2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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司会者:今日、最後のセッションになりました。最後はすごいですよ。世界が注目する日本人の一人。「人間とは何か」を追求する、ロボット工学学者で大阪大学基礎工学研究科の石黒浩先生に来ていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。
(会場拍手)
石黒浩氏(以下、石黒):では、40分お話しして、10分くらい質問ということで、この「SIW(ソーシャル・イノベーション・ウィーク)」というのは「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」みたいな感じでやりたいと聞いています。「SXSW」は何回か招待されていて、たぶん日本人でこれに招待された人は少ないと思います。
ずっと「SXSW」に行っていて、雰囲気とかもよく知っているんですけど、日本でも毎日こういうのがあってほしいなと。思い出して忘れた頃に出てくるんじゃなくて、とくに渋谷なんかではずっとこういうのが起こっていてほしいなと思います。
1年か1年半くらい前に、ドワンゴとパルコと私のところで、渋谷の街を新しく作り直そうと……今、パルコを建て直していますよね。あそこで新しい我々の技術を使って、人が単に買い物に来る街じゃなくて、人が出会って出かけることが目的になるような街を作りたいということで、準備を進めています。
今ではこのイベントだけじゃなく、渋谷の街の中で、どこかで誰かが、なにかおもしろいことをしているという状態がずっと続くようになると、渋谷は良くなるなと思っています。
「SXSW」でもいいんですけど、年に2回のイベントで田舎町に集まって、その時だけお祭りをして帰ってくる。それだけだと、たぶん持続的なイノベーションは起こりづらいかなと思いますし、街の中でずっとイノベーションが起こり続けるような環境ができると、もっとここに来たくなるような気がします。
今日は存在の話をします。私自身が人間の存在や自分の存在に疑問を持って、ずっとロボットの研究をしています。ロボットなんて……案外どうでもいいんです。それよりも、なぜ今、自分がここに立ってしゃべっているのか。しゃべっている自分がどうしてここに存在している実感があるんだろうというのが、小学校の時からの疑問で、すごく違和感があるんです。
今日はとくに、声が(マイクを通して)違うところから出てきているので、もっと違和感があります。人間は意外と、自分の存在に明確な自信を持てないんじゃないかな。
自分は本当にこの世に存在しているのかと疑い出すと、夢か現実かわからないというのがありますが、現実とわかっていても、今ここに立っている自分や、今の自分の意識がどこにあるのか、よくわからないことはいっぱいあるわけですよね。
そこで、たまたまコンピューターやロボットを勉強して、アンドロイドを手がけています。そういうあやふやな存在が、いったいどういうものなのかを知りたくて、いろいろなロボットを作ってきました。
近いうちに渋谷の街が(ロボットがたくさんいるスライドを指して)こうなっているかはわからないのですが……ロボットがいっぱい出てきたらいいなと思っています。そのために、たくさんのロボットを作っています。
すべて人間らしいロボットなんですけど、どうして我々が人間型ロボットを使うようになるかというと、人は人を認識する脳を持っているので、人にとって、もっとも関わりやすいのは人だと。だから、ありとあらゆるものは人間らしくなっていく。
こういう話をずっとしてきたんです。だから、もっともっと世の中にいろいろなロボットが出てきますよ。今までは「そうですか、じゃあ先生、がんばってください」くらいの話だったんですけど、こういった話が、わりと冗談ではなくなってきているんですよね。
ヨーロッパでは、人間型ロボットはあまり受け入れられなかったのですが、この前イタリアで一番大きな会議……総理大臣クラスが集まるような会議に呼ばれて、そこでアンケートをとられました。「こういう(人間型ロボットを使う)世界が来るか?」という問いに、6割くらいの人間が「もう来る」「来るだろう」「嫌だけど来るんだろう」という回答でした。
世の中の人間がそこまでロボットを受け入れているというのは、ずいぶん意識が変わってきています。その先はどうなるのかというと、あとで出てきますが……例えばこれは僕の予測です。今、Google HomeやAmazon Echoなどの音声デバイス、スマートスピーカーがありますよね。「いや、あんなの音楽の切り替えくらいにしか使えない」「あれで物を注文できるわけじゃないから、ぜんぜん役に立たない」とみんなが言っています。
実際どうなのかというと、僕は、世の中でもっともっといろいろな自動のシステムができてくると思います。自動のシステムができてくるのですが、自動とはなにかというと、完璧に意思決定するということなんですね。そこまでいかないと、実は言語は使えないし、言語はあいまいだからスイッチの代わりに使おうとすると失敗するわけです。
でも、お互いに意思や要求を持っていて、意思決定するもの同士であれば言語は使えるわけです。人間と人間で使えるように。だから、Google HomeやAmazon Echoの先には、自立化した機能、自立化したロボット、自立化した意図や要求や意思を持っているものが、あいまいな言語を使って人間と対話する社会がくる……その兆しがもう見えてきていると思います。
Amazon Echoについて「あんなの役に立たないじゃないか」とみんなが言っていますが、すぐに役に立つようになります。ですので、そういう新しい技術、挑戦的な技術に関して、人類は歴史的にずっと同じことを言ってきて、世の中が変わっているわけです。
「クレジットカードみたいなもん、誰が使うか」「あんなサインだけでお金のやりとり、せぇへんわ」と言って、ビットコインまで使っているわけですよ。ビットコインなんて、わけがわからないじゃないですか。誰も元本保証しないものを、みんなが使っている時代ですからね。だから、人の感覚なんて、まったくあてにならないわけです。
最近、世界では単に表面的に人間らしいものではなくて、中身も人間らしい意思決定をするようなものが、近い将来やってくるだろうと思っています。
私のアンドロイドの研究は、この「ジェミノイド」から始めて、こいつがいろいろなことを教えてくれます。「存在」については、とくにたくさんのことを教えてくれます。そういう話をしていきたいのですが、「存在とは何か?」というと、ハイデッガーの話をしないといけない気がしますね。
でも、知り合いの哲学者に、「ハイデッガーを教えてくれ」と言っても、誰も教えてくれる人がおらず、「よくわかりません」と言われます。「存在論」は難しいなと思いながらも、ここでは「人間の存在とは何か?」「人間とは何か?」という視点で話をしてみようと思います。
答えが全部完璧なわけではないですけれど、アンドロイドやロボットを作ってきて、わかることがいくつかあるわけです。まずは「自分の存在は、直接観察できない」というのが、アンドロイドを作った最初のころに痛感したことです。
自分のアンドロイドを作って何がわかったかというと、第三者から見ると「顔の動きも声も似ているから、そっくりですよ」と言われる……けれど、顔が似ているとはまず思わないし、声もぜんぜん違うように聞こえるし、動きも自分で意識したことがないので、人間はいかに自分を観察できていないかということがよくわかるわけです。
顔を知っているといっても、鏡の顔は左右逆転しているので、自分の顔ではない。声はボイスレコーダーに録音し、再生して初めて自分の声がわかるわけで、頭の中に響いている声は自分の声ではないわけですよね。動きは、要するに筋肉の動き1つ1つを理解して動かしている人間なんて、この世にいないわけです。
だから、人間は自分が一番わからないんです。さらに中身を考えると、もっとわからないんです。そもそも生物が何かというと、細胞膜があって、体の内部と外部を分け隔てています。この膜というか、皮膚の部分が変容して感覚になるんですが、感覚は全部外を向いているわけです。
頭の中でなにが起こっているか、体の中でなにが起こっているか、ほとんどわからないです。でも、外側でなにが起こっているかはよくわかっているんですよね。だから人間にとって一番ミステリアスなのは、自分の体の内側、頭の中なんです。自分の体を含めてですね。
だから人間は、自分の「存在」がもっとも不確かで、よくわからないものになっているということです。実際にコピーを作ると、そういうことをわりと実感できるわけです。
一方で、「アンドロイドの体を使って存在する」といったことは意外とたやすくできるんです。ボディ・オーナーシップ・トランスファーと言うんですけど、しばらくアンドロイドを遠隔操作すると、簡単に自分の体のように感じられる、というようなことが起こります。これは、びっくりするくらい強い現象です。
例えば(ロボットを指で触る映像を指しながら)こうやって、遠隔操作なのでモニターを見ながらしゃべるだけですが、これをしばらくやっていて、急に誰かがアンドロイドに触ると、本当に触られた感じがします。これはかなり強い(現象)です。
(映像再生)
キャスターの人がしゃべって遠隔操作をしているのですが、自分の体のように感じます。これがどういうことかを詳しく説明していると時間が長くなるので、あまり説明しません。要するにアンドロイドの体でも、しばらく操作していると、まるっきり自分の体のように感じるという現象なんですね。
もっとおもしろいのは、BMI(ブレイン・マシーン・インターフェース)というか……脳波でアンドロイドをコントロールすること。要するに、体はまったく動かない状態で、頭の中で考えるだけでアンドロイドをコントロールするわけです。右や左、右手動け、左手動けのようなかたちです。そういう状態でも、きちんと自分の体のように感じるようになります。
なにが言いたいのかというと、家の中に座ったままで、そこにいるアンドロイドを脳波で操作すると、アンドロイドが自分の体になるということなんです。だから、体と心を切り離すことができるわけです。
そうすると、自分の「存在」がどっちにあるかがわからなくなるわけです。家の中にいるのか、外側にいるのか……そこが人間の脳のすごいところだと思います。どんな体でも、コントロールできるものは簡単に自分の体のように受け入れることができるわけですね。
だから、どんどん自分の体を拡張して、広い世界で「存在」できるというのが人間の性質なんだと思います。
おまけで、ちょっとおもしろいのが、脳波でロボットを動かすにはトレーニングが必要なんです。「右手動け」と考えて右手を動かす……それは、脳波が右手のパターンになった時に右手が動くんだけど、けっこうなトレーニングが必要なんです。
トレーニングで、最初になにをするかというと、脳波が右手のパターンになっていないのに「まず右手って考えてください」と言われます。脳波が右手のパターンになっていないんだけれど、アンドロイドの腕を先に動かしてしまうんです。
考えているから動くというのは普通で、動かすと考えるようになるんです。だから、体と心が両方きちんとつながっている。脳と体は、双方向につながっている。アンドロイドでも、脳と体がきっちり両方向につながるんです。単にアンドロイドを遠隔操作しておもしろいよね、という話ではなく、アンドロイドの体と人間の脳は双方向につながるという研究です。
また、これは医学部と取り組んでいるもので、なんのトレーニングをしなくても簡単に動きます。人間の脳は、ある意味、非常にわかりやすい電子回路みたいなものなので、脳波でコントロールするのは大変でも、直接BMIというか、電極を入れれば簡単に動きます。
電極をインプラントすると、ほとんどの脳が簡単に動くようになります。では、そういうことをやるようになるのかというと、たぶんやるようになります。おそらく日本はそういうことを一番やりにくいんです。医療的にも倫理的にも非常に厳しいですけど、もし能力が足りない人や、体に深刻な問題を抱えている人がいれば、やるんだろうなと思いますね。
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