日本車のほとんどは「役に立つけど意味がない」

山口周氏:問題を分析的に、ロジカルに解いていくっていうことの価値が、どんどん減っていくだろうなということを考えるためのフレームがあります。

世の中で売れているモノっていうには必ず、「役に立つ」っていうベネフィットか、「意味がある」っていうベネフィット、どちらかがあります。「役にも立たないし意味もない」っていう商品は、世の中に存在できません。

これマーケティングの専門用語でちょっと難しく言うと機能的便益、functional benefitと言います。一方で「意味がある」っていうのは、マーケティングの用語で言うと情緒的な便益とか自己実現的便益、personal benefitとか言います。僕は「役に立つから買ってる」「僕にとって意味があるから買ってる」と、そういう言い方のほうが平たくていいんじゃないかなと思いますが。

自動車産業を当てはめてみるとけっこうわかりやすいです。日本車のほとんどって、「役に立つけど意味がない」んですね。移動手段として快適で、燃費が良くて安全に移動できますよっていう、役に立つ手段として買われてます。家族みんなで移動するときにはやっぱり公共交通機関より車のほうがいいよね、っていうことで買われてるんですけども。

「アルファードじゃないと俺の人生じゃない」とかですね、「アコードに乗れない人生なんて有り得ない」とか、そうやって買う人ってあんまりいないと思うんですね。日本車でも例えばNSXとか、昔のスカイラインとかね、本当にそういうの好きで乗ってる人いると思いますけども。99パーセントの人はふつうに移動手段として役に立つから買ってる、っていうぐらいのもんだと思います。

値段が10倍だからといって、機能も10倍になるわけではない

もちろん移動手段として買ってるっていう側面が強いんですけれども、役に立つだけだったら日本車買えばいいじゃないかって言うと、「いやいや、やっぱり俺はBMWが好きなんだ」とか「やっぱりポルシェが好きなんだよね」っていう人はいるわけです。

これ、値段でいうとプラスアルファで400~500万から1000万ぐらい払うことになって、値段としては3倍、4倍するわけですね。じゃあ3倍、4倍役に立つんですかとそうではない。「うちのアルファードは7人乗れるんですけれども、それだけ出したら20人ぐらい乗れるんですか?」「いや乗れません、5人ですよ」と。「じゃあ燃費がリッターで15キロぐらい走るんですけれども、60キロぐらい走るんですか?」「いや、あまり燃費変わらないですね」と。

機能は変わらないんですよ。安全性も変わらない。でも値段は3倍~4倍します。じゃあ何にそのお金払ってるんですかっていうと、意味を買ってるんですね。その人にとってのなんらかの情緒的な意味を買ってるわけです。意味に500万とか600万とか乗っけて買ってるわけです。

さらに言うとですね、役に立たない自動車ってあるんです、おそるべきことに。役に立たない、意味しかないっていう自動車があります。「ドアが上に開くのになんか意味があるんですか?」って言うと、意味があるんですね、あると思う人にとっては。

これ、3,000万とか5,000万とかします。値段は10倍です。10倍~20倍ぐらいします。「じゃあ10倍人運べるんですか?」っていうと「いや運べません、むしろ二人しか乗れません」と。「荷物はどうなんですか」、「ほとんど荷物積めません」。「じゃあいろいろなところ走れて役に立つんですか?」「いや、車高が低いんで悪路走らないでください」と。「雨が降ったら危ないんで走らないでください」と、こんな感じで。

(会場笑)

「じゃあ何に使うんですか」って言うと「銀座の大通り、爆音出して突進するんですよ」と。みんな見ますよ、っていう(笑)。それで「よし買った」ってみんな買うわけですね。で、値段は3,000万から5,000万円。

「役に立つ」ことの価値はなくなりはじめている

おそらく過去10年の間で、特殊な自動車じゃなくて、いわゆる自動車メーカーが「新車」として生産した車で一番高額な車っていうのは、Jaguarが販売した1960年型のJAGUAR E typeのレプリカだと思います。ル・マンで優勝した車を20台だけ限定生産したんですね。その20台だけ限定生産したものの、新車の定価が2億円です。で、即日完売ですね、当然。

これは何を言ってるかっていうと、「役に立たないけど意味がある」っていう自動車は2億円で売れるんです。で、「役に立つ自動車」っていうのはせいぜい100万円から300万円でしか売れないっていうこと。何を言ってるかっていうと、「役に立つ」っていうことに価値がもうない時代になってるんです。

ここが非常に難しいところで、私はビジネススクールとか企業の研修でよくこのお題を出すんですけれども。「グローバル企業になるぞ」っていろいろな会社が掛け声を上げてますよね、今。グローバル化、グローバル化、って。

グローバル化、みなさんの夢ですね、いいですね、と。「じゃあ日本企業でグローバル化に成功した会社ってどこだと思いますか? 挙げてください、イメージで」って言うと、いろいろ出てくるんです。キヤノンだ日産だ、トヨタだホンダだパナソニックだコマツだ、とかいろいろ出てくるんですけど。

20社ぐらい出た段階で、「はい、もういいです、打ち止めです。じゃあこの役に立つ・立たない、意味がある・ないっていう市場で、どこの市場で戦ってる会社かっていうのでプロットしてください」って言うと、ほとんどが「役に立つけど意味がない」っていう市場に入ります。

まぁいいじゃない、と。役に立って、それで戦ってちゃんと市場で勝ち残ってるんだからそれでいいじゃないですか、っていう話もあるんですけれども、ちょっと待ってくださいよと。そこで考えなくちゃいけないのが、「どちらのほうが強豪として生き残れるか、サスティナブルか」っていうことなんですね。

コンビニでもっとも多くの種類を備えている商品とは?

みなさん、コンビニエンスストアを思い出してみてください。コンビニは店舗がすごくちっちゃいので、なるべく物品の数を少なくしたい、っていう欲求があります。当たり前のことですよね。なるべく品数多くしたいんで、1個で済むものは1個にしたい。

だから文房具の棚見ると、ハサミもカッターものりもセロハンテープも、基本的に1種類しか置かれてません。ですから、多くの商品が1種類しか置かれてないんですね。

そんなコンビニエンスストアですが、棚が狭いのでなるべく商品の数少なくしたい、種類を少なくしたいよと考えているにも関わらず、200種類以上置かれている商品があるんですけれども、みなさん何だかわかりますか?

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