部長全員が「岡本・岡本・岡本」という怪人事

岡本祥治氏:IPOプロセスの中で起きたことも、ついでにちょっと話したいなと思います。1つ目、岡本部長×3、3事業クローズ。この岡本部長×3というのは、(スライドを指して)2015年9月に証券会社と契約したときのうちの組織図ですが、部長が全部「岡本、岡本、岡本」だったんですね。

だから「岡本さん、ずいぶん多いですね」と証券会社に言われて、「親族とかですか?」と言われたんですけど。これ全部私なんですよ。要は当時は部長1人、社長も私だけみたいな状態でスタートして。証券会社から「お前、本当にこれでN-1(上場申請年度の直前期)に今から入るんだよね!? やれんの!?」みたいな感じですごく笑われました(笑)。

しかし、そのときには「やりますから進めさせてください」「とにかくそのスケジュールだけは守りますから」と言って走り出しました。本当にこんな状態からでスタートして、それでもなんとかするしかないということで進みはじめました。

あと3事業クローズに関して説明すると、当時4つの事業、今のメインの事業に加えて転職サービス、エンジニア派遣、あとは女性活用のサービスをやっていましたが、今のメイン事業以外の転職、エンジニア、女性活用のサービスは全部クローズ、もしくは営業譲渡しました。

この理由は、さっきお話したとおり、部長が私1人しかいない状態で社内のリソースも限られている中で、いろんなことに手を出しても厳しかったからです。ベンチャーなんてリソースが限られているので。

だからこそ、自分たちが一番強みを発揮しているところにとにかく集中しようと、自分たちの強みを1個だけにしました。当然売上は落ちましたが、短期間で成長してIPOを成し遂げようと思ったら、それしか選択肢がありませんでした

CFOの人選にも頭を悩ます

あとは60パーセントという、高い離職率。これもさっきお話したとおりですが、IPOを目指しはじめた2015年の7月より前に入った社員で、IPOまで残っていたのは7人だけでした。ほかはぜんぶ入れ替わりました。そのくらい激しい離職の中で、それでも進み続けました。

あとはギリギリのCFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)。これは何かというと、CFOは当然のようにIPOのかなり前からいないといけないと思うのですが。うちの場合は、申請期に入る前日に就任しました。証券会社との間では「申請期までにはちゃんとCFOを用意してくださいね」と言われていたので、約束は守ったよねという感じです。

結局、最後の最後まで見つからなくて、当時はまだ副部長だった現取締役CFOが元同僚を連れてきて申請のプロセスを手伝ってもらっていました。そこで「あれ、実はこの人がCFOでいいじゃん」という話になり、業務委託で3ヶ月働いて頂いた後に口説いて、そのままCFOに就任いただきました。

フリーランスの力を借りて、幾多の壁を乗り越えてきた

このような色々なことがありましたが、その都度、前に進むしかないということでいろんなことを考えながら突破して、無事2年半という短期間で上場することができました。

『Hard Things』という本を読んだことはありますかね? これはまさに上場プロセスの2016年くらいに、うちの社外役員中田さんという方から、「たぶん今ね、読んどいたほうがいいよ」と本を渡されて。まさに自分と同じようなことが書いてありました。これはキツイと思うことがあったとしても、乗り越えられない壁はないと、このときに学んだことでした。

ちょっと時間が押しているので。IPOの中で、うちの会社がどのようにフリーランスの方にお手伝い頂き、離職率60パーセントの中でどうやって業務を回していたかというと、結局、多くのフリーランスの方にお手伝いいただきました。その中から正社員になった方もいらっしゃいます。

いろんなところでフリーランスを活用する。これはうちのビジネスをやっているからこそかもしれませんが、同じように人材が不足しているベンチャー企業に対してフリーランス活用でサポートすることを始めております。

「自分はなぜこれをやりたいのか?」という問いの重要性

そして、3つ目の事業の立ち上げについて。これはちょっと早めにいってしまいます。事業の立ち上げは、コンサル時代にもいくつかやっていましたが、(主に)大企業向けの新規事業の立ち上げでした。新規事業の立ち上げは、「市場規模は?」「競合は?」「自社の強みは?」といろんな分析をしながらやります。

大企業は頭がいい人が多く、コンサルもよく使い、世の中の情報をいっぱい集めます。しかし、それでいざ新規事業をやろうと思っても、みんな同じような答えになるんですよね。

誰かが新規事業をやろうと思ったら、誰か同じことを考える人がいるんですよ。普通のプロセスでやったら、新規事業なんていいものが出てくるはずがないんですよ。とくに大企業の新規事業はそういうだと思います当時は気づいていなかったですけどね。

みらいワークスの基軸となる事業の立ち上げはどうなっていたかというと、さっきもお伝えしたとおり、自分の経験や体感の中から出てきたことなので、とくに市場がどうとかいったことは考えていませんでした。

いつかフリーランスが当たり前の社会になるとは思っていましたが、それがいつ来るかはわかりませんでした。その時にもし、ROIを考えて事業をやろうと考えていたら、たぶんこの事業はやっていないと思います。最初の数年の売上は真っ赤っかですから。

それでもやらなくてはいけないというのは、自分がやりたいからという想いだけです。どちらかというと、世の中をどう変えたいのか。そういった想いから事業を決めていくほうがつらいときに踏ん張れるんですよ。

(つらいときには)「自分がこれをなんでやりたいんですか?」という(問いが大切です)。さっきのHard Thingsのようなことが起きているときに、想いがなければ突破できないんですよね。

お金のために働いている人がいるのも事実ですが、可処分所得が5,000万円とか超えてきたら、それ以上がんばらないと思います。がんばれないですよ。歯を食いしばる必要がないから。

ラーメン屋のオーナーがベンツに乗るようになる理由

例えば、ラーメン屋をやっている人も、3店舗・4店舗で終わってしまう人が多いらしいです。なぜかというと、3店舗4店舗ぐらいやると、ラーメンのオーナーはベンツに乗れるようになるので、それ以上がんばる必要がなくなってしまう。

つまりはお金目的で仕事をしていると、一定以上にはいけないと思います。ある程度の可処分所得を持ってしまったら、それ以上がんばる必要がないから。それよりかはプライベートの時間を使って、平日にゴルフに行く社長も、世の中にはいっぱいいます。

そこからさらに踏ん張れるかどうかが戦いだと思います。だからこそなにか想い、やる意味がある事業を見つけないと、さらに上にはいけないのではないかなと、私自身は思っています。

あとは一点突破。これはさっきの事業を3つクローズしたというのもありますけど、やっぱり1つに集中してとにかく強みを活かしていく。それをやるべきだと思っています。

第2の事業の立ち上げは、現在いくつかやっている最中ですが、このあとは強みの延長線上、必ず1つの軸があって、それと関わるようなものを立ち上げていくべきだと我々は考えています。

そうでないと、やはり強みを活かしながら次の事業、次の事業といけないからです。このように考えて、事業の立ち上げを今までやってきました。

成功者に共通する「女神の法則」と「1万時間の法則」

あとは成功している人の多くが「運がよかった」「ついてた」と口にしますが、これはたしかに合っているなと思います。「女神の法則」「1万時間の法則」というものを知っていますか? 世の中ではけっこう有名な話ですが、この掛け合わせだと思っています。

まず女神の法則について。女神は髪の毛が前髪しかないから、前から向かってくるときに掴まないとダメ。過ぎ去ったあとに後ろから掴もうとしても後ろ髪がない。チャンスというのは、その場で掴まないとダメ。というようなことです。

もう1つ、1万時間の法則について。よくアーティストやとかギタリスト、バイオリニストが話したりしますが、これはいろいろなプロの人は、何かを1万時間やることによって、初めてプロの域に達することができる、ということです。

(成功とは)この2つの理論の掛け合わせではないかというのが、個人的な考え方です。つまり、「チャンスを掴むためには、プロになっていないといけない」。1万時間超えていないとチャンスは掴めないと思います。ただ1万時間を超えたタイミングでチャンスが来るかどうかが大切です。つまりは、早すぎてもダメだし、遅すぎてもダメなんですよ。

ビジネスはタイミング

ビジネスをやるときにも、世の中がついてきてない、ものすごく早いタイミングでビジネスをやってしまうベンチャー企業があります。早すぎて潰れてしまう会社もけっこうあります。その間はなんとか生き延びて、チャンスが来たときに戦える状態になっておかなければいけない。

この組み合わせがすごく難しいと思います。運がいい人というのは、たまたまこれが交わった人というのが私の考え方です。

私自身もたぶんそうです。フリーランス社会がいつか来ると思いながらも、このタイミングで来ることはまったく予想していなかったです。たまたま安倍政権が働き方改革を始めて2年目のタイミングで、「フリーランス活用を国策としてやります」と言い出してくれたおかげで、大企業がフリーランスを活用しはじめました。

それが追い風になって、東証なども含めて市場がフリーランスをもっと世の中に広めるという波及効果があったので、(東証が)我々の会社を上場するという判断をしてくれたと思っています。これも我々は正直運だったんですよ。なので運とタイミング。これが事業においてはすごく大切だと思っています。

「失敗していいこと・してはいけないこと」の見極め力

最後になりますが、我々は2つのマネジメントを両立させています。絶対に失敗できないマネジメントと失敗してもいいマネジメントという2つがあります。

絶対に失敗できないマネジメントは、いわゆるプロジェクトマネジメントみたいなものです。大きな投資だったり、後戻りできないような仕事です。これはいかに失敗せずにやり切るかが大切です。

一方で、失敗してもいいマネジメントがあります。これは例えば営業のプロセス。営業は、100個の会社に戦いに行って、3社受注できればいいですよね。97回失敗するのが大前提です。失敗する中でより精度を高めて改善していくということです。

実は会社の中には、失敗してもいいマネジメントと失敗してはいけないマネジメントの2つが両立しています。これをしっかりと使い分けながら進めていくことが大切です。

新規事業を立ち上げようと思ったときにも、この2つは実は両立しています。例えばシステムを入れる場合は、(スライドを差して)こちらのプロジェクトマネジメント的にやらなくちゃいけません。

事業を立ち上げるときは、ひたすら試行錯誤を繰り返しながら、どういうユーザーがいいんだろうとか、当然のように失敗を繰り返していきます。失敗してもかまわないんですよ。ただ、失敗から学びに向けて次につなげていく。これが重要です。

経営の立場からすると、この2つを常に頭の中に持ちながら、事業をやっていくにあたって、「これは今失敗してもいいよね」「これは失敗してはダメだよね」というように常に意識してほしいと思います。

我々でいうと、最大のリスクは個人情報や機密情報の漏洩、あとは下請法や派遣法等のいくつかの関連法律がありますが、そういったところをちゃんと守りきることに関しては、(スライドを指して)とにかくこっち側で絶対失敗しないようにやっているんですね。

ただ、営業はひたすらこっち(失敗してもいいマネジメント)なんですよ。常にそういった2つのものを意識しながら会社を経営していく。事業を立ち上げていく。ということを大切にしています。これによって物事が進むと思っています。

少し時間をオーバーしてしまいましたが、私からは以上です。ありがとうございました。

(会場拍手)