ヒットアプリを生み出す企業風土

司会者:ありがとうございました。南場さん、まずはステージにお戻りいただけますか? 申し訳ございません(笑)。走っていただいて、ありがとうございます。すみません!

では続いて、ここからはフラー株式会社代表取締役社長兼CEOの渋谷修太を交えまして、対談形式でお届けしたいと思います。渋谷さん、お願いします。

渋谷修太氏(以下、渋谷):南場さん、本日はありがとうございます。本当に素敵な基調講演をしていただきまして、ありがとうございます。ぜひ会場のみなさんも、いい話がたくさんありすぎたと思うんですけど、ハッシュタグを付けて共有していただければと思います。よろしくお願いします。

いくつか南場さんに聞きたかったことを質問するタイムとさせていただければと思いますので、よろしくお願いします。ちょっと冒頭で言っていただいたんですけれども、そもそもなぜ今回出ていただくことになったのかというのを、ちょっとお聞きしてもいいですか?(笑)。

南場智子氏(以下、南場):そうだよね。新潟出身というだけですから(笑)。

渋谷:新潟愛。……やっぱり、南場さんも持たれているということみたいで(笑)。

南場:渋谷さんとは新潟つながりで、新潟県出身の起業家の集いでお会いしたご縁で、今日はこちらに参りました。

渋谷:本当にお忙しい中、ありがとうございます。今日はアプリというテーマもあるので1個だけ。宣伝も兼ねてなんですけれども、先ほどプレゼンの中で「Pococha(ポコチャ)」とか「MOV(モブ)」とか、いろんなヒットアプリが出ていました。

これ(データ)はApp Apeのデータから抜粋しているんですけど、全部伸びている。その中にはもちろん途中でやめたもの、伸び続けているもの、いろいろとあると思うんですけれども、ポイントをシンプルにすると、なぜDeNAからはヒットしてちゃんと成長が続くアプリが生み出されているのでしょうか?

「まじめさ」と「挑戦をやめたらDeNAじゃない」

南場:ホームランよりヒットが最近多いですねー。(野球選手で例えるなら)筒香嘉智というより宮崎敏郎タイプかな。

渋谷:あはは(笑)。

南場:ヒットが多いとは言え、それ以上に失敗も量産しています。だからあんまり豪語できないんですけれども……。

渋谷:トライの数はすごく多いということですよね? それをやっていることがすごく大事というような理解ですね。ありがとうございます。アプリについてはこんなところです。

今回のテーマのタイトル、「DeNAの遺伝子」……(社名の)DeNAにかけて僕が付けたんですけれども……。「DeNAの遺伝子」って、強いて言うと何がDeNAらしさなんですか?

南場:(1つ目としては)端的に言ってまじめでがんばる人たちで、すごく誠実だと思います。社内のどんなところで行われている会話を聞いていただいても、表に出しているコメントとまったく同じです。

それにプラスして、相反するように聞こえるかもしれないですが、(2つ目としては)常に新しいことに挑戦し続けるということです。挑戦をやめたらDeNAじゃないというのが共通認識です。

渋谷:まじめだけど、挑戦する。

南場:ゲーム等のエンタメ系サービスも、まじめで真摯にきちっとやる強みを存分に発揮しています。

渋谷さんも見ていたら感じると思うんですけれども、新しい施策は投入直後に反響を分析して手を打ち、超高速のPDCAを回しているわけです。

例えばユーザーの離脱予測をAIを用いて行うなど、高度な取り組みもしています。

渋谷:あー。分析とアクションがめちゃくちゃ速いという?

南場:まじめな会社なんです(笑)。

組織の在り方は「分散型」と「共通機能」の振り子

渋谷:いろんなアプローチがあるときに、全社で共通、共有するようなことは?

南場:組織の在り方も、振り子のようなところがあるんです。事業部それぞれで独自性を追求したいタイミングと、共通のスキルをシステマチックにどの事業部も使えるようにするというのと、「分散型」と「共通機能」との、振り子でやっているところがあります。

渋谷:行ったり来たりさせるわけですね。なるほどでございます。非常に深い。ちょっと飛ばせるところは飛ばしつついきます。先ほど最後のほうにあった、ギャラクシーのかたち。Delight Venturesを始めようと思った一番のきっかけみたいなものって何ですか?

南場:去年(2019年)は創業20周年の年でした。それを機に「全社員で会社を改革しよう」という提案をして、社員が手を挙げてその中からこの提案が出てきました。

渋谷:なるほど。

南場:それと同時に、シリコンバレー在住でDeNAの国際事業を率いてきた渡辺大(Delight Ventures マネージング・パートナー)も、日米格差の問題意識から提案してきました。

私自身も、(創業から)20年経って、DeNAをぶっ壊したいなと思ったんですね。例えとして適切じゃないかも知れませんが、「えっ? ここまで変わっちゃうの!?」というくらい、びっくりするほどショックを与えたいなと思ったんです。発展的に壊してみたいなという。

“失いたくない人材”から順にお尻を叩きに行く

渋谷:これはかなりご自身にとっても思い入れがあって、新しい取り組みとして始められている?

南場:そうですね。創業者ですから。そして、私は誰よりも人の採用に力を割いてきました。「この人!」という人材を見つけると何年間も追いかけて。

渋谷:口説き力がすごい(笑)。

南場:そうやって入ってもらったら、やっぱり「DeNAグループの中にいてほしい」という気持ちになります。……が、そこをむしろ180度転換して、失いたくない人材から順にお尻を叩きに行こうと。

そして(独立した人の会社に対して)我が社は、平均10パーセント程度の出資をします。エクイティのほとんどを本人に持ってもらうことを大切にしています。ですからそういう意味では、びっくりされる。

渋谷:心が広いですよね。僕は今日、どうしても1個だけに絞るとすると、これをすごく聞きたかったんです(注:スライドには「卒業してしまう寂しさと、どう向き合っているのですか?」と表示してある)。

南場:悲しいでしょ?

渋谷:うちも会社が100人くらいになってきて、卒業生が出てくるわけですよ。「何か新しいことをやりたいです」って来たときに、「応援したい自分」と「会社のトップとしての自分」とがいて、この寂しさって絶対に毎回起きるわけです。それとどう向き合っていくんですかという(笑)。

南場:最初はやっぱりすごく寂しかったです。DeNAという会社は、実数としてはあんまり人が辞めない会社です。巷ではよく辞めるって誤認している人もいますが。

渋谷:いや、むしろ残るイメージがありますよ。

南場:辞めている人が有名になっていて目立つから、けっこう人が辞めているというふうに言われます。

渋谷:統計的に見たら、ぜんぜん辞めてない。

コトを為す単位は「会社」ではなく「プロジェクト」

南場:そうなんです。実を言うと、離職率は高くない。それでも「辞める」と言われたときは、とっても寂しい。一人ひとりにすごく思い入れがあるし、一緒に同じチームとして仕事をしてきているから、そうじゃなくなっちゃうことが、とっても寂しいと思ったんです。

でも今は、会社の所属とプロジェクトの組成はまったく関係がないと思っています。「あの人の力が必要だ」というプロジェクトがあったら呼べばいい。コトを為す単位が会社ではなくプロジェクトになっていくので、まったく寂しくないし、逆に応援したい。

それに独立すると、対等に経営者同士になれたり、そういうのも、関係性が変わっておもしろいなと思う。

渋谷:いやー、深い話です。仲間という考え方を広くしたっていうことですよね。すばらしいお話でした。

南場:渋谷さんもそうよね?

渋谷:僕もけっこう「来るもの拒まず、出るもの追わず」のスタンスなので(笑)。応援したいし、そのあともできることがあればなんでも助けて……。

南場:そういう意味では、新潟の人ではめずらしいかもね。

渋谷:そうなんですかね(笑)。

南場:なんとなく、もうちょっとこう、寒いからくっついて(笑)。

渋谷:寒いから、逆に「人情に厚い」とかあるのかな。みたいな(笑)。

南場:そうかもしれない。

渋谷:ありがとうございます。