アメリカで社員の年齢・性別を聞くのはハラスメント
藤田祐司氏(以下、藤田):僕が社会人になった頃の日系のイメージって、年功序列でした。今でも実際そうなんですかね。一方、日本に長くいる外資系企業も、日系寄りになって年功序列になってくるのでしょうか。
倉貫さんは、前の会社にいらっしゃったとき、かなり歴史のある会社だったと思います。
倉貫義人氏(以下、倉貫):そうですね。歴史があるといっても、IT企業なので30年ぐらいです。そんなに年功序列を感じたことは……ないと言えばないですね。
若いうちは、わりと能力でグレードが上がったりするので、あまり感じないんですよね。私は社内ベンチャーを作る前に、20代で課長になれたんです。そこから部長を目指すとなったとき、「次、何をすれば上がりますか」と聞いたら「年数が足りない」と言われた(笑)。
(会場笑)
藤田:何をするかじゃなくて、何年そこにいるのか。
倉貫:何年かそこにいないといけない。席が空かないからなのかわからないんですけれども、待たなきゃいけないという状態があった。でもそれは待てないなと思って、社内ベンチャーを作ろうかなと思ったんです。
安達徹也氏(以下、安達):僕も、実は似た経験をしています。ある日系企業で役員をやっていたんですよ。その会社が買収されて、とある別の日系企業に入ったら、課長未満になるんですね。要は組合員だったんです。「なんでですか」と聞いたら、「年齢」と言われました。管理職の年齢に満たないので、管理職にはなれませんと。
藤田:もはや年数でもなく、年齢みたいな。
松本:年齢制限なんだ。
澤円氏(以下、澤):それは確かに、絶対に外資系ではありえないですね。ちなみにアメリカの履歴書というか、会社に対するインタビューシートで年齢とか性別を書く欄があると、ハラスメントで訴えられたりするんです。(だから)ないんですよ。
藤田:むしろ聞いちゃいけないんですね。
澤:聞いちゃいけない。実際本社に行くと、もう明らかにおじいちゃんという感じの人が、バリバリのプログラマーだったりする。それがまた、すごくいい仕事をしたりするわけ。
日系企業に根を張る学歴主義
藤田:関係ないですもんね。学歴を気にするみたいなこともないですね。
澤:学歴もね。
藤田:外資系で言うと、僕がいた頃のAmazonは少なくとも気にしていなかったです。なので、中学までしか出ていない天才エンジニアとかいました。
澤:ビルゲイツは高卒ですからね。
藤田:そうですよね。たくさんいらっしゃいますよね。なので、誰もいっさい気にしていない。例えば「東大を出ました」となったところで、「で?」みたいな感じになる空気がありました。一方、日本に長くいらっしゃる外資系の企業とか、あと日系企業って、やっぱり学閥みたいなものって今もありますか?
澤:富士通って学閥はあるんですか?
松本:ありますよ。
澤:あ、やっぱりあるんだ。
松本:ある、ある。けっこうありますよ。「どこ出身?」とかね。
藤田:会話に出てくるということですか?
松本:出ますよね。
藤田:出るんですね。
松本:よく役員の方々には「出身校のつながりがあるんじゃないか」という噂がどうしても出ますよね。派閥みたいなものでね。
澤:倉貫さんの会社はそういう派閥は……。
倉貫:いっさいなかったですね。前の会社でもなかったです。さっきの話で言うと、年齢が必要だったので社内ベンチャーを立ち上げたという話だったんですけれども、逆に言うとやりたいことを言えばやらせてくれる環境だったんですね。
つまり、通常のルートは難しくて年数がかかると思うけど、他のことをこうやったらどうかと提案したらやらせてくれる。なので、風通しがいい会社だったのかなと思います。
藤田:いい会社ですよね。
いいプログラムを書ければ学歴・前職・年齢は関係ない
倉貫:今の僕らの会社は、学歴はまったく見ない文化。採用するときに、僕らの会社は基本的に中途採用の場合はWebからトライアウトという仕組みで申し込んでいたんです。学歴も見ないし、年齢も見ないし、住所も見ないし、前職の会社も見ないし、給料の水準も聞かない。
藤田:けっこう徹底されているんですね。
安達:何で判断するんですか?
倉貫:実力と人柄だけですね。
一同:はー。
藤田:すごいですね。
倉貫:入って半年とか1年ぐらいしてから、話を聞いていて「東大っぽい話が聞けたよ」と言うと、東大だったりとか。
(一同笑)
藤田:それがトライアウトの仕組みなんですか?
倉貫:そうですね。技術職のプログラマーの方が多いので、プログラマーの方を判断するときに、別に前の会社がどうかなんて関係ないし、学歴がどうかも関係ない。どれだけいいプログラムを書けるかということと、いい人かどうかだけを見たいなと思っているので、あんまり関係ない。
藤田:まず実際に来てもらうと。
倉貫:完全にリモートワークなので、来てもらうこともないんです。
藤田:そうだ。来てもらうということがおかしいですね。
倉貫:面接もテレビ会話でやっちゃいます。全員どこでも働ける会社なので、住所も不問です。
澤:たぶん倉貫さんと松本さんのくくりは、日系企業というよりかは、ベンチャー企業と日系大企業という感じですね。
藤田:そうですね。
澤:ここまで会社が違うんだと。
藤田:倉貫さんの会社は、最先端の取り組みをされているという印象です。
澤:倉貫さんは実際にそれで本も出しているわけですもんね。
外資系では現場が採用責任を持つ
安達:逆に澤さんにお聞きしたいことがあります。うちで言うと、もちろん人事部の人間がリクルーティングしてくれるんですけれど、採用責任は各部門の長が持っています。それは一緒ですか?
澤:同じような感じ。たぶんこれは外資系あるあるだと思います。
ヘッドカウントというのがあって、「このビジネスを何人でやる」という数が決まっている。それに応じて事業部が採用するという考え方なんですね。なので、人事部はそのファシリテーションだけをしてくれる。実際の採用面談をやるのは現場の人で、最終的には、バジェッティング(予算編成)なんかも含めて現場が責任を持ってやる。これは変わらない。
新卒採用も実はそれに近いことをやっています。日本の大学生って、出てすぐの状態では、はっきり言って何の役にも立たないですからね。4年間、効率よくアホにするために教育をしますので(笑)。パッパラパーの状態で入ってくるので、期待なんかしないわけです。
だけど適性は徹底的に見るのと、本人がどういう方向に伸びようとしているかを見極めて、途中まで行ったら全部事業部面接に変わるんです。「こいつはこの事業部に向いているだろう」という感じ。それで事業部で採用面談をしていく。ちなみに僕は採用面談の最終面談者です。リクルートスーツを着ている若者たちは、もうびっくりですよ。
藤田:「出てきたぞ」となりますね。
松本:(澤さんの格好を指して)これですもんね。
(会場笑)
藤田:一瞬「サラリーマンか!?」と。
澤:学生たちが黒スーツに白シャツを着て、髪の毛も茶髪だったのを黒に戻して、ぴたーっと準備してきたら、これが出てくるんだもん。
(会場笑)
澤:「なんだよ」って(笑)。その時点でそう思う人たちは、下調べしていないってことだから、残念ながら通らないんですけれどもね。
藤田:そうですよね。
澤:うちの会社にその格好で来て、通るわけがないじゃん。まあ、「通るわけないじゃん」は言い過ぎか……。
(会場笑)
西舘:そこまで言い切られちゃうとちょっと。
澤:怒られるんですよ。
1on1は「部下を詰める時間」になりがち
藤田:おもしろいなぁ。あとここ(スライド)には書いてないですけれども、倉貫さんの本(注:『ザッソウ 結果を出すチームの習慣』)で書かれていた「1on1」って、すこし前に日本の企業が導入するなんて言って話題になりました。
倉貫さんの本だと、それこそ“ザッソウ(雑談+相談)”の観点からすごく重要だよねみたいな話があったと思います。それって、どういうところが起点になっているんですか。前の会社での経験を元に、1on1をやっていらっしゃるのか……。
倉貫:そうですね。これはいろんな会社でよく聞くんです。1on1をはき違えている会社がけっこうある。1on1で「上司が部下を詰める」みたいな。
(会場笑)
藤田:業務を細かくチェックして、「おい、やってないじゃないか!」と。
倉貫:これは1on1というのか?
澤:取り調べみたいなやつ。
倉貫:説教部屋みたいです。どちらかというと、メンバーの考えや意見とか、しかも業務とは関係ない話をしていきましょうというのが、1on1かなと思っています。僕らの会社はあえて1on1とは言わずに、「雑談とか相談をしましょう」と言う。
僕らは雑談・相談を“ザッソウ”と言っています。“ザッソウ”を社内でいっぱいすることで、なんとなく社長の考えていることはみんながわかるし、みんなが考えていることはみんながわかるしという状態を作っていったら、勝手にみんなが考えていくようになりました。
やっぱり前の会社で社内ベンチャーをやっていた頃は、事業回していかなきゃ、立ち上げなきゃ、と思ってすごく意気込んでいたんです。
事業を立ち上げるためにも、マイクロマネジメントを必死にやった。上司の私が部下のスケジュールを全部把握して、タスクを管理して、みたいなことをやっていくと、効率はめちゃくちゃいいんだけどぜんぜん新規事業は立ち上がらない。ものはたくさん作れるけど、ぜんぜん売れない。「効率だけ求めてもクリエイティブなことはうまくいかないんだな」と気づきました。
あるとき僕が、営業しているメンバーに相談したんです。今まで部下に相談することはなかったんですけれど、相談にいったら、営業に出ている人間が一番お客さんのことをよくわかっている。「商品を本当はこうしたほうがいい」とか、「こういう売り方をしたほうがいい」と言ってくれました。
そのとおりにやってみようと思って、やってみたら、うまくいった。メンバーからの声を聞く機会を、僕はあえて作っていなかったきらいがありました。それではやっぱりうまくいかないなと気づいて、そこから自分で全部マネジメントするわけではなくて、メンバーに考えてもらうようになりました。
会議中の「持ち帰って検討します」は海外で通用しない
藤田:ご自身の経験を元に試していって、今に行き着いたということですね。
倉貫:そうですね。
安達:私もこの『ザッソウ』を読んでから、チーム内でモヤモヤタイムというものを作りました。整理して相談するんじゃなくて、書いてありましたように「モヤモヤしていることって何?」とやりますよね。
倉貫:そうですね。
安達:意外とそれで会話しながら、本人が何にモヤモヤしているか気づくことがあるので、これを続けようかなと。
倉貫:整理した状態で相談に来たら、それ相談じゃない。
松本:そうですね。
澤:報告ですもんね。
倉貫:モヤモヤしているから相談したいのに、「それ、お前、ちゃんと整理してからこい」と言ったらね。でも日系企業はわりとそういうのが多い。日系企業で前に言われたのが、雑な状態で相談に行ったら、「お前、もうちょっとちゃんと考えてから来い」と。
松本:そうそう。よく言われますよね。
倉貫:「考えてからか」と。
松本:だから会議なんかも、連絡会とか相談会とか質問したりとか、いろいろ聞くんじゃなくて、報告するという意味なんですね。しっかりとアジェンダを作って、報告内容をちゃんと作っておかないと、そもそも掛け合ってもらえない。
澤:(笑)。様式美です。
倉貫:日系企業でよくある会議が、「持ち帰って検討します」というのがすごく多いんですね。
一同:あー。
松本:あれね。
藤田:すごくよく聞くやつです。
倉貫:今考えると、イライラします。
(会場笑)
倉貫:「今考えたらいいんじゃない?」と思います。
澤:それたぶん、外資系との一番大きな違いです。「持ち帰って検討します」とか、「上に相談します」と言ったら、その会議のオーナーから無能扱いされて、二度と呼ばれなくなる。「あなたにその権限がないなら、何のために来たの?」と。これはけっこうある。
藤田:確かにそうですね。
澤:会議で発言しないと許されない。
部下を監視する、日系企業の「管理職」
藤田:富士通さんって、1on1みたいな仕組みがあったりするんですか? 1on1というのは、詰める会議ではなく(笑)。
(会場笑)
松本:詰める会議ではなくね。
藤田:相談できる。
松本:実際に、我々はテレワークを推進しているんですよね。3万5千人の富士通株式会社の人間が、全員テレワークできるのを目指しています。今、1万7千人が使っています。マネジメントをするときに、「1on1をしなさい」とは言っているんです。ただ正直言うと、はき違えてる人はまだまだ多い。
結局、日系企業って「管理職」と呼ばれる人たちが多い。管理をするためにいるんだから、下の人間から管理するためのネタを収集しなければいけない。自らが把握していなきゃいけないと考えてしまうんです。
でも個人的には、自分の部下を管理したいとはまったく思っていないんです。相談はしてもらっていいし、悩んだときには聞きに来ていいけど、あとは自由にやってね。だから私、たぶん1週間のうち事務所にいる時間って、3時間か4時間くらいです。
藤田:富士通の方は、知ってる方でそういう方が多いんです。
澤:松本さんは特殊。
(会場笑)
藤田:知っている方、みんなそんな感じかと思っているけど。
澤:上澄みの中のさらに上澄みだから。
松本:そういうことなのかもしれない。というのも、この間テレワークデイズというのがあったじゃないですか。あのとき、私が事務所にいたのは1.5日だけなんですよ。残りはずっと外にいました。あちこちでテレワークしていました。在宅勤務もやっていましたね。
その際も部下の人たちは勝手に回っているんですよね。それで私はいいと思ってるし、わざわざ報告してもらわなくていいと思ってるんですよ。だって報告するために時間を取るって、無駄じゃないですか。個人的には報告は嫌いなんです……と言っちゃうと会社から怒られそうなんですけどね。
藤田:日本の大企業だからといって、みんながみんなこうだって決まっているわけじゃなくて、人やマネージャーによって、やり方が変わってきている感じなんですかね。
澤:それでも充分回るということなんですよね。
月1回の1on1で部下の自慢話をひたすら聞く
澤:ちなみに僕は週に1回ぐらいしか会社に行っていないです。よく“はぐれメタル”(注:ゲーム『ドラゴンクエスト』に登場するレアキャラクター)と言われているんですよ。
(会場笑)
藤田:「会えた!」みたいな。
澤:会心の一撃でしとめないと、必要な手続きができない。本当に一部なんですけど、例えば行政関連の資料とか、はんこを押さなきゃいけない仕事があるんですよ。物理的に僕の肉体が必要になるわけですね。そうすると、社員間で「社内での目撃情報」とかが共有される。
(会場笑)
「3階にいた」とか、「エレベーターに乗ったぞ」とか。そうすると待ち伏せとかされていて、紙がずらっと並んではんこを押すという儀式もあります。
松本:確かに似たようなもの、ありますね。
澤:ただ、僕も1on1は必ず月に1回行なっています。フェイストゥフェイスで今日も1人やりましたが、基本的にその人の自慢話をひたすら聞かせてもらうという。「こんなおもしろいことが」「じゃあ、なんか教えて」と言って、すごくいろんなことを教えてもらうという会。これがすごくためになる。
藤田:メンタリングとかでもなくて、という。
澤:そう。僕が教わる。
藤田:そういうことなんですね。
澤:チームミーティングはいっさいやらずに、それを1on1の時間にさせてもらってる。全体で集まるのは年に1、2回イベントとしてやります。その日は本当に楽しくて、みんなが一番自慢したい小ネタで、プレゼンテーションを見せあう会にしています。それをみんなで楽しむ。
安達:これがめっちゃおもしろい。
松本:めっちゃおもしろそう。
藤田:いいですね。
澤:自分のチームメンバーに会うのは、週に1回しか行かないという問題があるし、外でちらっと会うという問題も含めて、1to1を抜いたら30秒とかです。
松本:(笑)。
澤:そんなもんです。
藤田:短い。
澤:今月に入って、1秒も会っていない人が何人かいるな。
藤田:そうなんですか。
澤:だけどそれでも、うちの会社はTeamsというのを使っていて、そちらで「澤への連絡事項」というチャンネルを作っていて、そこにある連絡だけは見る。それ以外はチャットは見る。メールはいっさい見ないという宣言をしています。メールは本当に見なくなった。今、未読が1万5千通とか……。
松本:多すぎ。
電話でのコミュニケーションはもう古い
澤:「本当に無視をする」と言って、けっこうざわついている状態です。チャットはすぐ反応できて、一番確実なのがTwitterのDM。
藤田:これ、覚えて帰ったほうがいいやつですね。
澤:Facebookのメッセンジャーも最近もうだめで、TwitterのDMはけっこう見ているので。
安達:コミュニケーションツールの優先度って、けっこう世代差が出るところだと思っています。若い人ってSlackとかチャットツールの優先度が高くて、「メールなんか見ません」みたいな。シニアの人たちは、メールは絶対見るんだけど、チャットは見逃しちゃう。けっこうコミュニケーションギャップが出るんですよね。
澤:あと、電話。
松本:電話。最悪ね。
澤:電話、かかってきます? 倉貫さんはどう?
倉貫:うちの会社は電話ないですね。
澤:いいね。
倉貫:存在してないですね。
澤:ちなみにうちもない。
倉貫:うちはオフィスがないので。
澤:そもそもね。
松本:うち、内線電話がないですよ。Skypeです。
澤:あ、そうだ。富士通はなくしたよね。
松本:全部Skypeにしたんですよ。
藤田:へー。
澤:IP電話になってるから、電話機ないもん。
藤田:そうなんですね。
松本:パソコンを持ち運べば内線も全部入っているじゃないですか。私はつないでいないので、あまり電話を受けない。結局Skypeを使っていても、みんなチャットで連絡してくるんですよね。ログが残るし、めちゃめちゃ便利。
澤:Box Japanはあるの?
安達:ないですね。インサイドセールスだけですね。
澤:ないよね。
藤田:基本的には電話はない?
安達:BYOD(注:Bring Your Own Deviceの略。社員個人が所有しているスマートフォン・PCなどのデバイスを業務で利用すること)なので。
澤:あー、良いですね。