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存在の本質(全4記事)

ロボット研究者・石黒浩氏が語る、“人間らしいアンドロイド”の条件

2018年9月7日~17日にかけて、日本財団「SOCIAL INNOVATION FORUM」と、渋谷区で開催した複合カンファレンスイベント「DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA」が連携し、都市回遊型イベント「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA」が開催されました。今回は「DIVE DIVERSITY SESSION」の中から、トークセッション「存在の本質」をお届けします。本記事ではロボット研究者の石黒浩氏が登壇し、私たちが感じる「人間らしさ」の正体について語りました。

人間の脳のすごさは想像で補完する力

石黒浩氏(以下、石黒):いろいろな話をしていると、すぐに時間がなくなってしまいます。「存在」の話はよくするので、いくつか飛ばさないと最後の話までいけないのですが、大事なことなので、これはやっておくかな……。

「存在とは互いの想像である」ということですね。要するに、僕らの内側、つまり自分の「存在」を理解できていないんですけど、相手の「存在」を、どれくらい理解しているかというと、それほどきちんと理解しているわけではないです。

例えば、あの人の髪の毛は何本とか……注意を促せないところは適当に、いい加減に見ているわけです。自分の体に関しても同じですよね。今、体がどう動いているかを全部理解しているわけではないです。

人間の脳がすごいのは、すべてを想像で補うわけですね。人としゃべっている時に、自分がきちんとしゃべれたと信じているだけなんです。相手がこういうことを言ったというのも、相手も自分に都合の良いことを言ってくれているだろうなと信じているだけです。

人と向かい合う時には「観察に基づく認識」と「想像に基づく認識」があります。人間そっくりのロボットが出てくると、ロボットがその人らしいかどうか、目の動きとか、表情、声などを丁寧に見ているわけです。

一方で、変なところがあると「ああ、その人らしくない」と思っちゃう。これは、人間同士でも普通に起こることですが、もう1つ、起こっている現象があります。

それが「想像に基づく認識」です。人間らしく感じる最低限の条件というものがあって、それを満たすロボットが出てくると、足りない情報はすべて自分が都合よく補完することになります。

「テレノイド」という、人間には見えるけれど、性別も年齢もわからないようなロボットが人の声でしゃべると、すごく気持ちよく関わることができます。人間と関わるのが嫌な高齢者の方や自閉症の方でも、この「テレノイド」というロボットだったら、いくらでも話ができます。

人間の存在を感じる最低限の条件は「触感」と「声」

世界中でいろいろな実験を行って、(テレノイドは)受け入れられるんですけど、要するに、きちんと対話ができれば、姿形はどんどんそぎ落としてもいいんです。では、どこまでそぎ落としていいかというとですね、結局は人間のような抱きまくらにスマホを入れるだけでよくなります。

これでもう、十分に相手の「存在」を強く感じることができます。残りの足りないところは、全部人間が補完できるわけです。だから、人間の「存在」を感じる最低限の条件は何かといったら、(抱きまくらを抱く人の映像を指しながら)これなんです。

触感と声さえあればいいんです。これはぜんぜん違う体験です。電話ができる相手だったら、本当に抱き締めあっているような感覚になります。嘘だと思うんだったら、この「ハグビー」というのが京都西川から出ているので、試してもらえばすぐにわかります。

実際に、携帯電話と「ハグビー」を比べて実験すると、「ハグビー」の方がコルチゾールというストレスホルモンがものすごく下がることが証明できているので、単なる主観的な結果ではないんです。本当にホルモンの量が変わってしまうんです。「存在」ということに関して言うと、2つのモダリティが人間らしさを出していれば、人間の「存在」を感じるということなんですね。

(小学校1年生への読み聞かせの映像を指しながら)小学校1年生のクラスですが、子どもたちがすごく落ち着きがなくて、前の方は話を聞いているけれど、後ろの方はぜんぜん先生の話を聞いていません。

そこで、全員に「ハグビー」を配って、そこから先生の声が聞こえるようにすると、先生の「存在」を感じて、みんな落ち着いて、いい子になって先生の話を聞いてくれています。これも、ものすごく再現性の高い結果です。学校など、いろいろなところで「ハグビー」を使った教育プログラムを実施していますが、同じような結果が出ています。

マツコよりも「マツコロイド」のほうが相談しやすいワケ

そういう意味では、人の想像を喚起できるため、人にとってはロボットの方が受け入れやすいんです。人間の場合だと、猜疑心の塊なんです。今なにを考えているとか、いろいろなことを考えてしまうんです。

むしろ相手を単純化して、いろいろな想像を使って自分で考えるようにすると、その「存在」は、自分にとっていきなり都合のいいものになるということですね。

例えば「マツコとマツコ」(というテレビ番組)をやった時にも、お悩み相談がすごくウケたんです。それはマツコ本人よりも、マツコロイドの方がいいということなんです。

要するに、人間らしさが強いと生々しすぎて、なかなか人間は心を開きにくいんですけど、ロボットでマイルドにした方が、人が心を開きやすくなるということですね。

それがつまり、人というのは想像によって、人の「存在」を感じているということです。想像するのはすべてポジティブなことです。人間は、都合の悪いことを想像しないようになっているわけです。

例えば渋谷の街を歩いていて、もしかしたらテロで爆破されるかもしれないなんて考えていたら、渋谷に来られないじゃないですか。そんなこと、普通は思わないですよね。大体、足りないところはポジティブに補完するということです。

ロボットはほかにも、いろいろな「存在」になりえます。例えば「社会的に存在し続ける」ようなロボットで、これも人のポジティブな想像を使っています。(映像を指しながら)これは夏目漱石のアンドロイドです。このアンドロイドが読み聞かせをすると、子どもたちは普通の先生よりはるかに集中して聞いてくれます。

こういう偉人のアンドロイドは、これからいっぱい出てきます。同等の立場のものよりも存在感が強いです。夏目漱石は癇癪(かんしゃく)持ちということもあり、パーソナリティはあまり褒められるものではないんだけれど、社会的にはみんな尊敬しているわけですよね。

偉人のアンドロイドで「存在」を再現する

さっきも哲学者の方が夏目漱石の話をしていましたけれども、我々は社会的にポジティブな面を共有しているわけです。その部分だけを取り出してアンドロイドにすると、この漱石アンドロイドは社会の中で「存在」し続けることができる。これもアンドロイドを使った「存在」を再現する1つのおもしろさだなと思います。

もちろん、単なる読み聞かせではなく、しゃべるようにすると存在感はどんどん増します。人間の理解に頼ることの重要性は常に感じるところです。(映像を見ながら)3年前にSXSWで、日本に住む日本人として初めて紹介されたところですけど、そこでNTTグループと共同研究の展示を行いました。

チャットボットとの組み合わせですが、単なるチャットボットの組み合わせでも、人間らしい見かけや動きなど、複数のモビリティを持つロボットにしゃべらせると、いろいろなことを想像するわけですね。視線をちょっと下げると考えている感じがするといったことです。

単なるスマホでは、さほどおもしろくないんですけど、複数のモビリティを持ったロボットで、チャットで対話すると、いろいろな想像ができるんです。

そうして、常にポジティブに、複数のモビリティがあると、いくらでもポジティブな想像を引き出せるということです。また、(映像を見ながら)これはニコニコ生放送をやっているアンドロイドがいたり、議論するようなロボットがいたり……これは、人間とはなにかというテーマで、人間とロボットが議論したりといったことができるようになってきました。

それから「社会的対話を通して存在する」ということについて。2体のロボットがあると、非常に強い存在感を表現できます。2対1の対話は、やはりロボットの存在感を強めるわけです。

ロボットが増えると、人間はアウェー感を感じるようになる

例えば4体にすると、完全にロボットに主導権があって、ロボットの世界に人間がいるような状態です。ロボット同士が会話している中に人間が参加するわけで、ロボットの対話に抗えないところが出てくるわけですね。数の力というのは、非常に強いなと思いますね。

例えばみなさん、「我々、人間の社会にロボットが出てきたって、受け入れないぞ」と言うかもしれないけれど、ロボット4体対自分1人だったら、完全にロボットに負けてしまうわけです。アウェー感がかなり強いと思います。

(映像を見ながら)これは、きれいなお姉さんのアンドロイドが2人でしゃべっている。男にとってはめちゃめちゃ迫力があるんですよね。

(会場笑)

なにを言われたって「はい、そうですか」としか言いようがない。反論できない状態です。

最初の方で、これからロボットは意図や要求を持って自分で意思決定をするようになると言いましたけど、今やっているのはそういう研究概念です。

いっさい要求が満たされないと感情的になって怒る、そういうアンドロイドではあるんですけれども、非常に自然に感情表現ができます。そういう意図や欲求に基づいてコントロールされる感情というものがあると思います。人間のような存在感はものすごく強くなる。

(女性のアンドロイドを指して)これはすべて合成しています。声も合成だし、すべて作りものですけれども、ものすごく人間らしいですね。(二人の女性が話している映像を指して)こっちの女性はアンドロイドじゃなくて、こちらの女性がアンドロイドなんですけれど、20分くらいは普通にしゃべれるようなところまで作られています。

人間は人工物や機械と融合していく

それからもう1つ、「生命感」というもの。これは、存在に関して非常に重要な要素です。東大の池上先生とやっている「Alter(オルタ)」というプロジェクトなんですけど、人工生命の研究で作られた複雑なニュートラルネットワークで、アンドロイドの声と動きを作り出しています。

今まで見せてきたアンドロイドと違って、日本語をしゃべれるわけでもないですし、単に動いてなにかモゴモゴしゃべっているだけなんですけど、本当に考えているような感じがする。これは日本科学未来館でずっと展示しているので、ぜひ見ていただければと思うんですけど、いろいろなことを考えさせられるというか、人らしさが満載です。

だから、生命的な動きを持つというのは、存在にとって非常に重要ということなんです。どうして研究開発をしたかというと、これは人工生命の技術で自律的に動いているロボットなんですけど、このメカニズムも存在目的も生物とは違いますよね。

生物とまったく異なる機械が、とくに生物よりの生命感を感じさせるということなんですよね。たぶん、普通の虫よりもはるかに人間らしい存在感、生命感を持っています。

なにが言いたいかというと、未来に向けて人間は今よりも人工物を体に受け入れて、機械と融合していく。

これはもう必ずそういうことが起こると思うんですけど、それは必ずしも人間が生物らしさや人間らしさを失うことを意味するのではなくて、より生物らしくより人間らしくなる可能性があるということですね。

我々が今よりも複雑な身体を手に入れて、もっと人間らしくなる、という。生身の身体がなくても人間らしくなる可能性があるんだというふうに思います。

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