、三毛ネコやサビネコはほぼ全てがメスです。

一番興味深いのは、シャムネコです。というのも、シャムネコのあの特徴的な色合いは、なんと温度に結びついたものだからです。

動物の体の黒っぽい色は、メラニンの生成によるものです。メラニンは、人間の肌色のバリエーションや、日焼けの原因にもなるたんぱく質です。この生成には、チロシナーゼという酵素が関係してきます。通常であれば、チロシナーゼはちゃんと機能します。しかし、ある種の系統のマウスやウサギ、ネコ、もしくは人間でも、チロシナーゼがうまく働かない場合があります。

シャムネコの場合は、ほとんどがこの酵素、チロシナーゼを生成する遺伝子の変異バージョンを持っています。シャムネコが持つチロシナーゼは、温度にきわめて敏感に反応し、ネコの平熱の38度前後では広がってしまい機能を失います。チロシナーゼにとっては機能できなくなる災難ですが、おかげでシャムネコの、あのかわいらしい色合いが生まれるのです。

チロシナーゼが機能しない場合はメラニンが生成されないため、シャムネコの毛はクリームがかった白です。本来はアルビノなのです。

ところがです。シャムネコは、あのかわいらしいブーツと茶色のマスクをつけていますよね。

これは、チロシナーゼが尾や脚、鼻や耳などの体の末端では機能するからなのです。

体の末端は、熱を逃がすために大きさに比較して表面積が広く、こうした華奢で細い部位からは、胴体よりも速やかに熱が逃げます。

人間でも、外に出た時には真っ先に指や足、鼻が冷たくなりますよね。同じ体積の水からできている氷であっても、小型のキューブ型の氷より細長いつららの方が早く溶けます。

ネコの場合は、顔、四肢、尾は、体の他の部位に比較して体温が数度低いのです。このわずかな温度の差により、虚弱なチロシナーゼは形状と機能を保ち、毛色を発します。

生まれたばかりのシャムネコの子猫では、このプロセスが実際に進行するさまをライブで見ることができます。子宮の中は均一に暖かく38度に保たれているため、子猫は生まれた時には真っ白です。

しかし外界に出ると、外気温は子猫の体温よりも低いため、主にちっちゃな足や尾から周囲に体温が逃げます。数週間経つころには、体の末端のチロシナーゼの働きにより、新しい毛が生えてくると共に、シャムネコの特徴的な色合いが見られ始めます。

子猫に手袋をはめてあげているのであれば話は別ですが、シャムネコは、この素敵な突然変異により、トレードマークの色合いを発色するのです。