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トークセッション(全6記事)

この会社、まだメール使ってるの? 企業と人材の市場価値を左右する“社内ツールどれ使うか”問題

これからの時代は仕事も人材も、よりグローバルかつ流動的になっていくことが予想されます。日本企業と外資系企業における働き方・キャリア・文化の違いから、今後の働き方を見直すことを目的に開催された本イベント。日系・外資系企業それぞれに長年所属し活躍している4名が、各企業の内情を赤裸々に語りました。本記事では、仕事で使うツール選択の重要性についてお届けします。

デファクトツールを使えるかが市場価値を左右する

藤田祐司氏(以下、藤田):Boxさんから、昔は社内で働いていたけれど今は社外で働くという話が出てきました。それこそ先週の「BoxWorks」(注:Box主催の年次イベント)ですよね。

安達徹也氏(以下、安達):ありがとうございます。

藤田:サンフランシスコで行われたそのイベントでは、やっぱり「働き方がどんどん変わってきて、そこを支えるいろんなサービスを使っていくべきだ」という話をCEOの方がされていましたよね。

働き方を支えるツールとか物が、どんどんどんどん出てきている。それが可能になったから、週1回出勤とかが可能になってきたのかなと。

安達:ツールって大きいですよね。特にアメリカで強く感じるのは、ある程度ツールがデファクト化していくので、ツールをうまく使えるかどうかって、すごく市場価値に影響していくんですよ。

例えば私の立場とか、うちの人間の立場で言うと、マーケティングの人間で「Salesforceを使ったことないです」と言うと、「Salesforceわからないんだ……そこから教えないといけない?」という感じになって、採用優先度が下がったりするんですよ。

デファクトのツールを使ったことがあるかが、転職の価値に影響してきたりするんですよ。働き方、ツール、市場価値みたいなところはけっこうつながっていますよね。

藤田:あと、昔だと例えば「ここのツールを使って」というのがあったと思うんですけど、今ってあらゆるものを使うというのが当たり前になってきている。ここ数年ですよね。

安達:採用するときに、逆に会社は選ばれる立場になります。そのときに「うちはこのツールしか使えません」とか、なんなら「うちはオンプレで自前ツールしかありません」となると、「え、僕そこからやらないといけないんですか?」となる。

藤田:逆にネガティブかも。

外資系・日系関わらず一本足打法のキャリアはリスク

澤円氏(以下、澤):僕の所属企業だと、基本的にすべて自社ツールでできるんです。ただ、お客さんがそうじゃないというのはわかっています。

僕はプライベートでやっている事業があって、個人事業主でずっとやっていたのですが、あと2日後に株式会社になります。そこでは、社外のやりとりは全部他社ツールを使っているんですね。

Slackを使って、nulabさんのBacklogを使って、もちろんmacを使い、iPhoneを使い、まだSalesforceは手を出してないんですけれども、もちろんBoxさんも使っているしZoomも使う。

そういうのを全部使うと、ユーザビリティの違いがわかる。あるいは自社のツールよりもハードルの低いものがあるものを知ることによって、本業の社畜のほうの仕事もちゃんとうまくいく。

(会場笑)

藤田:会社のほうにもフィードバックとして返していけると。

:外資系といえども、やっぱり本当に社畜になっちゃってる人っているんですよ。外資系の中で社畜になると、本当にかわいそうなことに、ある日急にそのビジネスがなくなるし、100パーセントクビになるんですね。異動先も自分で探さなきゃいけない。会社はケアしてくれません。だから本当に社畜になっちゃって、「そのビジネスしかわかりません」となると、日本企業以上に潰しがきかない状態になる。

日本企業はそういった意味で言うと、強制的な人事異動によって別の分野の初心者になる可能性もある。これは結果的にうまく働く可能性があるんです。

藤田:なるほど。逆に1個しか選択肢を持っていないと、どんどんリスクになる。

:一本足打法は、これから絶対キャリアリスクですよね。

藤田:そうですよね。時代ですね。本当ここ3~5年ぐらいですよね。

:5年経つかなという。

藤田:そんな感じですよね。

世の中にあるデータの90パーセントは、ここ2年で生まれた

:今から話す小ネタは、僕がよく外で話しているので知っている人も多いと思います。

「人類が生まれてこの方、ずーっとたまってきたデータの中の90パーセントが、ここ2年で生まれた」というレポートがあるんです。この世の中に存在しているデータの90パーセントが、この2年で生まれていると考えると、情報量がぜんぜん違う。

藤田:2年間寝ていたら、もう何もわからないみたいなことですよね。

:そう。要するにBoxさんも含めて、そういったものをストアする仕組みができて、やり取りするためのツールがどんどん充実してきているので、情報量が膨れ上がっているんですね。ものすごい数の選択肢になっているので、それに対応していかないといけない。ちなみに人間の脳みそは、20万年前から進化していません。

藤田:20万年前から。

:20万年前から。もっと言うと、アホになっているかもしれないです。外敵に襲われて死ぬ心配をしなくてよいので、頭を使わないようになっている。

藤田:危機感がないですもんね。

:そう。でも、データ量はすごい増えてるから、それを効率的に選別して使いこなしていかないといけないのが、今の世の中。

ツールを限定すると市場価値が下がる

藤田:なるほど。倉貫さんの会社ソニックガーデンは、それこそすべてがリモートワークじゃないですか。今の話で言うと、ツールをどうやって使っているんでしょうか。個性のある社員たちが集まったときに、「俺はこれだ」「いやこっちだ」みたいなことが起こったときは、どうやって決めていくんですか? 

倉貫義人氏(以下、倉貫):基本的にはみんな好きに使うという方法ですね。新しいものがいっぱい出てきますし、エンジニアだったら新しいものを触ってないと、それこそ市場価値が下がるというところがあります。

「うちの会社はこれだけやりましょう」と言うと、みんなのテクノロジーを縛って、みんなの市場価値を下げてしまって、結局会社の将来価値も毀損していってしまうんです。

みんな好きに使いましょうと。僕らの会社で何が標準になるのかというと……まず世の中の標準がどうやって決まるのかというと、テクノロジーの世界では「マジョリティになったらそれが標準になる」というのがよくあります。デファクトスタンダード方式と言われています。

昔で言うと、ベータとVHS(注:70年代に起きたビデオテープの規格争い)みたいな。別に国が決めたわけじゃなくて、VHSがマジョリティになったので、デファクトスタンダードになったみたいなところがあります。OSもそう。

なので、社内でもいろんなフレームワークとか新しいツールが出たときに、みんなでいろいろ試すんだけど、結局熱意のある人がずっと広め続けて、世の中で広まっていくと、それがデファクトになるみたいな感じです。

藤田:なるほど。

倉貫:社内でも広まっていく。だからどんどん変わっていますね。

藤田:時期によって、「この前まであれ使ってたけど、今はこれだね」みたいな。

倉貫:そうですね。

論理だけでは通用しない日本企業の忖度文化

松本:変えられるのはいいですね。けっこう大手企業さんはそうですけど、情報システム部門が統括していて、彼らが決めちゃうじゃないですか。

倉貫:そうですね。ある程度。

松本:そうするとそれを使わないといけなくなっちゃうんで、みんな勝手に選べないんですよね。いまだにメールがスタンダードだという会社さんも多いですよね。

倉貫:統括するのはいいけど、古いやつで統括しないでほしいですよね。

(一同笑)

松本:だって「メールからメッセンジャーに移れないの?」と聞いたら「いや、ご年配の方々が使えないんだよ」なんて言いますよね。

:なんでジジイに合わせるんだって話よ。

倉貫:そっちをなんとかしなきゃいけない。

僕は外資で働いたことがないので、イメージですが、ロジカルに判断するのかなと。生産性が高いかどうかで判断するのなら、絶対メールよりチャットのほうがいいってみんなわかってる。「なら、導入すればいいじゃない」というところがあるんだけど、日本企業の場合、あまりロジカルだけでは通用しないというか。

藤田:感情がそこに。

:あと経営層がITのことをぜんぜんわからないというのが、よく出てくる。なおかつ下の人たちはそれを忖度しているという。IT部門とかITの仕事をしているよという方、どれくらいいらっしゃいます? 

(会場挙手)

松本:あ、けっこういますね。

:そしたら絶対喜んでもらえるネタが1個あるんですよ。ある企業で、偉い人順にIPアドレスを振りたいという要件があったんです。

(会場笑)

:これが本当に馬鹿馬鹿しい。

松本:いいですね。

安達:マジですか。

:「偉い順に、1、2、3、4って振りたい」と。「できますか?」「何のためにですか?」と。

(会場笑)

「ipconfigを毎日打つんですか? それはそれですごい」みたいな。IPアドレスなんて、一生見ない。生まれ変わったって見ないですよ。なぜか番号を振りたいんだって。

藤田:企業は当たり前を疑っていかないとだめなんですね。

:逆にそれ聞いたら、「俺が間違ってるのかな」と一瞬思いました。

(会場笑)

藤田:「あれ、俺がおかしいのか?」と(笑)。

:そう。

藤田:真面目な顔して言われるんですもんね。

:(心の中で)「これって俺がおかしいのか……?」と思いながら「あの、もう一回言ってもらえます?」みたいな。どう考えたって、アホらしいですよ。

藤田:すごいですね。

現場のセキュリティリスクをコントロールできない理由

安達:先週私は、シリコンバレーで行なわれたイベントBoxWorksに行ってました。関連して、シリコンバレーツアーを年に1回企画しているんです。シリコンバレーのイノベーティブな会社さんを5、6社、アポ取りから、当日のバスガイドまで全部を私がやりました。何社かの話を聞いたら、みんな同じことを言っていました。「ベスト・オブ・ブリード」だと。要は、自社の社員のことを、ITの人はカスタマーと呼ぶ。

社員、つまりお客さんに、使いやすい環境を選択肢を持って用意することが自分の仕事だと言うんですよ。それをやらないと、結局企業競争力が失われていく。シリコンバレーって人材流動性が高くて、優秀な人はどんどん他の会社に行っちゃうんです。

「なんだ、この会社。このツールしか使えないのか、辞めちまえ」ということが、けっこうあるんです。いずれ日本も人材流動性が徐々に高まっていくとすると、将来的にはそういうことをやらないといけないのかなと。

松本:わかりますよ。今の若い人たちって、会社に入って「メール使ってる。え、なんでまだメール?」と思ってる人がいっぱいいますもん。話してみても、LINEやSlackなんかのチャットツールを使っている。「なんで会社に入ったらいきなりメールなの?」と、みんな疑問に思っていますよね。

:僕のチームメンバーの息子さん。もう息子さんが社会人の人もいて、その人は息子さんが入社して一番最初に上司に言われたことが、「プライベートのLINEアカウントを教えて」と言われたんです。理由が、「あまりにも社内の設備が使いづらいから」。顧客情報も含めて個人のLINEアカウントで情報をやりとりすると。

(会場笑)

要するにITの方はセキュリティレベルを高めたいから、古いやつで安定してるやつを使わせるという考えかもしれないけど、その裏では、「はい、はい」と言いながら、ほとんどの情報がLINEとかメッセンジャーとかでやりとりされているんですね。LINEが悪いとかではなくて、まったく管理できない状態で顧客情報を含めてやり取りされていることが問題なんです。

藤田:それは怖いですね。リスクマネジメントをどうやってやったらいいかわからない時代ということですよね。

:だから、バレなければ何も起きないという。そんなのお互いわかってるんですよ。だけど、様式美の世界でそれはなぜか回っちゃってる。結果的には何か起きたときに社長が頭を下げるんですよね。それは一連の美しい流れがね。

松本:美しいかな? 

藤田:それが様式美なんですね。

倉貫:さっきの安達さんの話でいくと、どちらが先かというと、日本の企業ももっと流動性を高めたほうがいいんだろうな。

松本:思う。思う。

安達:同感です。

変わることのできない会社は淘汰されていく

倉貫:こういう話題になったときに、日系企業がどうかとか古い体制がどうかという話に絶対なるじゃないですか。ディスりがちになる。ディスって終わっちゃうことがけっこう多いです。

「やっぱり情シスが……」とか、「ITの文化をわかっている経営者が……」と言っちゃうんだけど、みなさんができることが1つだけある。会社を辞めることなんですよね。

(会場笑)

松本:なるほどね。

倉貫:そんな会社は辞めたほうがいいじゃないですか。もし、本当に嫌だと思っていたり、競争力ないなと思っていたりするんだとしたら、競争力のある会社に移った方がいいですよね。

若い人だとそれがわりと簡単。シリコンバレーだとよく変わっていくので、日本も同じように変わっていけばいい。さっきの話で言うと「市場競争力がなくなるから、ちゃんとしなきゃ」というモチベーションが動くのであればね。

日本企業もみんなが辞めていってしまえば、「うちの会社、メール使ってる場合じゃないぞ」となるだろうし。「うちの会社、こんな古いツールだと若い人が入ってこなくなる、辞めていっちゃう」となれば、会社が変わらざるを得ない。本当に変われない会社は淘汰されていくんだろうなと思う。

新しいチャレンジでいいことをしている会社が、良い人材が入ってきて、そこが成長していくとしたら、それがどんどん社会全体の新陳代謝になっていく。僕らにできることは何かなというと、会社を移ることだなとは思っています。一人ひとりができることというのは、(これ)かなと感じています。

安達:フィードバック&イグジットという考え方があって、イグジットって会社を辞めることだと思っていて、辞めることって会社への最大のフィードバックだと言いますよね。

:もし気になる方は、僕はビズリーチという会社の顧問もやっておりますので相談してもらいたいなと。

(会場笑)

管理し続けた結果、自己管理能力のない社員が生まれる

松本:最近の若い人たちはやっぱり2、3年経った時点で、そこを見極めていますね。

:そうだろうね。

倉貫:怖いですよね。3年、5年ぐらいその会社にいると染まっちゃうケースがけっこうある。僕の会社はセルフマネジメントと言って、管理職がいない会社なんですね。管理職がいない状態で、社員がみんな働く。部署もない。

「自分で自分のことをちゃんとマネジメントして働きましょう」という組織にしている。でもみんなちゃんと働いているんですね。そういう話をすると、たまに講演の後とかで、「いやあ、それはいいですね」と。「でもうちの社員たちは管理しないと働かない」とか言ってこられる社長さんとかいらっしゃいます。

でも、よくよく考えてほしいのが、その会社に入った社員の人たちが大学を出て社会に出た瞬間に、「俺は将来管理されないと働けない男になろう」とか。「管理される人生を歩みたい」と思って社会に出たやつはいないんです。

(一同笑)

きっと、自分でちゃんと人生を切り開いたりだとか、もっと希望をもって社会に出てきたはずです。

:間違いない。

倉貫:(そういう)人ばっかりだと思うのに、なぜかその社長は「管理されないと働かないんだ」と言っているとしたら、「それはあなたの責任ではないか」と。

つまり「管理し続けたことによって、管理されないと働けない人が作り出されているんじゃないか」という仮説を持っています。管理されるところで何年も働いていたら、もう変われなくなっちゃうんです。若い方か若くない方かわからないけど、若いうちに移ったほうが良いんじゃないかと。

藤田:脱出したほうがいいと。

松本:確かに今、新卒採用があるじゃないですか。「キャリアを身につけなさい」と大学で教えられて、会社に入社するんですよ。そうすると若い人たちって、みんな「これは私のキャリアになるんですか?」と言う。これ、重要なことだと思うんですよ。要は自分がどうなっていきたいのかを、ちゃんと自分で判断して仕事をしたいと思っているわけです。

でもさっきの話のとおり、上から「いや、お前を管理するべきだ」と言われ続けて3年か5年経ったら、やっぱり「管理されたほうが楽なのかな」「それも仕事のやり方なのかな」と思っちゃいますよね。

藤田:そうですよね。

社員を子ども扱いすることの弊害

安達:僕は別に、日系企業をディスっているわけじゃないですよ。けれども、家族経営の悪い名残だと思っていて。家族経営って、結局社員を子ども扱いするわけじゃないですか。子ども扱いすると、社員がずっと子どもなんですよ。そうすると大人の判断ができなくなっていく。

例えばこの間、台風が来ましたよね。あのときに子ども扱いされている社員がどういうことを考えるかというと、「会社が今日来なくていいよと言わないから、台風でもなんでも会社に行きます」と。

松本:ありましたね。

藤田:「命がけで行きます」と。

安達:ええ。それって、大人の判断をすれば「今日はやめといたほうがいいよね」と、会社が何を言おうが言わなかろうが判断できるはずなんですよ。それでも会社に行っちゃうのは、会社がずっと甘やかして、ずっと子ども扱いして、それに慣れてきた社員の良くない振る舞いだなと僕は思います。

藤田:両サイドからあまりよくないと。

安達:両方良くないと思うんですよ。

:それで津田沼駅みたいなことになっちゃうんですよね。

安達:そう、そう。

:「台風 津田沼」で検索すると、すさまじい光景が見られますからね。

藤田:ぜひ調べましょう。西舘さん、「そろそろ次のプレゼンに行きたいよ」という顔をさっきからしていますね。

西舘聖哉氏:どう挟んでいこうかと。ちなみに今の話題で言うと、僕は染まりたくなかったから会社を辞めたわけじゃないんですけど、今日はそのときの僕の上司が来ていて、ちょっとハラハラしながら聞いていました。

:辞めたんだから関係ないよ。

(会場笑)

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