地震予測の指標となる「悪魔の階段」

ハンク・グリーン氏:科学の役割は、自然界を解明するだけではありません。解明した事柄に基づいて、未来を予測することもできるのです。

こういった予測は、人命を救うことにも繋がります。しかし、自然現象の中には、予測が困難なものもあります。例えば、大地震は毎年発生しており、広義での発生原因もわかってはいますが、かつて予測に成功した例はありません。

ところで、予測不能と思われる地震も実は「悪魔の階段」とも呼ばれる、ある奇妙な数理パターンを踏襲しているようなのです。「悪魔の階段」は、その名のとおり、たいへん奇妙なものです。

そして、地質学と数理論のこの不思議なコンビネーションは、より正確な地震予測の道標となりえます。

大きな地震は年間平均16件ほど発生

(マグニチュード6かそれ以上の)「大地震」は、比較的稀な現象であり、年間平均で16件ほど発生します。これまで地震とは、地殻の断層で圧力が高まり、これに耐えられなくなることで発生することがわかってきました。

とはいえ、「いつ」発生するかまではわかりませんでした。今日の科学者たちは、一定期間内で自然現象が発生する平均値を予測することが可能になりましたが、「いつ」「どこで」発生するかまではわかりません。これは行政による災害対策予算の算出などには役立ちますが、具体的な避難勧告などの発令などは不可能です。

ドイツの数学者が発見した“恐怖の階段”

とはいえ、地震はそれほどランダムなものではないようです。2020年の研究によりますと、ある研究チームは、地震の発生が「悪魔の階段」という有名なパターンを緩やかに踏襲することに気が付きました。「悪魔の階段」は、正式には、1883年にこれを確立したドイツの数学者、ゲオルク・カントールにちなみ、「カントール関数」と呼ばれています。

「カントール関数」では、至るところで平坦であるはずですが、非常にわずかに、上昇している段差が密集して一塊存在します。これは、ある意味で「フラクタル」です。

つまり、「カントール関数」は、一定の箇所のどこを切り取っても、基本的には同じように見えます。長期間の「不活動」の間に、連続して短期間の「活動」が挿入されているのです。まさに恐怖の階段ですね。

短期間で大地震が連発する背景

さて、「カントール関数」は、脳細胞などのように、高度に関係性のある自然現象を表す際に、非常に有効であることがわかってきました。例えば科学者たちは、脳細胞のある活動が脳卒中を引き起こす原因となっている可能性を調べるのに、「カントール関数」を活用しています。この関数が役に立つ理由は、以下のとおりです。

こういったシステム上では常に小さな変化が起こっていて、ほとんどの場合、その影響は小さなものです。これが、関数上での平坦な箇所に該当します。しかし、ひとたび大きな現象が発生すると、その現象が引き金となって、連続した小さな階段のように、大きな現象を連発させる可能性があるのです。

ある研究者たちは、アメリカ西部、オーストラリア、アルジェリア沖など、世界のいくつかの地域における地震のパターンを観察したところ、その多くが「悪魔の階段」のパターンを踏襲しているらしいことがわかりました。

つまり、特定の地域では、地殻プレートの活動が近隣地域の新たな活動の引き金となる可能性があるのです。研究者たちの分析結果からは、これらの地域では、従来型モデルの予測よりも頻繁に、短期間で大地震が連発することがわかってきました。

単体の断層の圧力に注視するだけでは不十分

従来型モデルでは、単体の断層にかかる圧力のみを注視してきましたが、これらの地域では、連発する地震間の時間差は、より広域で地殻にかかる圧力に関連性があるようなのです。つまり、個々の断層に着目したモデルでは、大局を俯瞰できていなかった可能性があるのです。

残念なことに、これらの地域における、総体的な関連性を踏まえて出された地震発生サイクルは、想定以上に予測が難しく、自然現象の予測について大きな前進を遂げたとは到底言えません。

しかし、大地震が連発することがわかったおかげで、断層の活動についてさらに理解が進むかもしれません。これは、将来の大きな発見に繋がる可能性もあります。

いずれにせよ、地震は基本的にランダムな現象であるとは言いがたいことがわかってきました。非常に複雑なプロセスであるがために、その要因が、単にまだ解明されていないだけなのかもしれません。「悪魔の階段」は、地震をひも解くカギとなる可能性があるのです。