AIも人間も適材適所

孫正義氏:AIはまさに、人間が勘と経験と度胸に頼ってきたこれまでの意思決定に代わって、もっと科学的で、もっとデータに基づいた推論を成していく。それによって人類の進化は、ここで行き渡るのではなくて、さらに加速して、進化がやってくると。そういうことになるんだと思います。

今日現在、例えば天気予報というと、漁師のおじいさんに聞くよりも、まさにコンピュータを使った、データを使った天気予報を見たほうが、より当たるという時代がやってきましたね。僕らが子どもの頃は、天気予報をテレビで見て「今日の午後は雨が降るでしょう」となっていたのに、傘を持っていったのに全然雨が降らないで、逆にがっかりしたという経験も覚えてますけれども。今日現在、コンピュータを使った天気予報というのは、漁師のおじいさんの勘と経験に頼るよりも当たるようになりました。

でも、それ以外の部分では、まだまだ人間のほうがAIの推論よりも当たる、という場面がたくさんありますね。しかし、これが今から5年後、10年後、そして30年後には、AIがデータを徹底的に集め、分析し、これから5分後、10分後、1日後に起こることを予見する、このほうがはるかに当たるという時代がやってくると思います。

AIが一番得意なこと、これを一言で言い表わせというならば、AIはプリディクション(予見)にもっとも適した役割を果たすということであります。AIに「なにかものを考えてください」と言っても、そもそも「考えるってなんなのか」ということですね。プリディクションで、今から5分後、1日後、3日後に起こることを予見すると。これをやらせると、AIのほうが人類よりもはるかに得意だと言われる時代が、目の前にやってきているということですね。ですから、AIになんでもかんでもやらせようというのは、私はアプローチとして間違っていると思いますね。

もっとも得意なことをそのものにやらせる、適材適所、人間もそうですね。人間も適材適所で使ってはじめて、より大きな効果を果たすわけですけれども、新しいこの技術であるAIの世界も適材適所するなら、私はプリディクションに使うべきだと、そう思います。

推論によってマーケティングの精度も上がる

例えば、今日ここにお集まりのみなさんは、なにかものを売っていることが多いと思います。在庫の回転率を向上させると、その会社の利益は莫大に増えます。在庫の回転率を増やすためにAIを使って、例えば金曜日の夜19時にいったいどのくらいの注文がくるのか。ちなみに夜19時は大雨が降りそうだと。そのときには、その大雨というデータをもとに、出荷されるであろう注文の数を予見することが、推論することができるわけですね。ですから、より在庫の回転率は科学的に上がるはずなんですね。

例えば最近、ソフトバンクグループの決算発表でも紹介しましたけれども、世界でもっとも進んだ中国の中古車販売会社「車好多」では、中古車を次のオーナーに転売するのに在庫を60日くらい抱えていないと売れないと言われていたところ、すでに平均して15日間で次のオーナーに売りさばくと、そういったことができるようになっています。

在庫を抱える日数が60日から15日に減るということは、経営効率は4倍ほど上がる。中古車というのは、時の経過とともにその価値が刻々と下がっていくわけですね。生鮮食品と一緒です。日数の経過とともに価値が下がるわけです。在庫の日数が短くなればなるほど、その商品価値を守り、しかも運転資金もより少なくなり、会社の利益に直結するわけですね。これがAIの力で、さらに2日くらいにまで圧縮されるような時代がやってくるのではないかと、私は推論しています。

マーケティングや販売活動、これも今までは人間が販売の効率を上げるためにいろいろと推論していたわけですけれども。マーケティングもAIの力で、より適した人に適した宣伝ができるようになる。例えば、私が夜に一人でテレビを見ているときに、ヘアドライヤーの宣伝とかをされてもね、「あれ?」と(笑)。あんまり最近使ってないなと。そんな私にヘアドライヤーの宣伝をされてもなと。こう思うんですけれども。

(会場笑)

女子高生に高級車のメルセデスベンツを宣伝しても、売り上げに直結しないわけですね。というように、その視聴者の年齢が何歳くらいで、性別で、職業で、というようなことをいちいちお客さんに入力してもらわなくても、いったん推論していくことによって、より適切な広告宣伝・プロモーションができるようになる。

そうすると当然、利益には直結してくることになる。例えば、相乗りをする自動車。今日現在では100パーセントとした時に、すでに中国のDiDiでは、彼らのAIのエンジンを使って、140パーセントの相乗り効率を実績として上げています。

近い将来、これが200パーセントにさらに改善するんじゃないかというふうに私は推論します。つまり、AIの力で推論をすることによって、経営は直接、より強く、より儲かる、よりスピーディーでよりしなやかになる、と私は思っています。

たった一人の人間が世界を変えてしまう

ちょうど25年前に、インターネットが始まったばかりの時に、私は毎日興奮して、さまざまなインターネットの事業を開始したり、投資をしたりしてきましたけれども、今まさに同じ興奮、あるいはそれ以上の興奮でAIの革命の入り口にいて、ここに全速力で向かおうとしています。

今、世界中にベンチャーキャピタルが約5,000社あります。その世界中のベンチャーキャピタルが全部5,000社集まって、去年1年間で約9兆円の資金を調達し、投資をしています。我々ソフトバンクグループは、5,000社で9兆円に対して、1社で10兆円の規模の資金を集めて、このAI革命に一気に同時多発的に出資を行っています。このあり方も、ビジネスモデルの一つの革新であろうと私は思っています。

今までのベンチャーキャピタルがアーリーステージの会社に資金を10億円、20億円入れていくのに対して、ソフトバンクのビジョンファンドは、レイトステージのすでにユニコーンになった会社だけに特化して、ユニコーンハンティングということで、それぞれその分野の世界、あるいは、最低でもその国・地域ナンバーワンの会社にばかり、投資をしています。

つまり、AIに特化して、ユニコーンに特化して、しかもナンバーワン集団だからこそ、よりシナジーを出しやすい。こういうかたちでファミリー、グループを構成していくことは、世界でも初めてのアプローチであるというふうに思います。

ファミリーの数は、この2年間で80社を超えました。産業革命のときに、その起業家たちが産業革命の推進役、エンジンであったのと同じように、AI革命も起業家たちがその推進のエンジンになる。一人の人物では何もできないかもしれないけれども、でも、たった一人の人物がすべてを変えてしまう、そんなことが人類の歴史の中で何度も繰り返されてきたわけです。

私は、まさにこのAI革命の起業家たちは、そういうたった一人の男の誕生が、あるいは女性の誕生が、人類のこれからの未来を決定的に変えてしまう。そんなことを最近ひしひしと感じてきております。

それが80数社あるわけですけれども、今日はその中の何社かの起業家が一緒に集まってくれました。彼らにそれぞれ自分の角度から、AIの力をどのように使って自分たちの業界のビジネスを決定的に革新していくか。AIによる技術革新、それを事業に使う。

AIで、あれは猫なのか、犬なのか、トラなのか、単に画像認識を技術的にやるような時代は終わったわけですね。もはや実験室の中の実験的な理論開発ではなくて、AIをビジネスそのものに直接使って、自分たちの業界を革新し始めている人物。

今日は、その代表的な何人かに一緒に登壇してもらいたいと思っています。彼らがどのように新しい武器を活用しているのか、彼らの口から直接語ってもらいたいと思います。

我々のグループの中から続々と、新しい世界一、新しいスーパースターが生まれようとしています。そのうちの人物の一人をまず紹介したいと思います。

ホテル業界、ホテルは何百年と歴史がありますね。世界1位、世界2位、世界3位、それぞれ80年とか100年かけて、多くのM&Aも含めて100万室の規模になっていますけれども、たった6年間弱で、ゼロからもうじき世界1位の会社になります。

OYOの(Founder & CEOの)Ritesh…(壇上へどうぞ)。

(会場拍手)