6割の女子大生が「シンデレラ体重」を目指したい

磯野真穂氏(以下、磯野):そしてもう1つ、数字には、それそのものに競争させる力があります。例えば「昨日の自分の体重と比べてしまう」あるいは「平均体重と比べてしまう」といったかたちで、「数字の魔力」に取り憑かれてしまう。そのことによって、自分がどんどん勝手に競争の中に入り込んでいくんですよね。

水野梓氏(以下、水野):メディアのせいもありますけど「シンデレラ体重」とか「美容体重」とか、言葉を作って、競うように煽っている感じもしますよね。

磯野:そうなんですよね。(参加者を指しながら)ちょうどここにいらっしゃる医療ジャーナリストの市川衛さんが、「シンデレラ体重」の記事をお書きになっていたんですけれども、「シンデレラ体重」ってBMI(Body Mass Index:世界共通の肥満度の指標で、標準値は22とされている)が18くらいの体重なんです。

水野:すごく細いですよ。メモしてきました。BMIが18になるのは、165センチの方は49キロ、160センチで46.1キロ。私は160センチなので(前述のとおり46.1キロ)、(磯野氏は)155センチなので、43.3キロです。

磯野:私は死にます。「死亡体重」ですよ。

(会場笑)

水野:「ええー!?」という感じです。私も、絶対に無理です。

磯野:ただ、これがけっこう怖いんです。『ダイエット幻想)に「シンデレラ体重」という章が入っていて、早稲田大学で私の「医療人類学」の授業をとってくれていた学生さんが、「シンデレラ体重」のアンケートをしてくれているんです。

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84人に聞いているだけなのでサンプルとしては小さいんですけれども、84人にまず「シンデレラ体重に良いイメージを持つか、悪いイメージを持つか」と聞いて、「良い」というのが52名で62パーセント、「悪い」が32人で38パーセント。

そしてさらに、「自分の身長に対するシンデレラ体重を知った上で、シンデレラ体重になりたいですか?」という質問をしました。「目指したいと思う」と答えた女子学生が50名で60パーセント。「目指したいと思わない」が34名で40パーセントということでした。

このアンケートに限って言えば、シンデレラ体重を「いける(達成可能で素敵な)体重」として見ているんですよね。もちろん、できる人もいると思うんですよ。もともとそういうふうに生まれていて、食べても食べてもやせる人っているじゃないですか。

水野:いますね。

磯野:(『ダイエット幻想』の)始めの方にも、やたらたくさんうんちが出る……(笑)。

水野:(笑)。「代謝がいい」ですね。

磯野:「代謝のいい」方の話が出てくるんですけど、そういう方もいるんですよ。それはそれでいいんですけど、みんながこうじゃないですよね。

水野:ないですよね。

20歳の現代女性のBMIは、戦後の食糧難の時代よりも少ない

磯野:だから多様性と言いながら、一方で、体型に関してはものすごく画一化されている状況があります。私が「これは怖いな」と思うものがあります。統計を調べていたら、今の20歳の女性のBMIが1947年のBMIより低いんですよね。これは、けっこう怖いなと思っています。

水野:1947年は第二次世界大戦終戦の2年後ですからね。

磯野:はい。つまり世は食糧難の時代で、政府は一生懸命、栄養失調をなんとか解消しようとしていたときです。そのときの20歳の女性のBMIよりも、今の20歳の女性のBMIが低く、そればかりでなく「より(細く)なれる」と思ってしまうし、「いけますよ」と思わせてしまうメディアの力というのがたぶんあると思うんですよね。

女性誌にも糖質制限のやり方が出てきますが、私は本当に怖いからやめてほしいなと思うんです。もともとそんなに食べていない女性に、「糖質は危ない」と言い続けるということのリスクを本当に考えてほしいと思うんですよね。

またさらに悲しいことに、むしろやせているという体重であっても、「太っている」と思ってしまう女性がいるんです。

水野:そうらしいですよね。自己認識というか、「自分はやせていない」と思っているんですよね。それはすごく感じます。

磯野:アメリカ、中国、韓国、日本の4カ国の高校生を対象に行った調査があります。これはかなりサンプルが多くて全部で8,500人ほどいるんですが、日本の女の子が一番やせているんです。BMIの平均が20.2くらいなんですけど、それでも「太っている」と思っている女の子が一番多いのが日本なんです。

これって、よく「医療的」に(解決の試みが)行われちゃうんです。「女性を教育すればいいんだ」という話になっちゃうんですけど、やはり「なんで女性は『この体重でいなきゃいけない』と思うのか」という部分を考えないと、いくら医療的な情報を与えても怖がらせるだけです。たぶん状況の改善にはならないと思うんですよね。

若い女の子への「やせなきゃ」というメッセージ

水野:若い女の子への「やせなきゃ」というメッセージを社会から感じます。なのにやせると、医療者からは「子どもが産めなくなるよ」とか「生理が止まったら疲労骨折になるよ」とかと言われて、「ええ!? もう、どうしたらいいの?」みたいな感じだと思うんですよね。

磯野:『24時間テレビ』とかに出ていた……。誰でしたっけ? アナウンサーのミズウラアサミさん?

水野:「ミトちゃん」と呼ばれている方ですか?

磯野:ミトさん? 水卜(麻美)さん? 彼女は、けっこう「ぽっちゃりキャラ」と言われるじゃないですか。『24時間テレビ』を見ていたら、彼女がMサイズのTシャツを着ているか、SサイズのTシャツを着ているかということでやたら盛り上がっているんですよね。

水野:へえ!

磯野:「今日はどっちなんですか?」「今日は、やっとSサイズ。がんばりましたよ」といったことをたしかおっしゃていたと記憶しています。たぶん、彼女をちょっと「ぽっちゃり」だと思っている人っていますよね。

私は1回、NHKの『週刊ニュース深読み』に出させてもらったことがありました。男性プロデューサーの方が「長澤まさみはぽっちゃりか」みたいなことで盛り上がっているんですよね。彼女がぽっちゃりだったら……。

水野:絶望。

磯野:「世の中の女性は、全員デブですよ」くらいの勢いですよね。

水野:私なら「はい、鏡どうぞ」って言います(笑)。

(会場笑)

女性の体重は50キロ以下という幻想

磯野:これは本当に「女の子を教育すればいい」と言うより、「私たちの社会の『やせ』の基準が、相当過度に行ってしまっている」というところに立ち戻らないと、なぜ彼女たちが「シンデレラ体重」みたいなものになりたくて、いけると思ってしまうのかは、なかなか見えてこないと思うんですよね。

水野:男性ってすごく「女性の身体をわかってないな」ってところがありますよね。「50キロ以上の女は許せない」と言っているのを聞くと、「ええ!?」みたいに思います。

(会場笑)

「もしかして、綿でできていると思っている?」みたいなことを思います。

(会場笑)

「(女性も、男性と同じく)普通に一緒に骨もある身体だからさ……」って感じなんですけど、そんな発言が出てくるのとかを見ると、本当に「ああ、これは社会全体を変えないとダメだな」と思います。

磯野:そこは、ただ男性を責めちゃうのはなんか違うと思っています。ネットとかで出てくる芸能人とかの体重とかって、けっこうギリギリ50キロ以下だったりするんですよね。そうすると、「女の子って、みんなこのくらいなのかな」と思っちゃうと思う。

でも、これは私があるモデルの方に聞いたんですけど、「あれは嘘です」みたいなことを言っていました(笑)。

水野:(笑)。やはりそうなんですね。

やせれば愛される、モテるという思考

磯野:あと「みんな吐いている」とか、他にも裏で聞くんです。だけどモデルの方もお仕事なので、前面では「心が美しければいい」「モデル同士の競争なんか、ありえません」「みんな、がんばっています」みたいな感じになりますよね。

水野:なるほど。そうなんですね。

磯野:そういう社会の裏側も考えつつ、「なんでこんな体重、こんな体型が実現可能と思われているのか」というところを考えていかないと。日本の女性のやせの状況は相当、怖いと思いますね。

水野:女性同士でもまた、お互いの身体を比べたりとかして、競っちゃいますね。

磯野:そうなんですよね。だからこれは男性の目線だけの話ではぜんぜんなくて、例えば女子校とかで女の子同士が「やせを競う」という状況って、やはり出てきちゃう話。

だから、やはりそこには「自分がこういう体型になったら選ばれるんじゃないか」「愛されるんじゃないか」みたいな思考があって、実際にそこでやせたりすると「すごくきれいになったね」とか言われて、本当に愛されている感じがすると思うんですよ。

水野:「やせたね!」とほめられる感じですね。

磯野:ぜんぜん話しかけてこなかった女の子、いわゆる「スクールカースト」の上の方の子が話しかけてきたりとか、あるいは突然彼氏ができたりすると「これでやっと私の欲しかった承認が得られた」と思うことって、どうしようもないことだと思う。

これは糖質制限をやっている男性がガクンとやせて、「これで俺はモテるようになった」と思うのと、構造はたぶん同じだと思うんですよね。

水野:周りからも「かっこよくなったね!」とか絶対言われますもんね。

磯野:「かっこいい」と言われるような体型に近づいているので、それは当然そうなりますよね。

人は他人から承認されないと生きていけない

水野:そうなると、「やせる」ということは「承認欲求がすごく満たされやすい」というか、がんばってダイエットして、目に見える数字を追っていけば褒められるとか、承認される点で「一番満たしやすい」と言うんですかね。簡単にゴールがわかっているという意味では、承認欲求が満たされやすいのかなというのを感じますね。

磯野:『ダイエット幻想』で大きな「承認欲求」をテーマにしたのは、私たちの社会ってわりと「自分らしさ」を強調するので、「承認欲求がある」となかなか言えないと思うんですよね。「承認欲求はないです」「私には、そんなものはない」みたいに、「やりたいことをやって、みんなのためにやろうと思ったらこうなっただけ」みたいなストーリーって、あるじゃないですか。

水野:あるある。

磯野:決して「みんなに認められようと思って、みんなのニーズを満たす商品を作った」とかは言わないんですよ。そういう思考は確実にあると思うんですが。でも、ある種「自分らしさ」「個性」とかをものすごく強調する社会なので、「『承認欲求』があることがよくない」みたいな感じでけっこう言われるんですよね。

実際にアドバイスとしても、「あなたらしくあればいいんだよ。周りの声はどうだっていい」みたいなことをすごく言うと思うんですけど、『ダイエット幻想』で強調しているのは「そもそも私たちは、他人から承認されないと生きていけないよね」ということでして、そこから始めているんです。

だから、承認欲求がないほうが変です。例えば、生まれたときからして、名前を付けてもらって、自分の子どもだと承認してもらい、育ててもらわなければならないわけです。そこから承認の問題は絡んでいるんですよね。

承認の問題というのは、まずは「あるもの」としてスタートして、「じゃあ、あなたは”誰”に承認してほしいの?」と考えないと、非常に生き方が苦しくなるだろうなと思います。「あなたはあなたらしく、他人のことは関係ない」というのは、実はすごく人間が持っている本質的な欲望と矛盾してしまうというところから入っていると考えます。

“あなたのままでいいよ”という言葉に潜む、「自分らしさの罠」

水野:この『ダイエット幻想』の中ですごく印象的だったのが、「自分らしさの罠」というところです。私も悩んでいる人とかがいると、ついうっかり「あなたのままでいいよ」とか言いがちです。

でも、それで「自分らしさ」を探そうとすると、「じゃあ、私が人と違うのはどこなんだろう?」とか、「私はどこが優れているんだろう?」とか、「ちょっといいところはどこだろう?」とか、よりループにはまっていくというか、「どこもないかも……」みたいな感じになっちゃったりします(笑)。

(会場笑)

『ダイエット幻想』を読んで、「自分らしく」というのが「もしかしたら、そんなに褒め言葉じゃないかも」とちょっと気付きましたね。