2024.12.10
“放置系”なのにサイバー攻撃を監視・検知、「統合ログ管理ツール」とは 最先端のログ管理体制を実現する方法
The Massive Flood That Triggered an Ice Age(全1記事)
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ステファン・チン氏(以下、ステファン):1万3千年前の北アメリカでは、少しずつ変化が起きていました。地球は、最期の氷河期から脱却し、気候はようやく暖かくなってきたかのように見えました。
ところが、何の前触れもなく、地球の気候に変動が起きたのです。人間の一生ほどのわずかな間に、地球上の広大な部分が、氷河期に逆戻りしてしまいました。気温は、場所によっては10℃も下降しました。そしてその状態が1,000年も続いたのです。
研究者たちは、この強烈な寒冷化の期間をヤンガードリアス期と呼んでいます。そのメカニズムについて理解するには、今日存在するどの湖よりも巨大な湖について、さらにはこの湖が決壊したことにより、何が起こったかを知る必要があります。
最後の氷河期が終わる頃、地球は広大な氷河に覆われていました。ここ北アメリカも、北極からニューヨークにまで及ぶ、厚さ3キロメートルのローレンタイド氷床に覆われていました。気候が温暖化するにつれ、氷床は溶け出して川やせせらぎとなって流れ出していましたが、大部分は氷に堰き止められた、広大な湖に流れ込んでいたのです。
アメリカ西部における最大の湖の一つが、今日のモンタナ州で汀線(注:岸辺の痕跡)が見られるミズーラ湖であり、東部ではアガシー湖でした。
巨大湖は、非常に広大なものであり、実にカナダの半分を占めるほどの規模を誇りました。湖は、正確には幾度もその大きさを変えました。アガシー湖は、ある時点では黒海と同じくらいの大きさであり、その規模はノースダコタ州の北部、ミネソタ州、マニトバ州、オンタリオ州、サスカチュワン州を覆うほどでした。
こういった湖は、『ゲーム・オブ・スローンズ』の『登壁』が、さらに巨大化し分厚くなったような巨大な氷の突起、つまり氷のダムにより堰き止められていました。
地球が温暖化するにつれ、ダムは徐々に弱体化し、ある日、突然決壊しました。壁が崩壊したのか、水が底部から放出したのかはわかりませんが、いずれにせよ、このモンスター湖からは水が流出し、実に9,000立方キロメートルもの水が海に向かって突進したのです。
とある研究が示したところによりますと、湖が排水されるのに1年かかると仮定する場合に起こる洪水は、毎秒30万立方キロメートルで流出するとのことでした。これは、アマゾン川をしのぐ強烈さです。
研究者たちは当初、水はセント・ローレンス川渓谷を伝い、現在のモントリオールを通って放出されたと考えていました。
しかし最近の研究では、太古の流水路であるワシントン州のチャネルド・スキャブランドに地形が酷似した、カナダのマッケンジー川渓谷に注目が集まっています。
ステファン:さて、こういった大洪水が北極海を巡り、やがては太平洋に流れ込むことにより、地球の気候が変動を起こしました。
北太平洋には、興味深くも重要な海流が流れています。大西洋南北熱塩循環、通称AMOCです。この海流は、巨大な海洋コンベアベルトのような役割を果たしています。
熱帯で深海から海面に上がって来た海水は温まり、この暖かな海水が海流に乗って北上します。その一例がメキシコ湾流です。
この海流は熱を失いつつ、途中の地帯を温暖に温めながら極寒の北へ向います。最終的には、海流は極低温になりその一部は凍り付き、後には冷たく塩分濃度が高い海水が残ります。この海水は海底にまで沈降し、再び南に向かいます。こういったサイクルが、何度も繰り返されるのです。
しかし、放出された真水がAMOCにぶつかると、北太平洋の海水濃度が低下します。するとAMOCは失速し、場合によっては停滞してしまいます。海流が止まってしまえば、すべての地域が温められなくなってしまいます。
研究者たちは、こういった海流の停滞が、前述のヤンガードリアス期の急激な寒冷化を誘発した原因ではないかと考えています。温められることがなくなった北半球の広大な地域が、氷河期に逆戻りしました。気候の温暖化により発達した森や草原は枯れ果ててツンドラと化し、すでに絶滅しつつあった、氷河期の巨大なマンモスに打撃を与えました。
これがわずか1万3千年前であったことを忘れてはいけません。この頃には、すでに人類がいました。人類もまた、この急激な寒冷期による打撃を被った証拠が残っています。
ステファン:ヤンガードリアス期の到来は、特徴的な尖頭器で有名な、北アメリカのクローヴィス文化の消滅と関連があるとされています。クローヴィス文化は、北米大陸に広く分布した、最初期の文明の一つであるとされています。
もちろん、ヤンガードリアス期到来の原因については、彗星や隕石の衝突、火山の噴火など、さまざまな説があります。しかしいずれの説も、氷河湖決壊洪水説ほどの支持を受けてはいません。
しかし、すべての氷河湖決壊洪水が地球に被害をもたらしたとは限りません。実際のところ、氷河湖決壊洪水は北半球のいたる所で起こっていました。例えば、央アジアにおけるアルタイ洪水は、シベリアから地中海にまで及ぶ洪水のドミノを引き起こした可能性があります。
西海岸の北西部では、ミズーラ洪水が起こり、今日チャネルド・スキャブランドとして知られる広大で不思議な地形を、ワシントン州東部に作り出しました。
地質学者J. ハーレン・ブレッツのミズーラ洪水研究が、アガシー湖研究の門戸を開いたと言っても過言ではありません。
ブレイク・デパスティノ氏:そのとおりだよ、ステファン! 僕はチャンネル『PBS Eons』のブレイク・デパスティノだよ。
J. ハーレン・ブレッツがアメリカ北西部における大洪水の痕跡を発見したと発表した時には、ほかの研究者たちにはまったく相手にされなかった。当時は地質プロセスは、長い年月をかけてゆっくり進むものだと考えられていて、巨大洪水説は、そういった考え方にまったく受け入れられなかったんだ。
しかしブレッツは、自分が見つけたのは太古の巨大洪水の痕跡だと確信していた。そして最後には、ブレッツと研究チームはこれを立証することができたんだ。
この科学ミステリーがどのように解明され、世界を変えた巨大洪水の証拠を、地質学者たちがどのように明らかにしたか知りたければ、『PBS Eons』の該当エピソードを視聴してみてね。
ステファン:ブレイク、ありがとう。今では研究者たちは、アガシー湖は巨大化したその約4千年の歴史の間に、少なくとも2回は決壊もしくは溶け出したと考えています。
規模はずっと小さめですが、同様の現象が今日でも起こっています。アイスランドでは、この現象はヨークルフロイプと呼ばれており、地形を変えてしまうほどの威力を持っています。でも小さな影響こそあれ、1万3千年前に起きた大洪水のように、地球の気候を変動させてしまうほどの力はありません。
地球は変化しないように見えますが、そのシステムは複雑かつ繊細であることを、アガシー湖は私たちに伝えてくれています。さらに、過去の気候変動を知ることは、現在進行している変化に光を当てることにもなるのです。
今日では、大西洋に流入する真水が注目を集めています。単体の巨大湖こそ存在していませんが、溶け出した氷から集約した真水により、現在も回流しているAMOCに似たような失速が起こるのではないか、と研究者たちは懸念しているのです。
太古の巨大洪水を紐解くことが、地球の気候が将来どのように変動するかを学ぶことに不可欠になるかもしれません。
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