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存在の本質(全4記事)

超長寿命が実現したときの生きがいとは? ロボット研究者が語る、人間の存在の本質

2018年9月7日~17日にかけて、日本財団「SOCIAL INNOVATION FORUM」と、渋谷区で開催した複合カンファレンスイベント「DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA」が連携し、都市回遊型イベント「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA」が開催されました。今回は「DIVE DIVERSITY SESSION」の中から、トークセッション「存在の本質」をお届けします。本記事ではロボット研究者の石黒浩氏が登壇し、人間が機械の体を持つことで可能になることや課題について語りました。

ロボットが増えていくと、エネルギー源はどうなるのか?

質問者1:どうも。お話がすごくおもしろくて、ありがとうございました。ちょっと質問したいんですけれども。例えば、機械の身体になると、おそらく有機物を取り込んでエネルギーにしなきゃいけないと思うんですけど。

普通のロボットもエネルギーがたくさんいると思うんですが、エネルギーは現状このまま電気から取っていくとなると、けっこう大変なことになると思って。そのあたりについてはどうですか。

石黒浩氏(以下、石黒):そうですね。エネルギー問題は難しいですね。僕は専門家じゃないので、どうなるかはわからないですけれど、もちろん、必ずしも有機物から取り入れる必要はないわけですね。電気は必ずしも有機物から生まれているわけではないので。

だから、太陽エネルギーなどの自然エネルギーを使っていくことになるんじゃないかなと思いますけど、エネルギーは1つ大きな問題だとは思います。

でも、有機物がなくなるのが早いか、エネルギーがなくなるのが早いかというと、エネルギーは太陽がある限り無限に出てくるわけで、有機物が消えてしまう方が早いような気がしますね。そうすると必然的に無機物というか、機械が残るような気がします。

司会者:はい、ありがとうございます。もういくつか手を挙げていらっしゃった方から。

質問者2:お話ありがとうございました。スライドの中に進化の歴史のようなものが書かれていて、千年後のところに「分散型人間」と書かれていたと思います。それがなぜ起こるのかという必然性であったり、その先に見えるポジティブなイメージなどをお聞きしたいです。

アンドロイドが自分の分身になっていく

石黒:分散型というのは、今でももう起こっていると思います。例えば、インターネットなどでアンドロイドを遠隔操作して、それが自分の身体になる。複数のアンドロイドがいたら、ネットを通していろいろなところに分散できるわけですよね。そういう時代になっていると思います。

ネットの上では国境はないのでね。すごくおもしろいんです。アメリカで国外追放になっている(元NSA職員のエドワード・)スノーデンという人が、遠隔操作ロボットでアメリカで講演しまくっている、というのはよくある話であって。「国外追放になってるのにいるやん」という感じですよね。

そういうものが分散的な存在で、生身の身体を捨てる必要もなく、いろいろなところに存在できるということで、それは身体の拡張の方向の1つだと思います。

この身体だけに縛られず、いろいろな身体で世界中のいろいろなところに同時に存在できるようになるんだということだと思います。

質問者2:ありがとうございます。

司会者:はい、ではあちらの方。

質問者3:お話ありがとうございました。最後の方で、(進化は)多様性なんだよとおっしゃっていたと思うんですけども、時間というものの多様性はどういうふうにお考えなんでしょうか。

というのは、最初にハイデガーのことを話されていたと思うんですね。人間は100年くらいで死んでいく有機体でもあると思うんですけれども。変な話、俺は80年まで生きたいんだと思ったら、寿命を80年に設定することもできるようになっちゃうと思うんですよね。それがいいのか悪いのかわからないんですけれども、先生はどんなふうに思われますか。

人間の寿命が千年、1万年になる可能性

石黒:まあちょっとハイデガーの哲学がロボットに必要かどうかわからないんですけど、寿命がなくなる、無限に生きられる、とは言っていないわけです。時間やタイムスケールがものすごく伸びると思います。

100年という寿命が、千年とか1万年になる可能性はあります。でも、それは千年の寿命であって、今の我々が100年という寿命は長いと感じるか短いと感じるか、わからないですよね。もともと人間が千年生きられる生き物だったら、それが当たり前になるわけです。だから、未来においては、無機物の身体だっていつかは壊れるわけですけど、1万年というスケールの中で人生を営むだけだと思うわけです。

でも、それだけ生きられると惑星間移動などもできるわけですね。例えば大阪に行くのに今は2~3時間で行けますけれども、隣の星に行くのに2~3時間で行ける。そういう感覚になるだけで、タイムスケールが延びるだけだと僕は思ってます。

質問者3:ありがとうございます。

司会者:もう一方いらっしゃいますかね。じゃあ女性の方、先にいいですか。どうぞどうぞ。

質問者4:すみません。お話ありがとうございます。すごくおもしろかったです。今はロボットって異質だと思うんですけど、これからも何体か石黒先生のジェミノイドが生まれるとして、今までに作ってきたものは年齢的に少し若いもの、もっと若いものということで、そのときの先生の姿をしていると思います。それらのロボットは、先生自身のアーカイブというか。バックアップみたいな存在になるんでしょうか。

石黒:まあそうかも知れないですよね。ただまあ今では中身をちゃんと作れてないので、私のようにしゃべれる技術ができたら、まさにそうなると思いますけど。今のところは単に並べて、そのまま美術館、博物館に入れるだけのことかなと思います。

質問者4:そうですね。反応することはできるんでしょうかね。

石黒:いや、コンピュータと繋がないとダメなので、メンテナンスがけっこう面倒くさいので、新しい方から1つ2つくらいの今使っているものしか動かないですね。

質問者4:やっぱりそうなってくるんですね。

アンドロイドの機械的な寿命はおよそ3年

石黒:あとは1体のアンドロイドの機械的な寿命は3年ぐらいなんです。要するに量産の技術を使っていないので、そんなに長くもたないです。とくにシリコンの皮膚は本当は使うべきじゃなくて。もっとお金をかけてウレタンの皮膚にすると10年、20年ともつんですけど、皮膚の技術はやっぱりすごく難しいです。

人間のように100年もつ皮膚は、まだ作れないんですよね。だから、そういう意味ではアンドロイドはまだ寿命が短いですよね。もちろん、皮膚を張り替えできればできるわけですけど、張り替えてずっとメンテナンスしていく、長く自動車を使うような感じでできるようになるにはまだまだ時間がかかりそうですね。

質問者4:はい、ありがとうございます。

司会者:じゃあ先ほど挙手されていた男性の方。どうぞ。

質問者5:お話ありがとうございました。先ほどの時間軸のお話におそらくヒントがあるのかなと思ったんですけど、もし将来先生が言ったような世界になったときに、人間や動物が持っている生殖機能や意思はどんなふうに変わっていくのか、あるいは変わらないのかなと。

石黒:変わると思いますよね。それは今でもそうですけど、クローンを作ろうと思ったら作れるわけです。別に自然な生殖機能がなくたって子どもは作れるわけですよね。ただ問題なのは、コミュニケーションというか人と関わるというこの欲求が、性行動からきているとするならば……。まあ動物はだいたいそうなんです。

課題は人間社会の活力をどう継続させていくか

石黒:例えば、動物の社会性の研究と言ったら全部セックスの研究ですよね。チンパンジーもそうだし、猿もそうだし。人間だけそれを区別して、性の研究とコミュニケーションの研究を分けているんですけど、動物の研究は全部一緒なんですよ。

そこが気になるわけです。人が人と関わりたいモチベーション、コミュニケーションしたいモチベーションをどうやってドライブするのか。たぶん、そういうところをちゃんと考えないと、機械の身体になったときに、その先さらに発展していくシステムがデザインできるかどうかのポイントになってくるような気がしています。

だから、コピーを作るとか生殖するという性行動そのものよりも、それが基になって作られている今の人間社会の活力のようなものが、どういうかたちで継続されていくかの方が重要なんです。

個体保存は当然続くんです。でも、社会で息をしようと思うと、そのコミュニケーション能力などの方が重要で、そこをちょっと考えないといけないかなと思います。答えは必ずあるとは思っているんですけど。

質問者5:ありがとうございます。

司会者:はい。いかがでしょう。もう1つくらい質問を受け付ける時間がありそうなんですけれども。では一番後ろの眼鏡の学生さんかな?

質問者6:こんにちは。お話の中でなにか生き残りゲームをするような話をしていたんですけど、なんで我々は生き残りゲームをしてるのかなって思いました。

石黒:ああ。それは、今生き残ってるからだよね。

(会場笑)

生き残りゲームは自然の摂理

石黒:地球上で有限の資源をいろいろな動物が奪い合って、人間が勝ったから人間が生き残っているだけで、結果、我々が生き残っただけの話ですよね。この先も全部そうです。人間よりも強いものがきたら、人間が全部いなくなって終わりです。

なぜそうしているのかというと、それが自然の摂理というか原理的なところです。勝ったやつだけが生き残る。悪かろうがよかろうが単純に生き残りゲームをやっているのがこの世ですよね。

質問者6:ありがとうございます。

石黒:モラルもロマンもなにもない。

(会場笑)

司会者:あと1分ありますので、じゃあ最後1つだけ、前列の男性からご質問をいただきましょう。

質問者7:今日は本当にありがとうございます。今日のお話はかなりショッキングだったんですけど、でも、考えてみたらこれは必然の結果だなというふうに思いますね。

本当に今の自分たちがすごい時代に生きてるんだなと思ったのと、それから、今までのこの身体の感覚で「これが人間だ」と思っていたものが、もうそうじゃない時代に入るんだなというふうに思いました。

だから、いよいよ心の時代に入るんだなっていうふうに思ったんですけど、そのときに人間のモチベーションの源とはなんなのか。結局人間がなんなのかという話になっていくのかなって思うんですけど、このあたりは先生はどのように捉えられてらっしゃるんでしょうか。

人間の存在の本質は「知的好奇心」

石黒:さっきの質問もちょっとそれに似ているんですけど、人間って一応根本的な欲求として、「個体保存」と「種の保存」があって、それを満たすために我々はいろいろな活動をしていて、最終的に生き残ったのは、その2つを非常に上手く満たすことができたからですよね。

そういう意味では、自分の身を守るということと種族を守ること。生殖行動って重要で、生殖行動がなくなっちゃったら、その人間の大事な根本的なモチベーションが半分なくなってしまうかもしれない。それに代わるものはなにかということなんですよね。

僕自身は、個体保存も種族保存も同じで、知識欲みたいなものに変わっていくと思うんです。要するに個体を強くするためには、知識や知的好奇心をものすごく高めていくということがすごく重要ですし、社会も同じなんですよね。

みんなでなにをしたらいいかというと、知識を共有するとか知識をたくさん集めると、僕らは知的な存在になるために過渡的に有機物の身体を持っていた。有機物の縛りが解ければ、純粋に知識を探求する生き物になるんではないかと。

その知識を探求するためには、他の存在よりも強く存在し続けられる気がするわけですね。だから、存在の本質というのは、僕自身は今のところ知識や知的好奇心といったものなんだろうと思っています。

質問者7:ありがとうございます。

物理的に存在する限り、命は有限なもの

司会者:はい、ありがとうございました。今日最後のセッションなんで、ちょっと僕から1つだけいいですか?

石黒:はい。

司会者:人間が無機物になって、ある種有機体としての肉体の死から逃れていくようなことになるんじゃないかなと思います。そうすると、今だと僕らは死んでしまうと、自分の知恵も知識も全部ストックできないままになくなってしまうような気がしてるんですけども、無機物になった知的生命体としての「人間の死」というのはどういうふうに捉えてらっしゃるのでしょうか。

石黒:先ほど言ったように、無機物になっても必ず死なないというわけではないです。壊れるわけですから。でも、人生がむちゃくちゃ長くなるわけですね。それは単なるスケールの問題であって、それが長いかどうかは別問題です。

宇宙の歴史から考えれば、もっともっと長い時間があるわけですから、物理的に存在する限りは、ある種有限な命を持つということだと思いますね。ですから、死なないものになるということではない。単に時間のスケールが延びるだけだと思います。

司会者:ありがとうございました。本日のセッションは以上で終了したいと思います。石黒先生に大きな拍手で。

(会場拍手)

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